最近の読書から。
キース・デブリン、ゲーリー・ローデン『数学で犯罪を解決する』山形浩生、守岡桜訳、(ダイヤモンド社、2008年)を読んだ。
アメリカの犯罪捜査TVドラマ「NUMBERS」は、天才数学者が数学理論を駆使して難事件を解決するという筋である。ドラマ自体はフィクションだが、作中で扱われている数学理論と犯罪事例は、ほぼ現実に沿っているという。本書は、実際に捜査の現場で用いられている数学理論を解りやすく紹介した本である。犯罪現場の分布から犯人の住所を推定したり、膨大な目撃情報から信頼性の高いものを抽出したりと内容は多岐にわたるが、ちょっと面白かったところを紹介。
指紋について。
指紋というものが発見される以前の個人の同定には、ベルティヨン法という方法が使われていた。ベルティヨン法とは、頭部の縦横、左中指の長さ、左肘から左中指までの長さなど、解剖学的に計測された11コの数値に基づく方法である。19世紀後半に考案されて以来、偽名を使い分けて判決が厳しくなるのを逃れようとする常習犯の企みを阻止するのに大きな成功を収め、指紋鑑定に取って代わられるまで数10年も使用された。
言うまでもなく、指紋による個人同定は、同じ指紋の人間はいないことが大前提になっている。
ここで、同じ指紋の人間は「絶対にいない」のか「確率的にいない」のかどっちだろう?というのが以前からの疑問だったのだが、本書に答えがあった。
正確に言うと、「判らない」。なぜなら、全人類の指紋をすべて調べたことは未だかつてないからだ。
指紋の固有性とは、一卵性双生児においてさえ同じ指紋を持つ2人の人間は見つかっていないという経験則に基づく。
しかし、指紋自体は個別のものであっても、その鑑定に誤りが生じる可能性はある。
指紋鑑定は、「特徴点」という指紋の髏の端点、あるいは2つに分かれる分岐点を調べることで行われる。しかし、この特徴点をいくつ調べれば信頼性のある鑑定を行えるかの基準が、いまだに確立されていない。アメリカでは州によっても警察によってもその数が異なる。
つまり、「指紋自体は固有のものと思われるが、鑑定の過程で誤りが生じる可能性はある」のである。
ニューラルネットワークについて。
ニューラルネットを使って、迷彩された戦車を検出する実験が行われたことがある。
迷彩された戦車が隠れている写真と、戦車がいない写真とをニューラルネットに学習させ、パターンを見つけ出したところで実物で実験してみたが、さっぱり発見できない。
原因を調べたところ、戦車のいる写真は晴れの日に、いない写真は曇りの日に撮影されたものだったことが判明した。つまりニューラルネットが学習したのは戦車の有無ではなく、晴れと曇りの違いだったのである。
笑っちゃったのは、ハリウッド俳優のベーコン数分布が載ってたこと。ベーコン数というのは、ケヴィン・ベーコンに辿り着くまで何人の共演者を介しているかという数字。ケヴィン・ベーコンと共演した俳優はベーコン数1、本人と共演していなくとも、ベーコン数1の俳優と共演していればベーコン数は2となる。
http://garth.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-adea.html
ハリウッドの全俳優について調査した数字が下の表。左がベーコン数、右が俳優の人数である。
0 1
1 1,673
2 130,851
3 349,031
4 84,615
5 6,718
6 788
7 107
8 11
全俳優について、ケヴィン・ベーコンからの平均距離は2.94だった。つまり、任意の俳優2人の距離を多めに見積もると、平均で約6になる。
俗に、6人を介すると世界中の人間と知り合えるという。ここでもそれが裏付けられた!(か?)
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