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 初回の外来から一週間後、造影剤を使って通常のMRIよりも精度の高い撮影をするため、一日だけ検査入院しました。

 この検査は腕の血管から首元までカテーテルを入れて、肩口で分岐する動脈から造影剤を断続的に入れながらMRI撮影するという検査です。
 造影剤を入れる瞬間にその部位が熱く感じられるという不思議な体験でしたが、検査そのものは特にトラブルもなく午前中だけで簡単に終わり、 検査後はしばらくベッドで安静にするよう言われました。そして夕方になってからドクターに呼ばれ、診察室へと向かったのです。

 ――ところが

 朝食を摂らずに検査に赴いたせいか、ドクターから説明を聞いているウチに目の前がクラクラとしてきて……そこからは覚えてません。
 気がついたときにはICUで寝ていました

 後から聞いた話では、自分は貧血で倒れてしまったようです。
 そして診察室から看護師さん数人に担がれてまっすぐICUに運ばれた……らしい。 検査だけなのにICU入りとは、我ながら何たる軟弱さなのでしょう! もし某サイド7なら金髪さんにはたかれるに違いありません。
 看護師さんに聞いた限りでは、検査後に具合が悪くなる人はたまにいるみたいだけど、この検査で倒れる人はそんなにいないみたい……orz

 派手にぶっ倒れたとは言え、単なる貧血でしたので、夜にはICUを出て一般病棟に移ることができました。 そして翌日に改めてドクターから検査の結果を聞いたのですが(今度は倒れませんでした)、 その際に「あなたのコブの形だと、血管内治療よりもクリッピングの方が良い」と言われました。

 簡単に言うと、右図のようにコブの根本にクビレがある場合は、開頭せずに手術する血管内治療(血管内からコブの中にコイルを詰める)が出来るのですが、 自分の場合はコブの根本にクビレがない「お椀型」のコブなので、コイルを詰めても血流で押し流されてしまうということらしいのです。


 コブの形によって術式が変わるとは、全くの予想外でした。
 そしてこの瞬間から、自分自身の中で手術に対する恐さがむくむくと頭をもたげてきたのです。
 それというのも前述の飲み会での知識と思いこみにより、自分も電気店経営Mと同様、開頭せずに足の付け根付近の血管内からカテーテルを入れると思っていたので、それまでは 怖さを感じていませんでした。なにせカテーテルを入れるだけなら、検査の時に既に経験済みですので(……貧血で倒れたけどね!)

 しかし開頭し、他人の手が自分の脳をいじるということになると、とてつもない恐怖を感じました。
 実は私自身、全身麻酔はこれまでの人生で2度経験があります。共に大きな手術ではないのですが、どちらも無事でしたので全身麻酔の手術自体はさほど怖くもありません。 しかし今回は場所が脳内だけに、もし術中にちょっとでもドクターの手がブレたら死亡、あるいは重篤な後遺症が残る可能性があるのです。

 自分が何かをやって失敗したならその結果を受け入れることに不満はありませんが、他人のわずかな失敗で自分が生命の危機に陥るというのは、リスクとして 大きすぎはしないでしょうか? そもそもこの段階まで、自覚症状が全くないのです。それなのにそれほどのリスクをとる必要があるのでしょうか?

 ドクターを前にして悶々と考えてみますが、どうしたらよいのか全く思いつきません。それどころか考えれば考えるほど、第二次大戦中のナチス(かな?)の人体実験で 医師が生きたままの患者の脳をいじるグロい映像ばかりが思い浮かびます!
 そこで仕方なく、正直に「開頭手術は怖い」と答えてみました。

 するとドクターは「では自分の大学の後輩に血管内治療の専門家がいますので、彼にも意見を聞いてみることにしましょう。もし彼が血管内治療でいけるということであれば 彼に血管内治療を頼む形でも良いですし、血管内治療がダメそうなら私自身がクリッピング手術することができますので」と言ってくれたのです。
 そしてその血管内治療専門の医師に意見を聞くまで期間を見て欲しいということで、次の通院は2週間後となりました。

 家に帰ると、すぐにネット上で脳動脈瘤について調べました。

 ネット上の情報が100%正確とはいえないことは重々承知していますが、そんなことを言っている場合ではありません。 ウィキペディアや医療情報サイトなどで見つけられるだけの情報に目を通しました。

 しかし脳動脈瘤自体の情報はあっても、30代で手術を受けた人の話というのは見つけることが出来ませんでした。(そのため、現在この文章を書いています)
 また脳動脈瘤の場合、前述の手術の他に経過観察という手もあることはあるのですが、手術と経過観察の選択基準もわかりません。
 そこでネット上の情報だけに頼らず、知人数人に現状を連絡してみることにしました。

 その連絡した中に友人である外科医Yも入っていたのですが、Yは自分が勤める病院の脳外科部長に話を聞いてくれ、「自分たちの年齢(=30代後半)であれば 経過観察は選択すべきではない」という話を教えてくれました。同時に「●●(←私の名前)の現住所からほど近いC病院のM医師という先生が 血管内治療の専門家として有名だから、不安ならセカンドオピニオンをもらうといい」という情報もくれたのです。

 後ほど書きますが、この時期は自分自身が信じられず、その結果として何の決断も出来ずに、ただ恐怖心に苛まれていた時期でしたので、これは自分に とって非常に心強い情報でした。

 また同じ頃、別の知人が実際にクリッピング手術を受けた知人がいるという話を教えてくれ、その人から自己負担額(←密かにこれも結構不安でした)とか、 術後の経過などについて手紙を頂いたのです。
 正直不安だらけ……というかかなりの鬱状態でしたが、知人づてに数多くの情報が集まりました。
 人生でこのときほど「持つべきは友」という言葉を実感したことはありません。

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