08 春枝 (1p)

時計の針はもうすぐ夜の11時を指そうとしていた。

オレは他人の家に忍び込む緊張感と、これから起こるであろう
出来事に対する期待が重なり合い、今までに味わった事が無いほどの、
異様な興奮を感じていた。息を殺し、足音を忍ばせながら、
そっと勝手口に回り込み、ドアノブに手を掛ける。

約束どうり、ドアには鍵が掛かっておらず、すんなりとドアが開く。
念のため、もう一度時間を確認すると、ちょうど約束の11時になっていた。

「よしっ、行くぞ」

自分に言い聞かせるように、小さな声で独り言をつぶやき、
家の中へと入っていく。入るとすぐに、キッチンのカウンター越しに
リビングが見渡せた。明かりの点いていない薄暗いキッチンに
身を隠しながら、おずおずとリビングをうかがう。

するとそこは、一組の男女が情事を繰り広げている真っ最中であった。

(よ、よしっ、行くぞ)興奮と緊張で固まりそうな自分に、今度は
心の中で、再び独り言をつぶやくと、一気に立ち上がり、
リビングへと歩み出る。

「よぉ〜、良夫」

若干、声を上擦らせながらも、必死に平然を装い、声を掛ける。
夫人があっけにとられた様子で、コチラを振り向く。
次の瞬間、我に返った夫人が大きな悲鳴を上げた。

「キャ〜〜、ど、どうして。イ、イヤッ、見ないで〜〜」

だが、夫人には自らの意思で動くことは出来なかった。
すでに夫の手により、全裸のまま、1人掛けのソファーに
M字開脚の状態で縛り上げられていたのだ。


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