更新履歴と周辺雑記

更新履歴を兼ねて、日記付け。完結していない作品については、ここに書いていきます。

2010年8月30日(月)
「ジャイアントロボ」を再評価する および某パンツアニメを批判する

いや、今川版じゃなくて、2007年に制作された「GR -GIANT ROBO-」の方。

http://www.gr-anime.com/index2.html

知らない人もいるんじゃないだろうか。放映はネット配信とスカパー!の有料放送だったし、地上波放送は半年遅れだった。
実際、誰に向けて何のために作ってるんだかよくわからない作品ではあった。
でも私は好きなんだよ。とても丁寧に作り込まれた佳作なのだ。
当サイトはこれまで、「再評価」という言葉を使ったことはない。「無名だけど自分だけが知っている良さを教えてやる」というニュアンスが感じられて、偉そうでイヤだからだ。でもこのくらいマイナーな作品なら、私が「再評価」しても罰は当たるまい。

本作の舞台は現代。世界各地に謎の組織GROに操られる巨大ロボットが出現し、古代遺跡を破壊するテロが行われるが、その目的は不明のままだった。沖縄の島でアルバイトをしている青年・草間大作(本作では18才の設定)は、不思議な少女に導かれ、古代遺跡の巨大ロボットの専任操縦者となり、GROと対決する事になる。

10話で大作はGROに拉致され、その指揮官である傭兵ホッジス中佐と対面する。このシーンが実にいいのだ。
ホッジスと向かい合わせで食事をしながら、大作はGROの目的を問いただす。「世界征服でもするつもりですか」と皮肉もあらわに。
これにホッジスはこう答える。
「それはクラウゼヴィッツ流の古典的な考えだ。むしろリデルハートの言う、間接アプローチ戦略に近いのかもしれない」

私も最近知ったのだが、このセリフ、戦略論的に完璧に正しい。

クラウゼヴィッツ(Carl Phillip Gottlieb von Clausewitz, 1780-1831)はプロシアの軍事学者。「戦争論」の著書を持ち、「戦争とは、異なる手段をもってする政治の延長である」との言葉で有名。そして戦争に勝利するには、敵の「重心」−それは軍の主力であったり国の首都だったり様々だが、その最も重要なポイントに最大の戦力を投入し、大きな打撃を与えることが必要だと説いた。
それに対しリデルハート(Sir Basil Henry Liddell-Hart, 1895-1970)の言う「間接アプローチ戦略」とは、「目的達成のために要する人的物的損害を最小化する」には、敵の最大の弱点を狙って、敵の組織的戦闘力の麻痺を誘うべきとするものである。

こういうセリフを言わせられるのはスタッフの勉強のたまものだが、私が感心したのはそういうことではない。このセリフによって、ホッジスの人となり−知的で有能な軍人であると同時に、子供の皮肉に対して大まじめに正論で反応してしまう謹厳な性格をも、見事に表現しているからだ。このシーンにはもうひとつ、ホッジスの人間性を示すあるエピソードが描かれるのだが、それはぜひ実際に観てほしい。

カッコいいシーンをもう一つ紹介しておく。
GRを操縦することになった大作は、国連の一機関UNISOMに保護される。UNISOMは大作を安全な場所に移送しようとするが、その前に大作は母に別れを言いに自宅へ帰る。その間、ボディーガードのアレックスは車で待つのだが、運転手の裏切りによって車が爆破され、アレックスは危うく車外へ逃れる。
カッコいいのは、アレックスが運転手の企みに気づく経緯、である。運転手は、自分だけ車外へ出るため、後席のアレックスにコーヒーを買ってくる、と告げる。聞き流していたアレックスだが、ふと運転席にまだ熱いコーヒーカップが残されていることに気づく。「不可解な理由で車外へ逃げた」→「車内は危ない」と、アレックスは(ドアがロックされているので)とっさに窓を破って脱出するのだが、セリフでは一切説明されない。ここでもまたアレックスの機転と行動力が、映像で的確に描写されている。

こういうのを「リアル」というのだ。

んで、話は例のパンツアニメに移る。
あの作品の軍事考証が緻密?
何をもって軍事考証と言ってるのだか知らないが、どうでもいいんだよそんなこたあ
あの作品の欠点は、「殺しあいをしているのに緊迫感のかけらもない」その一事に尽きる。あの作品のユーザー−観客とは言いたくない−はそんなことを気にしていないというのはわかる。だったら、「けいおん!」みたいにクラブ活動でもやってればいいのだ。戦争ごっこやってるだけのくせにドラマっぽく装うのは勘弁してくれ。


読み返してみると、これ凡百の萌えアニメ批判と一緒だなあ。まあいいか。

2010年8月23日(月)
「ビーチレッド戦記」の羽佐間道夫

お盆で帰省していたけど、ぼちぼち再開。夏コミお疲れ様でした。
あれから1週間を経て、私はめっきり潜水艦の人ということになっていた。

ところで先日、
WOWOWで「ビーチレッド戦記」('67)というアメリカの戦争映画を観た。 や、夏休み時期は戦争映画が増えるのよ。

太平洋戦争中、南海の孤島で戦う日米両軍を非常に公平な視点で描いた作品で、感心した。日本語も考証もかなり正確。冒頭の上陸作戦のシーンは、かの「プライベート・ライアン」に影響を与えたのではないか、とも言われる。イーストウッドの40年も前にこれを・・・と思ったら、町山先生がちゃんと紹介していた。

http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20090227

監督のコーネル・ワイルドはこういう人。

http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20080904

んで、キャストを見てたら Michio Hazama という名がありまして。
まさかと思って調べたら、本当にあのミチオ・ハザマだった!

http://www.imdb.com/name/nm0371874/

前後したけど先日のIMDBの件は、これで調べ物してたわけです。
羽佐間道夫の出演は有名な話なのかと思ったが、ウィキペディアには載っていないし、事務所の公式プロフィールにもない。軽く検索した限りでは、声優ファンより重度の戦争映画マニアの間で知られているようだ。とり・みきの「吹替映画大辞典」(三一書房、1995年)にも出てこない。もちろん、超ベテランだけに全ての仕事を網羅してはいないわけだが。

1962年からTVの「コンバット!」の吹き替えをしているから、その関係で人脈ができたのだろうか?こちらのインタビューでは、来日したヴィック・モローと対談した思い出を話しているし。

http://journal.mycom.co.jp/articles/2007/09/29/voice/001.html

などと想像をめぐらしていたのだが、識者の方に話してみたところ、「羽佐間道夫を含めて、初期の声優は実写ドラマにも多数出演しているから、普通に事務所を通じてオファーが来たんじゃないか。吹き替えの人脈を通じてというようなドリーミングなことはまずない」とのことでした。

なるほど、そういうもんか。

2010年8月12日(木)
IMDBのアニメ情報について


先日、
ある大物声優が出演した実写映画について調べるのに使ったIMDB(Internet Movie DataBase)

マイナーな映画や役者について調べるのに重宝している。
てっきり、「実写映画に出演しているから収録されているのだ」と思っていたら、これ日本のTVアニメの演出家やアニメーターや声優まで網羅してるのね。
海外の映画祭に呼ばれるような大物が載っているなら驚かないけど、Tatsuyuki Nagai とかAki Toyosaki とかが、普通に載ってる!

「文学少女」が“Bangakusyojo”になってるのはご愛嬌だ!

試しに金田氏の項で作画@wikiと比較してみた。
http://www.imdb.com/name/nm0437484/
http://www18.atwiki.jp/sakuga/pages/200.html

こっちは湖川氏。
http://www.imdb.com/name/nm1114428/
http://www18.atwiki.jp/sakuga/pages/366.html

国内作品ではやや見劣りするが、.日米合作のTVシリーズなんかは、IMDBの方が詳しい。
「マスク」のTVシリーズなんて、存在自体知らなかった。

高雄統子が載っているのにすしおがないとか、人選基準が謎ではあるが。
ちなみに、西村純二を調べてみたら、シムーン監督の他に「はだしのゲン」の声優と出てきて、え?と。

こちらのjunjiさんは「淳二」でした。英語圏にありがちなミスですな。

2010年8月9日(月)
「ハロルドとモード〜少年は虹を渡る」

しばらく間が空いてしまったが、またぼちぼちと。

標題は、1971年のカルトな青春映画。以前町山智浩先生のアメリカ映画特電で話題になってたので覚えていたのだが、

http://enterjam.com/?eid=132#sequel

新宿武蔵野館でリバイバル上映されたので観てきた。

自殺癖のある19才の少年ハロルドと、80才のセクシーおばあちゃんモードの年の差恋愛映画なのだが、これ、れっきとした反戦映画ですよね。

例えば、ときどき何の脈絡もなく挿入されるジェット機の爆音。1971年と言えばベトナム戦争が泥沼化している時期だが、これはストレートに爆撃をイメージさせる。
2人が散歩する場面に映る、延々と続く墓石の列。
ハロルドが、母の連れてきたお見合い相手を撃退するために、焼身自殺の狂言を図るシーンは、たぶんこの写真が元だろう(ちょっと衝撃的な画像につき注意)。

http://homepage.mac.com/fuyuki2003/iblog/B892654908/C1067003007/E1537790167/index.html

(リンク先がうまく表示されないみたいなので追記。60年代のベトナムでは、アメリカに支援されたゴ=ディン=ジェム政権に抗議して、僧侶の焼身自殺が相次いだ。このシーンは多くの報道機関が報道し、世界に衝撃を与えた。「僧侶 焼身自殺」で検索すると画像入りで多数出てくる)

無理やり陸軍に入隊させようとする叔父を翻弄するシーンは、徴兵逃れ。
ハロルドのお見合い相手3号の名字は「ドレ」という。「禁じられた遊び」('52)の主人公ポーレット・ドレと同じ。ポーレットがしていたのは葬式ごっこだが、ハロルドとドレがしてみせるのは自殺ごっこ!

モードは、小さいころはウィーンにいたと語る。その腕に残る数字の入れ墨。
彼女の破天荒な行動、貪欲に人生を楽しむ姿勢は、その過酷な体験の裏返しなのだ。



ところで、夏コミで幻視球さんの同人誌「ORBITAL」に寄稿しました。当日は売り子してます。

http://xn--owt429bnip.net/2010/07/c78info.php

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