更新履歴と周辺雑記

更新履歴を兼ねて、日記付け。完結していない作品については、ここに書いていきます。

2023年11月28日(火)
『オーバーテイク!』9話

皆様お久しぶりです。気がつけば今年ももうすぐ終わりですね。
この2ヶ月ほどほんとに忙しくて、すっかりご無沙汰してしまったのだが、久々に今すぐ語らなければ、という作品に巡り会えた。
監督作に外れなしのあおきえい『オーバーテイク!』Rd.09「厄災の日」。

姿を消した孝哉を追って因縁の地、東北までやってきた悠。ようやく居所を突き止めて真意をただすが、孝哉ははぐらかそうとする。
このエピソードには、孝哉と悠が並んだカットが頻出する。
2人の人物の間に何らかの障害物を入れて断絶を表現するのは、映像言語の初歩である。私もなんかもっともらしいことを言うときによく指摘する。
だがこのエピソードの面白いのは、これ。

 





悠の姿が手前の障害物で隠れているという画が繰り返されるのである。特に最初の画は、座面に高低差がある点も注目。
おそらくは、悠を直視していない孝哉の心象風景だろう。

だが、まっすぐな悠の熱意に、孝哉は次第に過去の経験を語り出す。
すると悠の姿が画面に映るようになるが、

 

あまりに深い絶望と哀しみに、伸ばした手は届かず、



行く手は遮られる。



この赤信号は丁度Aパートの終わりである。

経過は省くが最終的に呪縛は破られ、絆はしっかりと結び直され、道は拓ける。

 

この計算され尽くした構成。いつもと異なるエンドクレジットと相まって、一本の映画を観たかという気にさせられる。見事だ。
監督本人の絵コンテかと思ったら、

脚本:関根アユミ、あおきえい
絵コンテ・演出:加藤誠!

自他共に認める一番弟子。『やがて君になる』という快作をものしたあと鳴かず飛ばずだったので心配していたのだ。
これが浮上のきっかけになるといいのだが。

震災つながりで、最近観た『岬のマヨイガ』。なんか時ならぬ迷い家ブームの一つに思えてスルーしていたのだが、川面真也監督作と聞いては観ないわけにいかない。決して悪くはないんだが、無理にスペクタクル展開にする必要なかったんじゃないかな。

カーレースつながりで、今期放送中の『MFゴースト』。しげの秀一作品てアニメも含めて初めて観た。
レース自体は面白いけれど、女の子の描き方がなんつうか、昭和のセンスというかおっさんくさいですね。

2023年9月24日(日)
『アリスとテレスのまぼろし工場』

夢を覚まそうとする勢力と、それを阻止しようとする勢力の抗争。
こういう物語構造と捉えると、『インセプション』とか、古くは菊地秀行の『夢なりしD』(『吸血鬼ハンターD』シリーズの一作)とかを思い出す。
が、本作の奇妙な点は、夢を維持しようとする勢力が二つ(佐上と時宗)あって、うち一つ、時宗が主人公サイド(夢を覚まそうとする勢力)と必ずしも対立的に描かれないことである。

この映画の結末が非常にすっきりしないものになっているのはこのため。

時間の止まった世界を維持して、それでどうなるのか?そりゃ主人公たちは現実世界で子供こさえてるのが明白だから未来に希望を託せるかもしれんが、そのほかの大多数の人たちはどうせいというのか。現実に閉塞した時代を生きる若者に訴えかけるものはないのではないか。
キャストのインタビューを読むと、「あの後見伏の時間は動き出して、例の妊婦さんは出産したんだ」と解釈している人もいる。なるほど。私はそうは読めなかったし、そう読み取れる描写もなかったと思う。

前作の『さよ朝』は年を取らない母親に懸想する息子の話。
今作は年を取らない父親に懸想する娘の話(プラス嫉妬する母親)。
念の入ったことである。
そう考えると作者がやりたいのはこれだけであって、それ以外-時間が止まった町という設定とか成長できない中学生の鬱屈とか-は全部舞台装置に過ぎないのかもしれない。
私は『さよ朝』については割と批判的な立場だったが、今作の感想もだいたい一緒。「よく出来てるとは思うがあんまり好きではない」である。
公開2日目の土曜日の午後で、館内は私含め3人しかいなかった。地方興業はそんなもんかも知れんが、前途多難じゃないかこの映画。

2023年8月1日(火)
近況など

○ 実写版『忍者ハットリ君』
いや草彅君じゃなくて、昔東映で作った方。
東映チャンネルで放送したので話のタネに観てみたのだが、何というか、カルチャーショック。
まあこのビジュアルを見てください。

 



てっきり作中でもお面をかぶっているという解釈なのかと思ったら、目玉が動くわ、飲み食いすると口が動くわ。
一体リアリティのレベルがどのへんにあるのか。当時の制作者が、何でこれでいいと思ったのかさっぱり解らん。しかも1966年放送だから、『鉄腕アトム』放送開始から3年も経っている時期なのに。

ひるがえって現在。『デキる猫は今日も憂鬱』が、リアリズムの限界に挑戦している。
背景は、Gohandsお得意の写真と見紛うスーパーリアリズム。その中で、人間サイズの巨大な猫が二本足で歩き、スーパーで買い物をしている!
道行く人々はそれを認識していながら、騒ぎ立てるとおかしいと思われる、またはきっと着ぐるみだと自分に言い聞かせることで、かろうじて受け入れている。
リアリティのレベルをどこに置くか。創作者の戦いはまだ続いている。


○ 劇場版『少女歌劇レヴュースタァライト』
今ごろになってパンフレットを入手できた。
古川知宏監督、脚本:樋口達人、劇中歌作詞:中村彼方の鼎談から抜粋。強調は引用者による。

-ちなみに、なぜ電車を登場させたのでしょうか?
古川 それは「みんな乗ったことがあるから」です。みんなが毎日電車に乗って、次のステージに進んでいる。この映画に出てくる電車も、日本で多く走っている型の車両をあえてモチーフにしているんですよ。帰り道で同じ電車に乗り込んで「あ……」となり、トマトを見るたびドキッとしてほしい。今度は、この映画が皆さんの日常にこれまでとは別の意味を持たせる「舞台装置」になるのかなと。舞台少女たちと同じように、お客さんも毎日人生という名の舞台に立っているということを感じていただけたらと。だから、僕は突拍子もない絵を出しているように見えて、やっていることは普通の人の日常を描いているつもりなんです。発想が飛躍すると謎の物体が砂漠を走る絵になるんですけど(笑)、概念としては皆さんの日常にある通勤・通学と同じ。その舞台には共演者も盛りだくさんで、たとえば一緒に映画を見に行った友人たちもそうだろうし、海外でこの映画のことを好きでいてくれる人たちも共演者なのかもしれないし、作り手の僕らだってそう。毎日電車に行って移動するときにそのことを思い出して、皆さんの日常を楽しいものだと思ってもらえるといいかなと思います。


○ 『照明熊谷学校』
大映撮影所以来の長いキャリアを誇る照明技師・熊谷秀夫の仕事を追ったドキュメンタリー。面白かった部分を抜き書き。

・『しろばんば』('62)の蚊帳の撮影。中を明るくする一方、どこを暗くして蚊帳の存在を出すかに注意した。

・ロケとセットのつながりが自然に見えるように照明や美術を工夫することをロケマッチと言う。大映撮影所はこれが上手い。セットに入ったときの光の回り方がコツ。ロケの不自由さを(セットにも)出してやる。ライトの方向をそろえて、影がいくつも出ないようにする。ライトのダブりをどうごまかすかがポイント。

・作ったライティングとリアルなライティングがある。

・個々の俳優の感じを出すのも照明の仕事。年取った人を綺麗に撮るのが難しい。

・黒目を光らせるキャッチ(アイキャッチ)という技術がある。舛田利雄はこれにうるさい。あえてそっぽを向くやり方もある。キーライトとの兼ね合いが肝心。どんな俳優でも眼に力がないとダメ。 

・'71年9月から日活ロマンポルノへ。予算がないので、オプチカルを使うなと言われた。他のテレビ作品のセットを流用し、同じセットを2部屋に見立てた。のれんを照明で色を変えて使い回したり。
このとき、「ライトを当てない」ことを覚えた。それならそれなりの絵ができると発見。
助手が少ないので、軽いカポックを多用するようになった。
 (カポック:発泡スチロールの反射板。表面の凹凸で微妙に光が拡散する。)
 
・『天使のはらわた 赤い教室』('79) では、連れ込み旅館の一室で8分間の長回し。台本にはデイ~深夜と書いてある。窓の外の照明、旅館の看板のライトで時間経過と2人の心情を表現した。

・『セーラー服と機関銃』('81)では、ホリゾントの下半分に銀紙を貼って海に見立て、ライトを当ててガラスに映して撮影した。美術や特撮に類することも照明の仕事のうち。

・最近の映画はライトを当てないので、誇張がない。視点が曖昧になる。

2023年5月29日(月)
今期のアニメから

気に入った描写いくつか。

○ 『スキップとローファー』第3話「フワフワ バチバチ」
ちょっと良い表現。

 

 

みつみから初めてのLINEをもらった誠。本当は飛び上がりたいほどうれしいのに、控えめな性格からちょっとつま先立ちになってみる。微笑ましい、よく考えられた描写だと思う。
だけど調べてみたら、これは原作にもある描写だった。


原作との比較で凄いのはこれである。
○ 『僕の心のヤバイやつ』karte3「僕は抱きしめたい」

市川は、自作小説のキャラクターとして、山田をモデルにした少女のイラストを描いていた。
同級生の品のない遊びから山田を守るため、預かったメモを自作のイラストとすり替えて山田に渡す。
その後、山田は体育の時間にバスケットボールを顔面で受けてしまい、保健室に運ばれる。心配した市川は保健室に忍び込み、山田がそのイラストを大切にパスケースに入れていることを知る-。

イラストを渡すところまでは原作準拠だが、パスケースのくだりは原作にはないアニメオリジナルの描写だった!
市川が、「山田を好きなんだ」と自覚する瞬間をこの上なく鮮やかに映像化している。見事と言うほかない。
おそらく、原作ではまだ序盤なので市川と山田の距離感を作者も測りかねていたのではないか。その点、アニメは1クールでそれなりの結末を導く必要があるから、いろいろと計画的に仕込むことができる。
が、あのイラストをここにこういう形で入れ込むとは。画面内のいわゆる「資源」の有効活用という意味で、このエピソードは100点満点、いやそれ以上である。原作者は歯がみしているのではなかろうか。

脚本 花田十輝
絵コンテ 吉川博明
演出 白幡良志之


○ 『ワールドダイスター』2話
これはちょっと驚愕の展開。イマジナリーフレンドだか死んだ双子の姉だかと思っていたら、まさか超能力で生み出された人格で、第三者にも見えるとは。
しかしこれ、『かげきしょうじょ!』ほどリアルでもなく(素人の観客がアニメに感じる程度のリアル、ではあるが)、さりとて『少女歌劇レヴュースタァライト』ほどブっとんでいるわけでもなく、どのへんを狙っているのだろう。
なんとなく気になって観続けている。

○ 『天国大魔境』と『推しの子』も楽しんでいるが、見どころが多すぎてまとめきれない。幸せすぎる。

2023年4月22日(土)
番組改編期

○ 『コタローは1人暮らし』
予備知識なしに観て、幼稚園児がアパートで1人暮らしという話を当初ファンタジーかと思ったら、ネグレクトを題材にしたおっそろしくヘビーな話だった。空腹に耐えかねてティッシュを食べていたとか母親がゴム手袋をはめて触れていたとか、ディテールが怖すぎる。そこそこに抽象的な絵柄のおかげであまり陰惨にならずにすんでいるのもさることながら、本作の最大の功労者はやはり釘宮理恵である。かつての釘の宮様も、いまやベテランと呼ばれる域。演技力は疑いないものの、あの声質と芸風ではこれからどうやっていくのかと思ったら。過酷な経験から老成し達観した幼稚園児。なるほどこれは今の釘宮にしかできない。キャスティングが決まった段階で成功したようなものだったろう。キャリア上も重要な作品になったのでは。


○ 『THE ANIME STUDIO WIT STUDIO』
23年2月15日のNHKのドキュメンタリーの再放送。
面白かった発言。
プロデューサー:和田丈嗣「3年に1本ヒットを出さないと、アニメスタジオは忘れ去られる」。

キャラクターデザイン:浅野恭司「『進撃の巨人』の原作のタッチを再現するため、キャラの輪郭を二重線で描いて間を塗りつぶす手法を採用した」。

監督:荒木哲郎「ゴリゴリと腕力で描き殴っているようなルックにするために、凄く細い線を丁寧に丁寧に描く。アニメーターは凄く緻密な画を描かなくてはならない」。
最新作『バブル』について「荒木が何かをやる、呼ばれるときには誰を倒すんですか、という皆そういう感じの思考になる。違うんだ、少女の恋心にお客さんが酔える、ラブストーリーをやるんだ、と」。
『甲鉄城のカバネリ 海門決戦』がああいう話になったのも必然性があったんだな。

ディレクター:近藤創。同じ番組で他にプロダクションIGとTRIGGERの回があるのだが、このWITの回は明らかに出来が違う。ディレクターの違いなんだろうか。


○ 『REVENGER』
最後まで期待通りに面白かった。現世では永遠に許嫁に許されない以上、寂しいことだがあの結末にしかなり得ない。
作り手もまた、その責務を全うした。


○ 『リズと青い鳥』再見
スピーカーを新調したので、何か音楽の良い映画を観たいなと思ってこの作品を思い出した。
クライマックスの、みぞれのオーボエソロが期待を上回る壮絶な音。(あえて言うが)凡俗をどんどん引き離して高みへ登っていく容赦なさが細部まで伝わる。

それ以外にいくつか新たに気づいた点。
冒頭の登校シーン。1 みぞれは先に学校に来て希美を待っているが、みぞれを見つけたときの希美の反応は写っていない。2 音楽室に向かう途中で希美は給水器で水を飲むが、みぞれは同じように水を出すだけで、口をつけない。
これらの断片的な描写が、2人の関係を雄弁に表し、映画全てを物語っている。

みぞれと希美の関係が、リズと少女のどちらに相当するのかがこの映画のドラマの焦点になっているわけだが、映画のタイトルが現れるとき、リズの側にみぞれ、少女の側に希美がいる。これに対し、理科室で新山先生とみぞれが話すシーンで新山先生は、「フルートとオーボエが、リズと少女を表している」と言っている。
つまり、言葉通りに解釈する限り、希美がリズ、みぞれが青い鳥ということになる。新山先生は、二人の事情は知らないにしても何らかの理由でみぞれが実力を発揮できていないことは最初から解っていたんだ。

ところで、時々、通奏低音にレコードの針のバチバチ言うような音が入るのだがあれは何だろう?


○ 『X』
スカパー!で『X』を観ている。商魂たくましい、と言うか商魂しかないCLAMPは嫌いだが、長年の川尻義昭ファンとしては無視しておくわけにもいかない。唯一のTVシリーズ監督作だし。
観ていると映像の美しさと迫力に、やはり引き込まれてしまう。りんたろう監督の劇場版がとんでもなくダイジェストだったのもよく解った。

スタッフを見ていると、ときおり外崎春雄の名がある。今をときめく『鬼滅の刃』監督だ。シリーズの後半になると、演出を手がけている。
川尻監督の薫陶を受けた人だったのか。作画@wikiによると、『フルーツバスケット』の演出の方が早いみたいではあるが。私は『鬼滅の刃 無限列車編』が日本映画史上の興行収入第1位であることを日本の恥だと思っているが、源流に川尻義昭の血があると思うと許せる。
加えて、設定制作:伊藤智彦!


○ 倫理的におかしい作品
『組長娘と世話係』『Buddy Daddies』これのどこをどう押せば、ハートフルコメディなんて単語が出てくるのやら。暴力というものに無頓着すぎるんじゃないの。昔同じような理由で『花咲くいろは』を批判したことがあったが、そう言やあれもPAだったか。


○ よく解らない作品
『私の百合はお仕事です!』
主人公がバイトすることになるいきさつの馬鹿馬鹿しさは目をつぶるとしても、何でお姉さまと契りを結ぼうとするのかさっぱり解らん。なにより、こんな空気読めない馬鹿野郎が外ヅラを装って生きてこれるわけがない。百合もの(この言葉は嫌いだが)の真骨頂は繊細な心理描写だと信じていたのだが、ずいぶんと劣化したものだ。

『ワールドダイスター』
これは一応真面目に作っていると見える。んだけど。
主人公が特別な資質を持っている、と見せなければならないのは解る。だからって、試験で一人だけ課目が違うのはおかしいでしょう。
そういうのはえこひいきと言うのだと思うのだが。


○ ゲームムービー
唐突だが、あまり筋のよろしくない方法で『装甲巨神Zナイト』を観た。玩具の宣伝用アニメ、ということでいいのかな。高山文彦が手がけていることで有名な短編で、いつか観なければと思ってはいたのだ。ロボットを操作するインターフェースが触手状だったり、バリアでビームをはじく様子だったりが2年後の『超時空世紀オーガス02』を彷彿とさせる。
たまたま同時期に、『機動戦士ガンダム戦記』を観た。PS3のゲームの特典映像。よくできてると思ったら、松尾衡監督だった。これまた、『機動戦士ガンダム サンダーボルト BANDIT FLOWER』の冒頭の戦闘シーンにそっくり。

こうしてみると、ゲームの特典映像って作家の習作的な役割を果たしてるのかな。ゲームムービーを作る作家のモチベーションが那辺にあるのか私には知るよしもないが、とにかく作品を完成させて発表することは大事だと改めて思った次第。


○ 今期は『天国大魔境』『推しの子』『僕の心のヤバイやつ』『スキップとローファー』と面白い作品が多すぎる!


2023年3月23日(木)
エブエブと近況

皆様お久しぶりです。

もう少し真面目に更新せんといかんなとは思いつつ。

○ 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
80年代に映画に開眼した者としては、キー・ホイ君の雄姿を拝まないわけにはいかない。
中盤少し意識が飛んでしまったが、最後はずっと号泣しながら観ていた。年取って涙もろくなったのは実感があるけれど、映画観てこんなに泣いたのは初めてかも。
虚無の闇に立ち向かう話として、連想したのは実は『ガンダムUC』。ただ、あちらはニュータイプの可能性を宿す若者が年寄りの暴走をいさめる話なのに対し、こちらは大人が子供を諭すかたちに。
どっちが健全なのかはなんとも言えない。


○ 『パムの秘密』
WOWOWで放映したアメリカのドラマ。田舎町で実際に発生したとある主婦の犯罪を描いている。犯人役のレニー・ゼルウィガーが激太りの凄いメイクで熱演。ラストで本人が映るがそっくり!しかも声を当てているのが三石琴乃で、芸達者ぶりをイヤな方向に発揮しているもんだから、観ていて不愉快極まりない。それを狙っているのだから演出上は成功しているわけなんだが。

先日たまたま、これはスターチャンネルで『パーフェクト・ケア』という映画を観た。正確に言うと、観始めて15分ほどでやめた。こちらは法定後見人制度を悪用して身寄りのない老人から財産を奪う悪女の話。BS世界のドキュメンタリーで大分前に観たが、これ実際に頻発している犯罪で社会問題化しているのだとか。その犯人グループの描写があまりに不快で見るに耐えなかったのだ。これまた、犯人も女性なら、標的となる患者の情報をリークする医者も女性。最終的には因果応報となるんだと思うが。

んで、この「悪逆非道な女性の犯罪が露見して報いを受けるという話を、男性であるところの観客つまり私が観て溜飲を下げる」という構図が、やりきれないぐらいに見苦しいと思うのですよ。
たとえ事実をモデルにしてるにせよ、こんなもん娯楽にしていいのかな。それとも私のジェンダー観が保守的すぎるんだろうか。
『ゴーン・ガール』はちっとも気にならなかったんだが。


○ DALI
スピーカーを買い換えた。
昨年末の話なのですでに旧聞に属するが、コロナが大分落ち着いて大都市圏に買い物に行けるようになったので、かねての課題だったうちのシアターのシステム更新をすることにした。20年来の趣味になるが、アンプやプロジェクターは結構買い換えているのに(アンプは4台目、プロジェクターは7台目)、スピーカーはずいぶん長いこと使っていた。AADのE-48。我ながら通好みなチョイスだったと思う。聞けばAADという会社自体は、一般ユーザー向けの商売は撤退し、プロユースに特化して生き残っているとか。

入手したのはDALIのOBERON7。プラス対応するサラウンドスピーカー。
元気の良いAADに比べると、いかにもヨーロピアンな落ち着いた音がする。ショップでもずいぶん方向性が変わりますね、と笑われた。単にステレオで聴いても、奥行きや広がりが段違いに良くなった。弦楽器やボーカルの再生には定評があるが、パーカッションの細かい音も艶やかに拾ってくれて素晴らしい。またサラウンドスピーカーが、以前よりかなりゴツくなって配置に苦労したが、普通のドルビーステレオでもリアに音が十分回るようになって、これまでサラウンドがプアだったんだということを実感した。

久々の高い買い物なのでもう少し奮発しようかとも思ったが、以前のスピーカーと同じ価格帯であっても、20年分の技術進歩があるから十分に満足できるというアドバイスをもらって、本当にその通りだった。ちなみに、もう一つ上の価格帯でのお勧めを聞いたら、B&Wの704S2を提案された。B&W!私の趣味も本格的になったものだ。

なお下取りに出したAADは古すぎて値がつかず。軽くショックだった。

2023年1月9日(月)
新年のご挨拶と2022年のまとめ

皆様いかがお過ごしでしょうか。
今年こそ関東に戻りたいなあと思う今日この頃、私は元気にやっております。

本当は年内に片付けるべきだったんだけど、昨年秋以来書きためてた原稿をお蔵出ししておきます。

○ 『リコリス・リコイル』完結
百合風味美少女ガンアクションとして超一流の出来栄え。良くも悪くも。
優れたフィクションが現実を予言、と言うより現実がフィクションを模倣してしまっているかのような事態が稀に起こる。最近、でもないが、『東のエデン』が某国のミサイル発射と某アイドルの全裸事件とを先取りしてしまったのをご記憶だろうか。
『リコリス・リコイル』もこの系譜に連なる資格がある。何しろ放送が開始されてリコリスがテロリストを殺しまくるのと同時に、現実では元首相が暗殺されてしまったのだから。
『リコリス・リコイル』への不満はただひとつ、フィクションが現実に負けているということである。政府が、超法規的に暴力を行使することなどあってはならないという間島の主張は、完全に正しい。それを必要悪だという局長のセリフに共感する人間は、少なくとも法治国家の住人ではない。だが間島は、千束とたきなに敗れ、不穏な気配を残しつつも退場するのみだった。然るに現実は、政府与党と統一教会の癒着を暴くことに成功した。テロを肯定するつもりはないが、これほどに本懐を遂げたテロリズムは世界史上でも珍しいのではないか。
フィクションよ、もっと頑張れ。

少し真面目なことを言うと、あの結末でいいのだろうかと思わないでもない。千束自身はついに手を汚さなかったが、その役を代わりにミカがつとめたことを千束は知らないままでよいのだろうか。千束との付き合いで人間らしさを取り戻したたきなは、これまで犯してきた殺人の罪の重さから逃れられるのだろうか。倫理や良識と無関係に、人間がその持てる才能を十全に発揮することのみを至上とする、魅力あふれる悪役アラン機関との決着は。もし続編があるなら、その辺踏み込んでほしい。


○意外にも面白かった作品
『エウレカセブン ハイエボリューション エウレカ』
前作『アネモネ』が意味不明なCGの使い方を含めアレな出来だったのが、主人公が期せずして子供を連れて逃げるハメになる『グロリア』のパターンに収めたことで、とっ散らかったお話が整理された。これぞクリシェの効用。

『劇場版艦これ』
全編アクションでおちゃらけた場面がないのが好感。特に冒頭の夜戦の緊張感と迫力は大したもの。霧島が敵新型戦艦と対峙したりすると長年のミリタリー者としてはコロリとやられてしまう。我ながらチョロくてすまん。

『サマーゴースト』
久々にレンタルを利用。短編ゆえかも知れないが、これは意外な拾いものだった。


○心配したとおりダメだった作品
『雨を告げる漂流団地』
思えば前作の『ペンギン・ハイウェイ』が面白かったのは、主人公のアオヤマ君がおよそ小学生らしからぬ性格設定だからだった。想像以上に亀井幹太の志向が反映されていたのかもしれない。

『鹿の王』
最近腕利きアニメーターの名前をあまり見かけないと思っていたら、大挙してここにいた。作画芝居は本当に凄いのだが。例えば、狂女が背中におぶった赤ん坊をあやす手つきとか。
感染症と闘う医者が主人公なら、私の好みだったろうな。決断が初めから分かってる葛藤なんて、ドラマになり得ない。

『ぼくらのよあけ』
結構期待していたのだが、これはちょっと。途中で映画館を出ようかと真剣に思った。『君の膵臓を食べたい』に続き、「観たけど観たことにカウントしない映画」に分類。
お話の稚拙さはさておき、家庭用AIのナナコが宙に浮いているのが凄く不自然で、どういう原理なのか気になって仕方がない。反重力としか思えないが、それでは現実の技術レベルと隔絶しすぎている。
もうひとつ、ナナコの顔の情報量の少なさがものすごく気になる。人間の顔の情報量と比較して、世界観が合っていない。
不思議なもので、いずれも原作マンガでは気にならなかったところである。アニメ化で、色彩と三次元空間を与えられたことで、要求されるリアリティのレベルがマンガと変わってしまったのではないか。観客がそれに敏感に気づいたことが、本作の不振の原因(のひとつ)ではないかと思う。

○『アイの歌声を聴かせて』
劇場で観る気は起きなかったので、WOWOWで。正解だった。
吉浦康裕監督って、注目されたのは新海誠とほぼ同時だった気がするのだが、ずいぶんと差がついてしまったものだ。
イカれたAIならいきなり歌い出してもオッケーだろう、とばかりにミュージカルを実現させた力業には感服する。実際、丁寧な作画芝居と相まってよくできている。柔道のシーンは特に。
が、中盤以降、一気に失速しちゃうんだよね。前半の、学生たちの生活を歌と笑いでごまかしながら点描する分には悪くないんだが、後半大人たちの事情が描写され始めると途端に現実味のなさが露呈する。
そもそも、母親がヘタすりゃ後ろに手が回るような危険な実験(AI搭載のアンドロイドを、学校側の許可も取らずに潜入させるとかありえんだろう)を何でやってんのかが分からん。社内での立場がまずいからあえて賭けに出てる、という風でもなし。

かてて加えて、詩音の正体がドッチラケだ。今時人形遣いかよ。しかもプロの技術者がそれに気づかないって。
新海誠のいいところは、「過去からの因縁」というものを描かないことだと思う。『言の葉の庭』以降の新海映画は、いずれも偶然に出会った人々が事件の焦点にいる。『アイの~』を観る限り、過去からの因縁で物語をドライブさせるのはやめた方がいい。


○10月期のTVアニメ
『後宮の烏』
あまりにも地味で話題にならなかった気がするが、丁寧に作られた上品な作品で、とても良かった。

『チェンソーマン』
毎度のことながら、MAPPAの体力、豪腕には恐れ入る。毎回エンディングが異なるとか、そんな予算と人員がどこから出てくるのか。『進撃の巨人』の完結編も控えているはずなのに、こんなところに戦力投入していて大丈夫なのか、余計な心配もしたくなる。

『アキバ冥途戦争』
2022年の大穴。ああ、P.A.WORKSお得意のお仕事もので今度はメイド喫茶ね-と思わせておいて、まさかの東映実録ヤクザ映画!寡作だった増井壮一監督、ここに来て精力的に仕事してくれてうれしい。


○『エロマンガベスト100+』
労作である。劇画時代の草創期から令和の御代まで、商業誌ばかりか同人誌まで視野に入れて論じた知識と情熱にただ頭が下がる。
アマゾンのレビューには、例によってあれがないこれがない式の批判が寄せられているが、一顧だにする価値もない。本書の評者たち以上にあの世界を語れる人たちがいるとは、とても思えない。歴史的名作はもちろん網羅されているが、ホムンクルスやきいまでカバーしているのだから恐れ入る。
本書を読んで新発見だったのが、『キャノン先生トばしすぎ』と『初犬』と『少女マテリアル』と『独蛾』が同じ2008年の出版だったこと。凄えな2008年。
ところで、『少女マテリアル』ってそんなにいいかねえ。私もご多分に漏れずハナハル税払いましたよ確かに。しかし、そりゃ絵は上手いが、マンガとしては情感もひねりも驚きもない平板な出来だと思うけど。
一つだけ本書に文句を。『じょしラク!』に百合テイストなんてかけらもねえよ!


○番組改編期
今のところ、『REVENGER』がダントツの出来。それにしても、もう企画書に「異世界」と「転生」の文字があったら、即ボツでいいと思うな。

今年もよろしくお願いします。

バックナンバー