【内容見本でみる国書刊行会 第17回】


《怪奇小説の世紀》 全3巻、西崎憲編 (1992-93)。

パンフは縦長二つ折の簡単なもの。
表紙の絵は御存知ハリー・クラークのポー挿絵から 「アッシャー家の崩壊」。

『怪奇小説傑作集』 (創元推理文庫) や 『こわい話気味のわるい話』 (牧神社) のような
怪奇小説アンソロジーをつくりたい、という西崎憲さんの願いが実現した最初の仕事。
(企画持ち込みの経緯については、10年ほど前に当時を振り返った記事がある)
『怪奇小説の世紀』 から10年後の2002年、西崎さんは『世界の果ての庭』で
日本ファンタジーノベル大賞を受賞して小説家デビュー。翻訳のほうも、怪奇小説にとどまらず、
ポー、ヴァージニア・ウルフ、ヘミングウェイなどを手がけ、幅広く活躍を続けている。
現在、『怪奇小説の世紀』 から十数篇を精選、新訳を加えたアンソロジーをちくま文庫で準備中。


この 《怪奇小説の世紀》 から発展的に生まれた企画が
《魔法の本棚》 全6巻 (1996-99)。

パンフは縦長三つ折。
表紙の絵はマリオ・ラボチェッタ 『ホフマン物語』 から。裏面のカット2点(本棚と女の顔)はハリー・クラーク。

ウェイクフィールド、ヨナス・リー、エイクマンは 《怪奇小説の世紀》 の収録作から
この作家で一冊まとめてみたい、と思ったもの。
またコッパードは西崎さんの、ミドルトンは南條さんの、それぞれ特別な作家で、
アレクサンドル・グリーンは沼野氏の東欧ロシア文学紹介の出発点となった作家。
(グリーンの長篇 『輝く世界』 翻訳は氏が大学院在学中のお仕事)
同時期にすすめていた探偵小説企画とはまた別の意味で
自分の好みを押し出した企画で、愛着のあるシリーズ。


【余談】
実はこのシリーズ、企画書の段階では 《夢の文学館》 というタイトルだった。
取次週報の 「今年の新企画」 コーナーに、この名前で予告が出たこともあるのだが、
準備に手間取ってぼやぼやしている間に、早川書房で1995年に 《夢の文学館》 シリーズが
始まってしまった (コニー・ウィリス 『ドゥームズデイ・ブック』、プリースト『魔法』 など5点を刊行。
予告されていたジョン・クロウリー 『エヂプト』 は夢のまま終ってしまうのか?)
それでは、というので急遽ひねりだしたのが 《魔法の本棚》 というわけ。
結果として、こちらのほうがよかったと思う。
(パンフのコピー 「書斎の冒険者のための夢の文学館」 というフレーズに当初案の名残がある)
                                            

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