更新履歴と周辺雑記

更新履歴を兼ねて、日記付け。完結していない作品については、ここに書いていきます。

2014年12月29日(月)
師走のまとめ

○ 『ゴーン・ガール』
観終わった後、他の観客の感想が耳に入った。「エイミーの嘘がばれて、逮捕されるのかと思ったのに」。私は、そうなればいいなとは思いつつ、たぶんならないだろうと思って観ていた。
なぜか。
本作は、事件の謎が解明されて悪人が罰を受けることによるカタルシスを観客に与えることを主眼にしてはいないからだ。
では本作のテーマは何か。
それは、世の夫が必ず抱く(当社調べ。筆者独身のため)疑問、「妻とは何者か?」という問いである。
一つ屋根の下で暮らし、ベッドをともにし、子供を授けてくれるこの女は一体何なのか?
何を考え、何を感じ、何を欲しているのか?
本作はその問いに対し、冷徹な事実を告げる。それが解る日は永遠に来ないのだ、と。

関連して思い出されることが二つある。
一つは、ジャック・ニコルソンの『アバウト・シュミット』。主人公のシュミット氏は定年退職を迎え、「毎晩自分の隣で寝ているこの婆さんは一体誰だ?」と思ってしまう。ニックとエイミーは結婚5年でああなったが、30年過ごしてもこうなのだ。
もう一つは、私事ながら私の父のことだ。平凡なサラリーマンだった父は、帰宅すると食卓に手提げ鞄を置くのが常だった。潔癖な気のある母はそれを酷く嫌っていた。駅の構内や地べたに置いた鞄を食卓に置くのは不潔だと言って。ちなみに母は、観葉植物の植木鉢を食卓に置くのは平気だった。雑菌だらけだろうに、と私などは端から見て思っていたのだが。それでも翌日、父はまた同じように食卓に鞄を置く。結局父が退職するまでその習慣は改まらず、両親は数十年間同じやりとりを続けていた。
なぜお互い学習しないのだろう、と子供心に不思議だった。
20年が経った今も謎のままである。


○ 『インターステラー』
前評判通りに面白かったが、特に相棒のロボットがツボ。緊急時は変形して転がって移動するのが良い。


○ 『フューリー』
映画史上初めて、本物の動くティーガーを使用すると言うから当然それがクライマックスかと思ったら違うのね。
万全な状態で強力な敵戦車と戦うよりも、動けなくなった状態で歩兵に袋だたきにされる方がピンチだ、ということだろうか。

ところで『プライベート・ライアン』もそうだったが、戦争映画に登場するナチはたいてい武装親衛隊(SS)である。狂信的なナチ信者だから遠慮なくブチ殺せると思われてるんだろうが、実際には単に待遇が良い(装備から給料まで)ので国防軍からSSに移った、という将兵も多かったらしい。
近年の研究で、国防軍も積極的にナチスの残虐行為に荷担していた、ということが明らかになっている。



○ 高山文彦
2014年は、『スペース・ダンディ』と『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』、高山監督が関与した作品が2本も公開された。高山ファンにとっては盆と正月が同時に来るような慶事のはずなのだが、なぜだろう。
「何か悪いことが起きる前触れではないか」と不安に駆られるのは。

出渕監督のインタビューによると、高山監督は『2199』本編のイスカンダル編を担当する予定が諸般の事情でお流れになり、劇場版に回ってもらったとか。おかげで、サトジュン演出のうるしばら作画による水着回を拝めたわけで何が幸いするかわからんものだ。
ところで、『2199』は越前松島、安芸の宮島、丹後天橋立の日本三景とコラボ企画をしているのだが、映画のパンフを読む限りでは肝心なことを説明していないので、脈絡が解らなくなっている。
日本の戦艦は伝統的に旧国名を名前とするのだが、明治期には松島、安芸、橋立の3隻の戦艦(正確には防護巡洋艦)があり、合わせて「三景艦」と呼ばれたのである。

『2199』についてもう一つ。1話が公開されたとき、スピーディな戦闘の描写が話題になったが、あれは「宇宙戦艦同士の戦闘が実際にあったらこう見えるだろう」という今西隆志CGディレクターの考えによるものだという。それを聞いて思い出したのが、今西監督の手がけた『ザ・コクピット』の「音速雷撃隊」である。この作品では、レシプロ戦闘機が非常にゆっくり動く。川尻善昭監督の「成層圏気流」と比べてみると特に目立つ。これも、「プロペラ機の戦闘は傍目にはこう見えるはず」というこだわりの結果なのだそうだ。なるほど首尾一貫している。


○  『スクラップド・プリンセス』
忘れられた名作-と言って良いだろう。増井壮一監督の名をこの作品で覚えた。『棺姫のチャイカ』完結に合わせてBD化されたので、改めて観返している。
パッケージにこんな記述があった。

作品の世界観演出の意図の為、フィルムのような粒子感のある効果で本編映像を仕上げております。制作時の演出意図を楽しんで頂く為、オリジナルのまま収録をさせて頂きますことを併せてご了承下さい。

2003年の作品だから、デジタル制作へ移行してすぐの頃だろう。いろいろと試行錯誤があったのだろうな、と想像される。



では、明日に備えて早寝します。皆様良いお年を。

2014年12月11日(木)
『ガンダムUC』の極めて芸の細かい演出

最近少し時間ができた(野球のシーズンが終わったため。ロイヤルズ惜しかったなあ)ので、『ガンダムUC』を観直していた。
そこで初めて気がついた、恐ろしく芸の細かい演出。
2話で、バナージがマリーダに連れられてパラオの教会を訪れるシーン。

 

2人が通過した後、教会の坑道にちらりとのぞく人影が(円内)。



これはたぶん、バナージを尾行してきた連邦軍の密偵である。バナージの動向を把握していたからこそ、救出作戦をいいタイミングで知らせることができた。

次に3話で、地球へ降りるためモビルスーツデッキへ向かうリディとオードリー。壁の移動用グリップハンドルに注目。

 

オードリーはハンドルをつかんでいるが、リディは壁を押すだけ。
リディは艦内の地理に詳しいので、目的地が近いこの場面ではいちいちハンドルを使わないのである。

こうした細やかさが、作品世界を確固たるものにし、キャラクターに血を通わせる。

それにしても、2話のこのシーンはもう5、6回観ているはずなのだがこれまでちっとも気付かなかった。改めて、劇場クオリティで作っているのだなあと実感する。私は80インチのスクリーンで観ているのだが、パソコン画面なんかだったらまず見えないはずである。
やはり大画面はありがたいものだと再認識した次第。

2014年12月8日(月)
川尻善昭ミッドナイトフェス

『獣兵衛忍風帖BURST』が初公開されると聞いて、30年越しの川尻ファンとしては矢も楯もたまらず行ってきた。
体力的に厳しいので、オールナイト自体が学生時代以来20年ぶりになる。しかし、川尻監督自身が「今夜は寝かさないぜ(意訳)」と仰ったとおり、40男が一晩戦い抜いた!

氷川竜介氏の司会によるトークショーも時間がたっぷり取ってあって、聞きごたえがあった。印象的だった部分をメモ。以下は発言通りではなく大意。

『獣兵衛忍風帖BURST』は、1本4分の短編が3本の形式。

セリフはなしでいわゆる「息の演技」のみ。そのため、当初は必要なら川尻監督自身が演じるつもりで練習していた。
その後、声優学校出たての新人さんを使おうということになったが、音響監督の三間雅文氏(記憶によれば確か)と打ち合わせをしているところにまったく偶然に山寺宏一氏が通りかかり、挨拶がてら事情を話したところ獣兵衛を演じてもらえることになった。息だけなのに!
箕輪豊氏(『獣兵衛忍風帖』キャラデザイン・総作画監督)曰く「天才山寺氏のもっともムダな使い方」。
それでも三間氏は、「今のは40代の息。20代の息をしろ」と容赦なくリテイクを出したという。

川尻監督は、当初は『夏への扉』などで少女マンガ的・叙情的な絵を描く人と見られていた。

私は『妖獣都市』から入ったので少し意外だった。

『走る男』のアイデアは、ウォルター・ヒル監督の『ザ・ドライバー』から。

『妖獣都市』ではなぜか音響監督がおらず、兼務するはめに。専門用語がわからなくて苦労した。永井一郎氏が現場を仕切ってくれて助かった。
音楽をもらったのはダビングの前日。
おまけに音響効果担当の方が日常的な作品(寅さんのような)を主に手がけており、『遊星からの物体X』を観たことがないと言うので、まず『物体X』のビデオを観せるところから始めた。
銃声は『ブレードランナー』のようにしたかったので、3~4時間かけて作ってもらった。
箕輪氏「それであの作品ができちゃうのが驚異」

たぶん、蜘蛛女が断末魔に痙攣するシーンも『ブレードランナー』の引用。

フィルムは自然に空気感が出るのが良い。『バンパイアハンターD』で、吸血鬼は鏡に映らないという設定だがダンピールのDをどうするか考えた結果、半透明に映るということにした。この頃にはフィルムの感度が上がっていたので表現できた。
元々黒ずくめのDを半透明にしたので、テレビでは補正されてしまってわからないはず。劇場でよく確認してほしい。

Dが鏡に映るシーンなんてあったっけ?と思ったら、貴族の避難所を調べるシーンだった。確かにDの姿が透けて背景が見えている!
帰宅した後、WOWOWのHD放送をBD録画したものをプロジェクタで確認したら判別できたが、これまで気付かなかったのが不覚。

なお『D』は英語版の上映。日本語版で観たかったが、考えてみれば劇場公開したのは英語版だから、日本語版のフィルムは存在しないのか。他の2作とは、画面の美しさもさることながら音響効果が桁違いだった。VHS時代のOVAと比較するのも気の毒だが。

2014年12月1日(月)
『羊たちの沈黙』関連地図

私のオールタイムベスト映画のひとつが、『羊たちの沈黙』である。

連続殺人鬼バッファロー・ビルを追う、FBI訓練生クラリス・スターリングと狂気の食人探偵ハニバル・レクター博士の活躍を描く名作中の名作。本作と元祖『サイコ』を観ておけば、異常犯罪者ものは観なくてよいくらいである。
ただこの作品、地名がたくさん出てくるのだが私のようなドメスティックな人間には州の名前で言われてもピンと来ないのですね。

そこで、ふと思い立って関連地図を作ってみた

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