しばらく前に、BSで観た映画。
定年間近のサラリーマンの主人公は、交通事故を起こして子供にケガを負わせてしまう。その原因が汚れたカーブミラーにあったことから、彼は家庭を捨てて、自転車で日本全国のカーブミラーを清掃する旅に出る。男の行動はTVに紹介され、次第に賛同者が増えて大きな運動になり・・・・。
yahooの映画紹介には「家族の再生と崩壊」といった感じで紹介されているが、この映画の真のポイントはそんなところではなく、運動が全国に広がる後半にある。
主人公が旅の途中で出会った男(定年退職後に旅行をしていた)は、彼の活動に共感しつつ、積極的にマスコミに売り込み、賛同者を募り、活動を組織化する。
主人公の動機から分かるように、彼のミラー拭きの旅は贖罪のための巡礼だった。ところが、一大組織となった「ミラー拭き」は主人公の手を離れていく。
つまりこの映画は、個人的な巡礼が、新興宗教の教祖に祭り上げられ、やがて教団の世俗的な活動と合わなくなって放逐される話なのである。
作品中盤で、カーブミラーのない村のエピソードが出てくる。なぜないかというと、鏡をご神体とする神社があるからだ。事故を防ぐなんて現世利益的な目的に鏡を使うなどとんでもないというわけだ。古来、鏡は神器であり、鏡を磨くという行為が宗教的な意味を含むのは、このエピソードからもうかがえる。
ほとんどセリフのない主人公に、緒形拳。組織を乗っ取る協力者に、津川雅彦。両ベテランが印象的だが、とりわけ津川の、主人公の行動に本気で賛同しつつも、組織を巨大化し、売名に努める俗っ気たっぷりな脂っこい演技が見物。
それにしても、サンダンス映画祭って無名の新人監督を発掘するためにあるのに、こんな超ベテランを起用していいんだろうか。
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