更新履歴と周辺雑記

更新履歴を兼ねて、日記付け。完結していない作品については、ここに書いていきます。

2016年3月31日(木)
引っ越しました

仕事の都合で、8年ぶりに引っ越しました。おかげでこの一月あまりばたばたしていたが、ようやく落ち着いてきたのでぼちぼち更新します。

AVシステムを久々にバラしてまた組み直すのに、大変な難儀をした。トシなので、腰をかばいつつアンプを移動し、8年の間に自己増殖したんじゃないかってほど複雑怪奇に増えたケーブルをつなぎ直し、ようやく立ち上げに成功。ついでだが、ラック裏の埃がすごいことになってた。次世代ルンバにはぜひ、「ケーブルの下にたまった埃」を掃除する機能を搭載してもらいたい。

で、システムチェックを兼ねて、とりあえず最初に『王立宇宙軍』を観返してみたわけだ。

クライマックスのロケット打ち上げシーン。予想外に速かった隣国の侵攻に、いったんは中止を指示する将軍だが、シロツグの説得に打ち上げ強行を決断する。それを受けて意気上がるスタッフ一同。

それが以下の写真だが、矢印に注目。
宇宙旅行協会のメンバーに、生きてんだか死んでんだか解らない爺さんがいましたね。
いつ何時も無反応なあの爺さんが、この場面だけリアクションしてる!







この映画30年近く観ていて、初めて気がついた。
もう一人の主人公たる将軍のドラマは、この場面、この決断こそがクライマックスなのであり、画面内全ての要素がそれを盛り上げるために寄与している。こんな細かい配慮が、あの打ち上げシーンの感動や高揚感を支えているのである。

2016年2月23日(火)
『0083』今西監督インタビュー

『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』BD-BOXで本編を観たあと、映像特典の今西隆志監督インタビューを、時間が手頃(11分)なのもあって観てみた。以下、印象的な部分を摘記するが、発言はあくまで大意。特にシーマ様への思い入れを熱く語っているのが面白かった。

シーマは真面目すぎるガトーへのカウンター的な立ち位置だが、彼女なりの計算があって行動しているところに共感する。

特典のピクチャードラマ『宇宙の蜉蝣2』もシーマが主人公だが、予知夢を扱っている。若者は過去のトラウマにとらわれるものだが、老人は未来を恐れる(墓の心配とか)。

モニターのデザインにこだわり、自分でもひたすら描いた。

エフェクトはロボットアニメの醍醐味。着弾時の砂埃、水、炎、気流、これらを思う存分描けるサンライズは凄い。

モノアイこそが「ガンダムらしさ」。あの一つ目が、アニメの中のロボットを「兵器」に変えた。ただ、昨今のモノアイは光りすぎ。と言いつつ、自分も要望にお応えしていっぱい光らせた。今は反省している。

25年目の『0083』じっくり観て欲しいとのことだったので、じっくり観てみて発見。11話のデラーズ閣下。



左上の文字を拡大してみると。



ひでえ。

なお下段のKURE CRC 5-56とはこれのこと。
アニメ業界は自転車・バイクの愛好者が多いそうだから出来心で入れたのかも。

2016年2月18日(木)
『灰と幻想のグリムガル』など

最近、アニメ感想サイトと言うよりエロアニメ感想サイトと名乗るべき状況を呈しているので、久々に新作の話。

○ 『灰と幻想のグリムガル』
今期一番楽しく観ている作品。ファンタジー調異世界ものだが、観ていて連想した作品が3つある。
ひとつは『灰羽連盟』('02)。灰つながりと、一話のサブタイトルのセンスからだけでなく、異世界の日常を丁寧に点描していく様子がよく似ている。
生きていくためには戦ってモンスターを倒さねばならず、モンスターと言えど生きものの命を奪う行為のおぞましさを徹底して描いているところが素晴らしい。
殺すからには殺されることもある。
異世界でサバイバルするハメになると言えば『SAO』だが、あちらは死ねばポリゴンになって爆散するだけだった。こちらは、斬られれば血が出るし死体は荼毘に付さねばならない(有料で)。そうしたリアリティを支えているのが、さりげなく力の入った作画による、生々しい肉体描写である。オープニングの挿画が身体のラインを強調しているのは、おそらく偶然ではない。
そうした作画芝居的な意味で、今期の作品で本作とよく似ているのは、実は『昭和元禄落語心中』である。これまた、動きの乏しい落語の芝居をアニメで見せるという難度の高い挑戦をしている。1話を観たときはどうしようかと思ったが、過去話に入ったら俄然面白くなった。
3つめは、『RED GARDEN』('06)。
どこに共通点が?と思われるだろうが、主人公がリーダーの資質に目覚めていく過程が『RED GARDEN』の見所のひとつ。
頼れるリーダーだったマナトを失い、チームを建て直そうとするハルヒロの苦闘がドラマの主軸になっている点がよく似ているのである。

中村亮介監督の前作『ねらわれた学園』('12)は、ギャグとシリアスの配分、及び抽象度のコントロールという点で今ひとつ乗れなかった。
簡単に言うと、ぶん殴られると人体が吹っ飛んで本当に痛そうに見える、という話。壁にぶつかって人型の穴があく、という程度にしておけばよかったのに。
本作のような、真剣で深刻でヘビーな作品の方が向いているのではないか。



・・・・・・ただ、最新6話はあまり感心しなかった。本人が話さない過去話を、他人の口から聞いちゃうっていかがなものか。


○ 『亜人』
前の期の『Charlotte』もそうだったが、異能力を持つ一般人が、科学者にとっつかまって生体実験を受けるという展開、昨今まだ説得力があるのかね?
非人道的で人権侵害で、何より違法行為だと思うが。
誤解しないでほしいが、私も歴史研究者の端くれなので、人間が同じ人間に対してどれだけ残酷になれるかよく知っているつもりだ。だがそれとて、理由と段階というものがある。『亜人』の原作も少し読んでみたが、世界人口70億に40数人しかいない稀少例が、なぜ学校で教えられるほどの問題になってんのかさっぱり解らん。
もちろん、考証が完璧な作品なんてものは存在しない。問題は、欠点を脳内補完しようという気になるかどうかである。その点で本作は落第だ。上記の疑問にしても、そのうち明らかになるのかも知れないが、それまでつきあう気が起きない。

『ブブキ・ブランキ』にも言えることだが、フル3DCGアニメの課題は、何よりまず面白い作品を作ることではないか。
とりあえず本作の教訓は、「大塚芳忠の声でしゃべるキャラを信用してはいけない」である。


○ 『くりいむレモン サマーウィンド~少女たちが運んだ夏〜』
懲りずにやっぱりエロ話。
新シリーズ6作目、通算では22作目。ふと思い立って、20数年ぶりに観返してみた。当時は解らなかったが、改めて観たらアニメとしてえらい出来が良かった。
まずカットの使い回しがほとんどない。そしてカット内で、ほぼ必ずリピート以外の動きが入る。私見ながら、エロアニメにおいては重要なことである(いや、力説することでもないのだが)。作画スタッフは作画監督として宮野晃の名がクレジットされるのみ。
てか、『おねがい☆ティーチャー』('02)の井出安軌が監督だったのか!

2016年2月11日(木)
人工芝悪玉論への疑問

東北楽天の本拠地コボスタ宮城が、来年から天然芝に張り替えるのだという。ダルビッシュがいち早く賞賛したのをはじめ各界から賛意が上がっているのだが、私はその理由がいまひとつ納得いかない。「人工芝が選手の身体に負担をかけ、選手寿命を縮めている」という言説にかねがね疑いを抱いているからである。
これを「人工芝悪玉論」と呼ぶことにする。人工芝のせいで故障したという個々の事例のことではなく、選手寿命を縮めている、という主張に限定する。


○ プロ野球選手の平均寿命の動向
まず、そもそも選手寿命の動向はどうなっているのか。日本人プロ野球選手の平均年齢の推移を調べたグラフがあった(中山悌一「日本人プロ野球選手の体格の推移(1950~2002)」『体力科學』53巻4号、2004年8月、445ページ。中山は元阪神タイガースコンディショニングコーチ。なお、外国人選手は除外している)。

厳密には平均寿命ではないが、高齢の選手が増えれば平均年齢は上がるのだから、常識的に考えて平均寿命とニアリーイコールのはずである。平均年齢が上がっているにもかかわらず平均寿命が減少するという事態があるとすれば、プロ入りする年齢が上がっている場合だが、これは別途調査する必要があろう。これについては今回は割愛する。




選手の平均年齢は順調に伸びている。80年代にいったん上げ止まりがある。子細に観ると若干低下しているが、統計誤差の範疇であろう。元の論文でも問題視していない。

2リーグ分裂直後の1950年と1951年はそれぞれ26.6歳と27.1歳と高い年齢を示したが、その後は若い新人選手が多数入団することにより平均年齢が急激に低下し1955年には22.7歳となった。1966年までは23歳前後の平均年齢であったが、1967年には平均年齢が24歳を越え、更に1974年には25歳代に達し、1993年までは25歳前後を推移していたが、1994年から徐々に高くなり、1997年に26歳代に達して2002年は26.1歳である。53年間の平均年齢は24.8歳であった。


80年代の停滞が人工芝の影響と取れなくもないが、90年代に入ると再び平均年齢が急上昇する。主要球場の人工芝化をグラフにプロットしてみた。
併せて、プロ野球選手のスポーツ医学及び手術に対する意識に影響を与えたと思われる、村田兆治と桑田真澄のトミー・ジョン手術の時期も表示した。



人工芝化が終了して以降、逆に選手の平均年齢が上がっている。おそらくこれは見かけの相関であり、因果関係はないだろう。
しかし少なくとも、「人工芝が選手寿命を縮めている」という主張を疑ってみる理由にはなる。


○ 松井の事例
天然芝を推奨する根拠としてしばしば登場するのが、かの松井秀喜の事例である。松井は人工芝の東京ドームを嫌い、天然芝の多いメジャー移籍を選んだ。ではその松井はどうなったか。日本では故障知らずだった松井は、メジャーでスライディングキャッチに失敗して手首を骨折、連続出場記録が途切れ初めて長期離脱を経験した。そして晩年は慢性的な膝の故障に悩まされた。38歳での引退は、現代野球では特に長命な部類ではない。しかも最後の2年はほとんど働いていないのだ。
本当に「天然芝のおかげで選手寿命を長らえた」と言えるだろうか?「天然芝だったからこそ38歳までプレーできた」と主張することは可能だろう。そうかも知れない。だが、そうでないかも知れない。その証明は不可能だ。松井選手の事例から確かに言えるのは、「松井自身は天然芝を好んだ」というその一事だけだ。


○ 論文の分析
人工芝とスポーツ障害に関する学術論文を集めてみて初めて知った事実。プロ野球選手の故障と人工芝の関係を研究した論文は、管見の限り存在しないようなのだ。以下に主要な論文の報告を摘記する。これらは、飯島健太郎「グラウンドサーフェイスによるスポーツ障害と人工芝・天然芝」『芝草研究』第42巻第1号、2013年10月からの孫引きである。

土グラウンドと人工芝グラウンドとのグラウンドサーフェスの違いによって引き起こされる損傷の比較研究を行った結果、人工芝グラウンドでは下肢への損傷が有意に多く引き起こされ、特に膝関節外傷が多かった。
西村忍ほか「アメリカンフットボール競技中に発生した損傷に関する研究/大学生チームと社会人チームを比較して」『慶應義塾大学体育研究所紀要』第44巻第1号、2005年。

転倒時にグラウンドとの摩擦により起こる擦過傷や肘・膝関節から倒れたときに見られる滑液包炎などの報告が多い。
Arnheim, D. D. and Prentice, E. W., "Principles of Athletic Training 10th edition", Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA, 2000ほか7件。

転倒時に頭部をグラウンドにぶつけたときに人工芝では天然芝グラウンドと比較してより重度の脳しんとうが引き起こされる。
Guskiewicz, M.K.,etc," Epidemiology of concussion in collegiate and high school football players", American Journal of Sports Medicine, 28, 2000.

ラグビーの靱帯損傷による怪我人数は脚関節捻挫と膝関節捻挫が大半であり、人工芝での練習時と天然芝の試合時に見られる特徴がある。
斎藤徹「早稲田大学ラグビー蹴球部2007年度活動報告」『スポーツ医・科学サポートシステムの概要と2007年度活動報告』2008年。

人工芝グラウンドは加速度を得ることができるためスピードが上がり、アメフトでは衝突時のインパクトが増大し、損傷の可能性も大きくなる。
Ichii, S. "Relation of running injuries to surfaces and shoes", Japanese Journal of Sports Science 5, 1987
ほか3件。ただし既出論文と重複あり。

大学アメフト選手を対象にした調査では、膝靱帯の損傷が人工芝で多い。
安部総一郎ほか「アメリカンフットボール試合時における外傷について/5年間の検討」『臨床スポーツ医学』第15巻第5号、1998年。

大学サッカー選手を対象にした調査では転倒時の上肢の外傷が人工芝で多い。
藤高紘平ほか「グラウンドサーフェイスの変化が大学サッカー選手のスポーツ障害に及ぼす影響/土グラウンドとロングパイル人工芝との比較」『日本臨床スポーツ医学会誌』第18巻第2号、2010年。

高校サッカー選手を対象にした調査では期間中に発生した第5中足骨疲労骨折の全てが人工芝で認められた。
斎田良知ほか「ユース年代サッカー選手における第5中足骨疲労骨折の発生状況」『日本整形外科スポーツ医学会雑誌』第29巻第4号、2009年。


このように、人工芝に起因する障害の報告は確かにある。しかしスライディングした際の擦過傷は、選手寿命に影響を与えるほどの重大な障害とは言いにくい。ひとつ個人的な経験を書くが、私の大学のラグビー用グラウンドは、最近人工芝に張り替えた。ラグビー部の学生に聞いてみたところ、土のグラウンドでは負傷すると雑菌が入って、蜂窩織(ほうかしき)炎になることがあったが、人工芝は清潔なので安心してプレーできるとのことだった。
また、転倒した際や衝突した際の障害が多い。サッカーやアメフト、ラグビーは、元々コンタクトプレーの多いスポーツであって野球とは比較しにくいであろう。

一方、天然芝と人工芝で目立った違いはないとする報告もある。

人工芝と天然芝を比較して、発生する損傷の割合や傾向には大きな差はない。
Nicholas, A. J., etc, A "Historical Perspective of Injuries in Professional Football: Twenty-six Years of Game-Related Events", JAMA, 19, 1988 ほか1件。

近年最新の人工芝と天然芝において障害の発生パターンはわずかに異なるものの、その発生率に差は見られない。
Ekstrand, J.,etc, "Risk of injury in elite football played ond artificial turf vesus natural grass: a prospective two-cohort study". Br J Sports Med. 40, 2006 ほか2件。

人工芝ピッチにおけるサッカーの試合が筋損傷に及ぼす影響に関する研究において、土よりも天然芝・人工芝で試合を行ったほうが筋損傷の程度は小さい。
吉村雅文ほか「人工芝ピッチにおけるサッカーの試合が筋損傷に及ぼす影響」『順天堂スポーツ健康科学研究』第1巻第3号、2010年。

最近のロングパイル人工芝は天然芝に近い特性を有する。
橋本賢太ほか「ロングパイル人工芝ピッチにおけるスポーツ障害と対策1/ハムストリングスの肉離れについて」『関西臨床スポーツ医・科学研究会誌』第18号、2008年ほか1件。

ロングパイル人工芝の過剰な衝撃吸収性能が選手に疲労感を与えている可能性がある。
布目寛幸ほか「ロングパイル人工芝の衝撃吸収性能」『シンポジウム:スポーツ・アンド・ヒューマンダイナミクス講演論文集』2010年11月。

最後の報告は、「人工芝でプレーすると疲れる」というのは思い込みではないか、という趣旨である。

障害の問題を離れても、天然芝というのはそんなにありがたがるものなのだろうか。ずっと昔どこかで読んだ話だが、「日本には噴水文化がない」という。欧州の大きな公園などに見られる壮麗豪華な噴水が日本にはないというのだ。そのエッセイによれば、欧州は水が貴重なので、惜しげもなく水を使用する噴水の設置が王侯貴族の証だった。それに対して、「湯水のごとく」という慣用句があるほど水の豊富な日本では、豪華な噴水を作る動機がなかったのだそうだ。
芝生についても同じことが言えるように思う。草野球のことを、英語ではSandlot Baseballと言う。放っておいたら草ぼうぼうになる国と、砂漠化する国との違いであろう。
なにしろ、鳥取砂丘ですら油断しているとこうなるのだ。先日たまたま観た『空から日本を見てみよう+』の画面より。



現在は、ボランティアが草むしりをして砂丘の景観を維持しているんだとか。
どだい、芝の美しさは、人間が四六時中手を入れることで実現されるものである。あれは人工美の極致であって、自然とは何の関係もない。天然芝を維持するためのコスト-予算はもちろんだが、水、肥料、農薬、電力、作業機械の燃料及び排気ガスその他を勘案すれば、環境負荷という意味では人工芝の方が自然に優しいのではあるまいか。

私自身は、天然芝に賛成でも反対でもない。選手自身が天然芝の方が良いというなら天然芝にすればよい。ただそれならそれを理由にすべきであって、真偽が定かでない「人工芝悪玉論」を理由にすべきではない。結果がどうあれ、誤った根拠に基づいた判断は誤った判断である。


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