私の、2018年のTVアニメベストワン『やがて君になる』。
アニメ版を観た後にすぐ原作を一気読みした。原作が完結してから語ろうかと思っていたのだが、最終巻発売が今年秋になるそうで、待ちきれないので今回書くことにする。
原作も恐ろしく完成度の高い作品だが、アニメ化に当たってどんな工夫がされているかという観点で、気に入ったポイントを3つほど。
まず第6話「言葉は閉じ込めて/言葉で閉じ込めて」。
(アニメ公式サイトから引用。以下同じ)
試験が終わり、久しぶりに生徒会室に集まった一同。
滞りなく会議は終わったのだが、生徒会劇の準備は脚本をどうするかで困っていた。
せっかくだからオリジナルの劇を作りたいという燈子は、脚本が書ける人に心当たりがないか皆に問いかける。
侑は心当たりがあるものの、その場では「誰もいない」と取り繕ってしまう。
その様子を訝しんだ沙弥香は・・・。
脚本:花田十輝 絵コンテ:あおきえい 演出:渡部 周
沙弥香が優しい美人のお姉さんというだけのキャラではないことが明らかになるシーン。原作ではこのような描写になる。

アニメ版ではこう。
自動販売機を背に侑と話す沙弥香。

そこから侑のすぐ前まで移動してきて(このとき顔が切れて表情が見えないのがポイント!)、

90度横倒しのこのカット!衝撃度が段違いだ。

侑の横顔のアップから、すっと身を引く沙弥香。このときも沙弥香の目が映らず、侑のショックが強調される。

私はもともと、この作品、百合ものに見せかけた心理サスペンスと思っているのだが、このシーンはサスペンスを通り越してホラー映画の域に達している。さすがお師匠の絵コンテ。
次に、第12話「気が付けば息も出来ない」。
合宿もいよいよ最終日、生徒会メンバーは台本を手に皆で読み合わせをしていた。
慣れない演技に苦戦する槙をはじめ、どこかぎこちない面々。
しかし燈子は読み合わせを進めて行くうちに、周りを圧倒するほど演技が白熱して行く。
その理由に気付いた沙弥香は休憩を提案し、コンビニへ買い出しに行く事に。
沙弥香に同行した侑は、釈然としない様子で・・・。
脚本:花田十輝 絵コンテ:中井 準 演出:渡部 周
合宿を終え、侑の自宅で、「自分を好きにならないでほしい」と言う燈子の真意を知る侑。
燈子を駅まで送り、別れるシーン。

建物の間の路地、シャッターと明るい窓、路面のタイル。これでもかというほどの断絶の描写。
燈子の背に、侑はひとりごちる。

ここで侑の「好き」という気持ちを明白に見せるわけにいかないので、原作は侑の「ばか」というセリフをかぶせるマンガならではの技法を使う。アニメ版もここは同じで、侑の内語に本当に発話をかぶせている。改めて考えてみると大胆なやり方だ。
また、大きく違うのはこの後。侑は、劇の結末を変えようとこよみに電話し、こよみの家へ走り出す。

気持ちの高揚がそのまま運動で表せる、まさに映画的な展開。なおこのカットは、奥から手前へ向かって走って来つつ方向を変えるという、地味に難易度の高い作画。
プラネタリウムと「あの人を変えたい」という印象的なモノローグは、こよみとの対話の後に変更されている。
最後に、第13話「終着駅まで/灯台」。
合宿も終わり、生徒会メンバーは各々夏休みを過ごしていた。
家族で墓参りに訪れていた燈子は、墓石の前で立ち尽くしたまま物思いにふけっていて・・・。
一方、侑は生徒会劇の台本の変更作業を進める為、こよみと共に喫茶店へやってきた。
作業を進める中で、こよみは侑に「一緒に考えて欲しい」と、あるお願いをする。
脚本:花田十輝 絵コンテ・演出:加藤 誠
姉の墓前の燈子は、原作ではこのような構図。

一方アニメ版では、真後ろからの構図。

左右を墓石に挟まれ、閉塞した絵になる。しかしカメラが上方にゆっくりとパンしていくと、左の墓石の上端が途切れる。同時に風が吹き込んで燈子の髪を揺らし、上空は積乱雲の上に青空がのぞく。

つまり、墓石(=死者)に取り囲まれた燈子に解放の道筋を与えることで、物語の幸せな結末を暗示している。見事だ。
加藤誠監督のインタビューも読んでみた。それによると、OP/EDにはこだわりがあって、自分で作りたいとのこと。また、2話の踏切のシーンは自身の絵コンテ。
生徒会劇の本番前で幕引きにしたのは、劇までやると完全に「燈子の物語」になってしまうため。あくまで「侑と燈子の物語」にするためにはここで終わるべきという判断だったそうだ。
全編通してアニメで観てみたい気もするものの、深い余韻を残すいい結末だったと思う。
加藤監督の今後が楽しみだ。
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