以上見てきたような流れの上に、『涼宮ハルヒの憂鬱』('04)の池田絵、『けいおん!』('06)の堀口絵などが点鼻の完成型として提示された、と考えられる。2010年の投票はこんな感じ。
2010年6月号 | ||
順位 | キャラクター | 作品 |
1位 | 坂田銀時 | 銀魂 |
2位 | エドワード・エルリック | 鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST |
3位 | キョン | 涼宮ハルヒの憂鬱[第2期] |
4位 | 刹那・F・セイエイ | 機動戦士ガンダム00 セカンドシーズン |
5位 | 阿良々木暦 | 化物語 |
1位 | 平沢唯 | けいおん! |
2位 | 秋山澪 | けいおん! |
3位 | シェリル・ノーム | 劇場版マクロスF 〜イツワリノウタヒメ〜 |
4位 | 御坂美琴 | とある科学の超電磁砲 |
5位 | 神楽 | 銀魂 |
こと『けいおん!』については2011年の劇場版のキャラデザインを紹介しておきたい。
つまり英国人のモブキャラのことなのだが、もはや老若男女どころか、人種さえ超越して正面顔では鼻を描かなくなっているのである。
これがアニメキャラ50年の完成型か?と言うと、近年また少し方向性の違う描き方がある。
例えば、『マクロスF』('08)キャラデザイン:江端里沙のシェリルの描き方で特に目立った、「鼻筋を描かない代わり、鼻孔をはっきり描く」という方法論である。
川元利浩も最近作の『ノラガミ』でこの描き方を多用している。
鼻筋を比較的はっきり描き、アップの時は鼻孔まで描かれる『化物語』('09)。キャラデザイン:渡辺明夫。
表情集では鼻孔の指示はないが、参考資料の中に鼻のカゲのつけ方が指示されていた。
全キャラ全カットで、鼻の下にはカゲをつけないと指示されている。立体のとらえ方が独特で面白い。
もうひとつ、人気投票とは無縁だが、ぜひ紹介しておきたいのが『東のエデン』('09)。キャラ原案:羽海野チカ、キャラデザイン:森川聡子。この作品では、常に鼻梁に長方形のカゲがつく。
「鼻柱にだけフットライト的な薄いカゲが乗ります(タッチのかわりです)」との指示がある。神山監督のインタビューによると、これは羽海野キャラ独特のタッチの代わりであり、羽海野キャラらしく見せるための工夫である。これがあるだけで、「急に羽海野キャラっぽくなる」とか。下は、総作画監督・中村悟による修正原画。色調がおかしいのはご容赦。
このように、鼻筋の表現一つとってみてもアニメにはまだまだ多様性がある。これからも様々な表現が産まれてくるに違いない。
私自身は絵心がないし、アニメ制作の現場に詳しいわけでもないので、本稿では実制作者の事情には触れずに来たが、最後に一つだけ、さる筋から聞いた話として紹介しておく。作画監督が修正を行うのは、鼻の描き方である場合が多い。そのため、最初から鼻筋を描かないデザインにしておくと、作画監督の負担を大幅に軽減できるのだそうである。
ひとまずこれで本稿を終える。マンガやゲームといった隣接ジャンルの影響や、カゲなし作画の位置づけなど検討すべき事項は数多く残っている。また本稿では設定資料を重視したが、実際に広く耳目に触れて影響力を及ぼすのは完成画面だから、そちらを重視するという方法論もあるだろう。そもそも『アニメージュ』の人気投票がアニメ全体の傾向をつかむに適しているか、といった根本的な問題もある。
それらについてはご批判と、今後の研究を待ちたい。本稿がその叩き台になれば、十分な意義があったものと思う。