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〈文学の冒険〉シリーズ | ||||||||||||||||
英米の人気作家から東欧・ラテンアメリカの未知の傑作まで、 四六変型・上製ジャケット装
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ジョン・バース (アメリカ) 2000年5月刊 596頁/590頁 各3200円 装丁=前田英造(坂川事務所) ヴェトナム反戦運動や大学紛争で騒然たる1969年のアメリカ。新作の構想を練っていた作家ジョン・バースのもとへ、マーシーホープ州立大学で英文学を教えるレイディ・アマーストから、名誉博士号授与の件で手紙が届いた。スタール夫人の血を引き、ウェルズ、ヘッセら、名だたる文豪たちの愛人役をつとめてきたレイディ・アマーストは、45歳を迎えた今、作家アンブローズ・メンシュと恋におち、激しいセックスを繰り返している。大学では、自称桂冠詩人A・B・クック6世が学長代行と組んで陰謀を画策中、もう一人の作家ジェローム・ブレイは政治と小説の革命をめざし、コンピューターを使って奇怪な小説を書き続けている。一方、37歳の時に自殺に失敗した弁護士トッド・アンドルーズは、老境にはいって再度の自殺を考え始めている。行動不能の“無天候状態”に悩むジェイコブ・ホーナー君は、いまだカナダの再生復帰院に滞在中。『フローティング・オペラ』 『旅路の果て』 『酔いどれ草の仲買人』 『やぎ少年ジャイルズ』 『キマイラ』 など、過去の作品の主人公たちが再登場し、彼らが交わす88通の手紙で構成される、バース文学の総決算ともいうべき超弩級の大作。
それまでの自作の登場人物が再登場するバース文学の総決算ともいうべき大冊。アメリカの歴史そのものを再点検しようとする壮大な試みでもある。リサイクル――時間がひとめぐりしてある出来事が再び繰り返されることが、大きなテーマになっていて、個人の歴史というミクロなレベルと、アメリカの歴史というマクロなレベルで、その主題が追求されていく。 TOP
マイケル・オンダーチェ (カナダ) 1994年7月刊 196頁 1748円 品切 装丁=坂川栄治(坂川事務所) 左利きの拳銃、危険な恋人、夢見る殺人者――西部の英雄ビリー・ザ・キッド。そのロマンスとヴァイオレンスに彩られた短い生涯を、詩、挿話、写真、証言、インタビューなどで再構成。略奪と逃走、銃撃戦、つかの間の平和と激しい愛、友人にして宿敵、保安官パット・ギャレットとの抗争……さまざまな断片によって浮かび上がる、愛と生と死の物語。アウトロー伝説に材をとり、斬新な手法で鮮烈な生の軌跡をえがいた、ブッカー賞作家オンダーチェのアヴァンポップ・フィクション。
『イギリス人の患者』 のヒットで、一挙にメジャーな名前となってしまったが、詩と散文のコラージュのような、この小さな本のポップな感覚は、その後の作品からは薄れてしまったように思う。 TOP
ジョン・フラー (イギリス) 1994年8月刊 160頁 1650円 【amazon】 装丁=坂川栄治(坂川事務所) 中世ウェールズの荒れ果てた島の修道院で、奇蹟の井戸を訪れた巡礼たちが次々に姿を消した。調査のため派遣されたヴェーンを待っていたのは、人間の魂の所在を明らかにせんと禁断の研究にいそしむ修道院長の奇怪な情熱と、謎めいた島の人々だった。院内で行なわれる秘密の儀式、消えた死体の謎、探索が進むにつれ、ヴェーンはいつしか聖と俗、生と死の混沌たる迷宮のなかに引き込まれていく……。
父親のロイ・フラーは有名な詩人だが、Fantasy and Fugue (56), The Second Curtain (56)という長篇ミステリも書いている。J・F・バーディンの 『悪魔に食われろ青尾蠅』 をいち早く評価していたところを見ると、なかなかの目利きでもあったらしい。その息子がやはりミステリ仕立ての小説でデビューする。受け継いだのは詩の才能だけではなかったようだ。 TOP
ジョン・ファウルズ (イギリス) 1997年1月刊 600頁 3200円 【amazon】 装丁=前田英造(坂川事務所) 18世紀半ばのイングランド西部、緑濃い森の洞穴の暗闇で、何が起ったのか。この日を境に忽然と姿を消した5人の旅人の行方を追い、敏腕弁護士アスカーが事件の真相に迫る。処女のごとき娼婦、悪魔のような貴公子、聾唖の召使、謎の依頼人、そして洞穴での怪しげな儀式と驚くべきヴィジョン……夥しい書簡、調書、雑誌記事から次第に浮かび上がる不可解な事実は、いったい何を物語るのか。『コレクター』 『魔術師』 の巨匠が新しい地平に挑む歴史/反歴史ミステリ。
この本は翻訳権を取った後、すぐに人に任せてしまい、ほとんど編集にはタッチしていない。このへんになると、もはや自分の企画とはいえないような気もする。ファウルズの小説には、必ずなにか「仕掛け」があって愉しませてくれるが、これは一種のミステリ仕立ての歴史小説。ぶっ飛んだラストは論議を呼んだ。 TOPThe Hard Life (1961) フラン・オブライエン (アイルランド) 大澤正佳訳 装丁=前田英造(バーソウ)
世紀末前後のダブリンを舞台にした青春小説であり、謎の活動をめぐるミステリであり、綺想と言葉遊びとで笑いを取るユーモア小説でもある。――石堂藍氏評(本の雑誌2005年5月号) 素晴らしい翻訳で読み解くアイルランド小説の卑俗的釈義――小野寺建氏評(ヨミウリウィークリー2005/6/19号) 『スウィム』 が真正面から圧倒的なパワーで押し寄せてくる喜劇だとすれば、『ハードライフ』 はひっそりとした後ろ姿の喜劇だ。――小山太一氏評(新潮2005年5月号) TOP
ゲルハルト・ケップフ (ドイツ) 1993年7月刊 366頁 2718円 品切 装丁=坂川栄治(坂川事務所) 悪魔に目をかけられた日にゃ、十字架にはりつけ、お星様とご対面、いきおい酷い目にあわされる――。ここはドイツの片田舎、今夜も眠れぬ郵便配達夫がひとり。両眼を開けて生まれてから、どちらの眼も閉じたことがない。その不眠ゆえ彼の眼は〈ふくろうの眼〉、封を切らずに中身を見通せる眼となった。あげく頭の中は風変わりな住民たちの秘密でいっぱい、夜の視覚はますます冴えわたり、眠れぬままに紡ぎだしたる24の物語。凶暴な運転で村中を震え上がらせた産婆への奇怪な復讐、フンボルトとともに世界中を経巡ったオウムが語る見聞録、異国に囚われた男の悲しい恋物語……万華鏡のように散乱するエピソードに史実を織り込み、饒舌にシニカルに語られる20世紀の千夜一夜物語。現代ドイツ文学の異才、本邦初紹介。
米川良夫・和田忠彦・柱本元彦訳 1996年4月刊 290頁 1845円 品切 装丁=坂川栄治(坂川事務所) 文豪ゴーゴリの愛妻は、吹き込まれた空気の量によって自在にその姿を変えるゴム人形だった! グロテスクなユーモア譚 「ゴーゴリの妻」。オペラ歌手の歌声の重さや固さ、色、はては匂いや味について大真面目に考察する怪論文 「『通俗歌唱法教本』より」。船乗りから習ったペルシャ語が実は誰にも通じない言葉であることが判明する 「無限大体系対話」。ある朝突然口から飛び出してきた言葉たちが、意味の配分をめぐって大論争を繰り広げる、ナンセンスな味わいの 「騒ぎ立てる言葉たち」など、奇抜なアイディアや、日常生活にぽっかり開いた裂け目を、完璧なストーリーテリングで調理する、現代イタリア文学の奇才ランドルフィ、本邦初の作品集。
カルヴィーノやブッツァーティなどもそうだが、イタリアの奇想作家の 「奇妙な味」 は、英米の所謂 「異色作家」 系統のものとは、根本的に何かが違うような気がする。アングロサクソンのストーリー・テリングの伝統にもとづいた語りとは、最初から異なる地面の上に立った、突拍子もない、素っ頓狂なお話が飛び出してくる。ランドルフィはそのなかでも、もっとも 「たがのはずれた」 作家である。このセンスを気に入ってもらえたら、「ゴキブリの海」 (『現代イタリア幻想短篇集』 国書刊行会、所収)もどうぞ。 TOP
イサク・ディーネセン (デンマーク) 1995年9月刊 304頁 2136円 【amazon】 装丁=坂川栄治(坂川事務所) 仕事一途の老実業家が、ある日ふと、以前聞いたことがある船乗りの物語を思い出し、その話の内容を自分の手で実現させようとする 「不滅の物語」、亡父の忌まわしい記憶に苦しむ領主のもとを訪れた老婆が驚くべき事実を語る 「満月の夜」、自分が失った世界一の美声を探して彷徨するプリマドンナの物語 「エコー」など、7つの不思議な物語。
これも入稿途中から担当を引き継いでもらったもの。 TOP
スタニスワフ・レム(ポーランド) 1998年2月刊 330頁 2400円 【amazon】 装丁=前田英造(坂川事務所) 人体を透視することで人類を考察する 〈死の学問〉 の研究書 『ネクロビア』、バクテリアに英語を教えようとして、その予知能力を発見した細菌学者が綴る 〈バクテリア未来学〉研究書 『エルンティク』、人間の手によらない文学作品 〈ビット文学〉の研究書 『ビット文学の歴史』、未来を予測するコンピュータを使って執筆された百科事典 『ヴェストランド・エクステロペディア』 の販売用パンフレット、人智を超えたコンピュータGOLEM XIVによる人類への講義をおさめた 『GOLEM XIV』。――様々なジャンルにまたがる5冊の〈実在しない書物〉の序文と、ギリシア哲学から最新の宇宙物理学や遺伝子理論まで、人類の知のすべてを横断する 『GOLEM XIV』 の2つの講義録を収録。知的仕掛けと諧謔に満ちた奇妙キテレツな作品集。
架空の本の書評集 『完全な真空』 の姉妹篇ともいうべき本。ただし、レムの実験はさらに一歩先へ進んでいる。入稿途中から同僚に引き継いだ。 TOP
イサベル・アジェンデ (チリ) 1994年6月刊 404頁 2250円 品切 装丁=坂川栄治(坂川事務所) 私の名はエバ。生命を意味している。天が与えた私の才能は、お話を語ること――。独裁政権下の南米のとある国、密林の捨て子だった母と、インディオの父の間に生まれた娘エバは、人間の剥製法を研究する博士の家で育てられた。幼くして母を亡くし、やがて博士の死とともに屋敷は処分され、わずか7歳にして彼女の流浪の人生が始まった。独身者の姉妹、政府高官、娼家の女将、辺地で商店を営むアラブ人、両性具有の女優らのもとを転々としながら、エバは大きくなり、やがて愛を知り、革命にかかわり、自分の人生を見出していく……。次々に披露される途方もない挿話と巧みなストーリーテリング、『精霊たちの家』 で衝撃的デビューを飾った 〈現代のシェヘラザード〉 イサベル・アジェンデの世界中を夢中にさせたベストセラー。
第2シリーズの開始を飾った1冊。ラテンアメリカ文学の 「ブーム」 の後から来た世代であるアジェンデの作品は、とにかくお話自体の面白さ、語りの力で読者をぐいぐい引っ張っていく。現実的な物語の中に、突如、幻想的なものが侵入してくるあたりは、いわゆる 「マジック・リアリズム」 ではあるが、ガルシア=マルケスなどのそれとは根本的に違うものだ。その平易な面白さは、各国でベストセラーになったのも頷ける。 TOP
イサベル・アジェンデ(チリ) 1995年7月刊 322頁 2136円 【amazon】 装丁=坂川栄治(坂川事務所) 大統領の座を狙う元歴戦の勇士は、市場の娘から選挙用に「完璧な演説」を買うが、そのおまけに貰った言葉にとりつかれ、骨抜きにされてしまう…『二つの言葉』。サーカス稼業の山師が貴婦人に恋をした。つれない彼女を振り向かせた贈物とは…『恋人への贈物』。自分を50年間地下室に閉じ込めた男を愛しつづけた女の物語…『心に触れる言葉』。ある娘の魂と旅をしたインディオの身の上話…『ワリマイ』。成り上がりの悪党夫婦が上流社会の仲間入りをしようと、悪戦苦闘する『人から尊敬される方法』他、お話の名人エバが紡ぎ上げた素晴らしい物語の数々。長篇『エバ・ルーナ』から生まれた作品集。
『エバ・ルーナ』 外伝ともいうべき本。これもかなり初期の段階から人に任せている。 TOP
エンリケ・アンデルソン=インベル(アルゼンチン) 1994年11月刊 248頁 1942円 品切 装丁=坂川栄治(坂川事務所) 古本屋で見つけた1冊の本は、キリスト生誕以来の歴史を物語る魔法の書物だった。けっして終りまでたどり着けない不思議な本の物語『魔法の書』、ミステリ狂の医者が自ら完全犯罪を成し遂げようとするが、事態は思わぬ方向に……『将軍、見事な死体となる』、身体がどんどん軽くなっていく男の話『身軽なペドロ』、人間のようになるために魔法を禁じた妖精の国の話『決定論者の妖精』など、ユニークなアイディアと洗練された語り口で読者を魅了する奇想短篇集。
批評家としてラテンアメリカ 「マジック・リアリズム」 の理論的な位置づけに寄与した作家だが、その作品は、ガルシア=マルケスやフエンテスらに比べると、ずっと軽やかなテイストを持っている。表題作は 「不思議な本」 テーマの幻想小説の白眉というべき名作。この本も訳稿がほぼ揃ったところで引き継いでいる。 TOP
フリオ・コルタサル他 木村榮一編 1996年10月刊 276頁 1942円 【amazon】 装丁=坂川栄治(坂川事務所) 凍てつくブダペストの橋の上で、あの女は私を待っている――異様な衝動に突き動かされ、見知らぬ町の遠い女を探しにやって来た美しいアレーナを待ち受けていたものは…コルタサル『遠い女』。未知の世界への探検熱にとりつかれ、狂人たちを引き連れて船出した騎士フォン・クヴァッツのたどる数奇な運命…ムヒカ・ライネス『航海者たち』。驚倒すべき想像力が紡ぎだした、きらびやかな悪夢、奔放な空想、黒い哄笑。ポーの正統的な継承者、フリオ・コルタサルの表題作をはじめ、現代アメリカ文学の多様性をあますところなく伝えるパス、フエンテス、ビオイ=カサーレスらの幻想短篇全11篇を収録。
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