たまたまスカパー!で『ベルばら』を観たらめちゃくちゃ面白かったので、一度ちゃんと勉強しようと思い立った。
シュテファン・ツヴァイクの同名伝記(『ベルばら』は、ほぼこの本に則っているとされる)が有名だけれども、1933年刊行と少し古い。最近の研究成果が反映されたものが読みたかったので、アントニア・フレイザー『マリー・アントワネット』(早川書房、2006年)を選んでみた。
以下、初めて知った事実を摘記。
「パンがなければお菓子を食べればいい」という有名な言葉は、アントワネットの時代の少なくとも100年前から知られており、当時はスペインの王女マリー・テレーズの発言とされていた。正確には「パンがないなら、クルート(パイ皮)を食べさせなさい」。
ルイ16世が真性包茎のため不能だったというのは俗説。手術を受けたという事実もない。
フェルセン伯爵には、王妃と関係を持つようになって以後も、他に2人の愛人がいた。もっともヴァレンヌ事件に見られるように、フェルセンが王妃に献身的に仕えたのは事実。なお『ベルばら』ではフェルゼン表記だが、フェルセンの方が原音に近いらしい。
王妃の寵愛により権勢を得たポリニャック伯夫人は、バスティーユ事件後にアントワネットから逃亡を勧められたが、当初は拒否した。ルイ16世もまじえた強い説得により、ようやくスイスへの亡命を受諾。
王妃の処刑の報を聞いた直後、後を追うように死去した。ガンを患っていたらしいが、王妃の死が死期を早めたとされる。
王妃を中傷する風刺文書は、しばしば王妃を同性愛者として描いた。そのため、現在ではマリー・アントワネットはゲイのアイコンになっている。
一番驚いたのは、ロザリーは実在の人物(がモデル)だという点。
ロザリー・ラモリエールは牢獄の看守夫妻の小間使いをしていた関係で、王妃の最後の日々、身の回りの世話をした。収監中の王妃の様子が現在に伝わっているのは、彼女の回想による。
読み書きはほとんどできなかったが、心根がやさしく、しかも生まれつき頭がよかったロザリーは、年老いてから獄中の王妃について口述の回想録を残したが、そこには胸を打つエピソードが語られている。王妃がもの思いにふけって、二つのダイヤの指輪を指から外しては別の指にはめ、また戻すという動作を延々とくりかえしていたこと。また、過去の暮らしを痛烈に思い出させるハープの音色に顔を上げ、女囚の誰かが弾いているのかと訊ねたこと(本当は、ガラス職人の娘が窓ガラスをこすっている音だった)。358ページ。
もちろん、『ベルばら』のロザリーがポリニャック夫人の娘だったりするのはフィクション。この実在のロザリーをふくらませたものであろう。
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