白水Uブックス/海外小説 永遠の本棚】
【イギリス・アイルランド文学】 ケイレブ・ウィリアムズ 義とされた罪人の手記と告白 ヴィレット エドウィン・ドルードの謎 フラッシュ ピンフォールドの試練 クローヴィス物語 けだものと超けだもの 平和の玩具 四角い卵 死を忘れるな ミス・ブロウディの青春 ウッツ男爵 アーモンドの木 トランペット 魔の聖堂 ◇ スウィム・トゥー・バーズにて 第三の警官 ドーキー古文書
【アメリカ・カナダ文学】 彼らは廃馬を撃つ 見えない人間 カッコーの巣の上で ユニヴァーサル野球協会ビリー・ザ・キッド全仕事
【フランス文学】 ペンギンの島 地獄の門
【イタリア文学】 まっぷたつの子爵 木のぼり男爵 不在の騎士 冬の夜ひとりの旅人が カフカの父親
【ドイツ語圏文学】 ゴーレム 裏面 第三の魔弾 詐欺師の楽園
【デンマーク文学】 ピサへの道 夢みる人びと
【ロシア・ソビエト文学】 小悪魔 南十字星共和国 劇場 旅に出る時ほほえみを
【ラテンアメリカ文学】 ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件 天使の恥部 エバ・ルーナ エバ・ルーナのお話
【中国文学】 黄泥街 カッコウが鳴くあの一瞬 蒼老たる浮雲

ピサへの道
七つのゴシック物語 1

イサク・ディネセン
横山貞子訳


1835年の夏、北海沿岸を襲った大洪水の夜、水没しかけた農家に取り残された枢機卿、老貴婦人、伯爵令嬢、厭世家の青年がそれぞれ数奇な身の上を物語る 「ノルデルナイの大洪水」、男色の疑いをはらすため結婚の必要に迫られた青年が、伯母の尼僧院長の力を借りて伯爵家の誇り高き娘に求婚するが……若い男女の結婚物語が驚くべき展開を見せる幻想譚 「猿」 他、愛の奇蹟と運命の不思議に満ちた全4篇を収録。『アフリカの日々』 のディネセンが典雅な筆致で紡ぎあげた珠玉の物語集上巻。

◆2013年10月刊 1400円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 装画=カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
◆晶文社(1982年) の再刊。

【収録作品】
ノルデルナイの大洪水/老男爵の思い出話/猿/ピサへの道

イサク・ディネセン (1885-1962)
デンマークのルングステッドの地主ディネセン家の次女カレンとして生まれる。コペンハーゲンの王立美術学校で絵を学びパリ、ローマに遊学。1914年、ブロル・ブリクセン男爵と結婚、英領東アフリカ(現ケニア)でコーヒー農園を経営するが、結婚生活はまもなく破綻し、夫と離婚。農園経営も行き詰まり、1931年にデンマークに帰国。文筆活動に入り、イサク・ディネセン名義で発表した 『七つのゴシック物語』 (1934) で一躍注目を集めた。自身のアフリカ体験を描いた第2作『アフリカの日々』(1937)は20世紀回想文学の名作と評される。他に 『冬物語』 『復讐には天使の優しさを』 『運命綺譚』 などの作品がある。1962年死去。

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夢みる人びと
七つのゴシック物語 2

イサク・ディネセン
横山貞子訳

婚礼の日の朝、冒険を求めて国を出奔、海賊になったと噂される弟が三十年ぶりに帰ってきた。弟を愛し独身を守ってきた二人の姉は、その報せを聞いて故郷の屋敷へ向かうが…… 「エルシノーアの一夜」。ローマの売春宿の女、スイスの革命家の帽子つくり、フランスの田舎町の貞淑な聖女――重層する語りの中に浮かびあがる女の複数の生を追う 「夢みる人びと」 他、全3編。夢想と冒険、人生の神秘を描いた、至高の語り手による不滅の物語集下巻。

◆2013年11月刊 1400円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 装画=カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
◆晶文社(1981年) の再刊。

【収録作品】
エルシノーアの一夜/夢みる人びと/詩人

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第三の警官

フラン・オブライエン
大澤正佳訳

「フィリップ・メイザーズ老人を殺したのはぼくなのです」――研究書の出版資金ほしさに雇人と共謀し、金持ちの老人を殺害した主人公は、事件のほとぼりのさめた頃、隠してあった金庫を取りにその屋敷に忍び込む。そこで老人の亡霊と出会った彼は、いつしか三人の警官が管轄し、自転車人間の住む奇妙な世界に迷い込んでしまう。前衛的な文学実験、神話とノンセンス、アイルランドのほら話の伝統が見事に結びついた奇蹟の傑作。

◆2013年12月刊 1600円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 装画=ワシリー・カンディンスキー
◆筑摩書房(1973年/1998年) の再刊。


フラン・オブライエン (1911-1966)
アイルランドのディロウン州で生まれる。本名ブライアン・オノーラン。ダブリンのユニヴァーシティ・カレッジを卒業後、公務員として働きながら完成した長篇 『スウィム・トゥー・バーズにて』 (1939) はベケット、ジョイスらに高く評価された。しかし、第二作 『第三の警官』 は出版社に原稿を拒否され公表を断念。マイルズ・ナ・ゴパリーン名義の新聞コラムで長年にわたって人気を博す。1960年代に 『ハードライフ』 (61)、『ドーキー古文書』 (64) を発表し、1966年のエイプリル・フールに死去。翌年、『第三の警官』が出版されると、20世紀小説の前衛的方法とアイルランド的奇想が結びついた傑作として絶賛を浴びた。

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ユニヴァーサル野球協会


ロバート・クーヴァー
越川芳明訳

新人投手デイモン・ラザーフォードの完全試合達成まであと一人! スタンドの観客は固唾をのみ、デイモンの投球を見守る――ユニヴァーサル野球協会は、冴えない中年(初老?)の会計士ヘンリーの頭の中だけに存在する野球リーグだ。試合展開を決めるのはサイコロと各種一覧表。架空のゲームのスコアをつけ、球団勝敗表や選手の成績を記録し、彼らの逸話やリーグの栄光の歴史を空想することにヘンリーの毎日は捧げられている。だが、試合中に起きたある事件をきっかけに、虚構と現実の境界が崩れ始める。野球ゲームの世界に没入する男の物語を通して、アメリカの歴史や政治や宗教を語り直し、現代の神話を創造するポストモダニズム文学の殿堂入り名作。

◆2014年1月刊 1600円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志
◆若林出版(1985年)/新潮文庫(1990年) の再刊。


ロバート・クーヴァー (1932- )
アメリカ中西部、アイオワ州チャールズシティで生まれる。第一長篇 『ブルーノ教団の起源』 (1966)でウィリアム・フォークナー賞を受賞。野球ゲームの虚構世界に没入する男を主人公とした 『ユニヴァーサル野球協会』 (1968)、ローゼンバーグ夫妻の処刑に想を得た問題作 『火刑』 (1977) で、アメリカのポストモダン作家を代表する一人と目される。映画や童話のパロディ的作品を得意とし、教授職にあるブラウン大学創作科ではコンピュータを駆使した創作プログラムを実践。邦訳に 『女中の臀』 『ジェラルドのパーティ』 『老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る』 がある。

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ゴーレム


グスタフ・マイリンク
今村孝訳

プラハのユダヤ人街に住む宝石細工師の 「ぼく」 は、ある日、謎の人物の訪問を受け、一冊の古い書物の修繕を依頼されるが、客の帰ったあと、彼について何も思い出せないことに気づいて愕然とする。どうやらその男は、33年ごとにこの街に出現するゴーレムらしいのだ。以前現れたゴーレムは、人々に目撃されたあと、出入口のない部屋で不思議な事件を起こしたという。やがて 「ぼく」 の周囲でも次々に奇怪な出来事が……。ユダヤのゴーレム伝説を下敷きに、夢と現実が混淆するこの物語は、第一次大戦さなかに出版されるや忽ちベストセラーとなり、ボルヘス、カフカ、ユングらを魅了したドイツ幻想文学の名作である。フーゴー・シュタイナー=プラークの 「マイリンク 『ゴーレム』 によせる石版画」 25点を収録。

◆2014年3月刊 1700円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画・挿絵=フーゴー・シュタイナー=プラーク
◆河出書房新社(1973初版) の再刊。


グスタフ・マイリンク (1868-1932)
ウィーン生まれ。プラハで銀行の共同設立者となる一方で、神秘思想に傾倒し、多くの結社・団体と関係する。その後、事業経営に対する告訴により銀行を閉鎖、文学活動に専念。『ゴーレム』(1915) を初めとする神秘主義の色濃い作品は第一次大戦下の不安な人々の心をつかみ、人気作家となった。長編 『緑の顔』 (創土社)、『西の窓の天使』 (国書刊行会)、短篇集 『ナペルス枢機卿』 (ボルヘス編、国書刊行会) などの邦訳がある。

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エドウィン・ドルードの謎


チャールズ・ディケンズ
小池滋訳

クリスマスの朝、大聖堂の町から忽然と姿を消したエドウィン・ドルード。捜索の結果、彼の懐中時計が河の堰で見つかり、以前から反目していた青年ネヴィルに殺人の嫌疑がかかるが、事件の背後にはエドウィンの後見人ジャスパーの暗い影があった……。文豪ディケンズが初めて本格的に探偵小説に取り組むも、その突然の死によって未完となった最後の長篇。ディケンズが初期作から追求してきた人間 「悪」 は、本作において近代的に洗練され複雑な魅力を放つ存在となり、登場人物の心理的陰影もより深みを増している。原書挿絵を全点収録。残された手掛りからドルード事件の真相を推理する訳者解説も読み応え十分。

◆2014年5月刊 1700円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 装画・挿絵=ルーク・ファイルズ
◆講談社(1977)/東京創元社(1988) の再刊。


チャールズ・ディケンズ (1812-1870)
英国南部、ポーツマス郊外に生まれる。父親の濫費癖のため一家は困窮し、少年時代から労働に従事する。新聞記者の仕事の傍ら執筆した小品集 『ボズのスケッチ集』 (1836) に続いて、月刊分冊形式で刊行した 『ピックウィック・クラブ』 は爆発的人気を呼び、作家的地位を確立する。以後、『オリヴァー・トゥイスト』 『デイヴィッド・コパフィールド』 『荒涼館』 『二都物語』 『大いなる遺産』 などの名作を次々に発表、数々の魅力的な登場人物を創造して、ヴィクトリア時代英国を代表する国民的作家となった。雑誌の編集や自作の公開朗読会にも精力的に取り組み、1870年、未完の 『エドウィン・ドルードの謎』 を残して死去。

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カッコーの巣の上で


ケン・キージー
岩元巌訳 

刑務所の農場労働を逃れるため精神障害を装い、委託患者として精神病院にやってきた赤毛の男マックマーフィ。そこではラチェッド婦長が厳格な規則と薬物投与で患者たちの人間性を奪い、病棟を支配していた。マックマーフィは笑いと不屈の反抗心を武器に婦長に戦いを挑み、その姿に患者たちも自由の喜びと勇気を取り戻していくが……。体制への反逆と精神の自由を求める戦いを描いて鮮烈な感動を呼ぶ、20世紀アメリカ文学を代表する名作。
40年後に書かれた序文 「スケッチ」 と自筆イラストを初収録。

◆2014年7月刊 2000円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=ジャクソン・ポロック/本文イラスト=ケン・キージー
◆冨山房(1974、1996) の再刊。

ケン・キージー (1935-2001)
アメリカ西部コロラド州に生まれ、オレゴン大学卒業後、スタンフォード大学創作科に進む。薬物実験のボランティアとしてLSDを体験、精神科病棟の勤務経験をもとに 『カッコーの巣の上で』 を書きあげ、1962年に出版されるや大ベストセラーとなる。のちに舞台化、映画化され、これも大ヒット。カリフォルニアにヒッピー・コミューンを設立し、サイケデリックな模様に塗ったバスのアメリカ横断ツアーや、麻薬体験の実演、トリップス・フェスティバルの開催などで、60年代若者文化に多大な影響を与えた。他の作品に 『時には偉大な観念を』 『キージーのがらくた市』 『船乗りの歌』 などがある。

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ウッツ男爵
 ある蒐集家の物語

ブルース・チャトウィン
池内紀訳

幼き日、祖母の館でマイセン磁器の道化師像を目にし、その美しさと手触りに魅せられたウッツは、マイセン人形の蒐集に生涯を捧げることを決意した。第二次大戦中のドイツ軍占領時代、そして冷戦下、共産主義体制のプラハで、ウッツはあらゆる手を使ってコレクションを守り、蒐集品を増やし続ける。そのそばには彼に忠実に仕える使用人のマルタがいた。個人財産の所有を禁じる当局の横暴に、ついにウッツは国外脱出を考えるが……。ひとりの蒐集家の人生とチェコの20世紀史を重ねあわせながら、蒐集という奇妙な情熱を絶妙の語り口で描いた小説。

◆2014年9月刊 1400円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志
◆文藝春秋(1993) の再刊。

ブルース・チャトウィン (1940-1989)
イギリス、シェフィールドで生まれる。モールバラ・カレッジ卒業後、サザビーズで美術品の鑑定・蒐集に携わる。その後エジンバラ大学で考古学を学び、《サンデー・タイムズ》 で働きながらトラヴェル・ライターとして活躍。1977年に発表した紀行 『パタゴニア』 で多くの文学賞を獲得、一躍注目を集めた。西アフリカの奴隷商人を描いた 『ウィダの総督』 (80)、ウェールズとイングランドの境界の村が舞台の 『黒ヶ丘の上で』 (82)、オーストラリアのアボリジニに取材したベストセラー 『ソングライン』 (87)、『ウッツ男爵』 (88) と話題作を発表。自選集 『どうして僕はこんなところに』 (89) を遺して病死。

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スウィム・トゥー・バーズにて


フラン・オブライエン
大澤正佳訳

一日のほとんどをベッドですごす怠け者の大学生の語り手が執筆中の小説の主人公トレリスもまた、二十年も部屋にこもりきりの作家である。彼は自分が創造した作中人物を同じホテルに同居させ、監視下においているが、作中人物たちはそれぞれ自分の意志をもち、やがて作者の支配を脱して動きだす。小説の中の小説という重層的な語りの中に、アイルランドの神話伝説やダブリンの大学生の日常生活を織り込み、瑞々しい活力に溢れた豊饒な文学空間を創造した、『第三の警官』 のオブライエンのもう一つの傑作。「真の喜劇精神を備えた本物の作家」 (ジェイムズ・ジョイス)、「20世紀に書かれた滑稽小説のうちで十指に、いや五指にはいる」 (アントニー・バージェス)、「『ドン・キホーテ』 や 『千一夜物語』 よりも複雑な言語の迷宮」(J・L・ボルヘス)

◆2014年10月刊 1700円 [amazon]

◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=クルト・シュヴィッタース
◆筑摩書房(1998年) の再刊。
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ピンフォールドの試練


イーヴリン・ウォー
吉田健一訳

中年の小説家ギルバート・ピンフォールドが転地療養をかねてセイロンへの船旅に出かけると、乗船早々、どこからともなく騒々しい音楽や牧師の説教、船内で何やら事件が起きていることを示す怪しげな会話が聞こえてくる。声はやがて作家の悪口となり、さらには彼に対する悪意をむき出しにしたラジオ放送、ピンフォールド襲撃を計画する 「愚連隊」 一味など、船内のどこにいても、さまざまな声が彼を悩ませ始めた。手を替え品を替え、次々に仕掛けられる悪ふざけに途惑うピンフォールドだったが、その一方、声の中には彼に熱烈な愛情を寄せる女性もいて……。幻の声、姿なき敵に翻弄される小説家の悪戦苦闘を皮肉なユーモアをまじえて描いた、ウォー晩年の傑作を吉田健一の名訳で。

◆2015年1月刊 1300円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志

◆集英社(1968年)の再刊

イーヴリン・ウォー (1903-1966)
ロンドン郊外のハムステッドに生まれる。オックスフォード大学では放蕩生活を送りながら学内文芸誌に関わり、大学中退後、パブリック・スクールの教師となる。1928年、教師時代の体験を基にした 『大転落』 を発表。 『卑しい肉体』 (30) では第一次大戦後の 「陽気な若者たち」 を取り上げ注目された。同年、カトリックに改宗。『黒いいたずら』(32)、『一握の塵』(34) など、辛辣な諷刺とユーモアに溢れた作品で人気を博す。作風を一転、貴族の生活を描いた 『ブライヅヘッドふたたび』 (45) はアメリカでベストセラーとなった。戦後の代表作に第二次大戦を描いた 『名誉の剣』 三部作(52-61。合本改訂版 65)がある。

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裏面
 ある幻想的な物語

アルフレート・クビーン

吉村博次・土肥美夫訳

巨万の富を持つ謎の人物パテラが中央アジア辺境に建設した 〈夢の国〉 に招かれた画家夫婦は、そこでヨーロッパ中から集められた古い建物から成る奇妙な都ペルレに住む奇妙な人々と出会う。画家はこの街の住民となり数年が経ったが、パテラの支配に挑戦し革命を画策するアメリカ人の登場と時を同じくして、恐るべき災厄と混乱が都市を覆い始める。幻想絵画の巨匠クビーンが描くグロテスクな終末の光景。作者自筆の挿絵を多数収録。

◆2015年3月刊 1500円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画・挿絵=アルフレート・クビーン
◆河出書房新社(1971年)の再刊


アルフレート・クビーン (1877-1959)
ボヘミア(現チェコ)のライトメリッツで生まれる。ミュンヘン美術学校で学び、ブリューゲル、ゴヤ、ムンク、クリンガーらの系譜を継ぐグロテスクな怪奇幻想の画家として注目される。1906年、オーストリアの小村ツヴィックレットに移住。同地を拠点にミュンヘンの 〈青騎士〉 にも参加、カンディンスキー、クレーらと交わった。1909年、唯一の小説 『裏面』 を自作の挿絵付きで発表。その悪夢的な幻想と不条理に満ちた世界は、カフカを先取りするものと評されている。ホフマン、ポー、ドストエフスキーなど数多くの挿絵本を手掛けた。

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クローヴィス物語


サキ

和爾桃子訳

皮肉屋で悪戯好き、舌先三寸で周囲を振りまわす青年クローヴィスが起こす騒動、また聞き手として引き出す物語の数々。狐狩りの最中に貴婦人二人がハイエナに遭遇するが……残酷でドライなユーモアが際立つ 「エズメ」。動物に言葉を教える研究を続けてきた男が、ハウスパーティに招かれた先で飼猫に訓練を施すと、喋れるようになった猫が主人や客たちの秘密を次々に暴露しはじめる 「トバモリー」。孤独な少年は庭の物置でひそかにイタチを飼い、神様として崇めていた……数々のアンソロジーに採られた名作 「スレドニ・ヴァシュタール」 他、全28篇を収録。ウッドハウスやO・ヘンリーと並ぶ “短篇の名手” サキの辛辣な諷刺とユーモアに満ちた代表的短篇集 The Chronicles of Clovis (1911) を初の完訳(本邦初訳を含む)。A・A・ミルンの序文と、エドワード・ゴーリーの魅力的な挿絵16点を収録した決定版。

◆2015年4月刊 1300円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画・挿絵=エドワード・ゴーリー
◆Uブックス・オリジナル

日本経済新聞(4/15夕刊) 野崎六助氏評
書評七福神の今月の一冊 杉江松恋氏評

【収録作品】
序文 (A・A・ミルン)/エズメ/月下氷人/トバモリー/ミセス・パクルタイドの虎/バスタブル夫人の逃げ足/名画の背景/ハーマン短気王――大涕泣の時代/不静養/アーリントン・ストリンガムの警句/スレドニ・ヴァシュタール/エイドリアン/花鎖の歌/求めよ、さらば/ヴラティスラフ/イースターエッグ/フィルボイド・スタッジ――ネズミの助っ人/丘の上の音楽/聖ヴェスパルース伝/乳搾り場への道/和平に捧ぐ/モーズル・バートン村の安らぎ/タリントン韜晦術/運命の猟犬/退場讃歌/感傷の問題/セプティマス・ブロープの秘めごと/閣僚の品格/グロービー・リングトンの変貌
サキ (1870-1916)
本名ヘクター・ヒュー・マンロー。英領ビルマ(現ミャンマー)生まれ。父親はインド帝国警察の監察官。幼くして母を亡くし、英国デヴォン州で祖母と二人のおばに育てられる。1902年から1908年まで新聞の特派記者としてバルカン半島、ワルシャワ、ロシア、パリなど欧州各地に赴任。その後ロンドンに戻り、辛辣で意外性とウィットに富んだ短篇小説を 「サキ」 の筆名で新聞に発表。『クローヴィス物語』(11)、『けだものと超けだもの』(14) などの作品集で短篇の名手として評価を集める。第一次世界大戦が勃発すると志願兵として出征、1916年、フランスの西部戦線で戦死した。没後出版の短篇集に 『平和の玩具』(19)、『四角い卵』 (24) がある。

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彼らは廃馬を撃つ


ホレス・マッコイ

常盤新平訳

1930年代、大恐慌時代のアメリカ。映画監督になる夢を抱いて青年はハリウッドにやってきた。しかし現実は厳しく、エキストラの仕事にもあぶれ、ドラッグストアのバイトで小銭を稼ぐのが精いっぱい。その彼が出会ったのが、テキサスからきた女優志望の女の子。二人はペアを組んでマラソン・ダンス大会に参加することに。これは一時間五十分踊って十分間の休憩を繰り返し、最後の一組が残るまでひたすら踊り続ける過酷な競技だ。大会を渡り歩くこの競技のプロに、逃亡中の犯罪者、家出娘など “わけあり” の参加者も。そして競技が八百時間を越え、残りが二十組に絞られたとき……。競技中に発生する様々な人間ドラマ、若者たちの希望と絶望を巧みな構成で描いたアメリカ小説の傑作。シドニー・ポラック監督、ジェーン・フォンダ主演の映画化 《ひとりぼっちの青春》 でも知られる。

◆2015年5月刊 1000円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志
◆角川文庫(1970)/王国社(1988)の再刊

ホレス・マッコイ (1897-1955)
テネシー州ペグラムに生まれる。十代から様々な職を転々とし、第一次大戦後は新聞記者、スポーツライターの傍らパルプ雑誌に小説を執筆、ダラス小劇場の設立にも関わった。1931年、ハリウッドに移住、映画の端役、季節農場労働者、マラソン・ダンスの用心棒などで糊口をしのぎ、その経験に基づく小説 『彼らは廃馬を撃つ』 (35)、『屍衣にポケットはない』 (37) などを発表。世評は芳しくなかったが、後にフランスで絶賛されると、アメリカでもようやく脚光を浴びる。映画脚本を多数手がけ、自作 『明日に別れの接吻を』(48) も映画化された。

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第三の魔弾


レオ・ペルッツ

前川道介訳

16世紀、神聖ローマ帝国を追放された “ラインの暴れ伯爵” グルムバッハは新大陸に渡り、アステカ王国のインディオたちに味方して、コルテス率いるスペインの無敵軍に立ち向かった。グルムバッハは悪魔の力を借りて、コルテス軍の狙撃兵ノバロの百発百中の銃を手に入れるが、その責を問われて絞首台に上ったノバロは死に際に銃弾に呪いをかける。「一発目はお前の異教の国王に。二発目は地獄の女に。そして三発目は――」 コンキスタドール時代のメキシコを舞台に、騙し絵のように変幻する絢爛たる物語を、巧みなストーリーテリングで描き切った幻想歴史小説。

◆2015年7月刊 1600円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=ディエゴ・リベラ
◆国書刊行会(1986)の再刊


レオ・ペルッツ (1882-1957)
プラハ生まれのユダヤ系作家。18歳でオーストリアに移住。『第三の魔弾』 (1915) で注目を集め、 『ボリバル侯爵』 (20)、『最後の審判の巨匠』 (23)、 『スウェーデンの騎士』 (36) などの幻想的な歴史小説や探偵・冒険小説で人気を博した。ナチス・ドイツがオーストリアを併合するとパレスティナへ亡命。戦後の代表作に 『夜毎に石の橋の下で』 (53) がある。

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死を忘れるな


ミュリエル・スパーク

永川玲二訳

「死ぬ運命を忘れるな」 と電話の声は言った。デイム・レティ (79歳) を悩ます正体不明の怪電話は、やがて彼女の知人たちの間にも広がっていく。犯人探しに躍起となり、疑心暗鬼にかられて遺言状を何度も書き直すデイム・レティ。かつての人気作家のチャーミアン (85歳) は死の警告を悠然と受け流し、その夫ゴドフリー (87歳) は若き日の不倫を妻に知られるのを恐れながら、新しい家政婦(73歳)の脚が気になる模様。社会学者のアレック (79歳) は彼らの反応を観察して老年研究のデータ集めに余念がない……。謎の電話が老人たちの間に投じた波紋と、登場人物ほぼ全員70歳以上の入り組んだ人間模様を、辛辣なユーモアをまじえて描き、「この五十年間でもっとも偉大なイギリス小説のひとつ」 (ジュリアン・バーンズ) と評される傑作。

◆2015年9月刊 1700円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志
◆白水社(1964)の再刊

ミュリエル・スパーク (1918-2006)
スコットランドのエディンバラ生まれ。学校教師、アフリカでの短い結婚生活、第二次大戦中の政治情報局勤務、雑誌編集者等を経て、1951年、短篇 「熾天使とザンベジ河」 が 《オブザーヴァー》 紙の懸賞小説に入選。長篇第一作 『慰める者たち』 (57) の後、『死を忘れるな』(59)で批評家の称賛を集め、『ミス・ブロウディの青春』(61)の成功により人気作家となる。1967年にイタリアに移住。小説の他、詩、戯曲、ラジオドラマ、評伝などを手掛けた。『独身者』 『マンデルバウム・ゲイト』 『運転席』 『邪魔をしないで』 『寝ても覚めても夢』 『バン、バン! はい死んだ』(短篇集) などの邦訳がある。

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ミス・ブロウディの青春

ミュリエル・スパーク

岡照雄訳

1930年代のエディンバラ、女子学園の教師ジーン・ブロウディはお気に入りの生徒を集め、彼女たちを 「一流中の一流」 にするための独自の教育を授けた。数学が得意で癇癪持ちのモニカ、セックス・アピールで有名なローズ、体操に夢中のユーニス、発音がきれいで空想好きなサンディ、美人で女優志望のジェニー、いじめられっ子のメアリー。少女たちはブロウディ先生の薫陶を受け、進歩的な思想、芸術の教養から、肌の手入れ法や美しい歩き方、先生自身の恋愛体験まで、あらゆることを教わった。先生を中心に団結した 〈ブロウディ組〉 の六人は、親衛隊として、先生の追放を画策する校長に抵抗したが、その中からひとりの裏切り者が……。圧倒的な個性と情熱で生徒を導く女性教師と、彼女に魅了されながらもやがてその支配を脱していく少女たちを、巧みな構成で描いた名作。
なお、本書は1969年に映画化され、ブロディ先生役のマギー・スミスはアカデミー賞主演女優賞を受賞している。

◆2015年9月刊 1300円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画(立体制作)=大森せい子
◆筑摩書房(1973)の再刊

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けだものと超けだもの


サキ

和爾桃子訳

十月というのに、あの窓を開けっぱなしにしているのはなぜか――少女の話では、三年前、このフランス窓から猟に出ていった叔母の夫と弟二人が荒地の沼に呑まれてしまう事件があった。三人がいつか帰ってくると信じている叔母は、以来、この窓を開けたままにしているというのだが……ショートショートの名作 「開けっぱなしの窓」。列車内で騒ぎ立てる子供を、同じ車室に乗り合わせた男が即興のお話でおとなしくさせる 「お話上手」 など、全36篇を収録したBeasts and Super-Beasts (1914) を全訳。好評 『クローヴィス物語』 に続くサキ短篇集第二弾。エドワード・ゴーリーの挿絵を収録。

◆2016年1月刊 1400円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画・挿絵=エドワード・ゴーリー
◆Uブックス・オリジナル


【収録作品】
女人狼/ローラ/大豚と私/荒ぶる愛馬/雌鶏/開けっぱなしの窓/沈没船の秘宝/蜘蛛の巣/休養にどうぞ/冷徹無比の手/出たとこ勝負/シャルツ‐メッテルクルーメ方式/七羽めの雌鶏/盲点/黄昏/迫真の演出/テリーザちゃん/ヤルカンド方式/ビザンチン風オムレツ/復讐(ネメシス)記念日/夢みる人/マルメロの木/禁断の鳥/賭け/クローヴィスの教育論/休日の仕事/雄牛の家/お話上手/鉄壁の煙幕/ヘラジカ/「はい、ペンを置いて」/守護聖人日/納戸部屋/毛皮/慈善志願者と満足した猫/お買い上げは自己責任で
サキ (1870-1916)
本名ヘクター・ヒュー・マンロー。英領ビルマ(現ミャンマー)生まれ。父親はインド帝国警察の監察官。幼くして母を亡くし、英国デヴォン州で祖母と二人のおばに育てられる。1902年から1908年まで新聞の特派記者としてバルカン半島、ワルシャワ、ロシア、パリなど欧州各地に赴任。その後ロンドンに戻り、辛辣で意外性とウィットに富んだ短篇小説を 「サキ」 の筆名で新聞に発表。『クローヴィス物語』(11)、『けだものと超けだもの』(14) などの作品集で短篇の名手として評価を集める。第一次世界大戦が勃発すると志願兵として出征、1916年、フランスの西部戦線で戦死した。没後出版の短篇集に 『平和の玩具』(19)、『四角い卵』 (24) がある。

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南十字星共和国


ワレリイ・ブリューソフ

草鹿外吉訳

南極大陸に建設された新国家の首都 〈星の都〉 で発生した奇病 〈自己撞着狂〉。発病者は自らの意志に反して愚行と暴力に走り、撞着狂の蔓延により街は破滅へと向かう――未来都市の壊滅記 「南十字星共和国」。15世紀イタリア、トルコ軍に占領された都市で、スルタン側近の後宮入りを拒んで地下牢に繫がれた姫君の恐るべき受難と、暗闇に咲いた至高の愛を描く残酷物語 「地下牢」。夢の中で中世ドイツ騎士の城に囚われの身となった私は城主の娘と恋仲になるが……夢と現実が交錯反転する 「塔の上」。革命の混乱のなか旧世界に殉じた神官たちの死と官能の宴 「最後の殉教者たち」 など、全11篇を収録。20世紀初頭、ロシア象徴主義を代表する詩人・小説家ブリューソフが紡ぎだす終末の幻想、夢と現、狂気と倒錯の物語集。アルベルト・マルチーニの幻想味溢れる挿絵を収録。

◆2016年3月刊 1500円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画・挿絵=アルベルト・マルチーニ
◆白水社(1973)の再刊


【収録作品】
序文/地下牢/鏡の中/いま、わたしが目ざめたとき……/塔の上/ベモーリ/大理石の首/初恋/防衛/南十字星共和国/姉妹/最後の殉教者たち

ワレリイ・ブリューソフ (1873-1924)
ロシアの詩人・小説家。モスクワで生まれる。モスクワ大学在学中にフランス象徴派やE・A・ポーの詩の翻訳を手がけ、詩文集 『ロシア・シンボリスト』 全3巻を刊行。その後、詩集 『傑作』 『これが私だ』 『第三の夜衛』 などを出版、文芸誌 《ヴェスイ(天秤座)》 の編集主幹として、ロシア象徴主義運動を代表する存在となる。小説に短篇集 『地軸』(1907;増補第二版1911)、長篇 『炎の天使』 (1908)、『勝利の祭壇』 (1913) など。

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ケイレブ・ウィリアムズ


ウィリアム・ゴドウィン

岡照雄訳

農民の息子ケイレブ・ウィリアムズは、両親を亡くし、有力者の地主フォークランドの秘書として働くようになる。人望厚く慈愛に満ちた主人の下で恵まれた生活を送るケイレブだったが、好奇心の強い彼は、やがて主人の不可解な性格に興味をいだき、ついにその暗い秘密を突き止めてしまう。実は主人フォークランドには人知れず殺人を犯した恐ろしい過去があったのだ……。18世紀末、アナーキズムの古典ともいわれる 『政治的正義』 でイギリス社会に衝撃をもたらした思想家ウィリアム・ゴドウィンが1794年に発表したゴシック小説の名作。社会の不正義をあばく告発小説であると同時に、追う者と追われる者の関係、心理的闘争を息苦しいまでの緊迫感で描き出したサスペンス小説でもある。

◆2016年7月刊 1800円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=ピエール=ポール・プリュードン 『〈復讐〉 の頭部習作』
◆国書刊行会(1982)の再刊

ウィリアム・ゴドウィン (1756-1836)
イングランド東部のウィズビーチで生まれる。カルヴァン派の牧師となるが、やがて信仰を捨て、ロンドンで文筆活動に入る。無政府主義的な急進思想を説いた 『政治的正義』 (1793) は熱狂的な反響を呼び、その思想や社会批判をゴシック小説の枠組で展開した『ケイレブ・ウィリアムズ』(1794)は、ミステリの源流にも位置付けられる。他に錬金術小説 『サン・レオン』 (1799) など。夫人は女権論の先駆者メアリー・ウルストンクラフト。娘メアリー (後にP・B・シェリー夫人) は 『フランケンシュタイン』 の作者。

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冬の夜ひとりの旅人が


イタロ・カルヴィーノ

脇功訳

あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説 『冬の夜ひとりの旅人が』 を読み始めようとしている。あなたが読み始めた本はしかし、30頁ほど進んだところで同じ文章を繰り返し始める。乱丁本だ。あなたは本屋へ行き交換を求めるが、そこで意外な事実を知らされる。あなたが読んでいたのは 『冬の夜ひとりの旅人が』 ではなく、まったく別の小説だったのだ……。中断され続ける小説を追いかける 〈男性読者〉 と 〈女性読者〉 の冒険。「文学の魔術師」 による究極の読書小説。

◆2016年10月刊 1800円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=グスタフ・アドルフ・ヘニッヒ 『読書する少女』
◆松籟社(1981)/ちくま文庫(1995)の再刊


イタロ・カルヴィーノ (1923-1985)
イタリア人農学者の父と植物学者の母の間にキューバで生まれる。2歳の頃、一家でイタリアのサン・レーモに移住。トリノ大学農学部に進学し、第2次世界大戦中はパルチザンに参加、その体験にもとづく長篇第一作 『くもの巣の小道』 (1947) でネオレアリズモ小説の旗手として注目される。『まっぷたつの子爵』 (52)、『木のぼり男爵』 (57)、『不在の騎士』 (59) の 《我々の祖先》 三部作では奇想に満ちた寓話的世界を創造。『レ・コスミコミケ』 (65)、『見えない都市』 (72)、『宿命の交わる城』 (73)、『冬の夜ひとりの旅人が』 (79) など、変幻自在な語りと実験的手法を駆使した作品で世界的な評価を受け、「文学の魔術師」と評される。

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天使の恥部


マヌエル・プイグ

安藤哲行訳

ウィーン近郊の楽園のような島に軍需産業王の夫によって閉じ込められた世界一の美女。映画スターの彼女には出生にまつわる秘密があった。死者との契約により、三十歳になった時から他人の思考が読めるようになるというのだ……。地軸変動により気候が激変、多くの土地が水没した未来の地球。性的治療部で働く女性W218はある日理想の男と出会う。隣国からやってきたその男と、彼女は夢のような一夜を過ごすが、男にはある目的があった……。一九七五年のメキシコシティ、病院のベッドでアナは語る。アルゼンチンでの過去の生活、政治について、愛について……。過去・現在・未来で繰り返される、女たちの哀しい愛と数奇な運命の物語を、メロドラマやスパイ小説、SFなど、さまざまなスタイルと声を駆使して描き、新境地を切り開いたプイグの傑作。改訳決定版。

◆2017年1月刊 1900円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆図版=ヘディ・ラマー
◆国書刊行会(1989)の再刊


マヌエル・プイグ(1932-1990)
アルゼンチンのヘネラル・ビジェーガスで生まれる。ブエノスアイレスの大学を卒業後、1956年にイタリアへ留学し、映画監督・脚本家を目指すが挫折。ニューヨークで書きあげた長篇 『リタ・ヘイワースの背信』 を1968年に出版、注目を集める。帰国後に発表した 『赤い唇』 (69) はベストセラーとなるが、『ブエノスアイレス事件』 (73) が発禁処分となり、極右集団の脅迫もあって、メキシコへ亡命。ニューヨーク、リオ・デ・ジャネイロ等を転々としながら、『蜘蛛女のキス』 (76)、『天使の恥部』 (79)、『このページを読む者に永遠の呪いあれ』 (80) などの話題作を発表。様々な手法を駆使した巧みなストーリー・テリング、現代的な主題で幅広い人気を博した。

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不在の騎士


イタロ・カルヴィーノ

米川良夫訳

時は中世、シャルルマーニュ大帝の軍勢に、サラセン軍との戦争で数々の武勲を立てた騎士アジルールフォがいた。戦場にあっては勇猛果敢、謹厳極まる務めぶりで騎士の鑑ともいうべき存在。だが、その白銀に輝く甲冑の中はからっぽだった――。肉体を持たず、強い意志の力によって存在するこの 〈不在の騎士〉 は、ある日その資格を疑われ、証を立てんと十五年前に救った処女を捜す遍歴の旅に出る。付き従うのはあらゆる存在に同化してしまう従者グルドゥルー。アジルールフォに恋する女騎士ブラダマンテ、さらにその後を追う若者ランバルドもからんで、奇想天外な騎士道物語が展開する。文学の魔術師カルヴィーノが、人間存在の歴史的進化を寓話世界に託して描いた 《我々の祖先》 三部作開幕。〔翻訳権取得〕

「指輪、ナルニア、ゲド、どれも世界を語るに足りないと思っている人への贈り物! これでだめだったら、ファンタジーに絶望していい」 ――金原瑞人

◆2017年3月刊 1500円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=磯良一

◆国書刊行会(1989)/河出文庫(2005)の再刊


イタロ・カルヴィーノ (1923-1985)
イタリア人農学者の父と植物学者の母の間にキューバで生まれる。2歳の頃、一家でイタリアのサン・レーモに移住。トリノ大学農学部に進学し、第2次世界大戦中はパルチザンに参加、その体験にもとづく長篇第一作 『くもの巣の小道』 (1947) でネオレアリズモ小説の旗手として注目される。『まっぷたつの子爵』 (52)、『木のぼり男爵』 (57)、『不在の騎士』 (59) の 《我々の祖先》 三部作では奇想に満ちた寓話的世界を創造。『レ・コスミコミケ』 (65)、『見えない都市』 (72)、『宿命の交わる城』 (73)、『冬の夜ひとりの旅人が』 (79) など、変幻自在な語りと実験的手法を駆使した作品で世界的な評価を受け、「文学の魔術師」と評される。

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ビリー・ザ・キッド全仕事

マイケル・オンダーチェ

福間健二訳

左ききの拳銃、人殺しの無法者、多くの女たちに愛された伊達者――西部の英雄ビリー・ザ・キッドの短い生涯は数々の伝説に彩られている。友人にして宿敵の保安官パット・ギャレット、のっぽの恋人アンジェラ・D、ライフルの名手トム・オフォリアードら、ビリーをめぐる人々。流浪の日々と束の間の平和、銃撃戦、逮捕と脱走、そしてその死までを、詩、散文、写真、関係者の証言や架空のインタビューなどで再構成。ときに激しい官能、ときにグロテスクなイメージに満ちた様々な断片を集め、多くの声を重ねていく斬新な手法でアウトローの鮮烈な生の軌跡を描いて、ブッカー賞作家オンダーチェの出発点となった傑作。カナダ総督文学賞受賞。作品の成り立ちを作者自ら振り返った2008年版 「あとがき」 を追加収録。

◆2017年4月刊 1500円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志
◆国書刊行会(1994)の再刊

マイケル・オンダーチェ (1943- )
セイロン (現スリランカ) のコロンボで地主階級の家庭に生まれる。ロンドンのパブリックスクールを経て、1962年にカナダに移住、トロント大学、クイーンズ大学等で学ぶ。1967年、第一詩集 『繊細な怪物』 を刊行、教職に就きながら詩作を続け、演劇・映画にも活動の幅を広げる。アウトローとジャズ・ミュージシャンの伝記に取材した『ビリー・ザ・キッド全仕事』 (70)、『バディ・ボールデンを覚えているか』 (76) で詩と小説の融合を試み、高い評価を得る。『イギリス人の患者』 (92) でブッカー賞を受賞。映画化もされて世界的人気を博した。『ライオンの皮をまとって』 『アニルの亡霊』 『ディビザデロ通り』 『名もなき人たちのテーブル』 などの邦訳がある。

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平和の玩具

サキ

和爾桃子訳

子供たちには武器の玩具や戦場模型、兵隊人形のかわりに平和的な玩具を、という新聞記事に感化された母親が、早速実践にうつすが……「平和の玩具」。その城には一族の者が死ぬとき森の狼が集まって一晩中吠えたてるという伝説があった……「セルノグラツの狼」 他、全33篇を収録。辛辣な諷刺と残酷なユーモアの作家サキの没後編集された短篇集を初の完訳。序文G・K・チェスタトン。付録としてサキ及び近親者の書簡を収録。

◆2017年6月予定 1600円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画・挿絵=エドワード・ゴーリー
◆Uブックス・オリジナル


【収録作品】
序文(G・K・チェスタトン/ヘクター・ヒュー・マンロー追想(ロシー・レナルズ)
平和の玩具/ルイーズ/お茶/クリスピーナ・アムバーリーの失踪/セルノグラツの狼/ルイス/泊まり客/贖罪/まぼろしの接待/バターつきパンを探せ/バーティの聖夜/刷り込まれて/邪魔者たち/鶉のえさ/謝罪詣で(カノッサ)/脅し/ミセス・ペンサービーは例外/マーク/はりねずみ/マッピン展示/運命/牡牛/モールヴェラ/奇襲戦術/七つのクリーマー/救急庭園/腑抜け/見落とし/ヒヤシンス/浮かばれぬ魂の肖像/バルカン諸王権/過去の戸棚/戦局のゆくすえ
親族たちが述べたサキ/訳者あとがき
サキ (1870-1916)
本名ヘクター・ヒュー・マンロー。英領ビルマ(現ミャンマー)生まれ。父親はインド帝国警察の監察官。幼くして母を亡くし、英国デヴォン州で祖母と二人のおばに育てられる。1902年から1908年まで新聞の特派記者としてバルカン半島、ワルシャワ、ロシア、パリなど欧州各地に赴任。その後ロンドンに戻り、辛辣で意外性とウィットに富んだ短篇小説を 「サキ」 の筆名で新聞に発表。『クローヴィス物語』(11)、『けだものと超けだもの』(14) などの作品集で短篇の名手として評価を集める。第一次世界大戦が勃発すると志願兵として出征、1916年、フランスの西部戦線で戦死した。没後出版の短篇集に 『平和の玩具』(19)、『四角い卵』 (24) がある。

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劇場

ミハイル・ブルガーコフ

水野忠夫訳

『船舶通信』のしがない記者兼校正係マクスードフは、昼は新聞の仕事をしながら、夜は小説を書き続けていた。ある夜、突然部屋を訪れた著名な編集者ルドルフィによって、文芸誌に作品掲載が決まり、作家の仲間入りを果たしたマクスードフだったが、それが彼の苦難の始まりだった。ルドルフィは発売前の雑誌と共に姿を消し、その後 〈独立劇場〉の依頼で自作を戯曲化するも、演出家の不条理な介入や劇場内の対立など、様々な障害によって上演はひたすら先延ばしされる。劇場の複雑な機構に翻弄されながらもその虜となっていく作家の悲喜劇を、作者の実体験にもとづいて戯画的に描いた未完の傑作。

◆2017年9月刊 1800円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=カジミール・マレーヴィチ 
◆白水社(1972)の再刊


ミハイル・ブルガーコフ (1891-1940)
ウクライナのキエフで生まれる。キエフ大学医学部を卒業、開業医となるが、ロシア革命の動乱のなか医業を捨て、モスクワで文学活動を開始する。1925年、第一長篇 『白衛軍』 を雑誌に発表、短篇集 『悪魔物語』 を刊行するが、反革命的との批判を受け、長篇 『犬の心臓』 は出版禁止となる。戯曲 『トゥルビン家の日々』 (モスクワ芸術座、26) の成功で劇作に活路を求めるも、当局による上演中止が相次ぐ。失意の中、発表の当てのないまま 『巨匠とマルガリータ』 『劇場』 等の作品を書き続け、1940年死去。スターリン没後の1954年に作家カヴェーリンによる名誉回復の訴えを受けて、夫人エレーナが遺稿の存在を明らかにし、1966年に 『巨匠とマルガリータ』 が初の活字化、各国語に翻訳されて世界的な注目を集めた。1973年に完全版の単行本がモスクワで刊行されるとソヴィエト国内でも驚異的な成功を収め、劇的な復活を遂げる。


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四角い卵

サキ

和爾桃子訳

森の中でヴァン・チールは裸で岩の上に寝そべる若者に出会った。浅黒い肌に獣のような目をしたこの野生児は「子どもの肉にありついてから二ヶ月はたつ」と不気味なことを言うのだった……「ゲイブリエル‐アーネスト」。戦地の一杯飲み屋で隣り合わせた男は、交配によって四角い卵を産む雌鶏をつくりだし、一儲けしたというのだが……「四角い卵」他、全36篇。新訳決定版サキ短篇集第四弾は、初期短篇集『ロシアのレジナルド』、没後出版の『四角い卵』に、その後発掘された短篇、スケッチを収録。サキの生涯と作品を概観したJ・W・ランバートの重要エッセー「ボドリー・ヘッド版サキ選集 序文」を付す。

◆2017年12月刊 1500円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画・挿絵=エドワード・ゴーリー
◆Uブックス・オリジナル


【収録作品】
ロシアのレジナルド
ロシアのレジナルド/レディ・アンの沈黙/地名の岐路/女性は買い物しない/トード・ウォーターの仁義なき戦い/青年トルコ党の惨敗/宅配人ジャドキン/ゲイブリエル‐アーネスト/聖者と小鬼/ラプロシュカの未練/獲物袋/いたちごっこ/流されて/十三人いる/小ねずみ
四角い卵
四角い卵/西部戦線の鳥たち/国家の祭典(ガラ・プログラム)/地獄の議会/猫を讃えよ/ 古都プスコフ/クローヴィス、実務のロマンなるものを語る/聖賢語録
その他の短篇
犬と暮らせば/トム叔母さんの旅/ジャングルの掟/政界ジャングルブック/エデンの園 /池/聖戦/暮らしの歳時記/捨て石のお値段/部屋割り問題/闇の一撃/東棟/伍長の当直記
ボドリー・ヘッド版サキ選集 序文(J・W・ランバート)/訳者あとがき
サキ (1870-1916)
本名ヘクター・ヒュー・マンロー。英領ビルマ(現ミャンマー)生まれ。父親はインド帝国警察の監察官。幼くして母を亡くし、英国デヴォン州で祖母と二人のおばに育てられる。1902年から1908年まで新聞の特派記者としてバルカン半島、ワルシャワ、ロシア、パリなど欧州各地に赴任。その後ロンドンに戻り、辛辣で意外性とウィットに富んだ短篇小説を 「サキ」 の筆名で新聞に発表。『クローヴィス物語』(11)、『けだものと超けだもの』(14) などの作品集で短篇の名手として評価を集める。第一次世界大戦が勃発すると志願兵として出征、1916年、フランスの西部戦線で戦死した。没後出版の短篇集に 『平和の玩具』(19)、『四角い卵』 (24) がある。

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木のぼり男爵


イタロ・カルヴィーノ

米川良夫訳

18世紀イタリア、男爵家の長子コジモは、12歳のある日、かたつむり料理を拒否して庭の樫の木に登った。一時的な反抗と思われたが、その後もコジモは頑なに地上に降りることなく、木の上で暮らし始める。木から木へ伝って自由に移動し、森で猟をしたり、無法者と交際したり、読書に励んだりしながら成長していった。樹上で暮らすコジモは有名人となり、外国の学者たちと文通もした。時代はやがて革命と戦争へ向かい、男爵家を継いだコジモの地方にも軍隊がやってきた……。恋も冒険も革命もすべてが木の上という、奇想天外、波瀾万丈の物語。文学の魔術師カルヴィーノが、人間存在の歴史的進化を寓話世界に託して描いた《我々の祖先》三部作のひとつ。新装改版。

◆2018年1月刊 1800円(税別)[amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=磯良一
◆初刊 白水社(1964)/白水Uブックス(1995)の新装改版


イタロ・カルヴィーノ (1923-1985)
イタリア人農学者の父と植物学者の母の間にキューバで生まれる。2歳の頃、一家でイタリアのサン・レーモに移住。トリノ大学農学部に進学し、第2次世界大戦中はパルチザンに参加、その体験にもとづく長篇第一作 『くもの巣の小道』 (1947) でネオレアリズモ小説の旗手として注目される。『まっぷたつの子爵』(52)、『木のぼり男爵』(57)、『不在の騎士』 (59)の 《我々の祖先》 三部作では奇想に満ちた寓話的世界を創造。『レ・コスミコミケ』(65)、『見えない都市』(72)、『宿命の交わる城』(73)、『冬の夜ひとりの旅人が』(79) など、変幻自在な語りと実験的手法を駆使した作品で世界的な評価を受け、「文学の魔術師」と評される。

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ペンギンの島


アナトール・フランス

近藤矩子訳

高徳の修道士、聖マエールは悪魔に唆されて極地の島へ赴き、住民たちに洗礼を施す。しかし、目の悪い老聖者が授洗したのは実は人間ではなく、島のペンギンたちだった。この間違いにより神学上の問題が生じたため、天上では神が聖人たちを集めて会議を開き、対応が話し合われた結果、ペンギンを人間に変えて問題を切り抜けることにした。「人間たれ」の声と共に、ペンギンたちは人間に変身、ここにペンギン国の歴史が始まった。古代から現代、そして未来に至るフランスの歴史をパロディ化し、戯画的に語り直した、ノーベル賞作家A・フランスの知る人ぞ知る名作。

◆2018年3月刊 1900円(税別[amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=原書表紙より
◆中央公論社(1970)の再刊


アナトール・フランス (1844-1924)
パリ生まれ。コレージュ・スタニスラスで学ぶ。高踏派詩人として出発し、1873年、第一詩集『黄金詩集』を発表。その後小説と評論に転じて、『シルヴェストル・ボナールの罪』(1881)、『舞姫タイス』(1890)、『鳥料理レエヌ・ペドオク亭』(1893)、『赤い百合』(1894)、『ペンギンの島』(1908)、『神々は渇く』(1912)などの長篇小説でフランス文学を代表する作家となる。反教権主義の立場からカトリシスム批判を展開、その関心は社会問題へも向かい、ドレフュス事件(1894)ではドレフュス擁護の論陣を張るなど積極的に活動した。アカデミー・フランセーズ会員。1921年、ノーベル文学賞を受賞。

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黄泥街


残雪
(ツァンシュエ)
近藤直子訳

黄泥街は狭く長い一本の通りだ。両側には様々な格好の小さな家がひしめき、黄ばんだ灰色の空からはいつも真っ黒な灰が降っている。灰と泥に覆われた街には人々が捨てたゴミの山がそこらじゅうにあり、店の果物は腐り、動物はやたらに気が狂う。この汚物に塗れ、時間の止まったような混沌の街で、ある男が夢の中で発した「王子光(ワンツーコアン)」という言葉が、すべての始まりだった。その正体をめぐって議論百出、様々な噂が流れるなか、ついに「王子光」がやって来ると、街は大雨と洪水に襲われ、奇怪な出来事が頻発する。すべてが腐り、溶解し、崩れていく世界の滅びの物語を、言葉の奔流のような圧倒的な文体で語った、現代中国文学を代表する作家、残雪の第一長篇。残雪研究の第一人者でもある訳者の「わからないこと 残雪『黄泥街』試論」を併録。

◆2018年10月刊 1800円(税別
[amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=エゴン・シーレ
◆河出書房新社(1992)の再刊


残雪 (ツァンシュエ 1953- )
中国湖南省長沙市に生まれる。本名鄧小華。湖南日報社社長を務めた父親が1957年に「右派」認定、追放され、20年にわたり一家は様々な迫害を受ける。文化大革命の下、中学へは行けずに父が収監された監獄近くの小屋で一人暮らしを強いられる。工場勤務、結婚を経て、1980年代に創作を開始、雑誌に短篇を発表。『黄泥街』(86)は第一長篇。その作品は英語、日本語をはじめ各国語に翻訳され、世界的な評価を得た。創作と並行して、カフカ、ボルヘス、ダンテ、ゲーテ、カルヴィーノなどを論じ、批評活動も精力的に展開している。邦訳に『蒼老たる浮雲』『カッコウが鳴くあの一瞬』『廊下に植えた林檎の木』『暗夜』(河出書房新社)、『突囲表演』(文藝春秋)、『かつて描かれたことのない境地』『最後の恋人』(平凡社)、評論『魂の城 カフカ解読』(平凡社)などがある。

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カフカの父親


トンマーゾ・ランドルフィ

米川良夫・竹山博英・和田忠彦・柱本元彦訳

カフカの死んだ父親が巨大な蜘蛛となって現れる「カフカの父親」。文豪ゴーゴリの愛妻は空気の量によって自在にその姿を変えるゴム人形だった! グロテスクなユーモア譚「ゴーゴリの妻」、イギリス人の船長から一年間習ったペルシャ語は実際には誰にも通じない言葉で・・・「無限大体系対話」など、カルヴィーノ、ブッツァーティと並ぶイタリア文学の異才ランドルフィの途方もない奇想とナンセンス、特異な言語感覚に満ちた短篇傑作集。奇妙な一行の超現実主義的な航海を描く「ゴキブリの海」を追加収録した決定版。

◆2018年11月予定 1700円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=オディロン・ルドン
◆国書刊行会(1996)の再刊・新編集


【収録作品】
マリーア・ジュゼッパ/手/無限大体系対話/ゴキブリの海/狼男のおはなし/剣/泥棒/カフカの父親/『通俗歌唱法教本』より/ゴーゴリの妻/幽霊/マリーア・ジュゼッパのほんとうの話/ころころ/キス/日蝕/騒ぎ立てる言葉たち

トンマーゾ・ランドルフィ (1908-1979)
イタリア中部の町ピーコの名門一族に生まれる。フィレンツェ大学でロシア語・文学を学び、同市の詩人・作家と交流。短篇集『無限大体系対話』(1937)、『ゴキブリの海その他の物語』(42)、『剣』(42)、『幽霊』(54)、『不可能な物語』(66)、『カジノ』(75。ストレーガ賞受賞)、長篇『月ノ石』(39。邦訳河出書房新社)、『秋の物語』(47)等の他、詩集やゴーゴリ、プーシキン、ドストエフスキー、ホフマンスタールの翻訳もある。

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ドーキー古文書


フラン・オブライエン
大澤正佳訳

ダブリン近郊の海辺の町ドーキーでミックが知りあった科学者を自称する紳士ド・セルビィは、世の堕落を嘆き、人類救済のための世界破壊を企て、大気中の酸素を除去する物質を研究開発していた。嘘か真か、時間の停止にも成功したという。一方、ミックは行きつけの酒場で飲み仲間の医者に「ジェイムズ・ジョイスが死んだという話は眉唾物だ」と聞かされる。ド・セルビィの計画阻止と、生きている(?)ジョイス探しに乗り出したミックだったが・・・。次々登場する奇人変人に飛びきりの奇想。世界中で愛されたアイルランド文学の異才フラン・オブライン最後の傑作。

◆2018年1月刊 1800円(税別)[amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志
◆集英社(1977年/1990年) の再刊。



カッコウが鳴くあの一瞬


残雪
(ツァンシュエ)
近藤直子訳

わたしは駅の古いベンチに横になっていた。わたしにはわかっている、カッコウがそっと三度鳴きさえすれば、すぐにも彼に逢えるのだ・・・。姿を消した〝彼〟を探して彷徨い歩く女の心象風景を超現実的な手法で描いた表題作。毎夜、部屋に飛び込んできて乱暴狼藉をはたらく老婆の目的とは・・・「刺繡靴および袁四ばあさんの煩悩」ほか、夢の不思議さを綴る夜の語り手、残雪の初期短篇全9篇に、訳者による作家論「残雪―夜の語り手」を併録。

◆2018年5月刊 1600円(税別
[amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=パウル・クレー
◆河出書房新社(1991)の再刊

【収録作品】
阿梅(アーメイ)、ある太陽の日の愁い/霧/雄牛/カッコウが鳴くあの一瞬/曠野の中/刺繡靴および袁西(ユエンスー)ばあさんの煩悩/天国の対話/素性の知れないふたり/毒蛇を飼う者
あとがき/残雪―夜の語り手 「曠野の中」を読む



蒼老たる浮雲


残雪
(ツァンシュエ)
近藤直子訳

棟続きの家に住む二組の夫婦。梶の木の花の匂いに心乱され、不審な行動をとる更善無を、隣家の女、虚汝華が覗き見ていた。夫の老况は生活能力のない男で、しじゅう空豆を食べている。女房の好物は酢漬けきゅうり。家の中では虫が次から次へと沸いて出て、虚汝華は殺虫剤をまくのに余念がない。二つの家の間に漲る敵意と疑念。ある夜、梶の花の残り香の中で、更善無と隣家の女は同じ夢を見た……。奇怪なイメージと支離滅裂な出来事の連鎖が衝撃を呼ぶ中篇『蒼老たる浮雲』に、初期短篇「山の上の小屋」「天窓」「わたしの、あの世界でのこと」を収録した残雪作品集。

◆2019年7月刊 1700円(税別)[amazon]

◆装丁=田中一光/片山真佐志  ◆装画=パウル・クレー
◆河出書房新社(1989)の再刊


【収録作品】
蒼老たる浮雲/山の上の小屋/天窓/わたしの、あの世界でのこと――友へ――
訳者あとがき



ヴィレット(上・下)


シャーロット・ブロンテ

青山誠子訳

身寄りのない英国女性ルーシー・スノウは、自身の運命を切り開こうと決心して海峡を渡り、ラバスクール王国の首都ヴィレットへ辿り着いた。女子寄宿学校を経営するマダム・ベックに雇われた彼女は、誰一人知る者のない異国の街で、英語教師としての生活を始める。短気で独断的な教授や良家の子女からなる生徒たちに手を焼き、幼馴染との再会や、学内に出没する修道女の幽霊騒ぎなど、様々な出来事に心を揺さぶられながらも、ルーシーは次第に周囲の評価を獲得していく。それでもなお、彼女を苦しめる孤独は癒されることなく、胸に秘めた思いはさらなる葛藤を生み続けるのだった。運命に立ち向かう、内向的だが想像力に溢れたヒロインの心理的陰影に富んだ語りの魅力で『ジェイン・エア』以上の傑作と称され、ヴァージニア・ウルフからカズオ・イシグロまで、名だたる作家たちを惹きつけてきたシャーロット・ブロンテの文学的到達点。
「一人称の語りについてのほとんどすべてを私はこの小説で学んだ。プロットは『ジェイン・エア』の明晰な筋立てを欠いているが、この作品にはより豊饒で大胆な達成がある」――カズオ・イシグロ
「『ヴィレット』はシャーロット・ブロンテの時ならぬ死によって絶筆となった小説であり、彼女の作品の中では最も完成度が高い。(中略)「独創的な名画は独創的な名著と同じくらい得がたいものだ」と。『ヴィレット』はまさにそのような名著の一つである」――デイヴィッド・ロッジ『小説の技巧』

◆2019年8月刊 各2000円(税別) [amazon]

◆装丁=田中一光/片山真佐志
◆装画=リチャード・レッドグレイヴ/本文挿絵=ジョン・ジェリコー
◆みすず書房社(1995)の再刊


シャーロット・ブロンテ(1816-1855)
ヨークシャーのソーントンで英国国教会牧師の娘として生まれる。4歳の時に転居したハワースの牧師館で、弟や妹たちと物語を作って遊ぶ。寄宿学校で学び、学校教師、家庭教師として働いた後、1842年にブリュッセルのエジェ寄宿学校に留学。帰国後、学校開設を目指すが生徒が集まらず断念。1846年、「カラー・ベル」の筆名で妹エミリ、アンとの共同詩集を自費出版。続いて取り組んだ長篇小説『教授』は出版社に断られるが、第二作『ジェイン・エア』(47)が出版されると大評判となる。弟ブランウェル、妹エミリ、アンが相次いで亡くなる悲嘆の中で執筆を続け、『シャーリー』(49)、『ヴィレット』(53)も好評を博した。1854年、父親の牧師補アーサー・ニコルズと結婚するが、翌年死去。1857年、『教授』が死後出版された。

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旅に出る時ほほえみを

ナターリヤ・ソコローワ

草鹿外吉訳

《人間》が怪獣をつくりだした。合金の骨格に緑色の人工血液、生肉を動力源とする鉄製の怪獣17Pは、前肢の鑿岩機で地中を進み、また拙いながら人間のことばも話した。怪獣を創造した科学者、《人間》は自ら怪獣に乗りこみ、地下潜行試験を繰り返していた。一方、市内で発生したストライキを武力鎮圧した国家総統は独裁体制を推し進める。「旅に出る時ほほえみを・・・」人の痛みを知る金属製怪獣の歌う声が心に響く、現代のおとぎ話。

◆2020年1月刊 1800円(税別)[amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志  ◆装画=レオン・スピリアールト
◆サンリオSF文庫(1978)の再刊


ナターリヤ・ソコロ-ワ (1916-2002)
オデッサで生まれる。父親は劇作家、母親は女優という演劇一家だった。モスクワのゴーリキイ文学大学を卒業後、文芸評論家として出発し、50年代末から小説を書き始める。小説作品に『四人家族』(59)、『ニコライ・ウォルコフの愛』(61)、『旅に出る時ほほえみを』(65)、『幸福なる千歩』(65。作品集)、『愛の戦略』(66)、『特急列車、一三〇三』(68)、『タイヤはアスファルトを滑る』(70)などがある。

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フラッシュ

或る伝記


ヴァージニア・ウルフ

出淵敬子

イングランド南部の村で生まれたコッカー・スパニエルのフラッシュは、著名な女性詩人エリザベス・バレットへの贈り物として、ロンドンへやってきた。病弱でひきこもりがちな主人の家で、フラッシュは次第に都会の生活になじんでいく。そこで目にした主人エリザベスの恋愛、父親の抑圧、犬泥棒とスラム街訪問、イタリアへの駆け落ち……。犬の目を通して、19世紀英国の詩人エリザベス・バレット・ブラウニングの人生をユーモアとウィットをこめて描いた、モダニズム作家ウルフの愛すべき小品。「犬好きによって書かれた本というより、むしろ犬になりたいと思う人によって書かれた本」。

◆2020年6月刊 1600円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志  ◆装画=ヴァネッサ・ベル
◆みすず書房(1993)の再刊


ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)
ロンドンで生まれる。父親は文芸批評家レズリー・スティーヴン。文学的環境の中で早くから創作への関心を深め、書評やエッセイを新聞に寄稿する。後に〈ブルームズベリー・グループ〉と呼ばれる作家・芸術家・批評家のサークルに加わり、1915年、第一長篇『船出』を発表。〈意識の流れ〉の手法を用いた『ダロウェイ夫人』(25)、『燈台へ』(27)、『波』(31)で先鋭的なモダニズム作家として高い評価を得た。女性と文学・社会・戦争の問題を取り上げたエッセイ『自分だけの部屋』『三ギニー』は、フェミニズム批評の古典とされる。1941年、『幕間』(没後出版)の完成原稿を残して入水自殺。

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まっぷたつの子爵


イタロ・カルヴィーノ

村松真理子

トルコとの戦争へ出かけたメダルド子爵は敵の砲弾で吹き飛び、まっぷたつに引き裂かれてしまう。体の左半分を失いながら奇跡的に一命をとりとめたメダルドは、右半身だけで領地に帰ってきた。しかし、その性格は以前とは一変、人々は半分になった子爵が村や森に落とす邪悪な影に怯え始める。《我々の祖先》三部作の第一作『まっぷたつの子爵』新訳。オムニバス版に書き下ろされた作者序文「一九六〇年の覚書き」(本邦初訳)を収録。〔翻訳権取得〕

◆2020年10月刊 1600円(税別) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志  ◆装画=磯良一
◆Uブックス・オリジナル

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見えない人間
(上・下)


ラルフ・エリスン

松本昇

「僕は見えない人間である」――町の有力者の集まりでバトル・ロイヤルに参加させられ、演説を披露した代償に、黒人大学の奨学金を貰った〈僕〉は、白人の理事を旧奴隷地区へ案内するという失敗を犯して大学を追い出されてしまう。学費を稼ぐためニューヨークへやってきた彼は、たまたま遭遇した立ち退き騒動で発揮した演説の才を見込まれて、民衆運動を組織するブラザーフッド協会の一員となるが……。不可視の存在となり、地下の「穴ぐら」で暮らす男の遍歴を描いた、20世紀アメリカ文学を代表する名作。全米図書賞受賞。

◆2020年11月刊 2400円/2300円(税別)[amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=エドワード・マクナイト・コーファー
◆南雲堂フェニックス(2004)の再刊

ラルフ・エリスン(1914-1994)
オクラホマ・シティに生まれる。黒人大学のタスキーギ学院で作曲を専攻するが、やがて現代アメリカ文学に傾倒、ニューヨークへ移住してハーレムで働きながら彫刻と写真を学ぶ。知遇を得た黒人文学の先駆者リチャード・ライトに勧められ、書評や評論、短篇小説を雑誌に発表し始める。第二次大戦後、1952年に発表した長篇『見えない人間』は絶賛を浴び、全米図書賞を受賞。その後、各地の大学でアメリカ文学とロシア文学を講じながら、評論集『影と行為』(64)、『領土へ行く』(86)を刊行。第二長篇『ジュンティーンス』の執筆を続けたが、未完に終わった(没後出版)。邦訳短篇集に『ラルフ・エリスン短編集』(南雲堂フェニックス)がある。

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小悪魔

フョードル・ソログープ

青山太郎訳

学校教師ペレドーノフは町の独身女性から花婿候補ともてはやされていたが、実は出世主義の俗物で、打算的で傲岸不遜な男。視学官のポストを求めて画策するが、町の人々が自分を妬み、陰謀を企んでいるという疑心暗鬼に陥り、やがて奇怪な妄想に取り憑かれていく。一方、少女にも見紛う美少年サーシャに惚れ込んだリュドミラは、無邪気な恋愛遊戯に耽っていたが……。ロシア象徴主義・デカダン派の作家ソログープが、地位に執着する男の悲喜劇、噂に踊らされる人々の姿を、毒のあるユーモアで戯画化して描いた傑作長篇。

◆2021年5月刊 2640円(税込) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=ミハイル・ヴルーベリ
◆河出書房新社(1972)の再刊

フョードル・ソログープ(1863-1927)
ロシア象徴主義の詩人・小説家。ペテルブルク生まれ。本名フョードル・クズミッチ・テテールニコフ。師範学校で学び、学校教師として働きながら詩や小説を創作。1896年に第一短篇集『影』と長篇『重苦しい夢』を発表。長篇第二作『小悪魔』(1907)が大成功を収め、以後文筆活動に専念、デカダン派の重要作家としての地位を確立する。他に『創造伝説』三部作(1907-13)、戯曲『死の勝利』(1907)など。象徴的な抒情詩でも名声を博し、「かくれんぼ」「毒の園」「白い母」などの世紀末的な死と幻想のイメージに満ちた短篇でも知られる。十月革命には反対の立場をとり、革命後はボリシェヴィキ政府から冷遇された。

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詐欺師の楽園


ヴォルフガング・ヒルデスハイマー

小島衛訳

金持ちで蒐集家のおばに引き取られた私は十五歳で絵を描きはじめた。完成した絵は不謹慎な題材でおばの不興を買ったが、屋敷を訪れていたローベルトおじは絵の勉強を続けるよう激励する。実はこのローベルトこそ、バルカン半島の某公国を巻き込み、架空の画家をでっちあげて世界中の美術館や蒐集家を手玉に取った天才詐欺師にして贋作画家だった。十七歳になった私はおじの待つ公国へ向かったが……。虚構と現実の境界を軽妙に突く、ゲオルク・ビューヒナー賞作家による知られざる傑作。
「これは別格の小説。何故これを書いたのは私ではないのか、考えはじめると口惜しくて夜も眠れない一冊」――佐藤亜紀氏

◆2021年10月刊 1980円(税込) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=ヤン・バプティスト・ウェーニクス
◆新潮社(1968)の再刊

ヴォルフガング・ヒルデスハイマー (1916-1991)
ドイツの作家・劇作家・画家。ハンブルクのユダヤ人家庭に生まれる。パレスチナとロンドンで家具工芸、室内装飾、絵画、舞台美術等を学び、第二次大戦時にはイギリス軍将校として情報・宣伝活動に従事、ニュルンベルク裁判では通訳を務める。戦後、ドイツで文筆活動を開始し、1952年に第一短篇集『愛されぬ伝説』、53年に長篇『詐欺師の楽園』を発表。『眠られぬ夜の旅 テュンセット』(65。邦訳筑摩書房)で作家的地位を確立。1966年、ゲオルク・ビューヒナー賞受賞。戦後派作家の〈47年グループ〉の一員として、小説、エッセー、戯曲、ラジオドラマ等で活躍。演劇分野では不条理演劇の代表者と目された。他の邦訳に『マルボー ある伝記』(松籟社)、『モーツァルト』『モーツァルトは誰だったのか』(白水社)がある。

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地獄の門


モーリス・ルヴェル

中川潤 編訳

愛人の美しい髪の毛への妄執に囚われた男。死んだ男が年下の妻とその愛人に用意した皮肉な復讐。独房で自由と太陽を奪われた放浪者に残されたただひとつの希望。気球で超高空飛行に挑戦した二人を襲った恐怖の出来事……。人生の残酷や悲哀、運命の皮肉を短い枚数で鮮やかに描き、ポーやヴィリエ・ド・リラダンの後継者と称されたルヴェルの残酷コントは、20世紀初めのフランスで絶大な人気を博し、本邦に紹介されて江戸川乱歩や夢野久作らも魅了した。第一短篇集『地獄の門』収録作を中心に、新発見の単行本未収録作を加えた全36篇を新訳で刊行。

◆2022年4月刊 2200円 [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=オディロン・ルドン
◆Uブックス・オリジナル

【収録内容】
髪束/恐れ/狂人/金髪の人/変わり果てた顔/足枷/どちらだ?/消えた男/壁を背にして/仮面/妻の肖像画/雄鶏は鳴いた/鐘楼番/街道にて/接吻/悪しき導き/執刀の権利/最後の授業/古井戸/奇蹟/大時計/遺恨/先生の臨終/太陽/忘却の淵/鴉/鏡/噓/誰が呼んでいる?/高度九千七百メートル/強迫観念/ひと勝負やるか?/窓/伴侶/生還者/小径の先

モーリス・ルヴェル (1875-1926)
フランスの作家・劇作家。1875年、フランス北中部のヴァンドームに生まれる。パリで医学を学ぶが、病院での夜勤中に趣味で書き始めた短篇小説が《ル・ジュルナル》紙に採用され、作家・ジャーナリストとなる。新聞雑誌に発表した数百に及ぶ短篇の多くは恐怖・残酷・異常心理を主題としたもので、ポーやヴィリエ・ド・リラダンの系譜を継ぐ残酷物語と評され人気を博した。残酷劇で有名なグラン・ギニョル劇場に原作を提供、戯曲も執筆している。短篇集に『地獄の門』(1910)、『夜鳥』(1913)、長篇に『恐怖』(1908)、『無名島』(1922)などがある。その作品は大正・昭和初期に《新青年》等で紹介されて好評を博した。邦訳短篇集に田中早苗訳『夜鳥』(日本独自編集、春陽堂、1928/再刊・創元推理文庫)。

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アーモンドの木

ウォルター・デ・ラ・メア

和爾桃子訳

ヒースの原野に建つ家で孤立した生活を送る一家に、父親の不倫という暗い影が差す。聖バレンタインの日、父親は家を出ていくが……少年の目を通して家庭の悲劇を描いた「アーモンドの木」。級友のシートンに誘われ彼の伯母の家を訪れるが、なぜかシートンは伯母をひどく怖れ憎んでいた……謎めいた暗示に満ちた「シートンの伯母さん」ほか全七篇。生と死のあわいのかそけき恐怖、子供の想像力や幻想の世界を繊細なタッチで描いたデ・ラ・メア傑作選。挿絵=エドワード・ゴーリー。

◆2022年8月刊 1980円(税込) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=エドワード・ゴーリー
◆Uブックス・オリジナル

【収録内容】
アーモンドの木/伯爵の求婚/ミス・デュヴィーン/シートンの伯母さん/旅人と寄留者/クルー/ルーシー

ウォルター・デ・ラ・メア(873-1956)
イギリスの小説家・詩人・児童文学作家。ケント州チャールトンでユグノー教徒の家系に生まれる。セント・ポール大聖堂の聖歌隊学校で学内誌に詩や短篇を発表。同校を中退後はアメリカの石油会社のロンドン支社で働きながら創作に励んだ。第一詩集『幼年の歌』(1902)、長篇小説『ヘンリー・ブロッケン』(1904)で注目を集め、1908年、職を辞して作家生活に入る。長篇『ムルガーのはるかな旅』(1910)、『死者の誘い』(1910)、『侏儒の回想録』(1921。ジェイムズ・テイト・ブラック文学賞受賞)、短篇集『謎』(1923)、『魔女の箒』(1925)、詩集『耳をすます者たち』(1912)、『孔雀のパイ』(1913)など多くの著作があり、子供の想像力や幻想の世界を繊細に描いた作品で独自の文学的地位を築いた。児童文学の分野では『子供のための物語集』(1947)でカーネギー賞を受賞。日本独自の選集に『ウォルター・デ・ラ・メア作品集』全3巻(牧神社)、『恋のお守り』(ちくま文庫)、『デ・ラ・メア幻想短篇集』(国書刊行会)などがある。

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エバ・ルーナ


イサベル・アジェンデ

木村榮一・新谷美紀子訳

わたしの名はエバ。生命を意味している――南アメリカの独裁制国家、密林の捨て子だった母親と先住民の庭師との間に生まれた娘エバは、人間の剝製法を研究する博士の屋敷を振り出しに様々な家を転々としながら成長し、街の不良少年、娼婦の元締めの女将、間違って男に生まれてしまった美女、辺境の町のアラブ人商店主など多くの人々と出会い、やがて愛を知り、革命に関わり、物語の語り手としての人生を切り開いていく。〈現代のシェヘラザード〉アジェンデの世界中を虜にした傑作。

◆2022年9月刊 2860円(税込) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=アンリ・ルソー
◆国書刊行会(1994)の再刊

イサベル・アジェンデ(1942- )
ペルーのリマで生まれる。生後まもなく父親が出奔、母親とともに祖国チリに戻り、祖父母の家で育つ。19歳で結婚後、雑誌記者となるが、1976年、アジェンデ政権が軍部クーデターで倒れるとベネズエラに亡命。1982年、一族の歴史に想を得た小説第一作『精霊たちの家』(河出文庫)が世界的ベストセラーとなり、『エバ・ルーナ』(87)、『エバ・ルーナのお話』(89。白水Uブックス近刊)など、物語性豊かな作品で人気を博した。1988年、再婚を機にアメリカへ移住。以後、カリフォルニアで創作活動を続ける。その他の邦訳に『パウラ、水泡なすもろき命』(国書刊行会)、『天使の運命』(PHP研究所)、『神と野獣の都』(扶桑社)、『日本人の恋びと』(河出書房新社)など。

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エバ・ルーナのお話

イサベル・アジェンデ

木村榮一・窪田典子訳

言葉とお話を売る娘〈暁のベリーサ〉から大統領選用の演説を買った大佐、イラ族の娘の魂とともに旅をした先住民の狩人、男がうっかりしていたばかりに四十七年間廃工場の地下室で幽閉生活を過ごすことになった女性、サーカス一座の団長がひと目惚れした宝石商夫人に捧げた最高の贈り物、独裁者最後の恋と密林に埋もれた幻の宮殿、土石流に襲われた村で顏だけを出して泥に埋まった小さな女の子……お話の名人エバが言葉の糸を紡いで織りあげた様々な人生の物語。長篇『エバ・ルーナ』から生まれた珠玉の物語集。

◆2022年10月刊 2640円(税込) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=アンリ・ルソー
◆国書刊行会(1995)の再刊

【収録内容】
二つの言葉/悪い娘/クラリーサ/ヒキガエルの口/トマス・バルガスの黄金/心に触れる音楽/恋人への贈り物/トスカ/ワリマイ/エステル・ルセーロ/無垢のマリーア/忘却の彼方/小さなハイデルベルク/判事の妻/北への道/宿泊客/人から尊敬される方法/終わりのない人生/つつましい奇跡/ある復讐/裏切られた愛の手紙/幻の宮殿/わたしたちは泥で作られている
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トランペット

ウォルター・デ・ラ・メア

和爾桃子訳

天使像が持つ木製のトランペットを吹き鳴らしたら、いったい何が起こるのか。幽霊を探索に深夜の教会に忍び込んだ二人の少年の冒険を描く「トランペット」。ある暑い夏の日、ロンドンの喫茶店で出会った中年男がべらべらと語り続ける同居女性の失踪話に薄気味悪さがにじむ「失踪」。銀行を馘になった若者が大金持ちの伯父御用達デパートの売場巡りに乗り出す「お好み三昧――風流小景」。エリザベス一世の時代に生まれ、三百五十年の歳月を生きてきた老女の誕生日に、田舎のお屋敷に招かれた少女が受けた意外な提案とは……「アリスの代母さま」ほか全七篇を収録。老人と幼い子供のみが垣間見る生と死の秘密、月下の幻想、辛辣なユーモアと軽妙なウィット。詩人ならではの繊細な描写に仄かな毒と戦慄がひそむ短篇の名手デ・ラ・メアの傑作を清新な新訳で贈る。挿絵=エドワード・ゴーリー。

◆2023年6月刊 1980円(税込) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=エドワード・ゴーリー
◆Uブックス・オリジナル

【収録内容】
失踪/トランペット/豚/ミス・ミラー/お好み三昧――風流小景/アリスの代母さま/姫

ウォルター・デ・ラ・メア(873-1956)
イギリスの小説家・詩人・児童文学作家。ケント州チャールトンでユグノー教徒の家系に生まれる。セント・ポール大聖堂の聖歌隊学校で学内誌に詩や短篇を発表。同校を中退後はアメリカの石油会社のロンドン支社で働きながら創作に励んだ。第一詩集『幼年の歌』(1902)、長篇小説『ヘンリー・ブロッケン』(1904)で注目を集め、1908年、職を辞して作家生活に入る。長篇『ムルガーのはるかな旅』(1910)、『死者の誘い』(1910)、『侏儒の回想録』(1921。ジェイムズ・テイト・ブラック文学賞受賞)、短篇集『謎』(1923)、『魔女の箒』(1925)、詩集『耳をすます者たち』(1912)、『孔雀のパイ』(1913)など多くの著作があり、子供の想像力や幻想の世界を繊細に描いた作品で独自の文学的地位を築いた。児童文学の分野では『子供のための物語集』(1947)でカーネギー賞を受賞。日本独自の選集に『ウォルター・デ・ラ・メア作品集』全3巻(牧神社)、『恋のお守り』(ちくま文庫)、『デ・ラ・メア幻想短篇集』(国書刊行会)などがある。

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魔の聖堂

ピーター・アクロイド

矢野浩三郎訳

18世紀初め、ロンドン大火後の都市再建計画の一環として、サー・クリストファー・レンの監督下に建設中の七つの教会に、異端の聖堂建築家ニコラス・ダイアーが秘かに仕掛けた企みとは。一方、現代のロンドンでは教会周辺で少年ばかりを狙った連続殺人が発生、有力な手掛かりもないまま深まる謎に、捜査を指揮するホークスムア警視正は次第に事件の奥底に潜む闇に呑み込まれていく……。円環する時間と重層する空間、魔都ロンドンの過去と現在が交錯する都市迷宮小説の傑作。ウィットブレッド賞、ガーディアン小説賞受賞。

◆2023年12月刊 2750円(税込) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=ウィリアム・ブレイク
◆新潮社(1997)の再刊

ピーター・アクロイドタフ・マイリンク (1949- )
イギリスの小説家・伝記作家・批評家。ロンドンで生まれる。ケンブリッジ大学卒業後、イェール大学特別研究員を経て《スペクテイター》誌編集者となり、書評・評論・詩など旺盛な執筆活動を開始。1982 年、小説第一作『ロンドンの大火』を発表。『オスカー・ワイルドの遺言』(83。晶文社)、『魔の聖堂』(85)、『チャタトン偽書』(87。文藝春秋)、『原初の光』(89。新潮社)、『切り裂き魔ゴーレム』(94。白水社)など、主に歴史的事件や人物に想を得た作品で数々の文学賞に輝く。ノンフィクションの著作に『ロンドン:伝記』、『T・S・エリオット』(みすず書房)、『ディケンズ』、『ブレイク伝』(みすず書房)、『シェイクスピア伝』(白水社)などがある。




義とされた罪人の手記と告白

ジェイムズ・ホッグ

高橋和久訳

17世紀末のスコットランド、地方領主コルウァンの二人の息子は両親の不和により別々に育てられた。明朗快活で誰にでも愛される兄ジョージと、厳格な信仰をもつ母親のもとで陰鬱な宗教的狂熱の虜となった弟ロバート。自分が神に義認されあらゆる罪を免れていると信じるロバートは、17歳の誕生日に出会った不思議な力を持つ人物に唆されるまま、恐ろしい行為を重ねていく。変幻自在にその姿を変える〝謎の友人〟の正体は? そして政治的対立に揺れる議会開催中のエディンバラで、兄弟の宿命的な確執はついに衝撃の結末へ……。奇怪な事件の顚末が異なる視点から語られ、重層するテクストが読者を解釈の迷宮へと誘う。小説の可能性を極限まで追求し、アラスター・グレイらの現代作家にも多大な影響を与える、ゴシック小説隆盛の掉尾を飾る傑作にして早過ぎたポストモダン小説。(『悪の誘惑』改題)

◆2024年3月予定 予価2530円(税込) [amazon]
◆装丁=田中一光/片山真佐志 ◆装画=ウィリアム・ブレイク
◆国書刊行会(1980)の再刊



ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件

ホルヘ・ルイス・ボルヘス&アドルフォ・ビオイ=カサーレス

木村榮一訳


◆装丁=田中一光/片山真佐志