【怪奇小説日和】

西崎憲編

切り立った岩壁に設えられた無数のひきだしは宝飾品や素晴らしい品物で一杯だった。発見した若者はそれが魔界のものと知りつつ魅入られていく……北の海の怪異を描くヨナス・リー 「岩のひきだし」、夕暮れ時、豪奢な馬車に乗って現れた貴婦人は幼い男の子を差し招いた……アイルランドの民間伝承に取材したJ・S・レ・ファニュ 「妖精にさらわれた子供」。ある日突然現れた男は昔アフリカで殺したはずの男だった。「豹男に生き返らされたんだ」 と言うその男はそのまま店に居ついてしまう……トマス・バーク 「がらんどうの男」。徒歩旅行中の二人の女性が山中の線路脇に建つ屋敷で体験する恐怖の一夜を描いて、現代怪奇小説の到達点を示すロバート・エイクマンの中篇 「列車」。町中の歓呼の声をうけて出港した船が帰らぬまま長い年月が過ぎた。人々が船のことを忘れかけた頃、年老い疲れ果てた一人の男が帰ってきた……W・W・ジェイコブズの神韻縹渺たる傑作 「失われた船」 ほか。古典的な怪談から新感覚の恐怖譚まで、全18篇を収めた本格的怪奇小説アンソロジー。

『怪奇小説の世紀』 全3巻 (国書刊行会) から精選した13篇に新訳4篇+1 を追加収録。

◆ちくま文庫 2013年11月刊 1000円 [amazon]
◆装丁=飯塚文子 装画=レメディオス・バロ

【収録内容】
「墓を愛した少年」 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン
「岩のひきだし」 ヨナス・リー
「フローレンス・フラナリー」 マージョリー・ボウエン
「陽気なる魂」 エリザベス・ボウエン
「マーマレードの酒」 ジョーン・エイケン
「茶色い手」 アーサー・コナン・ドイル
「七短剣の聖女」 ヴァーノン・リー
「がらんどうの男」 トマス・バーク
「妖精にさらわれた子供」 J・S・レ・ファニュ
「ボルドー行の乗合馬車」 ハリファックス卿
「遭難」 アン・ブリッジ
「花嫁」 M・P・シール
「喉切り農場」 J・D・ベリズフォード
「真ん中のひきだし」 H・R・ウェイクフィールド
「列車」 ロバート・エイクマン
「旅行時計」 W・F・ハーヴィー
「ターンヘルム」 ヒュー・ウォルポール
「失われた船」 W・W・ジェイコブズ
 怪奇小説考  西崎憲
   怪奇小説の黄金時代
   境界の書架
   The Study of Twilight
 あとがき
西崎憲
1955年生まれ。作家、翻訳家、アンソロジスト、音楽レーベル主宰。2002年、『世界の果ての庭』 で第14回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。著書に 『蕃東国年代記』 『ゆみに町ガイドブック』 『飛行士と東京の雨の森』、編訳書に 『短篇小説日和』 『ヴァージニア・ウルフ短篇集』 『エドガー・アラン・ポー短篇集』 『ヘミングウェイ短篇集』、訳書にG・K・チェスタトン 『四人の申し分なき重罪人』、ジェラルド・カーシュ 『壜の中の手記』 ほか。