更新履歴と周辺雑記

更新履歴を兼ねて、日記付け。完結していない作品については、ここに書いていきます。

2013年10月29日(火)
最近の読書から

最近読んだ本から印象的な部分を。

「われわれはそうじゃないね」と総統は言った。「われわれは物事を愉快にやるのが好きなんだよ」
「ところが、わたしは愉快なのがきらいなんです、わたしは神を欲します、詩を、真の危険を、自由を、善良さを欲します。わたしは罪を欲するのです」
「それじゃ全く、君は不幸になる権利を要求しているわけだ」とムスタファ・モンドは言った。
「それならそれで結構ですよ」と野蛮人(サヴェジ)は昂然として言った。「わたしは不幸になる権利を求めているんです」
「それじゃ、いうまでもなく、年をとって醜くよぼよぼになる権利、梅毒や癌になる権利、食べ物が足りなくなる権利、しらみだらけになる権利、明日は何が起るかも知れぬ絶えざる不安に生きる権利、チブスにかかる権利、あらゆる種類の言いようもない苦悩に責めさいなまれる権利もだな」
永い沈黙がつづいた。
「わたしはそれらのすべてを要求します」と野蛮人(サヴェジ)はついに答えた。
ムスタファ・モンドは肩をそびやかした。「じゃ、勝手にするさ」と彼は言った。
ハックスリー『すばらしい新世界』松村達雄訳、講談社文庫、1974年、278-279ページ。

優生思想が極限まで推し進められ、人間の誕生から育成までが完璧に管理された近未来。その世界に、一人の野蛮人が訪れる。上は、野蛮人がその世界の最高権力者たる総統ムスタファ・モンドと語らうシーン。

かくも重い、自由の代償。


2013年10月22日(火)
『青い花』4周目その2

観返して気になった表現いくつか。

4話で、京子と2人で買い出しに行くふみ。



ふみが先に立っていることに注意。引っ込み思案のふみは誰かと連れだって歩く際、基本的に人の後ろを歩く。下図は9話、肝試しのシーン。



確認したわけではないので断言は避けるが、ふみが人の前を歩くのは作中4話のこの場面が唯一のように思う。このシーンで京子は杉本のうわさ話をしている。ふみは京子が泣いているのを偶然見かけたことでその気持ちにうすうす気づいており、京子の口から杉本の話が出るのが後ろめたい。その気持ちの表れが、この立ち位置である。


5話。自室で杉本から電話を受けたとき、眼鏡をかけるふみ。

 

それに対して、9話であーちゃんが訪ねてきたときには、(髪の乱れは気にするが)眼鏡なしで出迎える。



私は生まれてこの方眼鏡の世話になったことがないのでこの辺の心情は計りかねるが、距離感の違いが出ていて面白い。

同じ場面でもう一つ。訪ねてきたあーちゃんはいきなりふみにしがみついてしまうのだが、ふみの横顔のカット(右図)を挟んで、

 

もう一度、カメラが先ほどのポジションに戻る。



単純な使い回しと思いきや、2人の手の位置が変わっているのに注目。動画ではない一枚絵だが、まことに細やかな芝居付けである。私はこの作品を「スーパー演出アニメ」と評したが、改めて観ると、作画芝居も実に丁寧だ。繰り返すが名作とはこういうものであろう。

あと一件、以前の記事に追加

2013年10月15日(火)
『ワルキューレロマンツェ』など

○ 『ワルキューレロマンツェ』
すっごい馬アニメだった。
主役は馬!恋敵も馬!岸田隆宏も馬



聞いた話だが、馬の作画は大変難しいのだそうですな。かの『ストレンヂア』は、馬を描けるアニメーターを確保してから制作に入ったとか。
それ以外はあんまり感心しなかったが、山本裕介監督だし案外化けるかもしれない。

○ 『進撃の巨人』
考えてみれば、これまで「巨人同士の格闘」ってありそうで実はなかった。あのクオリティを維持できるのだろうかと半信半疑で観続けていたが、最終回に向けてテンションが上がる一方。気迫ほとばしる作画で、斬新な画を見せてもらった。続編に期待。

○ 『ヴァルヴレイヴ』2期
もういっぺん言うが、10年後に残っているのは『ガルガンティア』でなくこっち。

○ 『コッペリオン』
風景、特に草花の描写が凄い。『おおかみこども』で使っていたあの技術だろうか。
それに対して、キャラの描線がものすごく太いのが印象的。
が、観続けるのは2話で諦めた。GoHandsは『生徒会役員共』の続編を作ってくれれば、皆を幸せにできると思う。
私の場合、自衛隊が出てきた瞬間に微妙な気分になるのだがあえて一つだけ言っとく。

防大に、教頭はいません。

2013年10月8日(火)
篠原俊哉

今シーズンの話題作『凪のあすから』の篠原俊哉監督。
私はこの人の名前を前作の『RDG』で初めて覚えたのだが、1959年生まれのベテランだったんですな。トムスエンタテイメント出身だというのも、言われてみればうなずける。
同期には板野一郎、うつのみや理、片山一良、原恵一、森本晃司、美樹本晴彦、浜崎博嗣、山内則康ら。
望月智充、出渕裕の1つ下で、庵野秀明、梅津泰臣、片渕須直、河森正治、佐藤順一の1つ上ということになる。

たまたま某所で知ったのだが、1991年のOVA『ウィザードリィ』の絵コンテを担当している。あ、1994年の『マーズ』演出もだ!
作風を語れるほど知らないけれど、『凪のあすから』も『RDG』も現世と異界の境界をめぐる話だという点で共通している。今期は偶然(そのものずばりのタイトルの)、『境界の彼方』もよく似たテーマを扱っている。現世と異界との接点に関する描写の違いが面白かった。『境界の彼方』では、妖怪がかたわらを通っても一般人は気づかない。一方『凪のあすから』では、水面を抜けるだけでシームレスにつながっている。設定を最初に聞いたとき、真っ先に『うみものがたり』を連想したのは内緒だ。

なお『境界の彼方』は、『フルメタTSR』以来実に久しぶりの京アニのアクションものという点でも期待大(いやまあ、『ムント』とかあったけど)。

2013年10月2日(水)
最近観た映画とか

○ 劇場版『あの花』
気がついたことなどメモ書き。
じんたんが左利きなのはお母さん譲り。なんかまとめて観ると、じんたんのお母さんのエピソードがうまく消化し切れていない。
TVシリーズでも、じんたんはあそこで泣いてたっけ?
最後の最後まで涙をとっておかないとまずいんじゃないのか。

母親(の意を受けためんま)が、次第に動かなくなる手で別れの手紙を書く、というシチュエーション。なんか見覚えがあると思ったら、アレだ。「葛の葉」伝説だ。

公開から1ヶ月経つというのに、バルト9の一番大きなスクリーンが満員。パンフ買うとき、バルト9のカウンターでも『あの花』で通じた。

○ 『クロニクル』
話題の超能力少年映画。
初体験に失敗した童貞が暴走する映画。
まことによくできている。『童夢』の実写映画化は何度となく噂されては消えていったが、これで決着。もう必要ない。
『キャリー』の翻案と考えることもできるが、現代は男の子も生きづらい時代だ。

教訓。童貞喪失は素面の時に。

○ 『ガッチャマンクラウズ』
「大きな力には大きな責任が伴う」とは『スパイダーマン』の名セリフだが、ならいっそ全員に等しく力を分け与えちゃえばいいんじゃね?というのは、ヒーローものの古典的な解の一つである。全米ライフル協会あたりに見せてやれば喜ぶかもしれない。
実のところ、本作は『東のエデン』のその後を描いた物語である。『東のエデン』は、大衆がいつか覚醒することに望みを託して、国民全員に1円を配ったわけだが、『ガッチャマンクラウズ』はそんなみみっちいことせず全員に100億円の大盤振る舞いしちゃったのである。その100億円をいかに使うかにゲームの要素を取り入れて、ある方向に誘導してやればいい-というのがミソなわけだが、やっぱり考えるほどに無理がある。
意欲作であることは間違いないのだが、舞台が立川限定であることからして、「学園の外に出る決意はしたが、天下国家を語るほどの踏ん切りはつかない」葛藤がモロ出しで、何とも言えないもどかしさばかりが募るのであった。

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