タイトルは、ジェームズ・キャグニー主演のギャング映画。例によってWOWOWで鑑賞。
キャグニーは、強盗団のボス、コーディ役で、頭が切れて冷酷非情、にもかかわらず重度のマザコンという幼児的狂気に満ちた人物を演じている。
ウィキペディアによると、「キャグニーはコーディの「凶暴な幼児性」に満ちたキャラクター作りに打ち込み、エネルギッシュさが身上な彼の演技の中でも屈指の熱演ぶりを見せた。刑務所の大食堂で食事中、母親が殺害されたことを耳打ちされたコーディが、悲嘆と怒りの余り凄絶な雄叫びを上げながら食堂じゅうを滅茶苦茶に暴れ回るシーンは特に有名な(まさに「白熱」の)演技である。このシーンに囚人役として出演していたエキストラたちには、キャグニーがどのような演技をするかまでは伝えられていなかったため、撮影中にいきなりコーディが錯乱して暴れ回り絶叫する狂態に直面したことで本当のパニック状態に陥った」とのこと。
なのだが、今の目で観るとこの映画は、潜入捜査官(アンダーカバー)ものとして観た方が面白い。
映画の冒頭でコーディは列車強盗を行うが、捜査の手が身近に迫ると、別件のホテル強盗で自首する。アリバイとして、わざわざ同じ日に部下に強盗させておいたのだ。
捜査当局はコーディの余罪をつかむため、秘密捜査官ファロン(エドモンド・オブライエン)を同房に潜入させる。この潜入捜査のディテールが、'49年の映画とは思えないほど緻密なのだ。
まず、刑務所の囚人を全員チェックして、ファロンの顔を知っている者がいないか確認し、いたら別の刑務所へ移送する。
1人、顔を知る囚人がいるがファロンが入所する前に出所予定だからと放置していたら、その囚人は病気で出所が延期されており、危うく鉢合わせしそうになる。さあどうする!
用心深いコーディは、同房になってもファロンを容易に信用しない。ファロンの郵便物も勝手に開封して調べる。中身は妻(実は連絡員)の写真だったが。さらにコーディは、読唇術のできる部下を使って周囲の人間を調べさせている。ファロンは面会日に、妻を装って連絡に来た仲間に状況を知らせなければならないが、近くから見張られている。どうやってごまかす!?
暗殺されそうになったコーディを助けたことがきっかけで、ファロンはコーディの信頼を得るが、脱獄につきあわされる羽目になる。
仲間と合流したコーディは、新たな犯罪計画を立てる。どうやって通報する?
と、ことほどさように、次から次へと襲い来る難題を、ファロンは機転を利かせて解決していく。ファロンが電気工作が得意という設定が、クライマックスの伏線になっているのもうまい。
冷静沈着なプロフェッショナルの仕事を堪能できる、フィルム・ノワールの傑作。DVDも出ているようなので、機会があればぜひ。
なお最近劇場で観たのは、『白いリボン』『マクナイーマ』『キック・アス』『レバノン』。
ミヒャエル・ハネケのカンヌ映画祭パルムドール受賞作『白いリボン』で爆睡。
'69年のブラジルのカルト映画『マクナイーマ』で轟沈。
『レバノン』でもうとうと。
『マクナイーマ』はブラジルのヌーヴェルバーグといわれるシネマ・ノーヴォという運動の代表作、なんだそうだ。考えてみたら私、ヌーヴェルバーグの作品とはとことん相性悪いんだった。
『レバノン』も、前評判どおり本当に戦車の中から一歩も出ない映画。よくできてはいるけれど、意外に単調。それ以前に、本当に戦車の中でタバコ吸ったりするのか?
『キック・アス』はまあ面白かったけど。『スパイダーマン』に曰く、「大いなる力には大いなる責任が伴う」。しかし、『ダークナイト』でその責任の正当性を保証するのは何か?という問いを発してしまっているからね。もっと気軽に観ればいい映画とはいえ。
本作の場合、「望めば手に入る力を引き受けなければ、責任も引き受けなくてよいのか?」という形の問いになっているのが面白かった。しかし、等身大の高校生ヒーローがそう簡単に人殺していいもんか?とは思ってしまう。
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