藤原編集室の2002年
1年間で9冊。結果的にはまずまずの数字といえなくもないが、ご覧のとおり、1月から6月までぽっかりと間があいてしまった。もちろん、その間もきちんと仕事はしていたのだが、編集サイドだけの都合ではなかなか物事が進まないのは、この商売の宿命である。あれやこれやの事情がかさなって、収入ゼロが数か月つづくことになってしまった。覚悟はしていたものの、預金残高がみるみる減っていくのには驚いた。まるで胸のメーターがぐんぐんゼロに近づいていくカネゴンのような心境。当編集室始まって以来の財政危機である。急遽、某社の校正仕事をもらって糊口をしのいだりしたが (飯田橋方面には足を向けて寝られないね)、6月からいよいよ 〈晶文社ミステリ〉 が始まって、ほっと一息つくことができた。 その 〈晶文社ミステリ〉 では、カーシュ 『壜の中の手記』 が予想を上回る好評を得て、新シリーズのスタートに絶好の追い風となってくれた。『被告の女性に関しては』 『ウィッチフォード毒殺事件』 は、国書の 『レイトン・コート』 とあわせてバークリー再評価を決定的なものにし、秋には 〈晶文社ミステリ〉 の続刊も決定した。 7月には 〈世界探偵小説全集〉 第3期が、『ソルトマーシュの殺人』 でついに完結。このタイトルは本来2期で予定されていたものが、ここまで延びてしまった。度重なる遅延についてはここであらためてお詫びしておきたい。しかし、このオフビートなミステリ作家、たしかに病み付きになりそうである。そして9月には早くも第4期がスタート。予定タイトルの多くがすでに入稿済みなので、来年は順調に配本できるはず。 シリーズ物以外では今年は2点。年頭の 『殺す・集める・読む』 は、ずーっと温めていた企画。高山宏初の文庫本という 「栄誉」 も担うことになった。本書収録の 「殺す・集める・読む」 「終末の鳥獣戯画」 といったエッセイに出会ったのは、もう20年以上前になるが、そのインパクトはいまだに色褪せていない。「探偵小説」 というのが実はとんでもなく奇妙な文学ジャンルであることに気づいていない探偵小説ファンにこそ、是非読んでほしい本。 もう1冊、『狂人の太鼓』 は、これが日本で出せたことだけで大満足の本。こういう企画の場合、はたしてこんな本がどれだけ売れるだろう、なんて考え始めたらおしまいである。とりあえず出してしまう、ある種の野蛮さが必要だと思う。現物をみてピンとこない人には、所詮無縁の書物である。ウォードの画に惹きつけられた人だけが手にとってくれればいい。とはいうものの、いざ出してみて、まったく売れなかったらどうしよう、と内心案じてもいたのだが、さいわい、こういう本を気に入ってくれる奇特な人も、少なからずいることがわかって、大いに意を強くしている。 2002年中には完成しなかったが、『世界ミステリ作家事典/ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇』 もようやく原稿がほぼ揃い、編集作業が佳境に入っている。その間にも未訳作が次々に翻訳紹介されていくのには、ミステリ出版の活況 (?) をあらためて見る思いがした。創元推理文庫へ持ち込んだルヴェル傑作集もすんなり決まり、今年早々には刊行の予定。そのほか、数年越しで引っ張ってきた仕事も、今年はある程度決着をつけられるはず。 (2003.1.1) |