更新履歴と周辺雑記

更新履歴を兼ねて、日記付け。完結していない作品については、ここに書いていきます。

2012年5月28日(月)
甲子園優勝投手のその後

年に何回か読み返してみたくなる文章、というものがある。

例えばひとつはこれ。
「愛なきエセUFOマニアは去れ!」
http://homepage3.nifty.com/hirorin/ufomania.htm

と学会会長山本弘氏のエッセイ。
山本氏のいうことは正しい。正しすぎて鬱陶しいこともたまにあるが、このエッセイの「無知であることは悪くはない。だが、無知であることを恥じないのは、とてつもなく不快なことである」はまさに至言。

あるいは、氷川竜介『世紀末アニメ熱論』所収の「世紀末の残像・・・ガメラ3という試金石」。

そしてこれもそのひとつだ。

「早実の斎藤はなぜ4連投しなければならないのか。」。
http://kenbtsu.way-nifty.com/blog/2006/08/4_2f6f.html

夏の高校野球に対する批判として、これ以上の文章は出てくるまい。
ただ、このときとは少し事情が変わった。その当の斎藤祐樹がファイターズ入りし、2年目にして開幕投手を務め、順調にエースへと成長しているからだ。
「夏の大会の投手酷使」を、斎藤の事例で代表させるのは、いまや通用しなくなっているのではないか?
必要なのは、定量的に「一体何人の優勝投手がプロ入りし、何人が大成したのか」を明らかにすることである。
そこで、ちょっと調べてみた。と言うか、検索してみたらすでに調べてくれている方がおられたので、便乗することにする。





なお、知らないうちにひっそりと10万アクセスに到達しました。お引き立てありがとうございます。
今後もひっそりと続けていきます。

2012年5月21日(月)
実録『憲兵とバラバラ死美人』

日本映画史上屈指のインパクトを誇るこのタイトルは、ゲテモノ専科新東宝の1957年作品。



帝国陸軍内で発生した猟奇事件を描く怪奇スリラー。日本軍の歩兵部隊で、井戸から死体が発見されるという事件が発生した。調査に赴いた小坂憲兵は、死体が陸軍病院でバラバラにされたことを突き止めた。やがてその線から一人の男が浮かび上がる……という映画なのだが。

最近本業の調べ物をしていて初めて知ったのだけれど、これ実際の事件を下敷きにしているのだ。

軽く検索してみた限りでは、実際の事件の経緯はネット上では知られていないようなので、以下『日本憲兵正史』からまるまる引用する。

仙台の猟奇殺人事件

昭和十三年一月二十三日午後二時頃、第二師団経理部の依頼を受けた仙台市内の鳶職樫村清之助が、歩兵第四連隊営庭の炊事雑用井戸の底を浚うため蓋をとると、水面に性別不明の腐乱屍体が浮かんでいるのを発見して、たちまち大騒ぎとなった。
急報を受けた仙台憲兵分隊長笠原三郎少佐が、下士官二名を連れて現場へ到着すると、直ちに第四連隊副官及び隊付軍医立会のもとに、屍体を井戸より引揚げて検証すると、この屍体の状態が物凄かった。つまり首と両腕、さらに両膝から下が切断されて、残った胴体と両股が荒縄で縛ってあったのだ。しかも屍体は年齢不詳で、妊娠している女性であることまで判明した。
笠原分隊長は直ちに警察及び仙台地方裁判所検事正など、関係方面に連絡するとともに、検事側の反対を押切って新聞記事掲載を禁止し、捜査にかかった。

折から第二師団(師団長岡村寧次中将)は、昭和十二年四月に満州に派遣され、七月七日の支那事変勃発とともに、仙台では第十三師団を編成して中支方面へと出動後という時期であった。したがって、歩兵第四連隊内で女性のいわゆるバラバラ屍体が発見されたとあっては、軍の内外に与える衝撃が憂慮されたのである。もちろん、この時点ではまだ営内、営外のいずれで行われた犯行か不明であったため、万一連隊内将兵の犯行であった場合を考慮したものである。ところが、この事件は早くも一月二十五日付の東京日日新聞に一部報道され、俄然猟奇事件として世間の注目を浴びることになってしまった。屍体は直ちに東北帝国大学医学教室に運ばれ、石川博士の解剖が行われると、屍体はすでに一年以上経過して腐乱していたが、それでも年齢三十歳までの女性で、身長並びに妊娠八、九ヶ月であることなどが判明した。意外に若い女性だったのである。

屍体の発見された井戸は、営庭を囲む生垣から約十七メートルの位置で、井戸の蓋には鍵がない。したがって、夜間なら外から容易に侵入できるわけである。捜査の手掛りとなるものは、屍体を包んであった菰と荒縄の残りと、腰部に付着していた衣類だけであった。そこでまず切断をされたと思われる頭部と両足の発見につとめ、屍体が発見された井戸を始め、他の井戸及び営内をくまなく探したが、どうしても発見できなかった。

一方、仙台憲兵分隊は折から在仙台部隊の出征、還送患者、遺骨の通過、到着などの連絡、立会いに忙殺されていたので、岡本准尉以下大槻七郎軍曹と上等兵によって捜査班をつくり、事件解決に専念した。
二月二日、屍体の他の部分がどうしても発見できず、この捜査を一応打切って営内捜査を開始した。当時、歩兵第四連隊は留守部隊で、招集の将兵少数が在営するだけであったが、屍体は一年前に殺害、遺棄されたものとして捜査に入った。在営の将兵、連隊への出入商人、除隊者、特に馘首された者、屍体に付着していた衣類、菰、荒縄、面会人の名簿の線にそって捜査がすすめられたが、杳として解決の糸口さえつかめなかった。

この間、一月二十九日、仙台地方裁判所において山本検事正以下の検事局側と、憲兵隊との懇談が行われ、検事側から兵営の検証と、犯人が軍人以外の民間人である場合も考慮されて、事件の取扱いが協議されたが、憲兵側は検事側の介入を統帥権干犯と拒否し、検事側は現場を検分しただけにとどめた。こうなると、憲兵隊は面目にかけても犯人を挙げなければならない。

営内の捜査で行詰まった憲兵側は、営外聞込み捜査に転じ、連隊附近の料理屋を始め民衆の集るところ、井戸、墓場、寺院内無縁仏から、隠亡(墓守兼死体を焼く職人)、墓場荒しまで捜査したが、屍体の身許が不明なので捜査は全面的に行詰まった。こうなると事件について種々の流言が流布され、憲兵隊は捜査方針に迷い、祈祷師に占いまでしてもらう動揺ぶりであった。ところが、この占いがいくつかの点で不思議に的中していたのである。もちろん、これは後で判明したことである。

二月七日、懸命に聞込捜査を続けていた大槻七郎軍曹が、連隊附近の宮城県警察部衛生課長宅の女中平塚つね(当時二十三歳)が、昭和十一年頃から行方不明であることを突き止め、実家を調べると、すでに昭和十三年二月七日に仙台警察署の刑事が来訪して、取調べをしていたことが判明した。実は雇主の衛生課長は、事件以来早くも被害者が自宅の女中平塚つねではないかと心配して、部下の佐藤巡査部長に内定させていたのである。しかも、実家からは佐藤巡査部長をとおし、警察に対して三回も捜査願いを提出していることまで判明した。

被害者は平塚つねに間違いないと踏んだ大槻軍曹が被害者の生前の素行を調べると、歩兵第四連隊の佐藤衛生軍曹に認知要求をしていること、さらに昭和十一年五月十二日に、仙台市立病院で診察まで受け、妊娠六ヶ月であったことまで判明した。こうなると、どうしても問題の頭蓋骨を探さなければならない。大槻軍曹はここで佐藤衛生軍曹が、以前陸軍病院勤務であったことを思出し、陸軍病院内の井戸を捜索することにした。死体の処置には病院内は好都合なところである。

二月十四日、分隊の協力を得た大槻軍曹は、陸軍病院内にかつて患者が飛込み自殺をして、使用していない井戸のあることを聞き、その井戸浚いをすると、果たして頭蓋骨を始め切断された各部分が発見された。そこで平塚つねが歯の治療を受けたことのある歯科医に、頭蓋骨の歯を確かめると、やはり被害者は間違いなく平塚つねであった。
また、平塚つねが家出をしたとき、仙台駅で投函した無記名の封書があることを聞込んだ大槻軍曹は、これを雇主衛生課長宅から発見押収した。その封書には、男のペン書きの筆跡で、平塚つねと横浜方面へ駈落ちをするわび文が書いてあった。
大槻軍曹がその筆跡を鑑定させたところ、佐藤軍曹の筆跡に似てはいるが相違するとの応えであった。しかも、平塚つねには他の男との関係も噂され、犯人を佐藤軍曹と断定できず、さらに佐藤軍曹の周辺を洗った。

容疑者佐藤は、昭和九年一月三十一日に歩兵第四連隊に補欠入営後、昭和十年二月に看護兵として仙台陸軍病院に転属、昭和十一年八月、衛生伍長として歩兵第四連隊に再び転属、十二月に軍曹に進級、昭和十二年四月十八日に連隊とともに満州に派遣された。
入営当時、真面目で精勤章を三回も付与されながら、佐藤の行状は次第に荒さみ、初年兵への私的制裁や、金銭上のトラブルが絶えなくなった。特に飲酒酩酊後の乱暴は酷く、兵数名に対し、陸軍病院付近の女と関係してぶった斬った、などと高言したことのある事実までつかんだ。しかも、事件当時、佐藤には福島県藤田町にすでに意中の女性まであった。そして平塚つねの行方不明後に結婚していたのである。
さらに平塚つねの友人の話でも、佐藤軍曹と関係があり、佐藤から二年たてば営外居住となり、月給四十五円になるからそれまで待て、と説得されていた事実をつかんだ。また、昭和十二年五月二十七日、つまり家出の前夜九時頃、外から平塚つねに男からの電話があったことが判明した。

ここにおいて、大槻軍曹は分隊長に報告、分隊長は師団参謀長を説得のうえ、満州の牡丹江憲兵隊に連絡して、佐藤軍曹勾引の執行を依頼し、分隊より准尉、下士官二名が安東まで身柄引取りに向かった。
牡丹江憲兵隊に護送された佐藤軍曹は、途中、進行中の列車より飛降りて逃走を図ったが、負傷して捕われ、仙台に護送されたのは二月二十八日であった。

佐藤自供の結果次のことが判明した。
まず、佐藤が平塚つねを識ったのは、陸軍病院に勤務中の昭和十年五月頃、平塚つねが親戚の入院患者を見舞いに来たことに始まる。男女の仲は遠くて近い。やがて佐藤と平塚つねは急速に親しくなり、翌昭和十一年五月下旬、佐藤は平塚つねから妊娠を知らされた。ところが、佐藤にはすでに二月に婚約した女性があったので、平塚つねの妊娠対策に苦慮したあげく、五月二十七日夜、平塚つねを陸軍病院に呼んで偽装心中を図ったが、失敗すると、ついに平塚つねを絞殺して死体を病室の床下に埋め、被害者の行方不明を装うため、五月三十一日に部下の看護兵に封書を代筆させ、仙台駅から衛生課長宛投函させた。この看護兵は満期除隊して、取調べの際も何の疑念も抱かず、他人にも代筆の件を語らなかった。ところが、八月一日に佐藤は歩兵第四連隊に転属したが、病院改築の噂を聞き、屍体が発見されるのを恐れ、慌てて十一月二十二日(推定)の夜、再び病院に忍びこみ、前記の井戸二カ所に分けて屍体を放棄したのであった。屍体がバラバラになったのは、すでに腐乱していたからであるが、首は捻切ったという。

昭和十三年九月二十七日、第二師団軍法会議は佐藤丑蔵(二十六歳)を殺人および死体遺棄によって、懲役七年の刑に処した。
事件の新聞記事解禁となったのは八月五日であった。だが、仙台憲兵分隊は記事編集に当たって、見出しその他について誇大または刺激的報道にならぬよう要望した。
この事件の教訓は、犯罪捜査には小乗的功名争いは厳禁すべきことであった。特に憲兵はつねに寡少兵力で行動するだけに、捜査指揮官以下が、一致協力して計画的捜査を必要とすることを教えた。また、事件送致に当たって戸籍の確認をすると、ある事情で被害者の平塚つねが、実は小山つねであったことが判明して、担当憲兵を慌てさせた。

『日本憲兵正史』全国憲友会連合会編集・発行、1976年、647-650ページ。

下は、事件解決を伝える昭和13年8月6日の東京朝日新聞。




この事件を面白おかしく脚色した実録風小説『のたうつ憲兵-首なし胴体捜査68日』(小坂慶介、東京選書、1957年。これまた凄いタイトルだ)を、さらに映画化したのが『バラバラ死美人』というわけ。実際の事件では哀れな被害者だった女中が、この小説では男出入りの激しい姦婦ということになっていて、時代を感じないではない。


2012年5月14日(月)
『コードギアス』ラストシーンの画面構成(だけ)から見た解釈

毎度旬を外した話題ですみません。

なおこの記事は、『コードギアス』と『ストレンヂア』と『カウボーイビバップ』と『グラディエーター』と『暴力脱獄』と『ヒート』と『デッドゾーン』と『ロード・トゥ・パーディション』と『ソナチネ』と『12モンキーズ』のネタバレを含みます。

それでも良ければどうぞ

2012年5月8日(火)
最近の映画など

当サイト開設から早丸6年が経ちました。お引き立て頂いた皆様、ありがとうございます。
今年は本業が少しばかり忙しくて、あまり更新できませんがマイペースで。

○ 
『サウンド・オブ・ノイズ』
町山センセのたまむすびで紹介していたスウェーデン映画。あり合わせのもの(人工呼吸器とか銀行のコンピュータとか)で演奏をする音楽テロリストを音痴の刑事が追う、というお話だが、なんか聞いたことあるなあ、と思って調べたらやっぱり。

短編映画集『Short6』('01)に、『四つの部屋と六人の打楽器奏者のための音楽』という作品が収録されている。

町山氏のブログに貼り付けてあるコレ。



これは独立した短編で、監督のオーラ・シモンソンの初長編が『サウンド・オブ・ノイズ』ということらしい。

○ 『孤島の王』
北欧つながりで、ノルウェー映画を観てきた。
20世紀初頭、オスロ南方75kmのバストイ島に実在した少年矯正施設での暴動をモチーフにした作品。
『暴力脱獄』『パピヨン』『ショーシャンクの空に』と連綿と続く「自由への渇望」をテーマにした映画の一つだけれど、重苦しい灰色の海と空が絶望をあおる。
重労働、懲罰房、性的虐待と刑務所ものの基本を押さえつつ、あくまで淡々と突き放したカメラが好印象。でないと正視に耐えないというのもあるが。だって懲罰中の食事と言ったら、バケツいっぱいの魚の骨!懲罰「房」ですらなくて、棺桶サイズの檻!
その所長を演じているのが北欧の名優ステラン・スカルスガルドなのだが、これが本当に信仰心篤く、少年の非行を憂える人物として演じている。決して悪人でもサディストでもないのが良い。

刑務所ものと言えば年明けに、1960年反右派闘争渦中の中国の収容所を舞台にした『無言歌』を観たがこれも凄かった。
収容所と言えば普通は、丸太小屋、鉄条網、監視塔、警備犬、高圧電流といったアイテムを思い浮かべる。
が、この作品にはそんなもの出てこない。地平線まで見渡す限り何一つない砂漠の真ん中に、塹壕を掘って戸板をかぶせただけ。どこに逃げたって、行き倒れるのがオチ。
英語タイトルを『THE DITCH(溝)』という。
ここに放り込まれた政治犯たちは、実りのない強制労働に従事しているが、ある日上層部の方針変更で食糧の配給を打ち切られる。厳寒の中で彼らは次々に餓死していき、体力のある者は脱走を決意する。
この世に、地獄は確かにある。

○ 『ももへの手紙』
まさかうちの地元で公開するとは思わなかった。
作画のはなしはその筋の人がいっぱいするだろうから、違うことを箇条書きで。
・妖怪が土着の物でないのが良い。「田舎へ行ったら癒された」という話型が大ッ嫌いなもんで。さらに言えば、田舎の子にいじめられたりとかありがちな展開がないのが潔くて好感。
・最大の見せ場がイノシシのアクションというのが前代未聞。高低差をうまく使っていて面白い。まあイノシシって立派な猛獣だから、すごく危険なんだけれども。昔、島根の母方の祖母が一人で留守番をしていたところ、庭にイノシシが迷い込んできて生きた心地もしなかったそうな。
猪突猛進、走り出したら方向転換できないというのは俗説。ロン先生がそう言ってた。
・爺さんがタバコを取り出すけど、結局ももの前では火をつけないのがポリティカル・コレクト的によい。ハリウッド映画ではもう久しく、主人公がタバコを吸うことはほとんどない。
あまりPCでガチガチに縛るのもどうかとは思うが、アニメやラノベは、PC的に(例えば性的マイノリティとかに)無頓着すぎるよ。かねがね思っていたのだが、ジャンルとして成熟を望むのであれば、そろそろ配慮があって良いはず。
・優香の演技が各所で絶賛されているけど、私としては発作を起こしているとき重ねた布団にもたれているのが良かった。私も喘息持ちだったので知っているのだが、発作の最中は寝ているより上半身を起こしている方が楽なのよ。

○ 『アクセル・ワールド』
いやあ、原作付きであることがこんなに嬉しいのって初めてだよ。
だって、この座組みでも『舞-HiME』みたいになる心配がないんだもの!
冗談はさておき、この作品の良いところって加速世界という設定のおかげで、長々と説明セリフを喋っても気にならないという点だ。
『未来日記』なんか典型だったが、悩んでないで逃げるなり隠れるなり早くしろよ、とツッコミたくなることがよくある。
読者が時間を支配できる活字・マンガメディアから、時間芸術である映像への移し替えがうまくできていないときによく起きる現象だと思っているのだが、本作は設定レベルでこれを回避できるといううまい例。
なお、ワイヤー直結で会話しているとき、口パクはないのにセリフが聞こえ、かつ表情や動きの芝居はしている、というのが面白い効果を生んでいる。口パクリピートよりよっぽど手間かかってるんじゃないか。

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