藤原編集室の2001年
10月刊行の 『銀の仮面』 をもって〈ミステリーの本棚〉 が完結。〈世界探偵小説全集 第3期〉 も残りあと1冊にこぎつけた。なかでも 『ジャンピング・ジェニイ』
は、前後して出た 『最上階の殺人』 (新樹社)
と共に時ならぬバークリー・ブームを引き起こし、〈このミス〉
をはじめとする年末の各種アンケートでも上位にランクインした
(今年、バークリーの未訳作紹介はさらに続くはずである)。『ミステリ美術館』
は、〈全集第1・2期〉 月報のジャケット紹介コーナーからあたためていた企画。森コレクションの素晴らしさをあらためて確認させてもらった楽しい仕事だった。世界的にみても群を抜くヴィジュアルブックであることは、森さん経営の
〈Muder by the Mail〉 へ海外からの注文が殺到していることでも証明されている。 3月下旬に2週間ほどぽっかりと予定があいたので、ふと思い立って (というのは嘘で、その前から漠然と構想だけはあってコンテンツを蓄積中だった)、藤原編集室のHPを開設する。目的はいくつかあるのだけれど、なんといっても一番の理由は、自分の作った本をもっと読んで (買って) もらうため、である。そのためには、1冊1冊の本についての情報をもっと発信していかなければ、と考えたのだ。 ご存知のように出版・書店業界はしばらく前から深刻な危機的状況にある。その原因についてはいろいろ云いたいこともあるのだが、とにかく出版される本が多すぎる。それと反比例するように1冊の寿命はどんどん短くなっている。新刊期間をすぎると、途端に動きが悪くなる。ハードカバーはあっというまに文庫となり、それもすぐに絶版となってしまう。新刊依存が強すぎて、出版社も書店も取次も既刊本をないがしろにし、その結果ますます自転車操業に追い込まれている。サイクルは加速度的に短くなっている。ここ数年、ペダルを漕ぎ疲れたのか、それともチェーンが切れたのか、倒れる者がめだって増えてきた。 とにかく本が書店に並んでいる期間が短くなっているわけだし、一方で 「短期間で大量に売れるもの」 中心の画一的な品揃えの書店が増えているのだから、1冊の本が読者の目にふれ、手にとって内容を確かめてもらえる機会は、この10年をみてもおそろしく減少しているのは間違いない。 インターネットの普及は、こうした状況を補う出版側からの情報発信という面で大きな力になってくれるはずだが、各社のHPやオンライン書店に掲載された情報をみても、通りいっぺんのものが多いように感じた。字数の制限や広告費を気にせずに読者に直接情報を届けられる折角の 「場」 なのに、それを十分にいかしてはいないように思えたのだ。(とくに大手出版社のHP、いちばん知りたい新刊・近刊情報、既刊本の内容紹介が少なすぎないか。たとえば評論やノンフィクションなら目次が載っているだけでも随分ちがうのに) もちろん、詳細な内容紹介を出版される本1冊1冊に付していこうとすれば、それなりの労力は必要となる。各人の負担が増えるのは間違いない。しかし、そうした努力を積み重ねていかなければ、ぼくたちの作っているような、基本的に小部数で読者層が (ある程度) 限られているような本は、ますます読者に届かなくなり、生き残ることができないのではないか。「良い本を作っていれば (黙っていても) 読者が評価してくれる」 なんて幻想は何十年も前に終ってるのに、出版界、とくに人文書の世界にはまだまだそういう意識が (口に出しては云わなくても) 根強く残っているような気がする。 というわけで、どこまで効果があるかわからないけれど、まずは自分のできる範囲で始めてみようと思ったのだ。10年前に作った本も、今月出たばかりの本も、ぼくにとっては同じように大切な本だし、一人でも多くの人に手にとってもらいたいと思っている (だいたい読む側からいえば、新刊かそうでないか、なんてことは本来あまり意味がないはずだ。ある本と初めて出会うとき、その人にとってそれはつねに 「新しい本」 なのだから)。このHPは、まず第一にそのための 「解説目録」 であり、「専門書店の棚」 でありたいと願っている。 もうひとつ、ミステリ・怪奇幻想文学関係の資料集・インデックスにしたい、という野心 (というほど大袈裟なものではないが) もあるのだが、こちらのほうは本業のあいまに少しずつといったところ。とはいっても、こういう作業が思わぬ企画のヒントになることもあるので、「仕事のうち」 といえないこともないのだが。 2001年の総括をするつもりが思わず話がそれてしまった。昨年はそれまでの仕事をまとめながら、少しずつ新しい方向を探りはじめた年、ということになるのだろうか。その結果が形になって現われるのは今年以降のことになる。そのときになって初めて2001年はこういう年だった、という位置づけができるのかもしれない。 (2002.2.14) |