文化技術とは  about the liberal art

文化技術のコーナー  文化技術の方法   三木清と文化技術





しおり


1.定義 definition

@文化 culture & civilization

A技術  art & technology

B文化技術 liberal art
07.04.15)



2.「文化技術」等に関する見解intelligent opinions

小林秀雄
(14.09.11)

佐和隆光


吉田和男

片倉もとこ

猪木武徳
(07.02.09)


今井賢一(07.02.09)

川勝平太
(07.02.18)

山本哲士
(08.02.03)


フリー百科事典(07.06.04)



3.文化技術研究(08.01.08)

第1章 文化技術とは

1.定義  definition

@文化  culture & civilization

(1)「
広辞苑」(新村出);人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果。衣食住をはじめ技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治など生活形成の様式と内容とを含む。文明とほぼ同義に用いられることが多いが、西洋では人間の精神的生活にかかわるものを文化と呼び、文明と区別する。(関連)文化相対主義あらゆる文化は、みな独自の背景のもとに固有の体系として評価すべきであるとする立場。文化の優劣や進化の度を論じたり、自文化の優越を主張したりする自民族中心主義に対していう

(2)「国語辞典」(岩波書店);世の中が開けて生活水準が高まっている状態。人類の理想を実現していく、精神の活動。技術を通して自然を人間の生活に役立てていく過程で形作られた、生活様式およびそれに関する表現

(3)「広辞林」(三省堂);人間が一定の目的にしたがって自然に働きかけ、生活を充実・発展させること。また、その過程で作り出されたもの。ことに学問・芸術・道徳・宗教など精神的方面のものをいう場合が多い。

(4)「大辞林」(三省堂);社会を構成する人々によって習得・共有・伝達される行動様式ないし生活様式の総体。言語・習俗・道徳・宗教、種々の制度などはその具体例。文化相対主義においては、それぞれの人間集団は個別の文化をもち、個別文化はそれぞれ独自の価値をもっており、その間に高低・優劣の差はないとされる。 学問・芸術・宗教・道徳など、主として精神的活動から生み出されたもの

(5)「大辞泉」(小学館); 人間の生活様式の全体。人類がみずからの手で築き上げてきた有形・無形の成果の総体それぞれの民族・地域・社会に固有の文化があり、学習によって伝習されるとともに、相互の交流によって発展してきた。特に、哲学・芸術・科学・宗教などの精神的活動、およびその所産。物質的所産は文明とよび、文化と区別される。
(用法);「文化」は民族や社会の風習・伝統・思考方法・価値観などの総称で、世代を通じて伝承されていくものを意味する。
◇「文明」は人間の知恵が進み、技術が進歩して、生活が便利に快適になる面に重点がある。
「文化」と「文明」の使い分けは、「文化」が各時代にわたって広範囲で、精神的所産を重視しているのに対し、「文明」は時代・地域とも限定され、経済・技術の進歩に重きを置くというのが一応の目安である。「中国文化」というと古代から現代までだが、「黄河文明」というと古代に黄河流域に発達した文化に限られる。「西洋文化」は古代から現代にいたるヨーロッパ文化をいうが、「西洋文明」は特に西洋近代の機械文明に限っていうことがある。
◇「文化」のほうが広く使われ、「文化住宅」「文化生活」「文化包丁」などでは便利・新式の意となる。


A技術  art & technology

(1)「広辞苑」;科学を実地に応用して自然の事物を改変・加工し、人間生活に利用するわざ。

(2)「国語辞典」;科学の原理を(産業や医療・事務などの活動に)役立てて、ものを生産したり組織したりするしかた・わざ。(用法);「技能」「技巧」「技芸」よりは社会的な見方で使う。個人的能力についても使うが、その場合にも客観的にまとまったものと見て言う。technologyに相当。

(3)「広辞林」;理論を実際に応用する手段。理想を実際に表現するわざ。

(4)「大辞林」: 物事を巧みにしとげるわざ。技芸。自然に人為を加えて人間の生活に役立てるようにする手段。また、そのために開発された科学を実際に応用する手段。科学技術。

(5)「大辞泉」;物事を取り扱ったり処理したりする際の方法や手段。また、それを行うわざ。 科学の研究成果を生かして人間生活に役立たせる方法。

(6)伊藤 良一(東京大学大学院工学系研究科):「技術」の用例は西周が早い。「百学連環」で「術にまた二つの区別あり。mechanical art and liberal art。原語に従うときはすなわち器械の術、又上品の術という意なれど、今かくのごとく訳するも適当ならざるべし。故に技術、芸術と訳して可なるべし」と述べている。ほとんど同時期、政府に工部省が設置され、官職の一つに技術都検の名が見える。(07.12.30記)


B文化技術  liberal art

  文化技術とは、「わが国固有の文化に根ざし、且つ国際的な普遍性を有する学芸ならびに技術」を指す。<注1>
 
英語の「liberal arts」に対応する。<注2>

<注1>
文化技術とは、生存者の行為として現れる生活文化が、行為を体現する「手」をとおして、工芸品や一品物として現れるモノの「関係性」であり、同時にモノが生活文化を豊かなものにしていく「関係性」である。(出典:青池博之「文化技術の育成〜長浜における工芸品と生活文化の考察〜」立命館大学政策科学研究科、2001年度修士論文要約)

<注2>
 L. artes Liberales〜arts of freemen
(a) ローマ時代にliber(自由民)だけが習得を許された学業。
(b) 中世における教育の主要学科の総称→三科(trivium):文法、論理、修辞。 四科(quadrivium):算術、幾何、音楽、天文。
(c) (近代以降の大学の)一般教育科目→専門科目に対して一般知識を与え、広く知的能力を発展させる。語学、自然科学、哲学、歴史、芸術、社会科学などを指す。
(出典:研究社「新英和大辞典」第五版)


2.「文化技術」に関する諸見解  intelligent opinions

(1)小林秀雄 「文化について」 (改造文芸 1949年)
             (中央公論新社「読書について」2013年所収)

@文化とは「栽培」である
    語源の英語 culture・ドイツ語 Kurturは、畑を耕して物を作る「栽培」の意味。「文化」は中国の「武力によらず民を強化する」ことで訳語として不適切。
    もう一つの訳語は「教養」。外部から知識を取入れてもその人の素質を育てなければ、その人は教養人、文化人とは言えない。その人に人格を完成させる可能性があるという仮定の下で初めて人間の「栽培」は可能。
   文化は必ずその国の伝統的個性を持つ。国際文化なるものは存在せず、インターナショナルでは技術と言うべきである。

A文化とは精神による価値ある実物の生産である
   文化とは、短なる観念ではなく、人間の精神の努力を印した「物」である。人間の精神が自然や歴史など現実のはっきりした対象に対決したときに、精神がその対象を材料として何か新しい価値ある形を作り出した場合でなければ文化という言葉は意味をなさない。
 文学者は文章によって文化生産する。「お喋り」はジャーナリズムに屈服した精神の浪費である。(注.本文は講話を文章化)  


(2)佐和隆光 「文化としての技術」、岩波書店、1987年

@文化としての技術;
  「技術あるいは技術革新は、日常生活との直接的な関連性をもつようになってはじめて、『文化』としての意味あいを帯び、価値規範もしくは生活様式・風俗・社会通念・制度・慣行などを含む広義の文化における変遷の動因として一つの役割を果たした。
  それぞれの技術は、家庭電化製品の普及が主婦労働を軽減し、女性の職場進出をうながしたように、それに固有の『文化』をかたち作った。」 

A技術と文化の相互依存
  「1970年以降は、重化学工業化の完成による日本経済の自立もあって、文化が技術に影響を及ぼす双方向性のものとなった。」(前出、112頁)


(3)吉田和男「文化の時代」論(日本経済新聞掲載から抜粋)

@文化の時代
  「多くの人々にとって、いわゆる文化(心の感動を覚え、人とのつながりのなかで共感し合う心を持つ、自己の生き方を見つめる営み)が人々の生活の中でより大きな価値を持つことになる。」

A文化国家への移行
  「今日の社会は、豊かさの基準を物質の大量消費とする考え方から、文化・技術や、人と人のつながりの中で享受する考え方に軸足を移し始めている。このような文化の復活によって、文化価値を『豊かさ』と考える『文化を基盤とした国家』への移行が求められる。」

B文化創造の仕組みづくり
  「個人が新たな豊かさを求めて変化してきている。新しい時代に即した文化創造の仕組みが必要。教育の重点も、従来は均質的な労働力を求める産業の要請に応えるものから、個性を重視した文化の創造に役立つものに変わるべきである。 」
    「文化を支える仕組みは基本的に民間での制度であり、その制度づくりが、21世紀の課題となる。」


(4)片倉もとこ「文化」論(日本経済新聞掲載から抜粋)

@文化とは
  「ナチが国家戦略として使った文化政策は全く筋違い。一人ひとりが文化の力を持っていて、その力で元気になり、地域が、国家が、地球全体も元気になっていく。そういう内省的に語られる心が内在しているものとして文化をとらえたい。」

A三つの視点
  「文化力と文化の多様性を考える際、三つの視点が大事。まず一人ひとりが文化を選ぶ時代が来たということ。二つ目がグローバリゼーション。三つ目が文化の多様性を肯定して、それを抱き込むことで文化力は強くなるということだ。」

B暗黙の了解
  「文化には三つの暗黙の了解がある。まず、文化とは生活様式である。次に、その核には価値観や思考様式がある。三つ目は、土地ごとに固有で領域的ある。」
  「多様な文化を尊重し、積極的に取り入れたところは、歴史的に見ても活力があった。日本も、新たな異文化を巧みに吸収したことが、世界に冠たる日本文化を築く原動力になったのを忘れてはいけない。」


(5)猪木武徳「文化」論(日本経済新聞掲載から抜粋)

@文化と民主主義社会
  「文化は制度から影響を受ける。現在の民主主義社会では、自分の自由を一番重視する。個人がバラバラになり、コミュニティや国家に対する意識は希薄になる。また、自分で考えて自分で行動するため、一人ひとりが主役になれ、目はほどほどに肥えてきている。」

A文化と市場経済
  「市場経済の仕組みは、人間の美的感覚、欲求を満たすものより、売れる物に重点を置く傾向がある。美しいものを選別する力をもっていない。文化の質を落とす懸念あり。」

B同好の士連合
  「同好の士連合の役割が重要になる。米国にはこうした組織が多くある。日本政府も支援が必要。」


(6)今井賢一「文化」論(日本経済新聞掲載から抜粋)

@経済と文化は一体
  「経済発展の底辺にあるのは知識の発展であり、これからの経済は情報社会、知識社会に向かう。」

Aネットワークの力
  アートは、世界の共通感覚を持ち、多様な価値観の中間層のすり合わせに大きな役割を果たす。また、彼らはプロジェクトの実行過程に生きがいを求める「プロジェクトアイデンティティ」であり、ネットワーク化の萌芽がある。その構築にはアートに対する直接投資が必要で、文化を経済の中に組み込んでいくに違いない。

B述語的な考え方
  物事を「する(=do)」ことでアイデンティティを獲得するのは、述語的な考え方である。主語でやり取りしている限りは文明の衝突の問題などは永遠に解決できない。述語の世界からつながりを作ることが今後一段と重要になる。


(7)川勝平太「文化」論(日本経済新聞,90.6.26,掲載から抜粋)

@文化は民族のアイデンティティー
    日本人は、文化というと、茶道、能、歌舞伎、コンサートやカルチャーセンターなどを連想しがちだが、文化の本質的属性が言葉や宗教であることから分かるように、文化は民族のアイデンティティーであり、民族存立の根本条件である。

A文化と経済活動
    そもそも、生産・消費すら純粋な経済行為ではなく、同時に文化的な営みである。…消費行動は自己を映す姿見であり、消費物質は文化を映す鏡である。…社会資本というモノは国のたたずまいの形成という文化的意味を持つ。…望まれるのは、国民あげての美しい町づくりの競争である。

B経済摩擦と文化摩擦
    これからますます交流が深まるであろう外国の民族は、異なる「物産・文化複合」を持ち、その経済活動は文化と不可分である。…経済摩擦を福に転じる方策は、相手文化すなわちアイデンティティーの尊重である。

(8)山本哲士「文化技術のフィロソフィー」(JSME,Vol.97.908から抜粋)

@定義
   文化技術とは、「個的夢想が、構造化された諸構造にたいして自己テクノロジーを可動させるべく構造化する諸構造を開発するテクノロジーである。」
(コメント)この定義は全く理解不能。

A多層性
   文化技術とは、個的な人間存在の全体性を表現するテクノロジーである。文化技術を開発せねば科学技術の発展・深化をすすめられない。非人間的で醜い機械から、人間的(男女的)で美しい機械へと転移していく次元へ入った。
(コメント)文化技術は人間が基盤ということ。

B形態転移
   文化技術は、主観-客観の近代二元図式にもとづく人間主義-科学主義をこえる新しい社会秩序のテクノロジー開発である。それによって、身体や動物・植物の形態が行っている知識をもってその形態行為を再現することによって存在がいきいきと元気になる。生産技術は機械技術を補助として文化技術が領導していく時代となっている。



(参考) フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(抜粋)

@文化の範囲
  文化とは、人間が長年にわたって形成してきた慣習や振舞いの体系。いわゆるハイカルチャー(文学、美術など)を指すことも多い。やや特殊であるが、動物にも文化を認める考えもある。
  衣、食、住などの日常生活に関わる慣習や習俗、さらにそれを支える芸能、道徳、宗教、政治、経済といった社会構造まで文化の幅は非常に広い。
 社会の成熟度が増していくにつれて、文化は、繊細さと精緻さの度合いを増していく。茶道や華道が単独で文化を構成すると言うよりも、茶道が発達する社会的背景、慣習、宗教などを複合した全体が文化であると定義付けることができる。

A文化を担う集団
  文化の概念は、通常、ある程度以上のサイズの人間集団に対してのみ用いられ、地域や集団、時代によって文化様式は大きく異なることがある。
 文化は人間集団によって作られるが、同時に個々の人間も環境という形で、不断に文化に適応、学習させられている。地理的・歴史的なまとまり、集団を構成する人、人の活動の種類など、個々の文化は様々な形で定義、概念化される。「社風」、「校風」、「家風」なども文化と呼ばれる。

B文化の特徴
 人間は、生存手段を身体以外に持ち、文化は身体を超えたところに存在する。文化のこの性質のために、人間は多様な環境に適応することができ、技術の進歩や社会体制・思想の変化などに応じ、新たな文化体系を生み出してきた。


3.文化技術研究

  人類の未来はイノベーションに依拠し、科学技術の進歩に負う所が大きい。一方、科学技術は自己目的化する傾向にあり、ともすると人間の統制から逸脱する危険性を持つ。
   リベラルアーツとしての文化技術は人間の感性を高め幅広い視野から科学技術の正しい進路を導く重要な役割を担う。
  言わば、文化技術は科学技術とともに人類存続及び発展の両輪を形成する。 文化技術研究は以下の三項目から構成される。

@基礎理論

A史的展開

B現状分析

(続く)



このページの先頭に戻る



文化技術のコーナーにもどる