昨日の続き。
本書を読んでいて、一つ気がついたことがある。ちょっと引用が長くなるがご容赦を。以下、太字は全て引用者による。
『昭和二年一月三○日
茨城県真壁郡の自宅で深夜一時、中学三年生(19)が病気で寝ている母親に卵を食べさせようとすると、小学校校長の父親(46)が酔って怒ったのでカッとして鉄瓶を額に投げつけ全身を殴って、二月六日に死亡させた。病死したと届けたが、二月八日に逮捕。母親も同じ小学校の教師だった。
父親が酒乱という事情を考慮されて一審で執行猶予判決が出て確定する予定だったが、三月十五日に同じ村で少年が父親を殺害して、さらに六月十一日に隣村でも少年の父親殺しが起こって影響が憂慮されて控訴され懲役三〜五年の不定期形となった。』
『昭和二年三月十五日
茨城県真壁郡の自宅で夜、長男(19)が就寝中の元小学校校長の父親(63)をマサカリで殴って殺害、逮捕された。父親は教師時代から金貸しで莫大な資産を築いていたがケチで、長男が昨年一○月から結核になっても医者にも見せず、「この肺病野郎。金ばかり使いやがって治りはしない。早く死んでしまえ」と罵倒されたので復讐したもの。
一月三○日の事件の被害者と同じ学校の前の校長だった。無期が求刑されたが少年法によって、下妻裁判所は懲役五〜一○年の不定期刑判決を出した。』
『昭和二年六月十一日
茨城県真壁郡の農家で、次男(19)が寝ている父親(49)を日本刀で斬り殺して、刀を持ったまま一○キロ離れた警察署に自首した。長男が常に両親を虐待し、父親が一週間前から病気になっても看病もせずに「働くのが嫌で仮病をしている」などと云っているのを見て、いっそ殺したほうが楽になるだろうと考えたもの。真面目で親孝行で表彰もされていた。』
『昭和二年一月一八日
茨城県真壁郡の自宅で深夜一時、小学校高等科一年生(12)がカミソリで腹を切り、気づいた父親が医者を呼びに行っているあいだにさらに頸動脈を切って自殺した。足が悪いことを友人にからかわれたため。』
『昭和一六年一○月二六日
茨城県真壁郡の農家で深夜三時、四男(17)が就寝中の長兄夫婦(38,27)をナタで殴って重傷を負わせ、次兄(28)の長男(9)と長女(1)の二人を殺害、逃走したが周辺住民総出で警戒中の四時に戻ってまた長兄の頭をナタで殴って逃走、昼に逮捕された。
小学校では級長も務めており、昨年に小学校高等科(現在の中学に相当)を優秀な成績で卒業したが農作業もせずにぶらぶらして、読書をしながら思索に耽って創作に熱中、兄に叱られていた。同じ村の少女(17)に恋文を贈ったが相手にされず、一○月二五日の夜に少女を訪ねて家族に追い返され、深夜○時に友人宅で青年団服を借りてゲートルをつけ遺書を書いてから、深夜二時に隣家で日本刀を借りようとして断られている。犯行後の朝六時に少女を訪ねて家族に怒鳴りつけられナタを投げつけて逃げ、カミソリを所持してうろうろしているところを見つけられた。祖父から血族結婚が続いている血統を断絶するため、次兄の次男(3)だけを後継として残し、母親(58)、弟(14)を含めた一家皆殺しにして少女と無理心中をする計画だった。父親はすでに死んでいる。』
『昭和一○年八月一九日
東京市神田区で、印刷業者宅の女中(19)が赤ちゃんを産んですぐに窒息死させ、翌日、橋から神田川に捨て、八月二四日に死体が発見され逮捕された。茨城県真壁郡の村で男との関係が噂になったため、三月に妊娠したまま上京していた。』
『昭和三年七月二八日
茨城県真壁郡の小学校教室で、高等科1年生(14)が同級生30人以上に殴られ傷害を負った。教師が修身の授業に「掃除をさぼった者は殴ってもよい」と云ったため。父兄の間で大問題となった。』
もうおわかりでしょう。わずか300ページの本の中でこの登場回数。ちょっと多すぎないか、茨城県真壁郡。常識的に考えれば、著者が調べた新聞が、この地方をカバーする地方紙だったからなのだろうが、最初の4件はたった半年の間の事件である。何か悪い霊脈でも走ってるんじゃないか?と心配になる。昭和16年の事件なんか、『祖父から血族結婚が続いている血統を断絶するため』なんて横溝正史の世界そのものだし。
ぜひ、「俗・下妻物語 仁義なき戦い篇」とか言って映画化してほしいものである。監督は北村龍平で。
「実写監督が手がけたアニメ映画」に、
舛田利雄の「FUTURE WAR 198X」('82)と、
大林宣彦「少年ケニヤ」('84)を追加。
http://www.d1.dion.ne.jp/~tnakamur/ohbayashi.htm
数ある角川の微妙な劇場アニメの中で、とりわけ映画史に名を残さなかった一本。「時かけ」の次の年だよ・・・。
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