高山宏=責任編集 国書刊行会◆四六判・上製ジャケット装 二つの死闘 ![]() |
ヴィクトリア朝英国を中心とする |
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新たなる世紀末へ向けて 高山宏 さまざまに世界終末を囁かれる1999年もいよいよ近い。かつてない質と規模の終りと失楽園の予感に人々は絶望して、刹那の夢に走る。自らの文化の何者なるか、何処に発するが故に今の姿に至るのか、ほとんど知らぬ間に。近代が悪い、近代が終ると人々は言う。では 〈近代〉 についてわれわれは何を知っているのか。実はほとんど何も知らない。 人々の倦怠の地獄を救うために博物学やオカルト趣味は生じた。酸鼻な犯罪の流行が人々を文学への嗜欲に駆り立てた。犯罪と性、博物学と疑似科学、怪物狂いと商業革命……。看過されてきた意表衝く切り口の輻奏によって、われわれの 〈今〉 をつくった一文化の美と知の逆説の異貌が、ここに次々明らかにされる。失楽園幻想でわれわれを悩ます過去の黄金時代に、人々は既にその 〈今〉、その 〈末〉 を激しく苦しんでいた。狂気はモダーンの 「始めから」 あったのだ! 絶望するなら、諸君、この叢書を読んで後、絶望せよ! |
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リチャード・D・オールティック 1993年6月刊 2524円 [amazon] 1861年6月、ロンドンの新開は二つの大事件を報じて人々を驚かせた。センセーショナルな話題には事欠かなかった。かたや首都のど真中で勃発した退役少佐と金融業者の血みどろの死闘。背後には美貌の情婦と恐喝事件。かたや遺産目当てにわが子を殺そうとしたフランス貴族。異常な事態にジャーナリズムは沸騰し、大衆の興奮は頂点に達した。事件の推移を克明に追いながら、近代ジャーナリズムの成立と殺人事件が娯楽化していく瞬間をいきいきと描き出した異色の社会史。 TOP
マリア・タタール 鈴木晶訳 1994年3月刊 2913円 [amazon] 18世紀末、革命前夜のパリに登場した奇跡の施術師アントン・メスメルの催眠療法はたちまち人々を魅了し、その動物磁気説は、物議をかもしながら全西欧にひろがっていった。やがてメスメリズムは、ドイツ・ロマン派において魔術と混淆し、人を呪縛する暗い力の源泉と化す。ホフマン、クライストからバルザック、ホーソーン、ヘンリー・ジェイムズヘ、さらにはカリガリ博士、そしてヒトラーへと受け継がれていく
「魔の眼」 の系譜を辿りながら、擬似科学が時代の精神に与えた影響を跡づける。
リン・バーバー 1995年11月刊 4078円 [amazon] 品切 産業革命が生んだ余暇と、ヴィクトリア朝の啓蒙主義・好奇心が結びついて、19世紀、博物学はファッションと化した。家庭の居間には昆虫や貝、植物のコレクションが所狭しと並べられ、幻燈を駆使した動物学講演や「顕微鏡の夕べ」は大盛況。美しいイラストを満載した博物学の本は飛ぶように売れ、世界各地からもたらされる珍種発見のニュースが、紳士淑女の最新流行の話題となった。この未曾有の博物学の大衆化時代の諸相を、夥しい図版をまじえて描き、19世紀文化史に新たな光を当てた画期的大冊。
クリス・ボルディック 1996年4月刊 3107円 [amazon] 品切 生命の秘密に憑かれた科学者が、死体から創造した恐るべき被造物――フランケンシュタインの怪物。フランス革命の影響下に生まれたこの近代の神話は、多くの文学者、思想家によって、19世紀いっぱい、さまざまな変奏を奏でながら書き継がれていった。革命家、産業社会の逸脱者、制御を失った科学、暴徒と化した労働者、植民地の現地人――人々に不安を与えるあらゆるものが、怪物イメージを増幅させていく。創造者を脅かし、破壊する被造物への恐怖を19世紀テクストから抽出する怪物の神話学。
ジェニファー・ウィキー 富島美子訳 1996年5月刊 2913円 [amazon] サーカス王バーナムが次々と革命的広告をくりだした19世紀は、ヘンリー・ジェイムズの云うように、まさに
「広告の時代」 であった。文豪ディケンズは、自作朗読や雑誌をフルに利用した広告の天才でもあったし、流行の小説はすぐさま広告に取り込まれ、世紀末の寵児ワイルドまで広告に一役買う始末。モダニズムの作家ジョイスは最新の広告技法を応用して、大作
『ユリシーズ』 を書きはじめる。次々に興味深い話題をとりあげながら、広告と文学の相関関係をあざやかに論じた問題作。
ピータ‐・コンラッド 加藤光也訳 1997年3月刊 3500円 [amazon] 「細部の宝庫ではあるが、それは無頓着な全体である」
と、ヘンリー・ジェイムズはヴィクトリア朝の芸術をこう喝破した。ディケンズのグロテスクな登場人物に現れたこうした傾向は、ハント、フリスらの風俗画やラファエル前派、ラスキンの建築論にまで、明白な痕跡を残している。高尚で堅苦しく精密な古典的形式から、猥雑で混沌とした現実、生の豊穣を写し取る手段へと、芸術が変貌していく様を、驚異的な博覧強記で鮮やかに読み解く古典的名著。 |