―今日は何の日―
【9月】

9月1日
◆1875年のこの日、〈火星シリーズ〉 〈ターザン〉 〈地底世界ペルシダー〉 など、異世界や辺境を舞台にした冒険活劇で絶大な人気を博したエドガー・ライス・バローズがシカゴで生まれる。
◆1888年のこの日、アボリジニの血が混じったオーストラリアの名探偵ナポレオン・ボナパルト・シリーズの作者アーサー・W・アップフィールドが、ハンプシャー州ゴスポートで生まれる。
◆1892年のこの日、戦前戦後を通じて活躍した翻訳家で、〈新青年〉 編集長もつとめた延原謙が京都で生まれる。父親、竹内種太郎は札幌独立キリスト教会の宣教師だったが、2年前に辞任、学生時代を過ごした京都に戻っていた。翌1892年には種太郎が病死。残された夫人、文が看病婦学校の教師をしながら下宿屋を経営、謙ら二人の子供を育てた。次男の謙は戸籍上、親戚の延原家の養子となっている。
◆1955年のこの日、パリの廃鉄業者にエッフェル塔を (一度ならず二度までも) 売りつけた詐欺師ヴィクター “伯爵” ラスティグが、ワシントンDCのFBIの収容所から脱走する (のちに米国財務省によって再逮捕)。
◆2010年のこの日、《マンハント》 日本版の編集長をつとめた中田雅久が死去。享年88。


9月2日
◆1847年のこの日、最初の女性探偵のひとりドーカス・デーンの作者ジョージ・B・シムズがロンドンで生まれる。
◆1897年のこの日、柴田宵曲 (本名・泰助) が東京市日本橋区久松町の商家に生まれる。編著 『随筆辞典・奇談異聞編』 は江戸奇譚随筆の一大アンソロジー、『妖異博物館』 正・続は、日本・中国の不思議な話を集め、テーマ別に分類した奇譚随筆の決定版。
◆1949年のこの日、ラオール・ウォルシュ監督、主演ジェイムズ・キャグニーのギャング映画の古典 《白熱》 が封切られる。
◆1973年のこの日、『指輪物語』 のJ・R・R・トールキンが死去。

9月3日
◆1908年のこの日、井上良夫が福岡県若松市 (現北九州市) で生まれる。父親は鳥羽造船所の庶務課に勤めていたことがあり、平井太郎 (江戸川乱歩) の同僚でもあった。良夫自身も乱歩と同じ愛知県立第5中学を卒業、バス会社社員や小学校、女子商業学校の教師として働きながら、探偵小説の評論や翻訳に活躍することになる。その先駆的業績は没後半世紀を経て 『探偵小説のプロフィル』 にまとめられた。
◆1982年のこの日、エラリイ・クイーンの片割れ、フレデリック・ダネイが死去。昭和10年 (1935) の 〈新青年〉 で井上良夫は、ダネイが創刊した専門誌 〈ミステリ・リーグ〉 を評して 「彼エラリイ・クイーンは、アメリカ探偵小説界の王者である一方、一介の愛すべき探偵小説のファンである」 と述べ、親近感を表明している。

9月4日
◆1900年のこの日、アリグザンダー・アルフレッド・ゴードン・クラーク、筆名シリル・ヘアーがサリー州ミクルハムで生まれる。英国法曹界の重鎮だったヘアーは、その法律の知識と人間観察の経験をいかして、『自殺じゃない!』 『風が吹くとき』 『法の悲劇』 『英国風の殺人』 などの傑作を書き上げた。ヘアーもここ数年のクラシック・ブームで見直された作家のひとり。最高傑作 『法の悲劇』 (ハヤカワ文庫) が現在読めないのは勿体ない。
◆1934年のこの日、特異なアニメーション作家ヤン・シュヴァンクマイエルがプラハで生まれる。チェコの人形劇の伝統やマニエリスム美術、シュルレアリスムの手法を取り入れ、長篇 《アリス》 《ファウスト》、短篇 《陥穽と振子》 《アッシャー家の崩壊》 《オトラントの城》 《ジャバウォッキー》 など、幻想文学ファンには見逃せない作品が多数。
◆1989年のこの日、メグレ警視シリーズのジョルジュ・シムノンが死去。

9月5日
◆1921年のこの日、ハリウッドの人気コメディアン、“ファッティ” アーバックルが、サンフランシスコのホテルで開かれた乱痴気パーティで、女優の卵ヴァージニア・ラップを一室に連れ込み暴行、重症を負わせる。ラップは数日後死亡し、ファッティは強姦罪および殺人罪で逮捕される。三審までもつれた裁判の末、無罪を勝ち取ったものの、ファッティの俳優生命は永遠に断たれた。ケネス・アンガーの面白すぎる映画界スキャンダル史 『ハリウッド・バビロン』 冒頭に登場する事件。ちなみに、このときファッティ側に雇われて事件の再調査にあたったのが、当時ピンカートン探偵社の社員だったダシール・ハメットである。
◆1953年のこの日、ハヤカワ・ミステリ創刊。第1回配本はミッキー・スピレイン『大いなる殺人』 とJ・H・ウォーリス 『飾窓の女』。
◆1989年のこの日、孤島を襲った恐るべき死の病、ポーの影響が顕著な奇譚 「柘榴病」 (〈新青年〉 昭和2年10月号) 一篇で強烈な印象を残す瀬下耽が死去。

9月6日
◆1896年のこの日、『伯母殺人事件』 をはじめ、皮肉な味わいの技巧的ミステリを多数発表したリチャード・ハルがロンドンで生まれる。
◆1925年のこの日、〈千の顔をもつ男〉 ロン・チャニーが、パリのオペラ座の地下に棲む仮面の怪人役で一世一代の名演技を披露した 《オペラの怪人》 が封切られる。針金をつかって鼻の形を変えたというチャニーのメイキャップ法は、苦痛に満ちたもので、撮影中に出血したこともあった。当時のジョークに、蜘蛛や蜥蜴をみつけて、「踏んじゃだめ、ロン・チャニーかもしれないからね」 というのがある。
◆1926年のこの日、星新一が東京で生まれる。祖母は森鴎外の妹喜美子、父は星製薬の創設者で、野口英世の後援者としても知られる星一。
◆1950年のこの日、『スターメイカー』 『最後にして最初の人類』 で、宇宙の誕生から滅亡にいたる 〈幻想の宇宙誌〉 を描き切ったオラフ・ステープルドンが死去。


9月7日
◆1939年のこの日、泉鏡花が死去。
◆1944年のこの日、ビリー・ワイルダー監督の傑作フィルム・ノワール 《深夜の告白》 が封切られる。原作はジェイムズ・ケインの 『倍額保険』、脚本はレイモンド・チャンドラー。保険勧誘員と共謀して夫殺しを計画する人妻をバーバラ・スタンウィックが演じている。

9月8日
◆1825年(文政8年)のこの日(旧暦。新暦では7月26日)、四世鶴屋南北 『東海道四谷怪談』 が江戸・中村座で初演される。
◆1925年のこの日、俳優ピーター・セラーズが英国ハンプシャー州サウスシーで生まれる。〈ピンク・パンサー〉 シリーズの迷探偵クルーゾー警部が有名だが、《名探偵登場》 ではシドニー・ワン警部 (チャーリー・チャンのパロディ)、《007/カジノ・ロワイアル》 ではジェイムズ・ボンドを怪演、遺作は 《天才悪魔フー・マンチュー》 と、ミステリ映画に縁の深い俳優だった。英国空軍大佐、アメリカ大統領、亡命ドイツ人科学者 (明らかに元ナチのマッド・サイエンティスト) の一人三役を演じきった 《博士の異常な愛情》 も強烈な印象を残している。
◆1935年のこの日、ルイジアナ州の元知事で上院議員のヒューイ “キングフィッシュ” ロングが、州政府ビルでカール・オースティン・ワイス医師に暗殺される。ロングのボディガードは即座にワイスを蜂の巣にした。

9月9日
◆1900年のこの日、理想郷シャングリラの出典であるユートピア小説 『失われた地平線』 や 『チップス先生さようなら』 で知られ、探偵小説 『学校の殺人』 の作者でもあるジェイムズ・ヒルトンが、英国ランカシャー州リーで生まれる。
◆1903年のこの日、ロマンティック・サスペンスの大家、フィリス・A・ホイットニーが横浜で生まれる。ジュヴナイル・ミステリも多数執筆し、あかね書房 〈少年少女世界推理文学全集〉 に 『のろわれた沼の秘密』 が収録されている。
◆1927年のこの日、パウル・レニ監督のスリラー映画の古典 《猫とカナリヤ》 が封切られる。奇人の大富豪が亡くなり、親類縁者を古い屋敷に集めた上で、遺言状の公開が行なわれる。全財産は意外にも遠縁の娘アナベルに行くことになったが、遺言にはひとつだけ条件があった。「彼女の精神が健常であること」。はたせるかなアナベルの周囲では奇怪な事件が続発、彼女の精神は恐怖で異常をきたしはじめる……というもの。
◆1995年のこの日、高木彬光が死去。

9月10日
◆1887年のこの日、ヘンリー・ランスロット・オーブリー=フレッチャーが英国サリー州の准男爵家に生まれる。名家の出で、近衛歩兵連隊を経て高級行政職を歴任したエリートでありながら、20冊に及ぶ長篇探偵小説を書いた。筆名ヘンリー・ウエイド。『推定相続人』 『警察官よ汝を守れ』 『塩沢地の霧』 『死への落下』 など、堅実な作風ながら新しい視点や試みを盛り込み、時代を先取りした作家でもあった。
◆1922年のこの日、《バスカヴィル家の犬》 のアメリカ最初の映画化が封切られる。〈ニューヨーク・タイムズ〉 の評は、「ドイルの作品は映画化に向かないのではないか」 と手厳しいものだった。
◆1936年のこの日、『偽のデュー警部』 『キーストン警官』 『マダム・タッソーがお待ちかね』 など、歴史ミステリに新機軸を打ち出し、現代英国本格を代表する作家ピーター・ラヴゼイが、ミドルセックス州ホイットンで生まれる。

9月11日
◆1862年のこの日、ツイストとユーモア、ペーソスに満ちた短篇で20世紀初頭のアメリカで爆発的人気を獲得したO・ヘンリーことウィリアム・シドニー・ポーターが、ノースカロライナ州グリーンズボロで生まれる。小鷹信光編 『O・ヘンリー・ミステリー傑作選』 では、そのミステリ的才能もうかがうことも出来る。
◆1939年のこの日、〈史上最も臆病な私立探偵〉 ナジャーが活躍するハードボイルド 『タフガイなんて柄じゃない』 のジョン・ラッツがテキサス州ダラスで生まれる。
◆1940年のこの日、《キャリー》 《ファントム・オブ・パラダイス》 のブライアン・デ・パルマがニュージャージー州ニューアークで生まれる。
9月12日
◆1912年のこの日、陸軍大将、乃木希典夫妻が明治天皇に殉死――で、思い出すのは、どうしったって山田風太郎 『神曲崩壊』 である。
◆1921年のこの日、スタニスワフ・レムが旧ポーランド領ルヴフ (現在はウクライナ共和国) で生まれる。〈スタニスワフ・レム・コレクション〉 には、その少年時代を振り返った自伝的作品 『高い城』 も収録されている。
◆2010年のこの日、フランスの映画監督クロード・シャブロルが死去。享年80。《二重の鍵》(原作S・エリン)、《肉屋》、《ふくろうの叫び》 (原作ハイスミス)、《刑事キャレラ/血の絆》(原作マクベイン)、《沈黙の女》 《石の微笑》 (原作R・レンデル)、《驚愕の10日間(十日間の不思議)》(原作クイーン)、《ナーダ》 (原作マンシェット)、《野獣死すべし》(原作N・ブレイク) など、多くのミステリ映画がある。
9月13日
◆1894年のこの日、作家・批評家のJ・B・プリーストリーが英国ヨークシャー州ブラッドフォードで生まれる。 ミステリ劇の名作 『夜の来訪者』 は、裕福なバーリング家の娘の婚約を祝う席上に、プール警部と名乗る男が現れ、服毒自殺した女工について聞きたいという。やがて家族のそれぞれが、女を自殺に追いやる罪を犯していたことが明らかになる……というもの。映画化もされた。他にジェイムズ・ホエールが映画化した 《魔の家》 もあるが、この映画は恐怖と笑いを結び付けようとして中途半端な出来に終った。
◆1916年のこの日、『あなたに似た人』 のロアルド・ダールがロンドンで生まれる。
◆1974年のこの日、ジェイムズ・ガーナー演じる私立探偵が活躍するTVシリーズ 《ロックフォード氏の事件メモ》 がスタートする。
9月14日
◆1889年のこの日、《ブラック・マスク》 誌でハメットと人気を競ったハードボイルド草創期の巨匠キャロル・ジョン・デイリーが、ニューヨーク州ヨンカーズで生まれる。1920年代には絶大な人気を誇ったが、晩年は完全に忘れ去られ、TVなどの仕事をしていたらしい。ある意味で 「ハメットに消された男」 と云ってもいいのかもしれない。
◆1982年のこの日、モナコ王妃グレース・ケリーが病院で死去。前日、娘とドライブに出かけた彼女はカーブを切りそこね、断崖から転落していた。当時、自殺説、陰謀説なども取り沙汰されたが、真偽のほどは明らかではない。女優時代、彼女のクールな美貌に惚れこんだヒッチコックは、《ダイヤルMを廻せ》 《裏窓》 《泥棒成金》 で主役に起用、のちに、とくに彼女に惹かれたのは 「セックスが剥き出しになっていないところだ」 と語っている。
◆2005年のこの日、映画監督ロバート・ワイズが、心不全のためロサンゼルスの病院で死去。享年91。《ウエスト・サイド物語》 《サウンド・オブ・ミュージック》 などのミュージカル大作で有名だが、初期にはRKOのヴァル・リュートンの下で 《キャット・ピープルの呪い》 (44)、R・L・スティーヴンスン原作、B・カーロフ主演の 《死体を売る男》 (45) などの怪奇映画を監督、その後も、異色SF映画 《地球の静止する日》(51)、S・ジャクスン原作の幽霊屋敷物の傑作 《たたり》(63)、M・クライトン原作のSFサスペンス 《アンドロメダ…》 (71) など、怪奇SF映画の分野で優れた仕事を残している。

9月15日
◆1890年のこの日、〈ミステリの女王〉 アガサ・クリスティーがデヴォンシャー州トーケイで生まれる。
◆1896年のこの日、村山槐多が横浜市に生まれる。夭折の天才画家が遺した怪奇短篇・詩篇の全貌は 『村山槐多耽美怪奇全集』 (学研M文庫) で。代表作 「悪魔の舌」 の舌一面に針の生えた男は、槐多を愛好した江戸川乱歩の 『人間豹』 にそのまま受け継がれている。
◆1978年のこの日、エドマンド・クリスピンが死去。26年ぶりの新作 『月下の光景』(未訳) でミステリ・シーンに復帰した翌年のことだった。
9月16日
◆1850年のこの日、ロバート・バーがグラスゴーで生まれる。1892年、ジェローム・K・ジェロームと共に雑誌 〈アイドラー〉 を創刊、ドイル、メイスン、スティーヴンスンなどの人気作家を擁して成功を収めながら、自らも探偵小説、科学小説、ユーモア小説など、大いに書きまくった。夏目漱石 『吾輩は猫である』 第11章 (〈ホトトギス〉 9巻11号掲載=1906年8月1日発行) に、「此間ある雑誌をよんだら、かう云ふ詐欺師の小説があつた」 として、バーの短篇 「放心家組合」 (〈ウィンザー・マガジン〉 1906年5月号掲載) の大筋が紹介されていることは、いまではよく知られている。指摘したのは山田風太郎 (「漱石と 『放心家組合』」、『風眼抄』 収録)。岩波書店版 『漱石全集』 の注解にもその旨が記されている。
◆1918年のこの日、〈ニューヨーク・イヴニング・ワールド〉 の編集長チャールズ・チャピンが妻ネリーを殺害。終身刑の判決を受け、シンシン刑務所に収容されたチャピンは、刑務所の塀に沿っていくつもの花壇を造り、〈シンシンの薔薇男〉 の異名を取った。
◆1935年のこの日、マルクス兄弟の映画にも出演していた人気女優セルマ・トッドが、血まみれの車の中で窒息死しているのが発見される。愛人の映画監督の犯行だとも、大物ギャング、ラッキー・ルチアーノが一枚かんでいるとも取り沙汰されたが、結局事件は未解決に終った。
9月17日
◆1908年のこの日、J・J・マリックをはじめとする多くの筆名と本名で、500冊以上の警察小説や犯罪小説を書きまくったジョン・クリーシーが、英国サリー州サウスフィールドで生まれる。
◆1922年のこの日、中井英夫が東京、田端で生まれる。父親は著名な植物学者、中井猛之進。
◆1932年のこの日、スペンサー・シリーズで人気を博したロバート・B・パーカーが、マサチューセッツ州スプリングフィールドで生まれる。
◆1965年のこの日、女性探偵物のTVドラマ・シリーズ 《ハニー・ウェスト》 がABCでスタートする。原作者G・G・フィックリングは夫婦の合作作家。『ハニーよ銃をとれ』 など9作がハヤカワ・ミステリに収録されている。TV邦題は 《ハニーにおまかせ》。口元のほくろが色っぽいハニー役のアン・フランシスに夢中になったお父さんも多いはず。
◆2008年のこの日、『酔いどれの誇り』『さらば甘き口づけ』 のジェイムズ・クラムリーがモンタナ州ミゾーラの病院で死去。
9月18日
◆1698年のこの日、〈鉄仮面〉 がバスティーユに入獄。
◆1872年のこの日、ウィリアム・マクハーグがニューヨーク州ドヴァー・プレインズで生まれる。マクハーグはエドウィン・バールマーと合作で科学者探偵ルーサー・トラントを創造し、心理学の知識を探偵小説に持ち込んだ最初の作家となった。嘘発見器を初めて捜査に取り入れたことで有名な 「お偉方」 を収めた短篇集 『ルーサー・トラントの功績』 は1910年刊。ちなみに乱歩の 「心理試験」 は1925年の作。
◆1940年のこの日、ドイツ軍の爆撃機がロンドン北西部にJ・D・カー夫妻が借りていた家を爆撃。家は全壊したが、二人は奇蹟的にかすり傷ひとつ負わなかった。そのときカーが読んでいたのは、バウチャーから贈呈された 『密室の魔術師』 だった。家を失ったカーはクラブ住まいとなるが、ここでも爆撃に遭遇。建物の残骸の中から 『震えない男』 の校正刷を拾い出している。
9月19日
◆1879年のこの日、アルセーヌ・ルパンにヒントを得て、紳士泥棒ローン・ウルフを創造し、1910-20年代のアメリカで人気を集めたルイス・ジョゼフ・ヴァンスが、ワシントンDCで生まれる。
◆1902年のこの日、『メルトン先生の犯罪学演習』 『法廷外裁判』 など、法律の知識をいかした奇抜なミステリを発表したヘンリー・セシルがロンドンで生まれる。自身も法廷弁護士で、のちに郡裁判所判事も務めた。シリル・ヘアー、C・W・グラフトン、ジョン・モーティマーなど、法曹界出身のミステリ作家は多いが、セシルのクレイジーなユーモアは突出している。
◆1915年のこの日、『ロンドンの見世物』 『ヴィクトリア朝の緋色の研究』 『二つの死闘』 のリチャード・D・オールティックが、ペンシルヴェニア州ランカスターで生まれる。

9月20日
◆1935年のこの日、改変世界SFの佳作 『パヴァーヌ』 のイギリス作家キース・ロバーツが生まれる。

9月21日
◆1866年のこの日、SFの父、H・G・ウェルズが英国ケント州ブロムリーで生まれる。
◆1946年のこの日、ホラーの帝王、スティーヴン・キングがメイン州ポートランドで生まれる。その作品の多くがメイン州を舞台にしていることは、ファンならご存知の通り。
◆1957年のこの日、レイモンド・バー主演の法廷TVドラマ・シリーズ 《ペリー・メイスン》 が放映開始される。息の長い、優れたミステリ・ドラマであることは間違いないが、レイモンド・バーはメイスン弁護士のイメージとはちょと違う気がする。鬼警部アイアンサイドの印象が強いし、《裏窓》 では殺人者役もやってたしね。

9月22日
◆1935年のこの日、エドガー・アラン・ポーが従妹ヴァージニアとの結婚許可証をボルチモアで取得。このときポーは26歳、ヴァージニアは13歳だった。翌年5月16日にリッチモンドで結婚式を挙げている。
◆1945年のこの日、短篇 「オッタモール氏の手」 で知られるトマス・バークが死去。「オッタモール氏の手」 はクイーン編 『黄金の十二』 ではアンケート回答者12人中8人が投票、第一位に輝き、古今の短篇ミステリのベストのように言われていたこともある。ロンドンの中国人街を舞台にした一連の作品で人気を博し、〈クイーンの定員〉 にも選ばれた 『ライムハウスの夜』 (1916) 収録の 「シナ人と子供」 は、リリアン・ギッシュ主演、D・W・グリフィス監督のサイレント映画の名作 《散り行く花》 (1919) の原作となった。昔アフリカで死んだはずの男が訪ねてくる怪奇短篇 「がらんどうの男」 も忘れがたい。第1次大戦中にはイギリス情報部に勤務していた。
◆1958年のこの日、〈もし私がそれを知っていたら〉 派の女王メアリ・ロバーツ・ラインハートが82歳で死去。
◆1984年のこの日、青山の草月ホールで 《ラヴクラフト・フェスティヴァル》 が開催される。国書刊行会 《定本ラヴクラフト全集》 発刊を記念した催しで、講演 「日本におけるラヴクラフト紹介の流れ」 (紀田順一郎)、「ラヴクラフト=テキストの重要性」 (矢野浩三郎) のあと、映画 《異次元の色彩 Die, Monster, Die!》 (1965) 上映という堂々たるもの (参加費500円。参加者全員に 《デニス・ホイートリ黒魔術傑作選》 1冊がプレゼントされた)。その夜、青山墓地にはヨグ=ソトースを称える蟲たちの声がこだましたという。
◆1991年のこの日、日影丈吉が死去。
9月23日
◆1865年のこの日、安楽椅子探偵 『隅の老人』 シリーズで有名なオルツィ男爵夫人エムスカがハンガリーで生まれる。ミステリ・ファンには 〈隅の老人〉 のほうが知られているが、イギリスで彼女の作家的地位を確立したのは、フランス革命時代を背景にした冒険小説 『紅はこべ』 のシリーズ。普段は頼りない、ぼんくらな青年が、実はスーパーヒーロー、というパターンは 〈スーパーマン〉 をはじめ多くの冒険物に受け継がれた。
◆1889年のこの日、ウィルキー・コリンズが死去。謎の女をめぐるスリラー小説 『白衣の女』 (1860) で一世を風靡し、『月長石』 (1868) は最初の長篇探偵小説とも言われているが、晩年は病と阿片中毒にながく苦しんだ。
◆1994年のこの日、ロバート・ブロックが死去。

9月24日
◆1717年のこの日、ゴシック小説の嚆矢 『オトラントの城』 (1764) のホレス・ウォルポールがロンドンで生まれる。英国首相サー・ロバート・ウォルポールの四男で、母親に溺愛されて放縦な性格に育ったホレスは、30歳を前に巨額の遺産を手に入れると、ロンドン郊外のストロベリー・ヒルに土地を買い入れ、屋敷を自分の趣味にあわせて中世のゴシック様式に改築する。やがてこの擬い物のゴシックの城目当てに見学の客が押し寄せ、ディレッタントの建築道楽から始まったゴシック・リヴァイヴァルは、時代を席捲することになる。『オトラントの城』 は、ウォルポールがある夜みた巨大な甲冑の夢から生まれたという。ヤン・シュヴァンクマイエルの短篇映画 《オトラントの城》 は、その 「擬い物」 性をも見事にとらえた映像化。必見。
◆1896年のこの日、F・スコット・フィッツジェラルドがミネソタ州セント・ポールで生まれる。あまり知られていないが、『グレイト・ギャツビー』 の作者が初めて書いた小説は、1909年、13歳のときに書いた 「レイモンド抵当権の謎」 という殺人の話だという。フットレルやポースト、ラインハートらが登場し、アメリカ探偵小説界が隆盛に向かおうとしていた時代であった。
◆192*年のこの日、ブロードウェイのローマ劇場、《ピストル騒動》 上演中の客席で毒殺死体が発見され、ニューヨーク市警のクイーン警視の息子エラリイが駆り出される。すでにエラリイは大学を出てすぐにハルキス事件 (『ギリシア棺の謎』) を紆余曲折の末に解決に導き、名探偵としてのキャリアのスタートを切っていた。
◆2002年のこの日、鮎川哲也が鎌倉市内の病院で死去。享年83。

9月25日
◆1780年のこの日、ゴシック小説の傑作 『放浪者メルモス』 (1820) の作者チャールズ・ロバート・マチューリンがダブリンで生まれる。「悪の創世記」 (荒俣宏) ともいうべき大長篇の作者の本職は教区牧師だった。当時低俗な読物と見られていたゴシック・ロマンスに手を染め、社交界や劇場に入りびたり、数々の奇行でも知られていたマチューリンは、教会内の不穏分子として牧師仲間からは爪弾きにあっていたという。
◆1888年のこの日、ロンドン警視庁は 〈切り裂きジャック〉 からの最初の手紙を受け取る。
◆1897年のこの日、『サンクチュアリ』 『墓地への侵入者』 など、殺人と異常心理の小説を数多く書き、ハリウッドではチャンドラー 『大いなる眠り』 の映画化 《三つ数えろ》 の脚本を手がけ、『駒さばき』 という短篇探偵小説集もあるウィリアム・フォークナーが、ミシシッピ州ニューオルバニーで生まれる。
◆1920年のこの日、『刺青殺人事件』 『人形はなぜ殺される』 『成吉思汗の秘密』 の高木彬光が青森市に生まれる。
◆1968年のこの日、サスペンスの巨匠、コーネル・ウールリッチが死去。ホテル暮らしを続けていた彼は、晩年、アルコール中毒から糖尿病を発症して左足を切断、車椅子生活を余儀なくされていた。生前の人気にもかかわらず、葬儀は寂しいものだったが、遺言により100万ドルの遺産は作家志望者のための育成基金としてコロンビア大学に寄付された。フランシス・M・ネヴィンズ・ジュニアの大作評伝 『コーネル・ウールリッチの生涯』 は、このサスペンスの巨匠の孤独な生涯と彼が残した膨大な作品を追跡した労作。

9月26日
◆1904年のこの日、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンが、東京・西大久保の自宅で狭心症のため急逝。享年54。法名 「正覚院殿浄華八雲居士」。その墓は雑司ヶ谷墓地にある。
◆1932年のこの日、悪魔博士フー・マンチューの最初のラジオ・ドラマが米国CBSでスタートする。第1回の放送には作者サックス・ローマーも出演したという。
◆1954年のこの日、台風のなか出航した青函連絡船・洞爺丸が座礁、午後10時39分、救難信号を打電するも、43分に沈没。1155名の犠牲者を出す大海難事故となった。翌朝から数日にわたって、北海道側の七重浜海岸には夥しい溺死体が打ち上げられた。この事件に衝撃を受けた中井英夫は、『虚無への供物』 の構想を得る。
◆2008年のこの日、俳優ポール・ニューマンがコネティカット州ウェストポート近郊の自宅で癌のため死去。享年83。ミステリ映画の出演作に、R・マクドナルド原作のハードボイルド 《動く標的》(66)《新・動く標的》(75)、ヒッチコックのスパイ・スリラー 《引き裂かれたカーテン》(66)、コンゲーム映画の傑作 《スティング》(73) などがある。他に 《左ききの拳銃》 《熱いトタン屋根の猫》 《ハスラー》 《暴力脱獄》 《明日に向って撃て!》 《タワーリング・インフェルノ》 など。
9月27日
◆1967年のこの日、オランダの外交官・中国学者で、ディー 判事シリーズの作者ロバート・ファン・ヒューリックが死去。息子ピーターの回想によると、ファン・ヒューリックは無類の動物好きで、家の中でテナガザルを飼っていた。重要人物をゲストを招いた席上で 「のちほど、政務報告書の執筆担当官をご紹介します」 と何食わぬ顔で述べておいて、このテナガザルを披露したこともあったらしい。『中国のテナガザル』 (博品社) という本も著している。
9月28日
◆1803年のこの日、『カルメン』 の作者プロスペール・メリメがパリで生まれる。「イールのヴィーナス」 「熊男」 などの怪奇短篇の名作でも知られる。「マテオ・ファルコーネ」 はハードボイルド以上にハードボイルドな短篇。
◆1873年のこの日、ルコック氏の創造者エミール・ガボリオがパリで死去。大変な流行作家だった彼は、休む間もなく新聞小説を書きまくり、42歳の早すぎる死の一因は過労だといわれている。その作品は日本探偵小説草創期に黒岩涙香らの翻案を通してひろく読まれた。涙香翻案は 『人耶鬼耶 (ルルージュ事件)』 『大盗賊 (書類百十三)』 『有罪無罪 (首の綱)』 『他人の銭』。他に明治期の紹介に、丸亭素人訳 『大疑獄 (オルシヴァルの犯罪)』、南陽外史訳 『大探偵 (ルコック探偵)』 がある。作中でホームズにルコックの探偵法を揶揄させてはいるが、ドイルがガボリオの大きな影響を受けていることは、初期長篇の構成にも明らかである。また、チェーホフ 『狩場の悲劇』 などを読むと、19世紀後半のロシアではガボリオ作品が盛んに読まれ、探偵・犯罪小説の流行を招いていたようだし、20世紀イタリアの奇想作家ランドルフィの短篇に代表的な探偵作家としてガボリオの名前が出てきたりもする。仏・英・日にとどまらず、全ヨーロッパ的な影響を検証してみる必要がありそうだ。
◆1888年のこの日、ブルドック・ドラモンド・シリーズで人気を博した英国作家 “サッパー” ことハーマン・シリル・マクニールが、コーンウォル州ボドミンで生まれる。ちなみに 「サッパー (sapper)」 とは 「工兵」 を意味する。
◆1913年のこの日、修道士カドフェル・シリーズで1980年代英国に歴史ミステリ・ブームを巻き起こしたエリス・ピーターズが、シュロップシャー州ホースヘイで生まれる。しかし、その作家歴は思いのほか古く、別名義ですでに1938年に長篇ミステリを上梓しているから、黄金時代の終りに登場した作家ということもできる。
◆1943年のこの日、ソーンダイク博士の生みの親、リチャード・オースティン・フリーマンが死去。ソーンダイク博士は 〈ホームズのライヴァルたち〉 の代表的な名探偵だが、そのキャリアは長く、亡くなる前年の1942年まで長篇で活躍している。

9月29日
◆1760年のこの日、アラビア幻想奇譚 『ヴァテック』 (1786) の作者ウィリアム・ベックフォードが英国ウィルトシャー州フォントヒルで生まれる。父親は元ロンドン市長で、西インド諸島の砂糖黍栽培で巨万の富を築いた大富豪。ウィリアム5歳のとき、ピアノ教師に雇われたのはモーツアルトだった。父の死後、莫大な財産を受け継いだベックフォードは、所領フォントヒルに高さ70メートルの尖塔を擁するゴシック様式の大僧院を建設、享楽的な生活を送った。まさに教主ヴァテックその人のような栄華も、しかし長くは続かず、砂糖黍農園の経営が傾くとたちまち零落したベックフォードは、フォントヒル・アベイを手放し、地方の小さな家で寂しい晩年をすごすことになる。
◆1930年のこの日、モース警部シリーズで人気を博したコリン・デクスターが、リンカンシャー州スタンフォードで生まれる。

9月30日
◆1906年のこの日、アプルビイ警視シリーズの作者マイクル・イネスが、スコットランドのエディンバラで生まれる。ウォルター・スコット記念塔の影の下で生まれた彼は、スコットが建て、R・L・スティーヴンスンが通った学校に入学すると、冒険ロマンス小説を読みふけり、校長に 「いつかきみも 『誘拐されて』 や 『宝島』 を書くようになるんだろうな」 と言われたという (もちろんこれは褒め言葉ではない)。
◆1913年のこの日、サンフランシスコの警察長官が、1848年のゴールドラッシュ以来、酒場や賭博場、売春宿、阿片窟等が乱立し、ほとんど無法地帯と化していた (この街では人の命は酒壜一本の値段より安い、とも言われていた) バーバリー・コースト地区の一掃作戦を開始する。
◆1987年のこの日、『虎よ!虎よ!』 『分解された男』 のアルフレッド・ベスターが死去。

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