【内容見本でみる国書刊行会 第15回】


《定本ラヴクラフト全集》 全10巻 (1984-86)。矢野浩三郎編・監訳。

函絵に使用したH・R・ギーガーの絵 (「呪文」) をあしらった縦二つ折りの内容見本。ギーガーはこのあと 《アレイスター・クロウリー著作集》 でも起用されている。




ラヴクラフト研究者S・T・ヨシ校訂のテクストを翻訳底本にしたのが特色で、《ウィアード・テールズ》 等の掲載誌や、アーカムハウス版の作品集には原稿の改竄や誤植が多かったという。ちなみに本全集では、 Cthulhu の表記は荒俣宏氏が採用した 「ク・リトル・リトル」 ではなく、より自然な読み方の 「クスルウー」 を採っている。

現在では文庫版ラヴクラフト全集も出ているが、書簡、詩、評論、エッセーなど、いまだにこの国書刊行会版でしか読めないものも多い。
それにしても 「本邦一千万怪奇ファン」 とは大きく出たなあ。

推薦文は村上春樹、田中光二の両氏。アーカム・ハウス社の日本の読者へのメッセージも。
「僕にとってラヴクラフトという存在はひとつの理想である。(中略) ラヴクラフトを手にとるたびに、小説を読むことの喜びの髄とも表すべきあのすさまじい戦慄を身のうちに感じないわけにはいかないのだ」(村上春樹氏)
「世紀末をむかえ、人類文明が大いなる激動期をすごさねばならぬ今、ラヴクラフトの存在はいっそう大きい」(田中光二氏)
なお、村上氏は 《幻想文学》 第3号 (1983) のインタビューでも、ラヴクラフトやR・E・ハワードら、ウィアード・テイルズ派への愛着を語り、「“クトゥルー神話大系” とかね。ああいうの面白いし、なんとなく書いてみたくなりますよね」 とまで言っている。(同誌掲載のインタビューをまとめた 『幻想文学講義』 (国書刊行会) には残念ながら未収録)



本全集の発刊を記念して、1984年9月22日、草月ホールで行われた 「ラヴクラフト・フェスティバル」 のチラシ。
紀田順一郎氏の 「日本におけるラヴクラフト紹介の流れ」、監訳者・矢野浩三郎氏の 「ラヴクラフト=テキストの重要性」 の講演につづき、映画 《異次元の色彩》 (AIP, 1965) が上映された。

                                            

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