江戸川乱歩 少年探偵団全集 巻末広告



 江戸川乱歩の 〈少年探偵団〉 シリーズは、戦前、『怪人二十面相』 から 『大金塊』 までの4作が 〈少年倶楽部〉に連載されて大人気を呼び、講談社で順次単行本化された。戦後は版の絶えていたところを、昭和22年 (1947)、講談社から独立した光文社がこれを再刊することになった。自伝 『探偵小説四十年』 によると、このとき乱歩邸へ挨拶にやってきたのは、のちにカッパ・ブックスを創刊、ベストセラーを連発した伝説的出版人、神吉晴夫 (当時はまだ重役の一人) であった。

 復刊された4冊はどれもよく売れて、その好評をみた同社では、雑誌 〈少年〉 に新作執筆を依頼、乱歩もこれに応えて 『青銅の魔人』 (昭和24) でシリーズが復活することになった。光文社では 〈少年〉をはじめ、〈少年クラブ〉 〈少女クラブ〉 など、自社の少年少女雑誌に同シリーズを連載、完結するとすぐに本にして出版、というサイクルで大いに売りまくった。記録を見ると、昭和24年から37年 (1962) まで、必ずどれかの雑誌に乱歩の 〈少年探偵団〉 が載っていたことになる。毎年、年末に出版される単行本を、年少読者はさぞ楽しみにしていたことだろう。この14年間、子供たちにとっては 「クリスマスには少年探偵団を」 だったのである。

 〈少年探偵団〉 シリーズは、当時まだ出発したばかりの小出版社だった光文社の 「小さなドル箱」 となると同時に、戦後の乱歩の生活を支えた重要な収入源ともなった。いまも池袋に残る乱歩邸の土地を地主から買い取らなくてはならなくなったとき、光文社の神吉は快く1年分の印税前払いを了承し、乱歩はこれを大いに徳としたという。また、戦前、とかく 「悪書」 作家のレッテルを貼られがちであった乱歩自身の社会的イメージ向上に、これらの少年読物が大きな役割を果たしたことは間違いない。

 昭和39年 (1964)、同シリーズの版元はポプラ社に移った。その間の事情はわからないが、カッパ・ブックスなどで急成長をとげた光文社が、児童書部門を整理した、ということなのだろうか。それまで雑誌連載が完結すると即単行本化されていたのが、昭和35年の 『電人M』 以降の3作がそのまま本にならずにいたところをみると、あるいはこのシリーズの人気も、その頃、さすがに翳りをみせはじめていたのかもしれない。しかし、それも一時のことで、ポプラ社の新版も少年読者の変わらぬ支持を受け、翌40年に乱歩は亡くなったが、その後現在に至るまで、同社では何度も版をかえながら、このシリーズを出し続けている。乱歩世界の雰囲気を見事に表現した藤田新策・装画の新版も話題を呼んだが、その後、今度は最初のポプラ社版の表紙・挿絵を再現した文庫版も出て、これも好評を博した。戦後、一度も版の絶えたことがない、児童書の世界でもまれにみるロングセラーといえるだろう。

 昭和30年代後半に生まれた自分がこのシリーズを手に取る頃には、すでにポプラ社版の時代に入っていたわけだが、古本屋や学校の図書室には、まだ光文社版が残っていた。事実、最初に手にした 『怪人二十面相』 と 『少年探偵団』 は光文社版の古本だった。新刊を好きなだけ子供に与えられるほど余裕のある家ではなかったから (昭和40年代初めの一般家庭って、だいたいそんなものだったと思う)、何かの折に買ってもらえる 〈少年探偵団〉 は文字通り宝物だった。駅前の古本屋K書房の壁一面の棚のどのコーナーに 〈少年探偵団〉 が並んでいたかも、はっきりと覚えている。薄暗い店内がいかにも古本屋然としていたその店も、何年も前に改装されてすっかり明るくなり、いまやかつての面影はまったくない。

 で、その光文社版 〈少年探偵団〉 の巻末に、シリーズ全体の広告が載っていて、この内容紹介というか 「煽り」 がなかなかに名調子なのだ。誰がまとめたのか、乱歩作品の独特の調子、雰囲気が見事に抽出されていて、見ているだけで、まだ読んでいない巻が欲しくてたまらなくなってしまう広告文案の傑作である。「〜なのです」 「〜ではありませんか」 の畳みかけが心地良いし、「ジャブジャブ」 「ニヤニヤ」 「ニューッと」 「ウワン、ウワン」 など、特徴的な片仮名の使い方、「三日月型にキューッとまがった口」 「鉄のすれあうような声」 「血のような夕焼空」 といった鮮烈なイメージも巧みな効果をあげている。ある世代以上の方には懐かしい文章だろうし、〈少年探偵団〉 の世界のすぐれた要約にもなっていると思うので、ここにご紹介しておく。


  • S36.12刊行開始の新装版 〈少年探偵団全集〉(光文社) の巻末広告から転載 (ただし、この函入りの新装版全集自体は最初の5冊で途絶)。24巻 「電人M」、25巻 「妖星人R」、26巻 「超人ニコラ」 は、結局、光文社からは刊行されず、のちのポプラ社版が初の単行本となる。
  • タイトルの次に (初出誌/講談社版・光文社版・ポプラ社版の初刊年) を記した。年号はすべて昭和である。
  • ちなみにこのシリーズの価格は昭和36年の時点で各250円。本に入っている引き換え券を集めて送るとBDバッジや探偵手帳がもらえた。
  • 光文社版のカバー絵は全巻、〈巨匠〉 松野一夫が手がけている。『怪人二十面相』 の書影というと、戦前の講談社版 (小林秀恒・画) が紹介されるのが常だし、復刻版も数種出ているが、丸坊主で紅顔の小林少年と毎回趣向を変えて登場する魔人怪人の組み合わせ、というこのシリーズの核心を描いた光文社版の装画にも、もっとスポットライトがあてられても良いと思う、

少年探偵団全集 光文社版


1. 怪人二十面相(少年倶楽部11・1-12/講11・光22・ポ39)
あの恐ろしい青銅の魔人となったり、ふしぎな宇宙怪人にばけた「怪人二十面相」は、はじめてこの物語の中にその不気味な姿をあらわすのです。どうして二十面相は、明智探偵と小林少年をあんなにいじめるのか? そのわけはこの本を読まないと、よくわからないのです。

2. 少年探偵団(少年倶楽部12・1-12/講13・光22・ポ39)
東京中にひろがった「黒い魔物」のうわさ…なんでもそいつは、全身にすみをぬったような、恐ろしくまっ黒なやつだということでした。その悪魔を向こうにまわしてたたかう者は、十人の勇敢な小学生で組織された少年探偵団。団長はもちろん明智探偵の名助手小林少年。

3. 妖怪博士(少年倶楽部13・1-12/講14・光23・ポ39)
「ワハハハハ……『少年探偵団』なんて生意気なことをいったって、お化けにかかっちゃ、かたなしじゃないか。おれは胸がスーッとしたよ。きみたちには、いつもひどいめにあわされているが、おれのかたきうちはこれからだぜ。」ほら穴にひびく大コウモリの声……。

4. 大金塊(少年倶楽部14・1-15・2/講15・光24・ポ39)
「ししがえぼしをかぶるとき、からすのあたまのうさぎは三十、ねずみは六十…」奇怪な暗号にひきよせられてやってきた、離れ小島の地の底…聞こえるのはゴウゴウとうずまく水の音ばかり。もう小林少年の胸のへんまでもジャブジャブとまっ黒な水がのぼってきたのです。

5. 青銅の魔人(少年24・1-12/光24・ポ39)
大木のかげのくらやみから、あいつが姿をあらわしたのです。銅像のような顔、銅像のような体、全身金属の怪物です。ポッカリほら穴のように開いた両眼、三日月型にキューッとまがった口。ギリ、ギリ、怪物は機械のようなぎごちない歩きかたでジリジリ近づいてきます。

6. 虎の牙(少年25・1-12/光25・ポ39)
こんなふしぎなことがあるでしょうか? 天野勇一君の体が空気よりもかるくなってフワフワと宙にまいあがったのです。そして首がきえ、胸がきえ、腹がきえ、足だけがしばらく空中にのこっていましたが、それもフッときえて、ウォーッという猛獣の声が聞こえてきました。

7. 透明怪人(少年26・1-12/光26・ポ39)
大友君はあまりの恐ろしさに体がガクガクふるえてきました。自分の顔がなくなっていたのです。鏡にうつっているのは洋服だけ…大友君は、いつか透明人間にされてしまったのです。一生目に見えない人間として暮さなければならないなんて恐ろしいことがあるでしょうか。

8. 怪奇四十面相(少年27・1-12/光27・ポ39)
「私の新事業とは“黄金どくろ”の秘密をあばくことだ。それには、このろうやからにげださなくてはならぬ。だが、その日も目の前にせまっている。私はやすやすとろう破りをしてみせるぞ。」新聞にデカデカとのせられたこの手紙をよんで、世間の人はアッと驚きました。

9. 宇宙怪人(少年28・1-12/光28・ポ39)
怪人は、もう二メートルほどのところへよってきました。銅仮面のまっ黒な三日月型の口が、耳までさけてニヤニヤと笑っていました。なんともいえない、なまぐさいにおいがただよってきました。「キミ、フルエテイルネ」人間の声ではない言葉がきこえてきました。

10. 鉄塔の怪人(少年29・1-12/光29・ポ45 改題「鉄塔王国の恐怖」)
どこかしらの山おくに、西洋のお城のような、恐ろしい鉄の塔がそびえているらしいのです。そしてその塔には、カブトムシを万倍も大きくしたような、せなかにがい骨のもようのある妖虫がウジャウジャすんでいるらしいのです。その数ひきが東京に姿を現わしました。

11. 海底の魔術師(少年30・1-12/光30・ポ45)
リンのように青く光る目、耳までさけた口、ニューッとつき出た牙…鉄のすれあうようなぶきみな声、世にもおそろしい「海底の魔人」はついに、日本に上陸し、東京にその姿をあらわしました。ここに明智探偵、小林少年と魔人との海陸にわたる大闘争は開始されました。

12. 灰色の巨人(少年クラブ30・1-12/光30・ポ45)
こわかったよ。ぼくがその坂をのぼっていった。すると坂のてっぺんに沈みかけている真赤な夕日を前に、おそろしい大きな奴と赤んぼみたいな小人が並んで立っていた。顔だけ大人で、体は赤んぼの小人の気味のわるさといったら……。巨人と小人ははたして何者でしょう?

13. 天空の魔人(少年クラブ31・1・15増刊/光31・ポ45「空飛ぶ二十面相」に収録)
巨人の腕は、動物や人間をさらったばかりでなく、こんどはあの大きな貨物列車を雲の上へつかみ上げていったのです。キングコングやゴジラは飛行機や電車をつかみましたが、するとこの巨人の腕も、あの怪獣と同じ力を持っているのでしょうか?

14. 魔法博士(少年31・1-12/光31・ポ45)
魔法の国の“胎内めぐり”とは? 三人の少年は、とつじょ巨人の口に吸いこまれてしまったのです。食道がビニールのようにすきとおっていて、巨大な心臓が、すきとおって見えるのです。ああ、その恐ろしさ! でも、もう逃げだすこともできないのです。

15. 黄金豹(少年クラブ31・1-12/光31・ポ39)
「黄金豹」東京にあらわる! ただの豹が町にあらわれただけでも、大さわぎなのに、これは黄金にかがやく、ふしぎな豹なのです。しかもそいつは、忍術使いのように自由に消えてしまうのです。もう東京都民は、おちおち眠ることもできなくなりました。

16. 妖人ゴング(少年32・1-12/光32・ポ45 改題「魔人ゴング」)
百メートル四方もあるような、とほうもない巨大な悪魔の顔が、東京の夜空いっぱいにひろがって、ニヤニヤ笑っているのです。そしてウワン、ウワンとあのニコライ堂の鐘のような笑い声……。ぶきみな夜空の怪事件についで、つぎつぎ怪事件がつづくのでした。

17. サーカスの怪人(少年クラブ32・1-12/光32・ポ39)
「そこにいるのはだれ?」女曲芸師ハルミが叫びますと、男は、ヒョイとこちらを向きました。ああ、その顔! 目が真黒な穴になっていて、鼻も三角の黒い穴、唇のないむき出しの歯。たしかにあいつです! 骸骨紳士です。サーカス団をねらう怪人です!

18. 魔法人形(少女クラブ32・1-12/光32・ポ45 改題「悪魔人形」)
「わしは魔法使いのような発明家だよ。ふしぎな薬を発明したんだよ。この薬を注射すると、人間の体はだんだんかたくなって、人形になってしまうのだよ。おい小林君、どうだ、きみも人形になりたくはないかね。」怪老人はぶきみにささやくのでした。

19. 夜光人間(少年33・1-12/光33・ポ39)
夜光人間! まさに夜光人間です。怪物の全身は後光のように光かがやいているのです。と突然、銀色怪人はワッハハ、ワッハハと笑いだしたのです。燃えるようなまっ赤な口! 森じゅうにひびく笑い声! しかも怪人の光る体はスウーッと地面をはなれ宙に……。

20. 奇面城の秘密(少年クラブ33・1-12/光33・ポ39)
そのとき美術室の中では、世にもふしぎなことが起こっていたのです。ああ、ごらんなさい。かのアドニスの巨大な像がかすかにゆれているではありませんか。石膏像が生きて動きだしたのです。やがて、像がくずれはじめたかと思うと、アッ、中から黒い怪人が……。

21. 塔上の奇術師(少女クラブ33・1-12/光33・ポ39)
血のような夕焼空にそびえる奇妙な洋館。ぜんたいが赤レンガで二階の屋根の上には大きな時計塔が立っているのです。なにげなく時計塔を見上げたトシ子さんはアッ!と叫びました。塔の上で巨大なコウモリ男がニヤニヤ笑っているではありませんか……。

22. 仮面の恐怖王(少年34・1-12/光34・ポ45)
黄金の魔術師、黄金仮面の怪人は、ついに東京の映画館にもあらわれたのです。スクリーンいっぱいに仮面があらわれたと思うと、その三日月型の口からぶきみな血が流れだしました。もう見物人は逃げまどうばかりでしたが、そのときわれらの少年探偵団員は……。

23. 鉄人Q(小学四年生33・4-34・3、小学五年生34・4-35・3/光35・ポ45)
ふしぎなロボット、鉄の怪人Q。それは歩いたりものをいったりするほかに、算数までできるのです。顔には絵具をぬって、ほんとうの人間とまるで見分けがつきません。ところが、この鉄人Qがふたりあらわれたのです。さあ、たいへん! だれかが鉄人に化けているのです。

24. 電人M(未刊)(少年35・1-12/ポ39)
次郎君はそれを見ると、ギョッとして動けなくなってしまいました。そいつは、おとなの一倍半もある、まっ黒な、でっかいやつでした。鼻も口もなく、顔はガラスのようにすきとおっていて、顔の中に小さな機械が、ウジャウジャかたまっているのです。

25. 妖星人R(未刊)(少年36・1-12/ポ45 改題「空飛ぶ二十面相」)
部屋のかべが、ゆらゆらと動いているのです。R怪人の魔法にかかっているのでしょうか? いや、目を近づけてよく見ると、そうではありません。なにか小さなものが、数しれずひしめきあっているのです。「あっ、カニだっ」井上君はさけびました。

26. 超人ニコラ(未刊)(少年37・1-12/ポ45 改題「黄金の怪獣」)
予告 いま、雑誌「少年」に連載されています。とてもすごい人気で読まれています。これが、立派な本になって、本屋さんにならぶのも、もうすぐです。ご期待ください。

参考文献

  • 『探偵小説四十年』 江戸川乱歩 講談社
  • 『少年探偵団読本』 黄金髑髏の会 情報センター出版局。『貼雑年譜』 完全復刻という壮挙をなしとげた東京創元社元会長・戸川安宣氏らによる共著。〈黄金髑髏の会〉 の謂れは云うまでもないだろう。〈少年探偵団〉 シリーズの出版データ、版による相違や問題点、全作品解説、主要登場人物への考察など、充実した内容の1冊。とくに、シャーロッキアン的テキスト解読から、シリーズ後半で二十面相に伴侶のように寄りそう謎の美女は、時を同じくしてシリーズから姿を消した明智夫人、文代ではないか、という 「推理」 は奇妙な説得力をもつ。もともと 大人向けの作品 『魔術師』 で、 〈悪〉 の側の子供として育てられた文代は、明智の手によって 〈善〉 と 〈光〉 の世界へと救出されたわけだが、〈闇〉の世界の誘惑はその後も抜きがたく彼女の中に存在し続けたのではないか、という読みは魅力的である。
  • 『江戸川乱歩アルバム』 新保博久編 河出書房新社

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