だいぶ前の話になってしまったが、アニメギガでの谷口悟郎監督の発言集(大意)。
「作品作りの9割9分は理屈。最後にA案とB案があり、どちらも論理的に正しいというときに決断するのが監督の仕事。」
アニメ業界に進んだ理由。
「実写の撮影所は下積みが長そう。その点、アニメはすぐ上に行けると思った。高畑監督、押井監督の著書を読んで、絵が描けなくてもアニメが作れるんだ、と」
「「リヴァイアス」は、監督をやらせてもらえる最初で最後のチャンスかもしれない、とやりたいことをやった。」
「目線の芝居を印象的にやりたかったので、各オペレーターのブースをパーテーションで区切った。こうすると、いちいち立ち上がって向き直らないと目線を交差させることができない。そして、責任者は全員の目線が集中する場所に位置する。だからプレッシャーがきつい。」
「「プラネテス」の無重力描写はアニメ史上No.1と自負している。アニメの企画書に、よく「リアルSF」という言葉があるのが引っかかった。そこは「ハードSF」だろと。」
「「プラネテス」の宇宙服の反射板の描写は、このために開発した新技法。」
ペイントスーパーという技法で、塗るだけでぼんやりと光るのだとか。「スター・ウォーズ」の宇宙船のノズルみたいですね。
「月面の1/6Gの描写にこだわった。筋肉の動きと、その結果生じる慣性の動きを描き分けろと。」アニメーターの気が狂いそうな注文。
「「プラネテス」最終話のプロポーズのシーン。タナベが返事をするタイミングが、絵コンテも撮影も編集もアフレコもこれでいけると思ったのに、最終的なダビングでどうしてもタイミングが早い、ということがわかった。そこで、編集をやり直して約1秒延ばした。音楽も、音素材を一度バラバラにして組み直している。」
「「コードギアス」は、なるべく多くの意見を取り込むために各スタッフを複数にしている。絶対失敗できない作品。」
「今のティーンエイジャーを取材した結果、昔も今も変わらないという結論に至った。」
「方向性を示すのが監督の役目。スタッフの進む先はおおむね北北西、ずれていいのはプラスマイナス何度まで、という具合に。その方向へ、人生をかけたフェチをやり通せ」
「作風も、哲学も作品ごとに変えていっていいし、変えるべきだと思う。ただ、製作委員会などの要求に対して「これが本当に作品のためになるか?」ということは常に問わなければならない。」
感想としては「頭いい人だなあ・・・・・・」とため息が出る。
この人の発言からは、世代的に庵野さんより下るのだけれど、「アニメと特撮しか知らない」「自分の知っているものしか作れない」という屈託が感じられない。実写畑出身であることと無関係ではあるまいが。
最近の若い人は信じないかもしれないが、「超時空要塞マクロス」が発表された頃、「アニメしか知らない世代が作り手となり、縮小再生産を繰り返す」事態が、真剣に危惧された。
例えば霜月たかなか氏が、「快楽と自閉のラプソディー」と題してこんな文章を書いている。
「(略)アニメの現状を、成熟とはほど遠く感じているのは筆者だけだろうか。それは子供向けの原作付き作品とマニア向けのマイナー作品に二分してしまった、一種の袋小路とも見える状態であり、七〇年代後半からのアニメの青春時代と比べると、すでに老人のようでもある。」
「アニメがそれまでの作り手から新世代に手渡されたとき、彼らは自分たちの見たいと思う作品を作った。それは彼らの欲求を忠実に反映して画期的な作品になりはしたが、それに続く作品は“メカと美少女”以外の目安をもたない自由さのなかで、自閉していかざるを得なかったのだと。」
別冊宝島「アニメの見方が変わる本」1997年所収
マクロス本放送から15年後の認識であるが、放映直後から古手のアニメファンからの批判は多かった。
私が記憶しているのは、「せっかくガンダムで「アニメでも大人の鑑賞に耐える」というところまで来たのに、ラブコメ作ったら退歩じゃん!」という趣旨の批判。
しかしまあ、谷口監督をはじめ、60年代後半生まれの作家が続々と誕生している現在、杞憂に終わったようである。と言うか、全然進歩してないと言うか、“メカと美少女”が“美少女”だけになってしまったと言うか。
「最近はおとなしいアニメーターが多いと思います。特にメカや爆発を専門に描く人は減りましたね。メカを作画でと言うと「CGじゃないんですか?」って聞かれるくらいですから。美少女しか描きたくない、美少年しか描きたくないっていうアニメーターは増えた印象がありますね。オヤジもロボットも描きたがらない。まあ、そういうアニメが主流なので仕方ない感じもしますが」
アニメーションRE VOL.3 2006年4月
庵野秀明×京田知己の対談での庵野監督の発言
あまり指摘されてないと思うんだけど、「コードギアス」は最後の手描きロボットアニメとしても貴重ですよね。
試しにニコ動で検索かけてみたんだが、この番組はアップされてなかった。なら、私がここにメモっておく意義もあるだろう。
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