「殺す・集める・読む」
推理小説特殊講義

高山 宏


ホームズ冒険譚を社会に蔓延する〈死〉の意識と〈倦怠〉を追い払う、一種の悪魔祓い装置として読み解いた名エッセイ 「殺す・集める・読む」、怪奇小説の古典 『吸血鬼ドラキュラ』 を、データを収集・分類し、テクスト化することによって〈怪物/犯人〉を追いつめる探偵小説として読み直す 「テクストの勝利」、世紀末ロンドンを殺人の魅惑と恐怖で埋め尽くした〈切り裂きジャック〉事件に、センセーションに惹かれるヴィクトリア朝大衆の心性をみる 「切り裂きテクスト」、ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』やクリスティー 『そして誰もいなくなった』 など、マザー・グース殺人の苛酷な形式性に、1920〜40年代の世界崩壊の危機を重ね合わせる 「終末の鳥獣戯画」、乱歩の暗号小説を手掛かりに〈デフレ〉と推理小説の意外な関係を明らかにする 「『二銭銅貨』の経済学」、究極のマニエリスム探偵小説 『黒死館殺人事件』 の迷宮テクストを解きほぐす 「法水が殺す」 他、〈推理小説〉を 「見えない物を見えるようにする」 時代=〈近代〉が生んだ発明品としてとらえ、より大きな文化史的枠組みから論じ尽くした、奇想天外、知的スリルに満ちた画期的ミステリ論。

創元ライブラリ 2002年1月刊
◆文庫判320頁 図版多数 1500円 (税別) [amazon] [honto]
◆装丁=Fragment (西山孝司・柳川貴代)

本書目次

    T
殺す・集める・読む シャーロック・ホームズの世紀末
世紀末ミクロ・テクスト 推理小説と顕微鏡
ホームズもタロット・カードも データベースの文化史へ向けて
 図版構成 ホームズの世紀末
    U
テクストの勝利 吸血鬼ドラキュラの世紀末
切り裂きテクスト 殺人鬼切り裂きジャックの世紀末
病患の図表 G・K・チェスタトンのアンチシステム
探偵と霊媒 アガサ・クリスティー 『死の猟犬』
終末の鳥獣戯画 童謡殺人と現代
 図版構成 視覚化される情報
    V
『二銭銅貨』 の経済学 デフレと推理小説
暗号の近代 『二銭銅貨』 を何がうんだか
 図版構成 探偵小説とマニエリスム
昭和元年のセリバテール パノラマ島のピクチャレスク
法水が殺す 小栗虫太郎 『黒死館殺人事件』

この本は、きみが解く事件

◆書評より

……その論証ぶりには異様な説得力がある。まるで著者自身が名探偵の権化であるかのように。『ミステリ評論って、こんなに面白いものだったんだ!』 と目からウロコがポロポロと落ちまくる一冊。どの一篇を読んでも新たな発見があることは請け合いである。日頃何となく読んでいたミステリというジャンルの意外な成立背景を知りたい読者は、直ちに書店で購入すべし。
千街晶之氏(「週刊DIAS」2/21号)


物騒なタイトルどおり、高山宏の 『殺す・集める・読む』 もまた、従来の推理小説批評の文法から離れることで、この本自体がまるでたくさんの謎解きを備えたミステリであるかのごときスリリングな読み心地を与えてくれる過激な1冊になっている。
豊崎由美氏(「婦人公論」3月22日号)

……死の美学と収集趣味に淫した英国世紀末を名探偵ホームズの姿に垣間見る表題作や、「童謡殺人」 というミステリー・ジャンルを論じた 「終末の鳥獣戯画」 などを収める。高山の真骨頂は、博覧強記をもって文学、美術、社会などを自在にコネクト (連結) してゆく腕の冴えにある。……ひとたび高山ワールドにはまったファンは、彼のネットワークにちりばめられた膨大な書籍を求め新刊書店や古本屋をさまようはめに陥るのだ。
鷹城宏氏(「北海道新聞」3月24日)

シャーロック・ホームズやG・K・チェスタトンやアガサ・クリスティーや江戸川乱歩らの作品について語られるこの 『殺す・集める・読む』 はただの推理小説論ではない。もっと 「スケールの大きな」 文化史であり思想史である。だからこそ普段ミステリとは縁遠い私のような門外漢にも楽しめる。
坪内祐三氏(「ジャーロ」2002春号)

【bk1】 書評 服部滋氏
高山 宏 (たかやま ひろし)
1947年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、大妻女子大学比較文化学部教授。著書に 『アリス狩り』 『目の中の劇場』 『メデューサの知』 『ふたつの世紀末』 『奇想の饗宴』 (青土社)、『世紀末異貌』 (三省堂)、『奇想天外・英文学講義』 (講談社)、『終末のオルガノン』 『痙攣する地獄』 『カステロフィリア』 (作品社)、『高山宏のブック・カーニヴァル』 (自由国民社)、『テクスト世紀末』 (ポーラ文化研究所)、『黒に染める』 『庭の綺想学』 (ありな書房)、『エクスタシー』 (松柏社) 他、訳書に 『幻想文学大事典』 (監修)、バルトルシャイティス 『アナモルフォーズ』、オールティック 『ロンドンの見世物』 (共訳)、ニコルソン 『月世界への旅』、バーバー 『博物学の黄金時代』 (以上、国書刊行会)、『詳注 シャーロック・ホームズ全集』 (共訳・ちくま文庫)、ターニ 『やぶれさる探偵』、アッカード 『シャーロック・ホームズが誤診する』、キャロル 『詳注 不思議の国のアリス』 『詳注 鏡の国のアリス』 (東京図書)、シューエル 『ノンセンスの領域』 (河出書房新社)、スクリーチ 『春画』 (講談社)、スタフォード 『ボディ・クリティシズム』 (国書刊行会) 他、多数。叢書 〈異貌の19世紀〉 (国書刊行会) の責任編集もつとめる。

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