【内容見本でみる国書刊行会 第11回】


ドイツ・ロマン派全集、ドイツの世紀末、とくれば、次は当然、
《フランス世紀末文学叢書》 全15巻 (1984-90)。

ピエール・ルイス、シュオブ、ユイスマンス、ミルボー、ジャリ、ジャン・ロランなど、フランス19世紀末文学の精華を集成。詞華集、評論・随想集に、「フランス世紀末文人列伝」 ともいうべきグールモン 『仮面の書』 を配した。装丁=山下昌也。各巻に澁澤龍彦選定の世紀末絵画一葉を収録。
内容見本は16頁の小冊子。
推薦文は中村真一郎、佐藤朔、齋藤磯雄の各氏。
「そして今、丁度一世紀の時の流れのあとで、西欧では再び前世紀末文学の復活が始まろうとしている。それは単なる懐古趣味ではなかろう。時代の悪気流がまたもや、あの瑰麗典雅にして、美を宗教にまで高めた一群の文学を、永い眠りから喚び覚そうとしているのである」(中村真一郎)
「このたびの 「叢書」 には、本邦初譯の作品群を中心として、戦前から屡々紹介されながら今や稀覯となつた名品の数々も蒐めてある。悲哀の香気を放つ蒼白な夜光の花があり、頽唐の美滴るばかりの残紅があり、神経の祈願にをののく漆黒の奇異な葩(はなびら)もある。これらの群芳をはぐくんだ園丁の多くは、人生に向つて 「想像」 の世界に服従せよと命ずるすべを心得てゐた 「夢想界の選良」 たちであつた」(齋藤磯雄)


このいかにも 「仏蘭西文學」 という趣の叢書とは対照的に、当のフランス国民から 「裏切り者」 の烙印を押され、長く汚名にまみれ不遇をかこってきた作家たちに光をあてた 〈反フランス〉 的な文学叢書が
《1945:もうひとつのフランス》 全8巻別巻1 (1987-2009)。

対独協力、ファシズムへの傾倒によって、第二次大戦終結後、フランス文学界から抹殺された呪われた作家、ドリュ・ラ・ロシェル、ロベール・ブラジヤック、リュシアン・ルバテと、次世代にあって唯一その文学的命脈をたもったロジェ・ニミエの作品を収録。(対独協力者の三人が絶たれたのは文壇生命だけではなかった。ドリュは逮捕状発令時に自殺。ブラジヤックは国事犯として銃殺刑に処され、ルバテは死刑判決の後、特赦をうけた。ちなみに戦後派のニミエも、高速道路を時速200キロで走行中に事故を起こし、37歳の早すぎる死を遂げている)
別巻 『奇妙な廃墟―フランスにおける反近代主義の系譜とコラボラトゥール』 は評論家・福田和也氏のデビュー作 (執筆依頼時にはまだ慶應の院生だった)。

《フランス世紀末文学叢書》 発刊から30年近く経ったいま、国書刊行会では、同叢書の収録作家の中から 《アルフレッド・ジャリ全集》 《マルセル・シュオブ全集》 の企画が進行中と聞く。

                                            

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