【アンナ・カヴァン作品】
 アサイラム・ピース



アンナ・カヴァン
山田和子訳

異常な寒波のなか、夜道に迷いながら私は少女の家へと車を走らせた。核兵器の使用がもたらした地球規模の気候変動により、極地から漂い出した氷が全世界を覆いつくそうとしていた。やがて姿を消した少女を追って某国に潜入した私は、要塞のような 〈高い館〉 で絶対的な力を振るう 〈長官〉 と対峙するが……。刻々と迫り来る氷の壁、地上に蔓延する略奪と殺戮。恐ろしくも美しい世界終末のヴィジョンで読者を魅了し、冷たい熱狂を引き起したアンナ・カヴァンの伝説的名作。

◆ちくま文庫  2015年3月刊 900円(税別) [amazon]
◆クリストファー・プリーストによる2006年版序文を新収録。
◆解説=川上弘美
◆装丁=水戸部功
◆サンリオSF文庫 (1985)/バジリコ (2008 全面改訳) の再刊・文庫化。

見たこともないような美しく冷酷なものに、からめとられる――川上弘美(解説より)

カヴァンの氷の世界は “侵食” のひとつの姿だ。氷は私たちのもとに忍び寄り、包囲し、捕らえる。熱帯に逃げようと、それはつかの間の安堵をもたらすだけのことでしかない。氷は必ずやってくる。――クリストファー・プリースト (序文より)

『氷』 は唯一無二の作品だ。その魔法の力によって、『氷』 は唯物論的なサイエンスファンタジーの視界を超えた領域に到達している。――ブライアン・W・オールディス

もっとも謎めいた現代作家のひとりであるアンナ・カヴァンは、独創的かつ魅力的な小説世界を創造した。そのヴィジョンの強度に匹敵しうる小説家はほとんどいない。――J・G・バラード

夢、幻想、想像力といった夜の世界の探索を敢行する数少ない作家の中でも、アンナ・カヴァンに私はずっと賛嘆の念を抱いてきた。――アナイス・ニン


アンナ・カヴァン (1901-1968)
イギリスの作家。フランスのカンヌ生まれ。ヘレン・ファーガソン名義で長篇数作を発表後、『アサイラム・ピース』 (40) からアンナ・カヴァンと改名。不安定な精神状態を抱え、ヘロインを常用しながら、不穏な緊迫感に満ちた先鋭的作品を書き続ける。世界の終末を描いた傑作長篇 『氷』 (67) で注目を集めたが、翌68年に死去。他の邦訳に短篇集 『われはラザロ』 『ジュリアとバズーカ』、長篇 『愛の渇き』 『あなたは誰?』 (文遊社)がある。


アサイラム・ピース

アンナ・カヴァン
山田和子訳

城の地下牢に囚われた女、名前も顔も知らないがこの世界のどこかに存在する絶対の敵、いつ終わるとも知れぬ裁判、頭の中の機械、精神療養所のテラスで人形劇じみた場面を演じる人々……。自身の入院体験にもとづく表題作をはじめ、出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた世界を先鋭的なスタイルで描き、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げた最初の傑作。

◆ちくま文庫  2019年7月刊 860円(税別)[amazon]
◆解説=皆川博子
◆装丁=水戸部功

◆国書刊行会(2013)の文庫化。

【収録作品】
母斑(あざ)/上の世界へ/敵/変容する家/鳥/不満の表明/いまひとつの失敗/召喚/夜に/不愉快な警告/頭の中の機械/アサイラム・ピース/終わりはもうそこに/終わりはない


「十四篇の作品は、アンナ・カヴァンの、いわば「叫び」でした。やかましい悲鳴ではない。その叫びは、美しい歌になります。」 ――皆川博子(解説より)