私は、「プロジェクトX」が大っ嫌いである。
どんな面白そうなエピソードでも、結局最後は「みんなで力を合わせてがんばりました」という結論に持って行ってしまうからだ。
あほか。
そんなことで物事がうまくいくなら、誰も苦労しない。
私が知りたいのは、難問を解決するための技術的ブレイクスルーは何だったのか、だ。
それを面白く伝えてくれるのが、標題の「メタルカラーの時代」である。
「メタルカラー」とは、著者の山根一眞の造語で、「金属のえりを持つ者」の意味だ。日本で技術開発に当たってきた技術者たちは、従来のホワイトカラーとブルーカラーという区分では理解しづらい。管理職でも労働者でもない彼らを指す言葉である。
「メタルカラーの時代」は週刊ポスト誌上で長年続いており、文庫本で15巻まで出ている。
その15巻を読んだので、未熟児用人工呼吸器の開発談を紹介。
従来の人工呼吸器は強制的に酸素を肺に送り込むため、肺が未発達の未熟児では酸素の圧力で肺胞を傷つけてしまう欠点があった。
しかし開発者のトラン・ゴック・フック氏(ベトナムからの留学生で、ベトナム戦争の推移に伴い日本に定住)は、ある発見から未熟児の肺を損傷しない人工呼吸器の開発に成功した。
『フック 気管支は数億個の肺胞に到達するまでに、23から24分岐しているが、第15〜16分岐までは、実はガス交換は「対流」で行っているんです。
山根 対流!?
フック はい。今まで、吸った空気はすべて肺の隅々にまで入って、出ていると思い込んできましたが、違っていた。人は500ミリリッターの空気が常時、気管などにあって、そのうち、気管支の上部の150ミリリッターくらいが交換されているだけ。それが呼吸だったんです。実はかなり余裕があるんですよ。
山根 そうだったの。だったら、その上部の150ミリリッターだけを交換できる「振動人工呼吸器」を作ればいい?
フック その通り!振動で呼吸させる人工呼吸器は、口の部分で空気を振動させるだけで、ちゃんと酸素を肺胞に送り込める。しかも、肺胞にダメージを与えないですむはずだと。』
山根一眞『文庫版メタルカラーの時代15 町工場からノーベル賞まで』(小学館文庫、2009年)57-58頁。
フック氏の開発した人工呼吸器によって、1500gに満たない極低出生体重児でも存命できるようになった。いくつかの病院では、無事成長した彼らの同窓会があり、フック氏に花束を贈呈したという。
・・・・・・で話は飛ぶんだけど、某有名泣きゲーおよびそのアニメ版なんですがね。あえて名を伏せるが。
体が弱くて子供が産めないという設定はまあよしとしよう。でも、ろくな医療も受けさせなきゃそれは死ぬでしょうよ。この展開にわたしゃまるっきり同情する気にもならなくて、アニメ版の2期以降しらけっぱなしだったのよ。
この近代医療に対する不信、あるいは無知っていったい何なんだろうな。
「十兵衛ちゃん」にもそういうシーンがあって、しかもそれを美談として描いてるんだもの。それともアレはギャグか?だったらなおさら神経を疑う。おかげで私は大地丙太郎作品は色眼鏡で見るようになってしまった。
世に病の種は尽きないし、医療過誤その他の問題が多々あるのも認める。
でも、ほんの100年前にはインフルエンザでバタバタ死んでたんだよ?
もう少し医学の、ひいては科学の恩恵を自覚すべきなんじゃないかね。
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