わが社の隠し玉


毎年、年末に発売される 《このミステリーがすごい!》 (宝島社) の名物コーナーに、翻訳ミステリの版元各社が提供する〈わが社の隠し玉〉がある。来年度の翻訳ミステリの出版予定を先取りしてお知らせする、読者のチェック度が高い頁である。それだけに、なかなか予告どおりにいかずに、次の年も同じタイトルをあげるはめになって、忸怩たる思いをすることもあるのだが、版元にとっても貴重な情報提供の場であることは間違いない。国書刊行会では1996年版からこのコーナーに参加している。いまこうして年代順に並べてみると、そのときどきのクラシック・ミステリ出版をめぐる状況が、文面に微妙に反映されているような気もする。なお、《このミス》 の年度は、年が明けた翌年を示しているので、たとえば 【1996年版】 は1995年末に刊行されている。本文中の 「今年」 「来年」 等の記述 は、その点にご留意いただきたい。予告タイトルは実際と違っているのもあるが、そのままにしておいた。

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

1996
(国書刊行会)

数々の幻の名作を紹介した、ミステリマガジン掲載の名コラム 「プレイバック」 をはじめ、海外ミステリーの魅力満載の、山口雅也氏初のエッセイ集 『ミステリ倶楽部へ行こう』 からスタートする96年は、〈不可能犯罪の巨匠〉 の生涯と作品に挑んだ評伝、ダグラス・G・グリーンの 『ジョン・ディクスン・カー/奇蹟を解く男』、主要作家300人の作品リストと作家解説を収録した森英俊編 『世界ミステリ作家事典/本格派篇』 とつづき、秋にはいよいよ 『世界探偵小説全集』 第U期が始まります。カー、イネス、ロード、マーシュら、巨匠の代表作から本邦初紹介作家の知られざる傑作まで取り揃えました。「誰がロジャー・アクロイドを殺そうがかまわねえ」 とおっしゃる方は他店へどうぞ。当店は、近ごろ薄口のミステリーが多すぎるとお嘆きの貴方のために、最高級の年代物 【ヴィンテージ】 ミステリーをご用意いたします。

国書刊行会が最初に 〈わが社の隠し玉〉 コーナーに混ぜてもらった年。94年11月に 〈世界探偵小説全集〉が始まり、この号が出た95年の年末には既刊9冊を数えている。国書刊行会ではその前にも 〈クライム・ブックス〉 〈探偵クラブ〉 などを出していたが、この頃からようやく一般のミステリ・ファンにも、ミステリの版元として認知されはじめたように思う。《このミス》 初御目見得ということもあって、わりとかしこまった物言いになっているが、最後のほうは、「好きな人だけ読んでくれればいい」 とすっかり開き直っている。『ミステリー倶楽部へ行こう』 は1月、『ジョン・ディクスン・カー/奇蹟を解く男』 は11月に刊行、世界探偵小説全集第2期は9月にスタートしている。このへんは公約どおりだが、『世界ミステリ作家事典』 はもう少し時間が必要だった。

1997
(国書刊行会)

 暗くて重たい 〈血まみれの殺人【ブラッディ・マーダー】〉 に食傷気味のみなさんに、当店がお勧めするヴィンテージ・ミステリーは、つねに 〈娯楽としての殺人〉 をこころがけております。まちがっても 「現代の狂気」 だの 「人間の真実」 といった生な食材で、喉を詰まらせる心配はございません。一番新しい死体でも40年はじっくりねかせてありますので、臭わないから安心です。
 さて、その 『世界探偵小説全集』 第U期ですが、今回のコースでは、特に愛好者向けの 〈特別料理〉 を多数ご用意いたしました。なかでも、奇妙な味のスパイスをきかせたT・S・ストリブリングの名短篇集 『カリブ諸島の手がかり』、掟やぶりの荒業師J・T・ロジャーズの怪作 『赤い右手』、密室マニア必読の名作D・スミス 『悪魔を呼び起こせ』 は、料理長お勧めの逸品です。数に限りがございますので、お早めにご予約くださいますようお願い申し上げます。

2年めともなるとすこし場慣れしてきて、お巫山戯けに走ったりしている。「現代の狂気」 云々というのは、数年前から大流行していた猟奇殺人物を念頭に置いたもの。思えばずいぶんスプラッタな時代でしたね。世界探偵小説全集2期は、97年には8冊出している。私事ながら、この年の2月に国書刊行会を退社、以後はフリーの立場で編集に関わっている。結局、会社でやるか家でやるかの違いだけで、仕事の内容はほとんど変わらないのだが (でもこの違いが大きいのだな、いろいろな意味で)。

1998
(国書刊行会)

 隠し玉といわれても、つねに手の内さらけだし、話題の最新作なんかあるわきゃない、ミステリー界の網走番外地、古くてどーもすいませんの国書刊行会としましては、98年もあいかわらずお馴染みの探偵小説 【ミステリー】 でご機嫌をうかがわせていただきます。
 昨今の書評家先生のおっしゃる 「ミステリー」 とは、リーグどころかやってるゲームがちがうような気がしてきた 〈世界探偵小説全集〉 第U期は、98年夏には完結の予定。バークリー 『地下室の殺人』、ウエイド 『推定相続人』 もちゃんと出ますのでご安心を。もし世間様 (って誰だ) が許せば、第V期も夢ではないでしょう。乞御声援。
 近日刊行、森英俊編著 『世界ミステリ作家事典/本格派篇』 は、古典から現代作家まで、書誌・邦訳データ完備の本邦初の本格的ミステリー事典。面白くてためになる、これは便利の1冊です。

この年はちょっと喧嘩腰ですね。〈全集〉に対してまま見られた 「マニア向け」(この場合の 「マニア」 には軽侮の響きあり)、 「これはさすがに古い」 といった評言に、すこしムッときてたのかな。昔ながらの探偵小説を読みたい人のために、古い物を出しているわけだから、カエルに向かって 「おまえヘソねえじゃねえか」 (これこそ古いね) と言うようなことを言われてもなあ、という気持ちがあったようだ。それに、たしかにマニア向けの企画かもしれないけど、毎年何百冊もミステリばっかり読んでるような人たちには、言われたくないせりふだ。好みの方向が違うだけで、あんたらだって十分マニアですよ。出してしまったものに何を言われても、それは読者/評者の勝手だとは思っているが、なんだかなぁと感じることはやはりある。98年は、年頭に 『事典』 を出した他は、〈全集〉 の配本はわずか1冊。まったく面目ない次第であった。配本が遅れたのは例の 「諸般の事情」 というやつだが、「諸般」 といったって、こういうときの理由は1つに決まっている。訳があがらない。それだけだ。

1999
(国書刊行会)

 昨年は 「どーせわしらマニア向けだもんね」 などと、世をすねたようなことを言っていたら、『赤い右手』 がアンケートで2位に入ってしまいました。まったく、世の中何が起こるかわかりません。めったなことを言うもんじゃありませんね。
 その 〈世界探偵小説全集〉、今年 (98年) は勝手にお休みを頂いてしまい、ご心配をおかけしましたが、99年は2期完結に引き続き、3期の刊行を開始します。クリスピン 『白鳥の歌』、ディクスン 『九人と死人で十人だ』 をはじめ、バークリー、ヘアー、イネスらお馴染みの面々から、スー・グラフトンのお父さんC・W・グラフトンといった隠し玉まで、ご満足いただける顔ぶれを取り揃えました。
 もうひとつ、秋からは短篇中心のセレクションで、〈ミステリーの本棚〉 を発刊します。名探偵物から異色短篇まで、ミステリーの原点をさぐるシリーズです。

1999
(翔泳社)

  またぞろ新規参入かという声も聞こえてきそうな翻訳ミステリー界。他社の落穂拾いじゃ芸がない。来春より翔泳社では、すれっからしのファンをも唸らせる一味違ったミステリーを紹介していきます。
 4月刊行予定の第一弾は、J・D・カーの 『グラン・ギニョール』。これぞ正真正銘の隠し玉、なんせ本国でも陽の目を見ていない幻の処女作を、世界初の単行本化。同じく単行本未収録短篇に、北村薫氏のエッセイを加えた強力布陣でお贈りします。
 つづいてストリブリング 『ポジオリ教授の事件簿』 では名探偵が復活を遂げ、鬼才ジム・トンプスンのクライム・ノヴェル 『サヴェッジ・ナイト』 では、ちびの殺し屋が暴力と狂気の歪んだ世界に足を踏み入れます。さらにJ・F・バーディンの知られざる名作 『悪魔に喰われろ青い尾の蠅よ』 で読者は、今まで見たことのない恐怖に直面することになるはずです。

前年に比べると一転して低姿勢だが、『赤い右手』 2位にはじっさい驚いた。50年以上前のクラシックが、現代ミステリに伍してベスト10上位に入っているのは、なんだか不思議な光景であった。もちろん営業的には非常にありがたかったのだけれど。この年はようやく全集2期が完結 (1冊差し替えになってしまったが)、12月からひきつづき3期を開始している。〈ミステリーの本棚〉は翌年スタートとなった。
 さらに1999年から翔泳社でも新シリーズ 〈翔泳社ミステリー〉を開始。こちらは本格に限定せず、ジム・トンプスンやバーディンなど、国書刊行会の 〈全集〉 では拾えないものを出していこうと考えていた。

2000
(国書刊行会)

〈世界探偵小説全集〉 第V期の第1回、C・ディクスン 『九人と死で十人だ』 がそろそろ書店に並んでいることと思う。年明けからは、ビッグ・ベンで発見されたミイラ化した死体の謎を追うS・ハイランドの埋もれた逸品 『国会議事堂の死体』、素人探偵団の活躍をえがくシリル・ヘアーの 『自殺じゃない!』 と続く。マイナーなれど、マニアだけのものにはあらず。安んじて手に取られたし。
 さらに、春からは 〈ミステリーの本棚〉 全6巻の刊行を開始する。チェスタトン、ベントリー、スティーヴンスン、ヒュー・ウォルポールと、大時代な名前を揃えたが、衣ばかりが厚くなりミステリーとは名ばかりの大長篇より、これら手練れの物語作者の短篇のほうが、はるかにミステリー的興奮にみちてはいないか。古いものがつねに古いとは限らない。心して読め。

2000
(翔泳社)

 新しく始まった 〈翔泳社ミステリー〉、本格物の古典から異色サスペンスまで、個性的な4冊をとりそろえましたが、お楽しみいただけたでしょうか。
 この年末年始は、『ドイル傑作選T・U』 (北原尚彦・西崎憲編) をお届けします。ドイルの傑作はホームズ物だけではありません。その夥しい短篇群の中から、ミステリー・怪奇・冒険・SF・ユーモアなど、さまざまなジャンルにまたがる傑作を精選。天性のストーリーテラーの全貌に迫ります。
 本邦初紹介 「まだらの紐 (戯曲版)」 180枚、「王冠のダイヤモンド」 をはじめ、〈ホームズ外伝〉 を完全収録。雰囲気満点の初出誌の挿絵や、貴重な舞台写真を再録しました。第1巻 〈ミステリー篇〉 は12月上旬刊、第2巻 〈ホラー・SF篇〉は2月刊行予定です。

それまで 「です」 「ます」 で書いていたのを 「だ」 「である」 調にしてみた。読者向けPRだから仕方がないんだけど、各社、「お待たせしました」 「どうぞお楽しみに」 「お届けします」 ばかりが並んでいるのが、自分のも含めて、なんだかこそばゆい気がしてきたのだ。結果的に妙に偉そうな口調になってしまった。2000年は3期を順調に配本、〈ミステリーの本棚〉 は6月にスタートした。
 前年スタートした 〈翔泳社ミステリー〉 は、評判は上々だったし、数字的にも悪くはなかったのだが、翔泳社自体の方針転換で文芸書部門が統合/縮小となってしまった。続刊の相談もすすんでいたのだが、残念ながら当初予定の4冊とドイル傑作選を出したところで打ち止めとなった。

2001
(国書刊行会)

 なんだかこの頃ミステリーってやつにも飽きてきちゃったな、結局どれもこれも似たようなもんだし、新刊追っかけるのも、わが社の隠し玉なんてのにも、もういいかげん疲れちゃったよ、ずーっと隠しっぱなしってのもあるしね、どうせ一生かかったって全部は読めやしないんだ、好きな物を好きなように読むがいいや、でもこう本が多くっちゃ、何がどこから出てるかもわからないからなあ、とすっかり投げやりな貴方のために、帰ってきました、森英俊編 『世界ミステリ作家事典』、今度は 〈ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇〉。2001年秋予定。貴方にぴったりの本探しはこれにお任せ。〈世界探偵小説全集〉 第V期、〈ミステリーの本棚〉 も夏には完結の予定。今年はあまりお知らせできる新企画がない年にあたりますが──おっと、ここで急報が入ってきました、あの……(以下次号)

いきなり投げやりである。なかには 「藤原は人生に疲れているのではないか」と心配してくだすった奇特な方もいらしたようだ。ありがたいお話だが、別にそういう訳ではない。2001年は基本的に全集3期と〈本棚〉の残りを出す年にあたり、『事典』 以外、とりたててPRする新企画がなかったので、なんとか行を埋めようと、枕ばかりが長くなってしまったのである。ただ、本を出す側の人間がこんなことを言うのもなんなのだが、みんな、あんまり新刊新刊って、目先のものに飛びつきすぎてる気がするのも事実だ。もっと面白い本凄い本はいっぱいあるのに。例年、この原稿は10月頃に書くことになるのだが、書き上げた原稿を宝島社に送ろうとしたところで、先に国書に企画書を提出していた世界探偵小説全集第4期が決定し、急遽、最後の数行を書きかえた。実はいっそ全部書き直してしまおうかと、下のような文案も作ったのだが、結局、没にしてしまった。これは某文庫の発刊の辞をほとんどそのまま戴いたもの。お遊びにはちがいないが、出来上がったものは、まんざら出鱈目という訳でもないような気がする。

2001
【没ヴァージョン】

 真相は探偵によって求められることを自ら欲し、探偵小説は万人によって愛されることを自ら望む。かつて民を愚昧ならしめるために探偵小説が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった。今や謎と論理とを特権階級の独占より奪い返すことはつねに進取的なる民衆の切実たる要求である。世界探偵小説全集はこの要求に応じそれに励まされて生まれた。この計画たるや世間の一時の投機的なるものと異なり、永遠の事業として吾人は微力を傾倒し、あらゆる犠牲を忍んで今後永久に継続発展せしめ、もって全集の使命を遺憾なく果たさしめることを期する。新世紀を迎えるにあたり、第四期十巻の発刊をここに報告しうることは吾人の大いなる歓びである。探偵小説を愛し甘美なる謎を求むる士の自ら進んでこの挙に参加し、希望と忠言とを寄せられんことを。

2002
(国書刊行会)

 〈世界探偵小説全集〉 第1回配本 『第二の銃声』 から7年がたった。あのとき、この全集が2期・3期と巻を重ねることになると、いったい誰が予想しただろうか。ここまで来られたのは、ひとえに、つねに変らぬ熱い支持を寄せてくれた読者の皆さんのおかげである。
 というわけで第4期の開幕である。めくるめく機知と構成の妙、M・イネス畢生の大作 『ストップ・プレス』、黄金時代きっての切れ者バークリーの第1作にして名探偵シェリンガム初登場の 『レイトン・コートの謎』、本邦初紹介の不可能犯罪派N・ベロウの 〈消えた足跡〉 テーマの傑作 『魔王の足跡』 とM・アフォードのオカルト趣味満点の 『魔法人形』、他にアリンガム、ウエイド、マクロイなど、今回も強力なラインナップを用意した。ミステリー王国の版図には、未知の怪物たちの棲む空白地帯【テラ・インコグニタ】がまだまだ残されている。

2002
(晶文社)

 この夏刊行された2冊であらためて探偵小説ファンをうならせたアントニイ・バークリーの未訳作を中心に、2002年、小社は新たにミステリー・シリーズを発刊します。まずは名探偵シェリンガムがどんな活躍を見せてくれるか、(あぶなっかしくて?) 目がはなせない 『ウィッチフォード毒殺事件』 『ヴェインの謎』 『絹靴下殺人事件』 の本格物3作に、人妻に深入りしてその夫を殺してしまった青年の悪戦苦闘を辛らつに描いて、『殺意』 以上の傑作との声もあるアイルズ名義の 『被告の女性に関しては』 を刊行。他にも、漁師の網にかかった極彩色の怪物や、災厄を喚ぶ指環など、奇想天外な話を集めた奇才ジェラルド・カーシュの異色短篇集 『壜の中の手記』、通信教育探偵が大暴走を繰り返す抱腹絶倒のP・ワイルド 『探偵P・モーラン』 など、独自の路線開拓をめざします。

いちおう前年のつづきということで、第4期の告知。じっさい、上に書いたとおり、始めた時にはこんなに大きなシリーズに発展するとは、自分でも思ってもみなかった。ここまでくるには、いろいろな方の応援があったが、いちばん大きかったのは、やはり何といっても、流行りすたりに関係なく、自分の好きなものだからということで、この叢書を読み支えてくれた読者の力である。ときにみられた無理解な評や揶揄に対して、怒りを表明してくれたファンの方もあったが、(そのお気持ちはひじょうにありがたいが) 結局のところ、そうした評が実際に翻訳シーンを動かすことはほとんどないのではないかと思う。それを読みたいと思う人がいて、出したいという人間がいれば、それだけで本はつくられていくはずだ。
 この年は 〈ミステリーの本棚〉 が完結。〈全集〉 から派生した企画だが、20-30年代の本格/長篇を軸とする 〈全集〉 では出しにくいもの、おさまりが悪いものを、こういうかたちで補完していけたら、まだまだ面白い可能性がひらけてくると思う。(でも、おおかたの読者は依然として 「本格」 を求めているのだろうなあ、そのへんが難しいところ)
 〈翔泳社ミステリー〉 から2年、今度は晶文社で新しいシリーズを出すことになった。狙い的には翔泳社で考えていたことの続きで、異色短篇など、本格以外の作品を積極的に取り上げることと、これはと思う作家を集中的に紹介していくことである。〈全集〉 4期の 「レイトン・コートの謎」 とあわせて、バークリーの主要作をここで一気に出してしまうことを決心した。カーシュ傑作集は、早川書房 〈異色作家短篇集〉の衣鉢を勝手に継ぐことにした第1弾。

2003
(国書刊行会)

 バークリー 『レイトン・コートの謎』 で始まった〈世界探偵小説全集〉 第4期、2003年の予定は、海辺の村で起きた悲劇的事件を重厚に描いたH・ウエイドの力作 『塩沢地の霧』、悪魔信仰研究家の屋敷で密室殺人が発生するM・アフォード 『魔法人形』、さらにクリスピン、ヘクスト、イネスなど、お楽しみのタイトルが目白押し。
 森英俊編 『世界ミステリ作家事典/ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇』 も来春にはいよいよ刊行。名前も長いが効き目も長い、ミステリー・ファン必読必携のレファレンスブック、既刊 『本格派篇』 とあわせて御服用下さい。
 『虚数』 風メタフィクションから傑作短篇集まで、本邦初紹介作品を多数収録の 〈スタニスワフ・レム・コレクション〉 全5巻も着々と企画進行中。“レム” の名前にドキリときた方は、いまからお気持ちとお財布の準備をどうぞ。

2003
(晶文社)

 話題沸騰のカーシュ異色短篇集 『壜の中の手記』、アイルズの問題作 『被告の女性に関しては』 で開幕した 〈晶文社ミステリ〉 は、2003年も一味ちがうラインナップをご用意しました。
 新年第一弾は、本格から歴史推理・SFまで、ヴァラエティ豊かなヘレン・マクロイの名短篇集 『歌うダイアモンド』。つづいてバークリーの本格物 『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』 で、名探偵シェリンガムの八面六臂の活躍をご堪能いただいたあとは、若島正編 『スタージョン傑作集(仮)』 で、とびっきり奇妙なミステリー・ゾーンに皆様をご案内する予定です。名作 「海を失った男」 をはじめ、本邦初紹介の傑作中短篇を多数収録。
 もちろんG・カーシュ傑作集第二弾も準備中。今回もあいた口をふさぐ暇がない奇天烈ワールド炸裂の一冊です。どうぞお楽しみに。

国書刊行会も晶文社も、基本的には前年スタートしたシリーズのつづき。〈晶文社ミステリ〉 は既刊分がまずまずの成績を収めたこともあって、続刊が決定。上にあげた以外にも数点が進行中である。準備ができたら順次発表していきたい。事典は当初の予定からずいぶん引っ張ってしまったが、ようやく刊行のめどがついた。なお、〈レム・コレクション〉 は自分の企画ではないが、今年最も楽しみにしている新企画の1つ。

2004
(国書刊行会)

 いよいよ刊行迫る! 森英俊編 『世界ミステリ作家事典/ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇』 は、まだ見ぬ傑作を求めてミステリーの大海に漕ぎ出した冒険者たちの最上の水先案内。
 折り返し点を迎えた 〈世界探偵小説全集〉 第4期は、M・イネスのファルス・ミステリー 『ストップ・プレス』、フェン教授大活躍のクリスピン 『大聖堂は大騒ぎ』 など、ウィットとエスプリに満ちた英国探偵小説のエッセンスをご紹介。悪魔伝説に不可能興味、ケレン味たっぷりのN・ベロウ『魔王の足跡』もお楽しみに。
 スタージョンやラファティといった一筋縄ではいかないクセモノ作家が大集結した 〈未来の文学〉 全5巻も新春スタート。ジーン・ウルフの伝説的傑作 『ケルベロス第五の首』、若島正編 『ベスト・オブ・ディッシュ』 は、ミステリー・ファンも要注目です。

2004
(晶文社)

〈晶文社ミステリ〉 最新刊、奇想作家カーシュの短篇集 『廃墟の歌声』 につづいて贈る2004年新春第一弾は、アントニイ・バークリーの本格物 『絹靴下殺人事件』。ご存知、名探偵ロジャー・シェリンガムが連続絞殺魔と対決します。
 一方、バークリーがA・B・コックス名義で発表した 『プリーストリー氏の問題』 は、美女と手錠でつながれた冴えない男が冒険行を繰り広げる、スラプスティックな笑いがいっぱいの痛快スクリューボール・コメディ。
 さらに、「誰でもない男の裁判」 「虎よ!虎よ!」 など、読む者の心を揺さぶる珠玉の名篇を収めたA・H・Z・カー傑作集 『黒い小猫』、赤いハイビスカスを髪に挿した青年が自分は小人に雇われていると言いだす、異様な冒頭が魅力的なJ・F・バーディンの異色作 『死を呼ぶ馬』 と、〈晶文社ミステリ〉 の挑戦はまだまだ続きます。

2001年の 〈隠し玉〉 に登場した 『世界ミステリ作家事典/ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇』 が2003年末にようやく刊行にこぎつけた。将来的には 「本格派篇」 とあわせ、さらに周辺ジャンルの作家も増補して、巨大なミステリ・エンサイクロペディアに育て上げたいという希望もあるのだが、現在のところは夢のまた夢。〈全集〉 もいよいよ後半戦。また、〈未来の文学〉 は自分の企画ではないが、とても楽しみにしているシリーズ。ディッシュ、スタージョン、ジーン・ウルフ、ラファティと名前を書き写すだけでも嬉しくなってしまう。
2002年に始まった 〈晶文社ミステリ〉 もいつのまにか点数が増え、『絹靴下』 が10冊目となる。バークリーと短篇集を柱にすすめてきたが、今後はまた違った傾向も打ち出していければと思っている。なお、『黒い小猫』 は 『誰でもない男の裁判』、『死を呼ぶ馬』 は 『死を呼ぶペルシュロン』 のタイトルで行く予定。

2005
(国書刊行会) 

 そろそろ書店にも並んでいる筈のトマス・M・ディッシュ 『アジアの岸辺』 は異色作家ファンにぜひお奨めしたい短篇集。奇妙な味の特別料理13品をご賞味あれ。
 クラシック・リバイバル大流行りの昨今、故きを温ねるならいっそここまで。黒岩涙香の翻案を通して日本の探偵小説にも多大な影響を与えたエミール・ガボリオのルコック・シリーズ第一作 『ルルージュ事件』 が来夏、新訳で登場します。名探偵タバレ老人とルコック氏が寡婦殺害事件の謎に取り組む世界最初の長篇探偵小説 (原書刊行は慶応二年。大政奉還の一年前)、初の完訳です。
 いよいよ後半戦に入った 〈世界探偵小説全集〉 第四期は、マイクル・イネスのメタミステリ大作 『ストップ・プレス』、ノーマン・ベロウの本格ど真ん中の不可能犯罪物 『魔王の足跡』、M・アリンガム 『屍衣の流行』 と続きます。

2005
(晶文社)

 〈晶文社ミステリ〉 最新刊A・B・コックス 『プリーストリー氏の問題』 は、この一年を朗らかな笑いで締めくくるにぴったりの痛快スクリューボール・コメディ。
 新春第一弾、レオ・ペルッツの 『最後の審判の巨匠』 は、一次大戦前のウィーンを舞台に、全篇悪夢の中を彷徨うごとき異色幻想ミステリの伝説的作品。つづくD・イーリイの傑作集第二弾 『大尉のいのしし狩り』 は、MWA賞受賞作 「昔に帰れ」 他を収録。絶賛を浴びた 『ヨットクラブ』 同様、奇妙でショッキングな世界が展開されています。若島正編スタージョン傑作選第二集も鋭意準備中。
 この秋復刊が始まった 〈植草甚一スクラップブック〉、『江戸川乱歩と私』 『探偵小説のたのしみ』 『クライム・クラブへようこそ』 は、ミステリ・ファンならMUST BUYの三冊。J・J氏の愉しいミステリ談義に耳を傾けてみよう。

昨年に引き続き、といった感じ。この他にもすこし動いているものはあるのだが。なお、『アジアの岸辺』 『ルルージュ事件』 〈植草甚一スクラップブック〉 は、当編集室の企画ではありません。

2006
(晶文社)

 『海を失った男』 で劇的な復活を遂げたシオドア・スタージョン傑作集第2巻 (若島正編) は、本邦初紹介のショートノヴェル The [Widget], the [Wadget], and Boff を中心に、この作家ならではの異様な感動に満ちた中篇 「必要なもの」 (ヒューゴー賞候補作)、「午砲」 「帰り道」 他を収録。来春刊行予定。
 英国ファルス探偵小説の巨匠マイクル・イネス、晶文社ミステリ初登場は、アプルビイ警部が南海の孤島で殺人事件に遭遇する前代未聞の探偵小説 『アララテのアプルビイ』。クライム・コメディの傑作 『最新のソニア・ウェイワード』 も。
 謎の首なし死体が平和な村に大騒動を引き起こすグラディス・ミッチェル The Mystery of a Butcher's Shop では、ミセス・ブラッドリーが再びそのユニークな名探偵ぶりを発揮します。2006年、晶文社ミステリのテーマは 「ミステリーは愉しい」 です。

この原稿を宝島社に送って校正をすませたところで、晶文社ミステリの終了が (版元の事情で) 決まってしまった。シリーズ自体の成績が問題だったわけではなく、同社の社内事情によるもので、『クライム・マシン』 〈このミス〉 1位獲得のグッド・ニュースのさなかに中絶を宣告されたのは残念でもあり、皮肉でもある。増刷が決まり、会う人ごとにお祝いの言葉をいただくなかで、宙に浮いてしまった進行中の企画をどうするか、その対応に追われることになった。さいわい、早々に河出書房新社で新シリーズとして再出発することができ、ほっとしている (あやうく 隠しっぱなしになるところだった)。自分の中では 〈翔泳社ミステリー〉 → 〈晶文社ミステリ〉 → 〈KAWADE MYSTERY〉 はすべて同じシリーズとしてつながっている。もちろん、版元の事情やそのときどきの状況によってラインナップは微妙に変化しているのだか。
なお、この年から国書刊行会の原稿は執筆担当をはなれた。

2007
(河出書房新社)

 “このミス1位作家” ジャック・リッチー 『10ドルだって大金だ』 で開幕した新シリーズ 《KAWADE MYSTERY》 第二回、マイクル・イネス 『アララテのアプルビイ』 は12月刊。漂着した南海の孤島で殺人事件に遭遇したアプルビイ警部が大冒険を繰り広げる、前代未聞のミステリ。つづく法月綸太郎編、ロバート・トゥーイ 『物しか書けなかった物書き』 は、途方もない奇想とナンセンス満載 (法月氏曰く、「一本一本ネジの外れ方が違っている」) の異色短篇集。魔女の血を引くという名探偵ミセス・ブラッドリー登場の英国ヴィレッジ・ミステリの傑作、グラディス・ミッチェル 『The Mystery of a Butchers Shop』 など、続刊にも乞うご期待。
 ご存知 《奇想コレクション》 でも、パトリック・マグラア全短篇集、スタージョン傑作選、ジョン・スラディック傑作選など、ミステリー・ファン注目の企画が目白押しです。

――というわけで、この年度から 《KAWADE MYSTERY》 として再スタート。この原稿を書いた時点ではシリーズが始まったばかりで、この後については未確定だったが、その後、正式に続刊企画が決定。晶文社→河出の移行はまずは成功といってよさそうだ。新企画という面では一年足踏みしてしまったので、これから取りもどさなくては。

2008
(河出書房新社)

 J・リッチー 『ダイアルAを回せ』 で再開した 《KAWADE MYSTERY》 新春第一弾は、大戦間のパリを舞台にしたエリオット・ポール 『不思議なミッキー・フィン』。消えた億万長者の行方を追って、「パリのアメリカ人」 ホーマー・エヴァンズ率いる個性的な芸術家たちが大騒ぎを繰り広げる、軽妙洒脱なユーモアミステリー・シリーズ第一作です。
 続くジェイムズ・パウエル 『道化の町』 は当代随一の短篇の名手、初の傑作集。表題作は道化ばかりが住む町で道化師が毒入りパイで殺される事件。探偵役ももちろん道化師。さらに英国で人気絶大、ジョン・モーティマーのランポール弁護士や、T・S・ストリブリングの心理学者探偵ポジオリ教授も出番を控えています。一方、〈奇想コレクション〉 ジョン・スラデック作品集には、サッカレー・フィン登場の本格短篇も。こちらもお見逃しなく。
《KAWADE MYSTERY》 もめでたく第2期に入った。ジェイムズ・パウエルやジョン・モーティマーなど、現代作家の紹介はこのシリーズのテーマのひとつだと思っている。(なお、〈奇想コレクション〉 はもちろん当編集室の企画ではないのだが、同じ版元ということで)


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