【内容見本でみる国書刊行会 第14回】


《ブラック・マスクの世界》 全5巻・別巻1 (1986-87)。小鷹信光編。
1920年創刊、ハメット、ガードナー、チャンドラーらを輩出した伝説のパルプ・マガジン《ブラック・マスク》の掲載作品を精選、『「ブラック・マスク」の英雄たち1・2』『「ブラック・マスク」の栄光』『忘れられたヒーローたち』『異色作品集』の全5巻に編集したアンソロジー。
国書刊行会初の翻訳ミステリ叢書であり、パルプ・マガジンのアンソロジーという点では、《ウィアードテールズ》の流れも汲む。

編者の小鷹信光氏はいわずとしれたハードボイルド翻訳・研究の第一人者、この叢書の直前には《アメリカン・ハードボイルド》全10巻(河出書房新社、1984-85)を監修している。1985年春、アメリカ西海岸を訪ねて、《ブラック・マスク》関係の調査と資料収集を行なった小鷹氏は、同誌の総目次を作成、《ブラック・マスクの世界》の編集・翻訳作業にとりかかった。後に、「これほど豪華な《ブラック・マスク》アンソロジーはもちろん世界中を探しても類はない」(『私のハードボイルド』)と振り返っている。


和田誠監督の映画《快盗ルビイ》(1988)の冒頭、真田広之の住むマンションに越してきた小泉今日子(フリーのスタイリスト、実は快盗ルビイ)の引越し荷物の中に《ブラック・マスクの世界》があって、当時、社内で話題になったのを思い出した。


【余談】
《ブラック・マスクの世界》は国書刊行会初の翻訳ミステリ叢書だが、このあと《クライム・ブックス》(1991)、《世界探偵小説全集》(1994)発刊の前に、もうひとつのミステリ叢書が存在する。
《パリ風俗犯罪ファイル》全10巻(1990-91)である。
「プレイボーイ刑事〈デカ〉コランタンと気のいい相棒ブリショーの名コンビが、大都会の裏側で発生する凶悪犯罪を次々に解決してゆく。誘拐魔、殺人鬼、麻薬密売人、武器密輸、少女売春――今宵もまた美しい犠牲者が・・・」
〈プリンス・マルコ〉シリーズで一世を風靡したジェラール・ド・ヴィリエ監修のフランス・ミステリ・シリーズ。国書なのに新書判、国書なのに795円、しかもちょいエロ(なんでもアリみたいに思われている会社だが、実はエロ系はめずらしい)。『少女市場』『性学講座』『調教師』といったタイトルで、だいたいの内容は察せられるかと思う。社内企画ではなく、外部からの持ち込みだったと記憶する。

                                            

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