【内容見本でみる国書刊行会 第3回】




紀田順一郎+荒俣宏コンビが 《世界幻想文学大系》 につづいて放ったエンタメ系怪奇小説叢書 《ドラキュラ叢書》 全10 巻(1976-77)。

創業5年目の会社で 「企画いらい十六年」 というのは解せない気もするが、細かいことは気にしないのだ。(16年前の1960年といえば、東京創元社 《世界恐怖小説全集》 が前年に完結、紀田氏がミステリ・ファンダム〈SRの会〉で活躍していたころ。氏が大伴昌司、桂千穂氏とともに同人誌 《The Horror 》 を創刊するのが1963年。荒俣氏はその年少読者だった)
パンフは三折にするとそのままDMに使えるようになっている。で、その内側は――

やたらに気合の入った刊行の辞。さらにそれを真中から開くと――

各巻の収録内容。(ラインマーカーでチェックを入れているのは、ちょっと恥ずかしいが三十数年前の当編集室。最初にこの3冊を買ったのかな。下の黒線はたぶん興味の度合いを示す)
豪華函入、造本にも凝った 《世界幻想文学大系》 に対し、本叢書は並製の軽装版。定価980円は 《大系》 の半値以下で、当時の国書刊行会としては破格の低価格は、より多くの読者獲得をねらった戦略だったが、期待したほどの成績は残せず、この内容見本で予告されている第二期は幻となった (この廉価版戦略について、編者の紀田氏は 「中途半端な印象を与えるものになってしまった」 と後に回顧している)。この 「前例」 はその後、低価格本を企画する編集者の前に壁として立ちはだかることになる。 ※幻の第二期についてはこちらの記事を参照。
しかし、このなかで唯一現在も版を重ねている荒俣宏編 『ク・リトル・リトル神話集』 は好評を博し、のちの 《真ク・リトル・リトル神話大系》 ヒットの礎を築いた。なお、本書の月報 「トランシルヴァニア通信」 には、Cthulhu をなぜ 「ク・リトル・リトル」 と表記するか、荒俣氏の説明がある。ダーレスと共にアーカム・ハウスを設立したドナルド・ワンドレイの説に基づくというのだが、あまりにも無理筋の感が強く、国書以外では定着しなかった。その国書刊行会でも、後に企画された 《定本ラヴクラフト全集》 では 「クスルウー」 を採用している。

                                               

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