アニメ版「ファントム」を観ていて特に思うのだが、小銃(ライフル)と拳銃の描き分けができている作品って、あまりない。
小銃の貫徹力、射程、命中率は凄まじいもので、拳銃とは比較にならない。拳銃はせいぜい20メートル程度の距離で撃ち合うもの。小銃は、200メートル以上離れた敵を撃つ武器である。
ガンマニアの方には常識的な話だと思うので、体験的な話を書いておく。
小銃弾は防弾チョッキでは止められない。小銃弾も止められる防弾プレート、というのを見せてもらったことがあるが、コンクリ製の側溝のフタみたいなのを身体の前後にぶら下げているような代物だった。歩くのも大変なくらいだが、これで命が助かるかもしれないと思えば安いものだ。
もっとも、防弾チョッキに意味がないかと言えばそんなことはない。戦場での負傷で一番多いのは、弾丸ではなく爆発の断片が当たることだからだ。
小銃弾は、土嚢を貫通してしまう。だから、陣地を組む時は土嚢を二重に積んだうえにコンクリか鉄板で裏打ちする。
鉄筋コンクリートは、1発2発なら良いが連射を浴びると砕け散ってしまう。木材なら、30センチ以上の太さのある生木の中心ならどうにか停弾効果がある。
小銃弾は高速で貫徹力が高いため殺傷力が低いというのは、俗説。これはあくまで猛獣撃ち用の弾丸に比べて、の話である。確かに小口径で高速なので、弾丸自体は人体に当たると貫通していってしまう。しかし問題は、弾丸が後に引きずってくる衝撃波。これが組織をぐちゃぐちゃに破壊してしまうのだ。頭及び胴体にあたればまず死ぬ。手足にあたれば、運が良ければ被弾部位から先を切断せずにすむ。腋下動脈又は大腿動脈が傷つくと、たいがい失血死する。
この辺、非常に正確に描写しているのが映画「ヒート」('95)。
中盤に、警官隊と銀行強盗グループとの市街地での大銃撃戦シーンがある。警官隊の武器が拳銃とショットガンなのに対し、デ・ニーロたちの武器はいずれも自動小銃。警官隊はパトカーを盾にしているが、小銃弾は車のドアや車体を貫通してしまうのである。これは作中、ちゃんと描写してある。犯人グループは基本通り、一人が制圧射撃をしているうちに仲間が次のポジションに移動していく。これでは勝負にならない。ただし、アル・パチーノの率いるチームだけは小銃を使っているし、隠れるときは、小銃弾でも貫通しない石造りの建物や、車のエンジンの陰に入っている。それだけ訓練と装備が行き届いた、特別なチームなのである。
余談だが、クライマックスの空港での対決シーン、「妖獣都市」に似ているのがどうも気になっていたのだが、どうやら「ブリット」('68)へのオマージュなのですな。マックィーン偉大なり。
ついでに、アシュレイ・ジャッドが子供と遊んでいるシーンで、背後のテレビ画面を走るテールライトの光! あれに見えるは「アキラ」じゃないか。
アニメで正確に描写している作品というと・・・・・・ちょっと思い当たらないなあ。まあ「身近に武器がないため感覚的に分からない」ということだから、慶ぶべきではありますが。
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