更新履歴と周辺雑記

更新履歴を兼ねて、日記付け。完結していない作品については、ここに書いていきます。

2012年11月20日(火)
『Q』

一応改行しておく。









ホントに潜水艦ものになってて笑った。

ノーチラス号を素っ飛ばしてN-ノーチラスでしたが。


大体世間の感想と一緒で、こんなにも細部で異なっていながら、これは紛れもなく『エヴァ』だ。むしろ律儀なほどに旧作の展開に則っている。
『破』を観たとき私は、このヒロイックな展開はこれから突き落とす準備じゃないだろうか、と思った。不幸にしてその予想は的中してしまったが、不思議に旧作のような陰惨な感じはない。
たぶん理由は3つあって、ひとつは、シンジの心象風景の描写-代表はあの電車の中の自問自答だが-がないこと。『Q』はあくまで、カメラに映るものしか捉えない。
第2は、人類補完計画を推進する者とそれを阻む者、2つの対抗勢力が準備され、その力が拮抗していること。旧作ではミサトさんが拳銃一丁で立ち向かわねばならなかったことを考えれば、これは大きな進歩だ。Seele(魂)-Nerv(神経)に抗うものがWille(意志)を名乗るのも大変に筋が通っていてよろしい。

本作の感想に、「同性間の結託」と「異性間の断絶」が顕著だ、というのがある。確かにそれはそうだ。(余談ながらリツコさんが金髪ベリーショートになっているが、ちょうど『キッズ・オールライト』のアネット・ベニングがこんな感じだった。レズビアン家庭の「家長」役。ちなみに外科医という設定で、すっぴんの荒れた肌と二の腕のぶっとさが凄い迫力)。個人的に、そこに同性愛的読解をするのは避けたいが。

しかし私は、これは過渡的な現象だと思うのだ。

本作は、「身体的な接触」の描写を非常に慎重に抑制しているように見える。
カヲルとシンジはベタベタしているように見えて、実は直接触れるのは、連弾のシーン、首輪を外すシーン、そしてエヴァ13号機へ誘うシーンだけ。
その少し前、ベッドに並んで腰掛け、SDATを挟んで画面両端に2人の手、というカットがある。このまま手をつなぐんじゃないかと思って冷や冷やしたが、幸いそういう下品な演出はしなかった。

さて、もう一人、シンジに触れる人物がいる。
言うまでもなくアスカだ。一度は殴ろうとして、ガラスに阻まれる。
そしてラストシーン、これが第3の理由だが、アスカはシンジの手を引いて歩き出す。もともとアスカ派の私としては、この世話女房っぷりに大変和む。
『序』で、ミサトと手をつなぐシーンが印象的に使われていたことを想起したい。ここに、願望込みで、幸福な結末への希望を読み取れる。

参考:『青い花』に見る握手と手つなぎ

ついでながら、アスカが右手で、つまり目の見える側の手でシンジを引っ張っている、というのは覚えておくといいかも知れない。

2012年11月14日(水)
日米野球ファン気質

ちょうど今現在、野球界はストーブリーグの真っ最中だ。
なかでもニューヨーク・ヤンキースの黒田博樹投手の去就は注目を集めている。

昨年の7月、当時ロサンゼルス・ドジャースに在籍していた黒田は、契約にある「トレード拒否条項」を理由にドジャースからの移籍を拒否した。これが、いろいろと物議をかもした。

と言うのは、メジャーリーグでは7月31日がトレードの期限となっており、この時期は選手の移動が活発に行われる。優勝争いをしているチームは即戦力選手を求め、優勝を諦めたチームは来期に向けて、有力選手を売り払って若手有望選手と交換するからだ(このトレードをフラッグシップ・ディールと言うのだそうだ)。
昨年のドジャースは放漫経営がたたってチーム状態はガタガタ、黒田は良いピッチングをしているのにさっぱり勝てないありさまだった。
そこでこのとき、契約最終年だった黒田を優勝争いしているチームへトレードしようという動きがあったのだが、黒田は「このチームメートと一年戦うと決めたから」という理由で移籍を断った。
日本のマスコミは概ね男気ある決断という論調で報じていたのだが、向こうの常識では「勝てるチームへ移籍するのを断る」というのは考えられないことだったらしい。
李啓充氏なんかは「ミソをつけた」とまで言っている。
http://blog.livedoor.jp/goredsox-baseballnumbers/archives/50675074.html


私などはあまりの感覚の違いに呆然としてしまったのだが、今さらながらふと疑問がわいた。
評論家やコアなマニアはともかくとして、たとえ優勝はできなくとも、ドジャースが勝つところを見たさに球場に通うようなファンはどう思っているのだろうか?

野球中継局ESPNのニュース。コメントには李氏のような厳しいコメントが並ぶ。

http://espn.go.com/los-angeles/mlb/story/_/id/6819355/los-angeles-dodgers-starter-hiroki-kuroda-not-waive-no-trade-clause

その一方、ドジャースの公式ホームページのニュースのコメントはと言えば。

http://losangeles.dodgers.mlb.com/news/article.jsp?ymd=20110730&content_id=22523914&vkey=news_la&c_id=la

大体解ると思うのでいちいち翻訳しないが、こんな感じ。

WE love u kuroda u are truely part of the LA family!!!

Mr. Kuroda, you are the MAN!I love your high ethics and principles. Without question, you bring "Class" to the Dodgers. Thank You for remaining in Los Angeles.

I love this country and I love our people. But you gotta tip your hat to the integrity and honor of what commitment means to players like Kuroda. All considered, anyone else would have jumped at the chance. Hope to see you in L.A. next year, Kuroda. Maybe that kind of loyalty will rub off.

I have noticed this type of loyalty with many of the Japanese players that come to America to play baseball. Suzuki of Seattle, and Matsui come to mind almost immediately. They have a different mindset coming from a different culture. It is very refreshing, I think.

Kuroda is a true Samurai Warrior. He has a lot of class . . . more than we could say about most any other player in MLB.

Most professional athletes are selfish, spoiled, and lazy. All they care about is their egos, and want a ring, no matter how they get it . . . even if it means relocating or leaving their families, and leaving their teammates an fans. They don't care about their teams, all they care about is money.

A true Samurai is dedicated to the end. A true Samurai is disciplined, and performs his duty to the fullest. Kuroda's family is very lucky to have him. Dodgers are very lucky to have him. Heck, if they gave him a little run support, he'd be a top pitcher in MLB. Hiroki does not give up, and keeps the Dodgers in the game, regardless.

MLB ballplayers out there, "please" take notes. . . this is a true PROFESSIONAL ATHLETE, and true role model for our kidsl!!!!

BANZAI ! ! !, Hiroki Kuroda. . . BANZAI ! ! ! . . . BANZAI ! ! !


It feels refreshing to see the decision of pitcher Hiroki Kuroda to stay with the Dodgers. Had he gone to
any of the three teams that were still trying to acquire him, no doubt he would have had a postseason $ reward. Yet he preferred to stay with the club that he signed for the whole season. From my point of view loyalty is stronger than money in Kuroda's mind. Congratulations !!

Hiro you are the man! Make Flank pay you all yo money! Please come back for more years! Only an Idiot would have even considered asking you to waive your deal!

Congratulations Dodgers! As a Red Sox fan I was hoping we'd be able to trade for Kuroda. But I'm very impressed with his loyalty. That kind of team loyalty is way too hard to find these days. Best of luck to Kuroda and I hope you Dodger fans are able to be rid of Frank McCourt soon, and get the team back on a winning track..

The way of the samurai. Loyalty and honor. Thanks Kuroda ! Go ! Dodgers !


絶賛のコメントだけを抜いてきたのだが、熱心なドジャースファンにとっては、黒田の決断は侠気あふれるものに映ったことがわかる。
個人的にはあまり「Samurai」というエキゾチズム、オリエンタリズムの文脈で理解して欲しくはないのだが、上のコメントにあるように loyalty is stronger than moneyという価値観を体現したできごとと捉えられるのは悪くない。ちなみに、「Hiroki Kuroda loyalty」で検索すると30000件近くヒットする。 loyalty(忠誠)という言葉が肯定的な意味で用いられるのかどうかは私の英語力では何とも言えないが。

なお、先のESPNのコメントを見ていると、「奥さんがLA好きだからだ」「来年はどうせ日本に帰る気だ」「暖かいLAから寒いNYへ行くのがイヤなのだろう」といった悪意に満ちたものが多い。ゲスの勘ぐりをする輩がどこの世界にもいるものだ。
とりわけ、「NYで優勝争いをするガッツのないチキン野郎」と言った奴。黒田がそのヤンキースで1年間投げ続け、優勝のかかったシーズン最終戦に先発していつものように好投した2012年秋、どうお考えかぜひ訊きたいものだ。


黒田の決断は、選手の待遇向上を至上命題とする銭ゲバ集団の選手会には造反、ドジャースのフロントにはありがた迷惑、評論家やマスコミやマニアには理解不能、と映った。
だが球場のファンはちゃんと見ている。アスリートにとって、ファンに愛され尊敬される以上に重要なことなど、ありはしない。

アスレチックスのファンが、(ヤンキースに移籍した)ジオンビーに向かって腕を振り回す。裏切り者!スパイ!金の亡者!もっとひどい言葉も飛ぶ。ただ、ビデオ室までは届かない。計6台のモニターはすべて音を消してある。ポールたちは溜め息ひとつつかない。裏切りなどというモラルの問題には興味がないのだ。モラルはファンが論じればいい。
                                                   『マネー・ボール』187ページ。




ところで、私はWBCに関しては「万難を排してでも参加するべき」という意見だが、今月号の『Number』にこんなインタビューがあった。

大島ははっきりと「行きたい」と答えた。

「前回のWBCでのイチローさんのタイムリーは、テレビで見たんです。僕はプロですらなかったわけですが、あのときに次は出たいと思って見ていました。半端ないプレッシャーだとは思います。でも何かをつかめる。そういう場所だという気がするんです」
                                             大島洋平 『Number』816号、56ページ。


「そりゃ、すごく出たい。憧れです。最近はずっとWBCに出たいと思ってやってきました。ようやくその可能性があるところまで来られたので、もし選んでもらえればすごく嬉しいし、選んでもらえるだけの成績も残せたと思ってるので、あとは待つだけです(笑)」
                                             前田健太 同32ページ。


これがプロ野球選手のあるべき姿だと思うし、また「日本代表チーム」はそんな憧れの対象であって欲しいと思う。


2012年11月6日(火)
『伏』

『009』を観た日の午後、『伏 鉄砲娘の捕物帳』を観てきた。
頑張って劇場アニメを作ってるんだから、劇場版『けいおん!』を遂に観ていない私でも観なきゃいかんだろうと思って。

・・・・・・で、いま海よりも深く後悔している。
くだらん映画をけなす暇があったら良い映画を賞めるべきだというし、私も極力そう心掛けているのだが、ちょっとメモ書きしてたら本気で腹が立ってきたので思い切って書く。
実は前作の『亡念のザムド』が肌に合わなかったのでこれも駄目だろうと思いながら観に行ったのだが、想像を遙かに上回る駄目さ加減だった。
猟師と獲物には特別なつながりがある。それはいい。
だからって、セリフで「つながった」って言うなよ!
開始1分のこのシーンで私のテンションはマイナス1億度まで下がって、以後ずっとそのまんま。

加えてイヤなのが、無意味な芝居の連発。そりゃジブリ出身者がトムスで作ったらこうなるに違いないが、例えば、主人公の浜路が塔の上からピーナツを投げる。下にいた小僧の頭に当たる。小僧が周りを見回す。また当たる。上を見上げる。頭を掻く。
こういう無意味な芝居を延々と繰り返すのだ。観ていてひたすら腹が立つ。
ユーモラスなキャラクターがユーモラスな動きをすれば客が喜ぶと思っているのかも知れないが、東映の悪しき伝統と言うべきである。

私が金と時間を費やして観たいのは作画芝居ではない。映画だ。
映画は、たった2時間で何かを語らなければならない表現である。すべてのカットは映画を形作る上で意味を持たなければならない。映画に奉仕しない芝居など意味はない。意味のないカットなど存在してはならない。と言うより、意味のないカットを差しはさむ余裕など、あるはずがないのだ。たった2時間しかないんだから!
『伏』にあるのは、無意味な芝居、無意味なセリフ、無意味なカット、無意味なシチュエーション、その羅列である。酷いものだ。

お話の方も支離滅裂。本人の意思がどうあれ、伏が人を殺して喰らう妖怪だということは何ら変わらない。実際、作中でさんざっぱら殺しておいて、あの結末でよしとする神経が私には理解できない。今もどこかで人を喰ってる妖怪とのんきに文通してますって?
あほか。
子郎正宗のセリフなど引用するのはしゃくだが、「人体とガン細胞は共存できない」のだ。
そのときどうするかがドラマの核心になる。そうでなければ、人と人食いの物語など語る意味がない。

人と人外の恋を描くなら『ぼくのエリ』を観直せ。
獣とハンターの絆を語るなら高橋葉介『狼と狩人と女』を百万回読め。

「ひさしぶりだなあジェローム!お前の娘はうまかったぜ」



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