「すごい!アニメの音づくりの現場」(雷鳥社)から、印象に残った言葉。
平光琢也((有)円企画音響監督 ミュージカル「セーラームーン」など)
『作りこんだリアリティっていうのがあるから。僕らはドキュメンタリーを見たいわけじゃないからね。それ言い出したら、八百屋の役は八百屋にやってもらうのが一番なのかって話だし、殺人犯は殺人しないとできないのかってそういうことになっちゃうし。ドキュメンタリーではなく、演劇的リアリティの追求だから。それは僕らの日常的リアルではなく、演劇的・アニメ的でいいんだけど、それぞれのリアリティで騙していくわけだから。すごいリアルさで。そのリアルの基準をもっている人は声優さんにも俳優さんにもいる。逆に、それをもっていない人はだめなんだよね。自分の中での演劇的リアリティ、アニメ的リアリティをもった人が勝つわけだから。そのリアルさを間違って、ドキュメンタリーみたいにするとまたテンション低いわけだし。かといってやりすぎちゃうと、それもうそ臭い。ここのいい匙加減のリアリティを持っている人がいいんじゃないのかな、やっぱり。』
たなかかずや((有)AQUATONE音響演出 「蟲師」「僕等がいた」など)
『(漫画を見終わった後の読後感を伝えるには)それを達成するためには、話を一回飲み込んで、自分の中で消化していないといけない。話中の嬉しいこと、苦しいこと、辛いことなど全部を自分の中に落とし込んでから、出さなくてはならないんです。すごく苦しい作業です。しかし、だからこそ、見た人の心が動くのだろうと思います。
(中略)
同じ気持ちを人に伝えるために、効果的に演出するにはどうしていけばいいかを組み立てなくてはいけない。感じるだけでは視聴者と同じです。これを感じてもらう表現をつくるための、役者に与える指示、ふさわしい音楽、台詞の間合いがあります。だから負の感情でさえも一度は自分の中に落としてないと、演出まで持っていけない。』
「音響監督」はれっきとした演出家。
若林和弘((有)フォニシア音響 「攻殻機動隊」「イノセンス」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」など)
『実在しないものであればあるほど、できるだけそれっぽく、地に足がついた感じにしなければならないのです。
例えば戦車一つを例にとっても、実際はもうフルコンピューター制御で、キャタピラもほとんどゴムのような感じで音があまりしないのです。その方が気づかれずに近づいて敵を倒すことができる訳ですから当然ですよね。
しかしアニメーションでは、巨大なものがスーッと静かに動いても説得力がないのです。現実の戦争では「無音に近く」なっていても、イメージとしてキャタピラがガーという大きな音がして、でっかい銃器でドーンと撃つ方が見る側に説得力を感じさせます。押井さんからはよく「そういう風に作ってくれ」ということを言われますね。』
『「イノセンス」も含めて押井さんの最近の作品を見て私が感じている事は、作品に対して男性的な価値観から来る”恋のおさめ方”や”生きてきた証”みたいなものを何処か織り込んでいこうとしている気がします。
(中略)
つまり、心にはどうしてもドロドロとしたものが付きまとっていて、それは正義だと言っても最後には戦争をしたり、好きだ嫌いだといっても結局はセックスの問題になったりする。そういう部分、感覚といった方がいいのかな?それが必ず何処かにあって、その上で社会や世界が成り立っているということ。それを作品として表現していきたいという気持ちが、(「攻殻機動隊」の)あの曲になったのでしょう。』
音から見た押井論。まだまだ未開拓の分野。
市川修((株)タバック技術部長)
『モノラルだった当時にあったアナログ音源をデジタルにする作業をしようと思ったんですけど、どれに残したらいいのかわからないんですよ、実は。テープでとるデジタルっていうのもあるんですね。でもとっておくとテープがだめになっちゃったりするんですね。ノイズになっちゃって。アナログ時代のテープって言うのは、なんとかすれば再生できるんですよ。だめになるってことがまずない。だから、保存しておくには昔の方法が一番いいんですよね。ハードディスクにとっておいたとしても、そのハードディスクがだめになってしまえばおしまいですからね。CDやDVDにとっていても、それらがどこまでもつかっていうのもまだ未知の世界ですからね。十数年しかもたないとかになると、どうしようって話になってしまいますよね。ですから古い音源はアナログで保存しておきます。昔の六ミリテープ、捨てられなくなっちゃいましたね。今の悩みは、音の保存形態が変わってきていて、どれにすればいいかわからなくなってきていることです。』
そういえば一昔前、LDが腐食するという噂があったっけ。オーディオマニアにはアナログ・磁気テープ至上主義者がいるが、理由のない事ではないんだな。
水野さやか((株)スワラ・プロ選曲)
『「金田一少年の事件簿」を手がけていた頃、六ミリテープからパソコンに一斉に入れ替わりました。朝出社したら、私の作業部屋にいきなりパソコンが置いてあって。「今日からこれ使って!」と言われて、唖然としましたね。二時間ぐらいパソコンの講習を受けただけで、すぐ仕事で使い始めました。
パソコン導入当時から今もMacintoshを使っています。ただそのころのMacは、頻繁にトラブルが発生してその度にトラブルを示す爆弾マークが出て・・・・・・・。せっかく制作したデータが全て消えてしまう事がよくありましたよ。使い慣れていないこともあり、六時間もかけて作ったパートが全部消え呆然としたこともありました。』
Mac伝説。
石野貴久((有)サウンド・リング音響)
『理想は、音響にもちゃんと権利が欲しいということですね。今は権利を持っているのは声優さんだけじゃないですか。やっぱり僕らにも権利がほしい。二次使用料のこととかね。ちゃんとしたものができて人気が出ればそれだけ見返りがあるんだって思えば、単純にもっとクオリティ高いものを作ろうってなるじゃないですか。そうすれば、もっとやりたがる人も増えるだろうし、初任給五万円なんてものもなくなるんじゃないでしょうか。どんなに難しい音をとりに行ったとしても、結局「作品一本でいくら」ってなっちゃってるんで。楽な仕事もあれば大変な仕事もあるし。きちんと評価され、そしていい音を今後も作って行きたいです。』
権利ないんだ・・・。アニメーターの収入だけじゃない、アニメ界の底辺はどこまで深いのか。
ところで、最新戦車が静かだというのは、私にも実経験がある。
陸自の富士総合火力演習を見学した事があるのだが、遠方で射撃している74式戦車を見ていたら、いつの間にか目の前10mくらいのところに90式戦車が来ていた。射撃中とはいえ、本当に静かだ。
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