【アンナ・カヴァン作品】
 アサイラム・ピース

【アサイラム・ピース】

アンナ・カヴァン
山田和子訳

異国の地で城の地下牢に囚われた薔薇のあざを持つ女。名前も顔も知らないがこの世界のどこかに存在する絶対の敵。いつ終わるとも知れぬ長い裁判。ある日突然召喚状をもって現れた男。頭の中で回転しつづける機械。精神病療養所のテラスで人形劇めいた場面を演じる患者たち。返事の来ない電報を打ち続ける若者。臨時の外出を許可された女性が年上の夫とすごす歓喜と絶望の一日――孤独な生の断片をつらねたこの本には、傷つき病んだ精神の痛切な叫びが渦巻いている。
氷に覆われ、極寒の牢獄と化した世界を彷徨する男女を描き、恐ろしくも美しい終末のヴィジョンに満ちた名作 『氷』 で知られるアンナ・カヴァンは、若い頃から精神の不安定とヘロイン中毒に苦しみ、20代後半、治療のために精神病療養所に入院した。退院後、本書 『アサイラム・ピース』 を1940年に刊行。自身の入院体験にもとづく表題作をはじめ、出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちたこの本は、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げる最初の傑作となった。

◆国書刊行会 2013年1月刊 本体2200円 [amazon] 
絶版 ※文庫化=ちくま文庫
◆装丁=水戸部功

◇若島正氏 毎日新聞(2013-3-3) 書評
◇山形浩生氏 朝日新聞(2013-3-3) 書評
◇牧眞司氏 翻訳ミステリー大賞シンジケート(2013-2-26) 書評

【収録作品】
母斑(あざ)/上の世界へ/敵/変容する家/鳥/不満の表明/いまひとつの失敗/召喚/夜に/不愉快な警告/頭の中の機械/アサイラム・ピース/終わりはもうそこに/終わりはない

アンナ・カヴァン (1901-1968)
フランス生まれのイギリス作家。世界中を転々としながら小説を書き始めるが、やがてヘロイン中毒に陥り、精神状態が悪化する。『アサイラム・ピース』 (40)、『輝く草地』 (58) などに収められた短篇で、カフカ的な不条理世界、特異なヴィジョンを描き、長篇 『氷』 (67) は各方面から絶賛されるが、翌年に急死。他の邦訳に短篇集 『われはラザロ』 『ジュリアとバズーカ』、長篇 『愛の渇き』 (文遊社) がある。