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しおり
その1.小林進
民需総崩れで鮮明になった景気後退色(08.09.22)

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(参考2)
経済解説
その1.小林 進 (経済評論家 元 経企庁審議官、アジア経済研究所理事、貿易研修センター専務理事 等)
「民需総崩れで鮮明になった景気後退色」 (時事通信社 「金融財政」 2008年8月28日号掲載)
ポイント
(1)本年4〜6月期の実質国内総生産(速報)は前期比0.6%減(年率2.4%減)。1〜3月期の0.8%増から1.4ポイントの低下。2期の平均成長率は0.1%で水面すれすれの低成長ということになる。
<注> GDP二次速報(9/12公表)で実質成長率が、1〜3月期 0.7%(年率2.8%)、4〜6月期 ▲0.7%(年率▲3.0%)に改訂されたので、本年上半期は算術平均すると、マイナス0.0%で水面下ということになる。(09/22 更新 )
(2)内閣府は7月下旬、政府見通しを大きく下回る成長率試算を発表。8月上旬の月例経済報告で、基調判断から「回復」の文字を削り、景気が後退局面に入ったことを事実上認めた。
見出し・要約
1.収縮した名目経済ー海外収益の減少響く (略)
2.06年下期の水準に逆戻りー名目GDP (略)
3.13期ぶりに減少した実質輸出ー成長支える力失う (略)
4.独歩高予測を下方修正ー内閣府
「08年度経済動向試算」はわずか半年で政府経済見通し(1月)の実質成長率2.0%を0.7ポイント下回る1.3%へ修正した。これは1%後半といわれる潜在成長率を割り込む。
名目成長率の修正は、2.1%からほぼゼロ成長の0.3%へと、1.8ポイントというこれまで最大の修正である。これでは税収見込みに大きな狂いが生じよう。
これは拡大局面の長期化で、景気循環の視点を失ったということだ。内閣府試算の中で最大の伸び率修正は、民間住宅である。新設住宅着工件数は、改正建築基準法施行の翌月、07年7月から急減し、同年の実質民間住宅投資は前年比9.5%減になった。そこで「反動増は当然」との見通しで、08年度は9.0%増を見込んでいた。それが今回2.8%増に下方修正された。
5.輸出回復頼みの「経済動向試算」
内閣府試算は、内需の寄与度をプラス1.6%から0.8%に半減させる一方、外需寄与度を0.4%から0.5%に引き上げた。外需主導は変わらないとみたのであろう。しかし、4〜6期のGDP統計で示された輸出寄与度のマイナスは一過性なのだろうか。
今回の内閣府試算が達成されるためには、今後3期連続して実質、名目共に前期比0.6%の伸びが必要である。輸出が回復して外需が増加するといった状況に転じない限り、達成は難しい。
6.幻だった3回目の「踊り場」
本年3月の月例経済報告は、基調判断を「足踏み状態」と下方修正。大田経財相は記者会見で「踊り場的状態」との見解を示した。「足踏み」は中立的表現だが、「踊り場」は景気が拡大する中での一時休止を意味している。また在職最後の月例経済報告(7月14日)でも「全体としてぎりぎり横ばいで踏ん張っている」と述べ、景気拡大局面が続いているとの見方を変えなかった。
「08年度経済財政白書」(7月22日発表)は、今年初めについて、「足踏み状態」と言うにとどめ、一時的な「踊り場」で済むかどうかは先行きいかんとした。今後については、雇用、設備に過剰感はなく在庫調整も一部の財にとどまっているため「自立的に景気後退に陥る可能性は低い」と記述した。
ところが、8月の内閣改造で就任した与謝野経財相は、早速「昨年暮れぐらいから景気後退が始まっていた可能性がある」と発言。8月7日の月例経済報告では、基調判断から「回復」の文字が消えた。
その点、日銀はスマートで、06年5月「回復」を「拡大」に、今年4月「減速」、8月「停滞」と修正した。ともかく、3回目の「踊り場」はなかったことになる。
7.判断転換の契機となった大臣交代
大臣になると、在任中に景気後退を迎えたくないのであろう。大田前経財相は「上げ潮派」と言われてきただけに、最近の景気動向指数の動きには不満だったようだ。「設備投資や家計消費支出が反映されていない」との見方である。だが、この二つは遅行指数に採用されている。これらを一致CIに組み入れても「局面変化」は動かない。
8.平成バブル後と同じ点・違う点 (09/22 更新 )
一致CIのピークと前期比実質成長率にはラグがある。平成バブルでは、一致CIは90年10〜12月期に ピークを付けたが、景気後退が決定的になったのは、91年10〜12月期の0.0%が明らかになった92年3月である。今回は、一致CIピークの07年7〜9月期から3期目の08年4〜6月期にマイナス成長となり、ようやく局面変化が認知された。
ピークから10ヶ月後の一致CIの下げ幅を比較すると、平成バブル(90年10月 104.0 → 91年8月 100.0)の▲4.0ポイントに対し、今回(07年8月
105.7 → 08年6月 101.6)は▲4.1ポイント(注1)と近い数字。
寄与度では物価指数の上昇を反映し、中小企業売上高(製造業)(注2)と卸売業販売額(注3)がプラスを維持。マイナスの寄与度では営業利益が目立つ(注4)。投資財出荷指数の下げが相対的に大きいのは、企業が設備投資に慎重な構えを取っているからだろう(注5)。
一致CIの場合、振幅が相対的に大きい営業利益と有効求人倍率(注6)がかぎを握っている。
<注> 景気動向指数改訂による変更
(1)一致CI、101.6 → 102.4 ピークから10ヶ月後の下げ幅、▲4.0ポイント → ▲3.3ポイント
(2)中小企業売上高(製造業)の寄与度(以下、同)、0.14 → 0.14
(3)卸売業販売額、0.11 → 0.09
(4)営業利益、▲0.86 → ▲0.25
(5)投資財出荷指数、▲0.44 → ▲0.43
(6)有効求人倍率、 ▲1.88 → ▲1.82
<参考>ITバブル時の一致CIは、ピークから10ヶ月後(00年12月 95.4 → 01年10月84.8)の下げ幅が▲10.6ポイントに達し、景気後退の程度は水準、下げ幅ともに今回を上回る。
9.覚めた表現に転換ー月例経済報告
8月の月例経済報告は、現状判断を「このところ弱含んでいる」に下方修正しただけでなく、先行きについて「当面弱い動きが続くとみられる」とした。これは重大な表現変更である。07年4月は「企業部門の好調さを持続し、これが家計部門へ波及し国内民間需要に支えられた景気回復が続くと見込まれる」との表現で、いわゆる好循環シナリオは可能との見方であった。
この「見込まれる」が07年12月に「期待」に後退。今年に入ると、米国経済の下振れリスクが前面に出て、輸出に重点が移った。だが、企業から家計への還流は実現せず、今や輸出頼みの回復期待もしぼみ、素っ気ない見通しになった。
景気関連指数の中では、消費者態度指数と景気ウオッチャー調査が早くから頭打ちしているが、これは名目GNPに対応している。鉱工業生産指数が輸出と直結していることはよく知られているし、機械受注はもちろん設備投資の先行指標である。いずれも、軒並み下方修正されたままで、今回のGNP速報はその駄目押しということになろう。
(以上)
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