更新履歴と周辺雑記

更新履歴を兼ねて、日記付け。完結していない作品については、ここに書いていきます。

2024年7月16日(火)
『義妹生活』

『ユーフォ』完結の感動も覚めやらぬ中(よもやあんな展開になるとは夢にも思わなかった)始まった、この作品。

「せいかつ」と打つとナチュラルに「性活」と変換してくれるマイパートナー。それはともかく、観る前は「今どき『くりいむレモン』再び?」などと高をくくっていたのだが、いいじゃないですかこれ。
落ち着いたセリフ、落ち着いた芝居、落ち着いた構図、落ち着いたカメラ、落ち着いた色彩。
文芸映画の風格がある。宮尾登美子原作と言われたら信じてしまいそうな……。ごめんさすがに言い過ぎだった。そのくらいすごい作品だ。

2話までで印象的だったシーン。

慎重に相手との距離感を測っている悠太と沙季。

 

床の板目に平行に立っている悠太に対し、沙季は直角。
この構図は、玄関から見たときの悠太と沙季の部屋の位置関係とも重なる。締めくくりに、照明のスイッチの位置が判らなくていろんな場所を点灯してしまう沙季の描写も良い。



2話の冒頭でバラバラに地面に散らばったボール。



悠太が沙季に向けて踏み込むと同時に、転がるボールがぶつかる。

 

亜季子が持ち込んだ風船。悠太が帰宅すると、家に入り込んだ異物を表すように不安定に宙に浮いている。

 

2話の終末では、その風船が土間に落ちている。その意味するところが安定なのか堕落なのか、まだ判らない。

 

たびたび出てくる花瓶の花。特に目につくのが黒いイガイガ。

 

暖色系の鮮やかな花々の中でぽっかりと虚無の穴が開いているようで、何か不吉な印象を与える。
特に、2話の悠太と沙季が話す重要なシーンでは、ちょうど光と影の境界に置かれている。



調べてみるとエリンジウムという花らしいが、ふと思い立って花言葉を調べてみた。(『やがて君になる』のオープニングで、加藤誠監督が花言葉に凝ったというインタビューを読んだので)
なんとびっくり、エリンジウムの花言葉は「秘めた愛」「秘密の恋」「光を求める」「厳格」「独立」だと言う。

2話は、まさに独立について話していたではないか!

悠太の揺れる心情を端的に表す、最も印象的なカット。陸橋を真俯瞰でとらえ、左右から電車が、タイミングをずらして進入し走り去る。




第1話
脚本:広田光毅
絵コンテ:上野壮大
演出:安東大瑛/小林美月/村田尚樹

第2話
脚本:広田光毅
絵コンテ:福島宏之
演出:中島 駿

恥ずかしながら、私はこの演出陣、まるで聞いたことがなかった。まだまだ才能とはあまた存在するものだ。

2024年6月17日(月)
『響け!ユーフォニアム3』第十一回

もはや隔月刊どころか季刊になってしまっている。忙しいやらモチベーションが低下しているやらでずいぶんと長いことほかっていたが、生きてますよ。アニメも観てます。

ソリストの座を巡って息詰まるサスペンス展開になっている本作。毎回見どころてんこ盛りだが、本筋とは関係のないところでぐっときた表現。

全国大会出場を決めて一息つき、久美子たち4人でピザを食べるシーン。

 

 

ピザの取り方が四者四様に描き分けられている
さすがと言おうか、こんな一見どうでもよさげなシーンにかける知恵と配慮と情熱。ちょっと空恐ろしくなるほどだ。
こういう手間暇を惜しまないところこそ、京アニの神髄なのだろう。
(追記:これ、4人の進路が別れていくことの比喩表現だという指摘を見た。だから、進路が最後に決まる久美子が一番最後にピザを取っている、と。なるほど確かに。)

もうひとつ。



 

大学に行っても仲の良い先輩たちを見やり、久美子の目が離れたところでふと表情を曇らせる麗奈。演奏会の帰路のシーンの、さりげない伏線になっている。
これこそが個性、存在感、実在感というものだ。


脚本:花田十輝 絵コンテ・演出:北之原孝將 作画監督:丸木宣明


○ 今期視聴中。
  『戦隊大失格』
  『Unnamed Memory』
  『夜のクラゲは泳げない』
  『怪獣8号』

2024年2月1日(木)
近況

すっかり隔月刊と化している当サイト。
今年もひっそりと続けていきます。

○『シムーン』と『星の王子さま』
毎週楽しく観ているBS世界のドキュメンタリーで、サン・テグジュペリが『星の王子さま』を生み出すいきさつを放送していた。
テグジュペリは1935年、パリからサイゴンを目指す飛行を試み、途中リビアの砂漠に不時着して生死の境をさまよった。このときの経験が後年『星の王子さま』の発想の元になったという。
で、これがそのときの写真。大破した機体の傍らに佇むテグジュペリだが、垂直尾翼に注目。

 

「simoun」とある。

シムーンですか !?

興奮してしまったのだが、調べたらこれは機のパーソナルネームではなくて、コードロン・シムーンという飛行機の名前だった。

郵便機として広く使用され、戦争中はフランス軍の連絡機として活躍した。
シムーンはもともと砂漠の風のことだから、飛行機の名前についていてもおかしくない。

『シムーン』は2006年の作品だからもう18年も前になる。
『シムーン』と『星の王子さま』。少女が大人になる一瞬と、永遠の少年。なんだか不思議なつながりを発見してしまった気分。


○『ゴールデンカムイ』
実写化記念に、当初からの疑問を二つばかり。
主人公杉元は、不死身の男として第七師団の杉元を名乗るのだが、これが疑問。普通、兵隊の帰属意識は連隊に向くものだからだ。連隊は日本各地に置かれており、徴兵された兵隊は最寄りの連隊に入隊し、その兵営で生活し、訓練し、仲間と出征して生き死にを共にする。特に日本陸軍では、中隊長が家長・父親で中隊は家族というしつけがなされていた。3コ中隊で1コ大隊、3コ大隊で1コ連隊。
師団というのは平時は司令部しかなく、戦時に編成される。時代によって違うが、日露戦争当時は2コ連隊で1コ旅団、2コ旅団で1コ師団となる。正確に言うと歩兵連隊4、砲兵連隊と騎兵連隊各1、工兵大隊1が標準の編制。連隊は1000人くらいだが、師団は2万人近くになる。自分がどの師団に所属するか、もちろん知識として知ってはいるだろうが巨大すぎて、一兵卒には到底実感できないんじゃないだろうか。

もうひとつ。みんなすでに忘れていると思うが、もともと杉元がアイヌの金塊を探しているのは、戦死した親友の妻が難病で、その治療費を得るためである。つまり以下のような思考をたどっている。

病気には原因がある→医療で原因を取り除けば治療できる→高度な医療は日本では受けられない→先進国には高度な医療がある→大金があれば治療できる

実現可能性以前に、これって、すごく科学的・論理的、有り体に言えば「近代的」な思考、自分の未来を自力で変えられるという信念に基づいた思考である。都市住民ならまだしも、明治30年代の田舎の百姓が、こんな思考をできるものだろうか。

まあどちらも、私が知らんだけで実例があるのかもしれない。作品の面白さとはあまり関係のない話でした。


○『86』Ep.13 ディア・ハンター
『86』最新刊。ギアーデ連邦に舞台を移してからというもの、わりと楽観的と言うか未来に希望を持てる展開だったのが、よもやこんな展開になるとは。この地上のどこにも楽園はなく、平和は遠く、一番恐ろしいものは常に同じ。
あとがきで作者が述べているように、本シリーズの真の敵はレギオンでも実体ある組織でも国家でもいわんや誰か特定の個人でもなく、弱くて愚かで哀しい人の悪意そのもの。物語はついに最終編に入るという。つかみどころのない巨大な敵に、レーナは、シンはいかに立ち向かうのか。
またひとつ、生きる楽しみが増えた。


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