ひみつの受精
結木青猫
■第二章
1、
土曜の午後。約束した喫茶店に淳は約束した時間の三十分前に来てしまった。気が急いてしまって、家にいても少しも落ち着いていられなかったのである。
里華とゆっくりデートができるというだけでも天にものぼる心地である。その上、その里華とセックスできる……という夢のような期待感がある。と同時にほんとうにセックスできるのだろうか……という不安感もあった。なんだか話がうますぎる気もする。
待っていると、店に女優かモデルかと思うような美人が入ってきた。若草色のニットのワンピースが涼やかでいてセクシーなボディ・ラインもうかがえる、別世界から抜け出してきたかと思うほどの美人である。
淳は里華のことも忘れて、その美人に見とれてしまった。と、美人はまっすぐ淳のいる席のほうへと歩いてくる。
淳が焦っていると、その美人が里華であることに気づいた。
いままで淳は普段着の、かるいメイクしかしていない里華しか見たことがない。しかし今日の里華は念入りにメイクし、着飾っている。その華やかさが持ち前の清楚な優雅さと混じって、高級な花のような美しさになっていた。まさに、見違えるような美しさだった。
そして、今日の里華は淳のためだけに、そんなに美しくメイクし、着飾ってきてくれたのだ。それを思うだけで淳は感動モノだった。
「ごめんなさい……。待った?」
里華は淳の正面の席に座りながらいった。
「ううん……」
淳は里華に見とれながら上の空で答えた。時計を見るとまだ約束の時間の十五分前である。
席に着くなり、里華はその美貌に、ほんとうにすまなそうな表情を浮かべた。
「わたし、淳くんにあやまらなければならないことがあるの」
「なんですか」
淳は不安感いっぱいに聞き返した。
「わたし、あれからよく考えて……、今日の朝まで悩んでたんだけど……」
里華はうつむいて自分の指を見つめた。
「やっぱりわたし、淳くんと……、その……、そういう関係になれないわ……」
言葉をぼかしているがセックスのことを言っていることはすぐにわかった。
淳には残念……という身体が沈み込んでいく気持ちを感じながらも、心のどこかで、やっぱり……という気持ちもかんじていた。
心のどこかで、そう言われることを覚悟していたのかもしれない。
そんなうまい話があるわけはない。そんなにかんたんに、こんな美人とデキるわけない……。そんな予感があった。
それに、今日の里華は美しすぎて、なんだか近づきがたい気さえするのだ。自分とはあまりに不釣り合いである。
やっぱり自分にとって里華は高嶺の花だったんだと思う。
「デートも、なしですか?」
淳は最後の望みで、聞いてみた。
「ううん。淳くんが怒らないでいてくれたら……。今日は一日、淳くんと一緒にいたいって、楽しみにしていたの」
里華は微笑みながら、テーブルの上の淳の手に、やさしく掌を重ねてきた。
それだけで淳の胸はドキンと高鳴った。
淳はその手をやさしく握りながら里華を見つめた。
里華は恥ずかしそうに視線を伏せたまま微笑み、少し頬を上気させた。
可愛い!
淳は思わず、いますぐ里華が抱きしめたくなった。
「淳くん、わたしが約束破って、怒ってない?」
「もちろん」
「じゃあ、わたしとデートして……。罪ほろぼしに今日はぜんぶわたしがオゴるから……」
店を出ると、里華はそっと淳の手をつかんできた。淳も里華の手を握り、そうして二人は手をつないで歩き始めた。
手をつないでいるだけでも、淳は天にも上る気持ちだった。
道をゆく人々が面白いように里華を注目し、振り向いていくのがわかった。淳はそんな美人と歩いているだけでも誇らしい気持ちだった。
「ねえ、淳くん……。わらわないで聞いてくれる?」
「なんですか?」
「じつはわたし、男の子とこんなふうにデートするの、生まれて初めてなの」
「まさかあ……」
里華ほどの美人が、信じられない話である。
「わたし、中学も高校も女子校だったって話したでしょ?」
「でも、ほかの高校の男子から誘われたりしなかったんですか?」
「誘われたこともあったけど、なんだか怖いかんじがして……」
そして里華は、中高生の頃の自分は読書や音楽や美術、映画鑑賞が趣味の内気な少女で、恋にはオクテだったことを話した。
そして里華は会社社長である父の娘だったため、18歳で当時35歳だった亡夫と見合いしたことを話した。亡夫は取引先の社長の息子だったため、政略結婚である。
「嫌じゃなかったんですか?」
「父には、反抗することを知らなかったって感じかな……。なんでも父の言うとおりにするしかなかったの、その頃は……」
「でも、元のご主人とはデートしたでしょう?」
「忙しい人だったから……」
里華の亡夫は何より仕事を優先させる仕事人間で、里華とのデートも仕事の合間にドライブするくらいで、趣味が合わないことから会話も弾まず、ただ振り回されていただけのような感じだったという。
「それに、お見合だったからすぐ結婚しちゃったし……」
里華は寂しそうに微笑んだ。
2、
それから二人は美術館と映画館を巡り、一緒に夕食をとった。デート代はすべて里華のオゴりである。
そんなデート・コースは、里華が少女の頃から好きな男性とそんなデートをしたいと憧れていたものである。しかしいままでそんなデートをするチャンスもないまま、今日初めて淳とデートしているのである。
里華は今日のために時間をかけてデート・コースの予定をたてていた。雑誌を何冊も買って、どの美術館、どの映画館、どのレストランにしようかを決め、淳の初体験のためのホテルも決めて、予約も入れていた。今朝キャンセルしたのである。
里華は生まれて初めて、好きな人とのデートがどんなものかを味わっていた。映画を観ているとき以外はずっと二人でおしゃべりを続けていたが、会話は後から後から湧いてきて、夕食を終えてもまだ話し足りないかんじで、里華はその後にカフェにも入った。
里華はいままで自分と淳とのあいだで会話が弾むのは、共通の趣味など話題が多いからだと思っていたが、時間も気にせずに会話を続けるうちに、そればかりでもないことがわかってきた。
ふと気がつくと、ほとんど内容のない他愛のない会話ですごく盛り上がっていたりするのだ。話題がとりとめもなく脱線していって、いつのまにか意味のないことを話していたりするのだが、どんなに脱線して、淳と話していると楽しくてたまらないのだ。
それは会話というより、身体と身体が反応し合っているような感じだった。淳の言葉に里華の身体が反応して次の言葉が飛び出す、その言葉に淳の身体が反応して次の言葉が飛び出してくる。そうして言葉をつうじて身体と身体が反応しあって盛り上がっていくような感じだ。
そんなことを思うと、里華は以前、恋愛経験が豊富な女友達に言われたことを思い出した。彼女がいうには、デートは出会った瞬間からセックスが始まっているというのである。つまり、一緒に歩いたり、一緒に食事をしたりするのも、前戯の一部だというのだ。そういった前戯で盛り上がった男性ほど、その後の本番も気持ちがいいというのだ。
そういった意味でいうなら、今日、自分は淳に絶妙の前戯を施されてしまったのかもしれない……、と里華は思った。身体がみょうに火照って、アルコールを飲んではいないのに、ほろ酔いかげんの気分がしてきていた。
このままデートを終えて別れることは、前戯だけ施されて本番がないまま男性に去られてしまうような、強烈な淋しさをかんじた。
しかしもうデートも終わりの時間が迫っていた。時計をみるともう帰宅しなければならない時間だった。
「なんか嘘みたい。こんなに早く時間がたっちゃうなんて……」
カフェを出ると里華は淳に話しかけた。
「淳くんといると、一日なんて、あっという間ね」
予定からいっても、時刻からいっても、後は帰るだけである。
でも、帰りたくない……。
もっとこのまま淳と一緒にいたいと思った。一緒に手をつないでいたい……。
あんなに今日を楽しみにしていたのに、こんなにあっという間に時間がたってしまって、もう終わりにしなければいけないなんて……。
女の子はみんな好きな人とのデートでこんな気持ちを味わっているんだなと思う。でも里華は亡夫とのデートでこんな気持ちになったことは一度もなかった。デートらしいデートもしなかった事もあるが、結婚前も結婚後も亡夫と一緒にいて時間があっという間にたってしまう事なんてなかったし、もっと一緒にいたいと思うこともなかった。
たぶん、亡夫としたのはデートではなかった。里華は亡夫に恋愛感情を持っていなかったということに、気づかざるを得なかった。
そして、これが里華にとって生まれて初めてのデートであり、たぶん生まれて初めての恋なんだ……。
里華はそんなせつない気持ちにとらわれていた。
それに里華には計算違いだったことが一つあった。
里華はすでに淳に唇をゆるしてしまっている。胸への愛撫も、裸身へのタッチもゆるしてしまっている。
とうぜん今日も淳は唇を奪ってくるものと思っていたし、身体にも触れてくるものと思っていた。その覚悟もしていた。
しかしデートが始まってからいままで、淳は一度も接吻をしてこない。緊張しているような表情で、もう一歩踏み込みあぐねている感じだった。
それは里華にとって良いことの筈だった。
淳の気持ちを断る以上、接吻はしないほうがいいし、だいいち接吻などしないほうが自分の感情をセーブしやすい。
しかしセックスの約束までしてしまって、それを破る以上、接吻ぐらいはゆるしてあげないと可哀想……だと思っていた。ボディ・タッチも少しくらいならば許す気持ちもあった。
それが淳が唇も求めてこないことによって、だんだん里華の内に別の感情が芽生えてきた。
唇がさみしくてたまらなくなってきたのだ……。
接吻はしないほうがいい……。でも、接吻ぐらいはゆるしてあげないと可哀想……と思っていたはずなのに、覚悟していた接吻がいつまでも来ないと、期待外れのようなさびしがつのってきた。
接吻がしたい……。
里華はそんな自分の感情に気づかざるをえなかった。
「里華さん……」
そんな時、里華は突然声をかけられて、はっと淳を見た。
淳は立ち止まり、握られた手を引かれるかたちで里華も立ち止まった。
「誤解しないで聞いてください……」
そして淳は言いにくそうにしていた。
なんだろう、突然……。
里華は握ったままの淳の左手の掌が汗ばんできているのを感じていた。
「ぼく、ラブホテルに入ったことがないんです」
「え?」
気がつくと、目の前にラブホテルの看板があった。
「ぼくがオゴりますから、一緒に入ってくれませんか。あの、何もしません。どんなところなのか、一度見ておきたいんです。将来、女の子とそんな事になったときに緊張しないように……」
淳は必死に言い訳するように頼んできた。そんな淳の様子を、里華は可愛いと思う。
「あの、休憩だけでいいんです。どうやってお金払うのかとか、その時になって知らなくて慌てないために……」
淳の気持ちはわかった。
たしかに、女の子とのデートのときに、上手にリードできるように、一度ラブホテルを知っておきたいという気持ちはわかる。
それに多分、淳ももう少し里華と一緒にいたいのだと思う。だから一緒にラブホテルで休憩しようなどと誘っているのだ。その気持ちはうれしかった。
けれどいくら「何もしない」といってきても、キスはしてくる下心だろうと思った。そして胸ぐらい触ってくるかもしれない。
部屋で二人きりになったら、多分……。
この誘いはきっぱりと断るべきだ。里華の理性がそういっていた。
けれども、里華ももう少し、一秒でもいいから長く淳と一緒にいたかった。そしてキスも……。
それに、童貞を奪ってあげることはできないが、ラブホテルがどんなものか経験させてあげることは、淳の成長に協力する里華の役割ではないかと思う。
それに、実は里華もラブホテルには一度も入ったことはなく、見てみたい気持ちもあった。
「わかったわ……。入りましょう」
里華がそういうと、淳はあからさまにうれしそうな表情をした。
「そのかわり、お金はわたしに払わせて……」
そして二人は手をつないでラブホテルへと入っていった。
3、
「うわあっ! 大きなベッド!」
ラブホテルの部屋を見るなり、里華は子供のような声を上げた。
部屋には中央に大きな円形のベッドがあった。里華はそこまで早足でいき、飛び込むように、うつぶせに横になった。クッションがたまらなく気持ちよかった。
淳はスイッチパネルを操作していた。部屋の明かりが様々に変化し、ロマンティックな音楽が流れだした。
淳は部屋を青みがかった暗めの間接照明にすると、ベッドの里華の横に腰かけた。
そして、うつぶせに横たわっている里華の背中をゆっくりと撫でていく……。
「実はわたしも、ラブホテルに来るのって、初めてなの」
里華は白状した。
淳は里華の背中を掌で大きく撫でながら、視線は大きく盛り上がった里華のヒップに注がれていた。
背中を撫で下ろしながら、そのヒップも撫でたかった。
しかし、それでは里華は怒って出ていってしまうだろう……。淳はここまでの雰囲気を壊すのをおそれて、そこに指を触れることができなかった。
里華はゆっくりと仰向けに転がった。
「ロマンティックね……」
部屋は青みがかった間接照明で夢のなかのように演出されている。ロマンティックな照明の下で、ムードのある音楽を聴きながら……、そして好きな男性がすぐそばにいる……。
里華の気分は急速にとろけていった。
いますぐキスをしたい……という気持ちがもりあがっていく。
そんな里華の気持ちを知ったかのように、淳は絶妙のタイミングで唇を求めてきた。
あ……とおもった瞬間にはもう唇に唇が重ねられている。
拒否しなければならないという気持ちはある。しかし、それはあまりにも心地よいキスだった。
少しだけなら許してもいい。少しだけ……。そう思っているうちに淳の指が胸を愛撫してきた。
この前のときで淳はすっかりおぼえたようだ。最初から優しく、里華の乳房の性感を呼びさますような手つきで愛撫し、刺激してくる。
「んっ、んんっ……」
接吻を続ける里華の喉の奥からくぐもった声が洩れた。
気持ちいい……。
それはあまりに快感だった。そろそろ拒否しなければいけないと思うのだが、気持ち良すぎて、そのタイミングを一秒、一秒と遅らせていってしまう。
そのとき、淳の舌が里華の前歯をノックしてきた。
里華は接吻はゆるしても、ディープ・キスはゆるさない気でいた。この前もディープ・キスは許していない。里華は前歯をしっかりと閉じて、淳が舌を差し入れようとしてきても、口腔内への侵入をゆるさない気でいた。
しかし、何度か舌先でノックされると、しぜんに里華の前歯は開いてしまった。どうしてそうなってしまうのかわからない。里華は自分で自分の身体がコントロールできなくなってきたようだった。
前歯が開くと淳の舌先が差し入れられてきて、里華の口腔内を探った。
と、里華の舌がまちかまえていたように、ひとりでに動き、淳の舌に絡みついていく。
里華が意識しないうちに、里華の両手は淳の背中に廻されていた。
里華は自分がどんなに淳とのディープ・キスを求めていたのか、いまになって初めて知った。里華は何もかも忘れて無我夢中で舌をからませ、戯れさせていた。淳もむさぼるように里華の唇を吸いはじめた。
と、それに勇気づけられたように、淳の指がいきなり里華の股間を責めてきた。スカートをまくり上げ、パンティの薄布の上から里華の性器を擦ってくる。未熟な少年の強すぎる愛撫だった。
しかしそれであっても、好きな男の愛撫に女体はじょじょに反応しはじめ、受け入れるように股を開いていってしまう。
「だめよ……」
ようやく淳のキスから逃れて、里華は制した。
このままでは最後の一線まで一直線に突き進んでしまう。
里華は両脚をぴったりと閉じて淳の指が自由に動くのを止めようとた。
と、太腿に挟まれた淳の手は、不自由ななかでそれでも指を細かく動かして愛撫を続けていった。と、それがさっきまでの強すぎる愛撫以上に女体をくすぐる絶妙のバイブレーションになった。
「あんっ……」
里華は大きく呻いて身を弓なりに反らした。あわててまた開脚する。
しかし淳は愛撫のコツを飲み込んだようで、最初のように強引にではなく、太腿に挟まれていたときのようなバイブレーションをくわえてきた。
「あっ、ああんっ……」
里華はたまらずに腰をくねらせた……。
「やっぱり、わたしたち、こういうふうになってしまうのかしら……」
里華はあきらめたようにつぶやいた。
「だめなんですか?」
「だめよ……」
「一度だけでもいいんです。思いをとげさせてください……」
淳は懇願した。
「そんなの、だめ」
里華の拒否の言葉に淳は落胆したが、里華はしゅんとした顔の淳に言葉を続けた。
「一度だけなんて……。一度でもしてしまったら、きっと何度も抱かれたくなってしまうわ」
「里華さん!」
淳の顔が歓喜に輝いた。
「待って……」
里華は最後の力を振り絞るようにして淳の身体から逃れ、そして淳の瞳を見ながら言った。
「……どうしてセックスを断ったのか、わかってほしいの。……淳くんが嫌いだから、ダメだっていってるわけじゃないのよ。……わたしの気持ちは、淳くん、わかってるわよね。……あんな姿を見られてしまったんだから」
里華は頬を紅らめ、顔をふせた。
「すごく恥ずかしかったわ……。あんな姿を見られてしまって……。あんなところを見られてしまったのも恥ずかしかったけど、ほんとうの気持ちを淳くんに知られてしまったことが、もっと恥ずかしかったの……」
「ぼくはすごくうれしかったです。里華さんがぼくのことを……」
「でもね……。わかって、淳くん……。淳くんは童貞を奪ってほしいっていったけど、ひとつになるって行為は、女を経験させてあげるとか、遊びでできることじゃないの。できる女性もいるのかもしれないけど、わたしには無理なの」
里華が何を言いたいのか、淳は里華の目を見つめた。
「そういうことをしたら、もうわたしは淳くんと、いままでみたいに仲の良い友達ではいられなくなるわ……。セックスは、愛を育む行為なのよ。身も心も一つになるっていうことは、淳くんとわたしが愛しあうってことなのよ。恋人になるってことなの」
「愛してます。恋人になってください!」
淳は懇願した。
「わたし、淳くんより十歳以上も年上なのよ」
「年の差なんてどうでもいいじゃないですか!」
「最初は良くても、きっと上手くいかなくなるわ。きっと淳くんはそのうちわたしを重荷に感じるようになる……」
「そんなこと……」
「わたし、淳くんの重荷にはなりたくないの。……でも、結ばれてしまったら、セックスしてしまったら、きっとわたし、もっともっと淳くんのことを大好きになっちゃうし、いつまでも淳くんの恋人でいたいって思ってしまうわ……。きっと泣くことになるのよ」
「里華さんを泣かしたりなんかしません!」
淳はこみ上げる想いを伝えようとするかのように、両手で里華の乳房を掴み、激しく揉みはじめた。
揉まれるうちにだんだん里華の頭のなかは真っ白になってきてしまう。
そして淳はまた里華の股間を愛撫しはじめた。
「あんっ……」
また里華の腰がくねりはじめる……。
この前と同じだ……。里華は思った。このままでは挿入まで一気に突き進んでしまう……。
この前は童貞を奪う約束をすることで淳を制することができた。でも、今度はどうしたらいいというのだろう……。
そう思ううちに、また淳にディープ・キスを受けてしまう。
里華は無我夢中で淳の唇を吸っていた。もはや頭のなかは完全に真っ白である。
里華の胸のなかで、最後の関が決壊したように、淳への気持ちが溢れだしてきてしまう……。
「ねえ、淳くん……」
ようやくキスが終わると、里華は淳を見つめながらいった。
「なんです?」
「わたしのことを、カルい女だと思わないでほしいの」
「思うわけないじゃないですか」
「わたし、前の主人いがいの男性に抱かれたことはないわ。淳くんが二人めなのよ」
淳はゴクリと唾を飲んだ。里華の口調にもう淳に抱かれることを予測している気配を感じたからだ。
里華は続けた。
「わたし、もう二年以上もごぶさたなの……。つまり、男性とそういうこと……」
「セックスですね」
「前の主人と頻繁に夫婦の関係があったのは、最初の三、四年だけだったわ。主人が浮気していて、隠し子までいたって知って、そういうことができなくなってしまったの。でも、ときどき強引にされたりして……。その、わたしが主人が嫌になって……、でも由衣がまだ小さかったから離婚はできなくて……」
「わかります」
「だから、そんなに男性経験が豊富なわけでもないのよ。最近は若い子でもわたしよりずっと経験が豊富な子がいっぱいいると思うの。……だから、わたしの身体って、子供は産んだけど、まだ使い古しってわけではないと思うの」
「里華さんを使い古しだなんて思いません」
「……でも、前の主人は若い頃からプレイボーイで女性経験が豊富だったわ。それで、男性を喜ばせるテクニックをすべてわたしに教え込んだの。……だから、たぶん若い子より、淳くんを満足させてあげることができると思うわ」
淳は息を飲んだ。
「それに、わたしのカラダ、自分でいうのもなんだけど、十代の頃より、いまが一番綺麗だと思うの。たぶん里華のいちばん美味しい旬の時期を淳くんに味わってもらえるとおもうわ……」
「里華さん……」
「それに……、前の主人がいってたんだけど」里華は恥ずかしそうにうつむいて続けた。「わたしのアソコって、女性として、その……、かなりの名器らしいの。きっと淳くんも入れてみれば……満足してくれると思うの」
「里華さん……。ぼくは、里華さんであれば、それだけでいいんです」
淳と里華は見つめあった。里華の瞳は潤んでいる。そして里華は淳を強く見つめながら、真剣な表情で言った。
「そんなに、わたしがほしいの?」
それほどまでに真剣な顔をした里華を、淳はいままで見たことはなかった。完璧なまでに整った顔立ちの美人にそんな真剣な顔をされると、怖いほどである。淳は気圧されだがらも、しかし、ここで負けてはいけないと里華の目をじっと睨んだまま言い放った。
「もちろんです!」
と、淳を見つめている里華の視線がきゅうにトロリと緩んで、艶っぽい輝きを見せてきた。そして、その瞳が半ば閉じて、うっすらと開いている隙間からキラキラと光っている。
里華の美貌から表情が消え、弛緩したうっとりした表情に変わっていった。唇はぽってりと膨らんだかんじで、うすく開いている。
キスを待っているんじゃないか……。
淳はそう感じた。そして里華の背中に手をまわすと、抱き寄せるまでもなく、里華の身体が寄りそってくる。
唇と唇がぴったりと重なった。里華は両腕は淳の肩にまわされた。
里華は両腕を淳の肩にまわして、まったくノーガードで身体を淳にあずけている。豊満な二つの肉球が淳の胸板に押しつけられた。
数日ぶりで味わう里華の乳房の感触である。しかもこんなにぴったりと抱きしめあって、こんなに強く押しつけられたのは初めてだった。
スゴい……。と、気持ちいい……。という二つの衝撃が淳の身体中を駆けめぐった。里華の乳房の迫力のある大きさと夢のように柔らかさを淳は充分に味わった。
すると淳の口腔内に里華が舌を差し入れてきた。そして舌先でじゃれるように淳の舌に戯れてくる。淳もそれに応え、二人は舌先と舌先をたっぷりとじゃれあった。
やがて、里華のほうから、こんどはねっとりと舌をからませてくる。さっきよりもはるかに情熱的で巧みなキスである。こうなると淳はもはやたじたじだった。キスがこれほどまでにエロティックなものだと、淳は初めて知った。
淳は里華の背中をたっぷりと愛撫してから、服を脱がせにかかった。
「まって……」
すると里華は抵抗を示した。
この期に及んで……と淳は思う。が、里華は言った。
「シャワー、浴びさせて……」
それには淳も拒否できない。
淳は名残り惜しそうに里華の身体を離すと、里華をバスルームへと送り出した。
期待感に満ちた長い時間の後、里華は身体にバスタオルを巻いてバスルームから出てきた。里華に促されて、淳も入れ替わりにシャワーを浴びに行った。
淳は大急ぎで全裸になると、ササッとシャワーを浴びて身体を洗った。シャワー中に里華の気がかわってしまうんじゃないか心配で、ゆっくりなんてしていられなかったのである。
そして淳はトランクス一枚を身につけて、バスルームから戻ってきた。
淳はトランクスを脱ぐことには抵抗があった。
淳はこれまで人前で全裸になったことはないし、ペニスを他人に見られたことはない。それを憧れの里華に見られることには、かなりの抵抗があった。できるなら、里華に見られることなく事を済ませたかった。
自分のペニスは、もしかすると欠陥があったり、貧弱だったりするのかもしれない。それを見られて里華に笑われたりしたら、二度と立ち直れなくなってしまうかもしれないという不安があった。
淳としてはベッドで抱き合いながら、里華に気づかれないようなタイミングでトランクスを脱ぐつもりだった。
「ずいぶん早かったわね」
里華はさっきと同じかっこうでベッドに座っていた。
淳はいよいよという緊張で何も答えず、その前に座った。
「ちゃんと洗ってきた?」
「うん……」
「どうしてこんなのはいてるの?」
里華は淳のトランクスをつまんでくる。
「だめよ。全部脱いで、生まれたままの姿にならなきゃ、セックスははじまらないのよ」
「でも、里華さんだって……」
淳は里華が身体に巻いたタオルをかるくめくってみる。
里華も下着ぐらいはつけているものかと思ったのだが、里華のアンダーヘアがチラリと見え、淳はドキッとした。このタオル一枚の下は、里華は全裸なのだ……。
淳は言葉を失った。
「ほら、脱がしてあげる」
気後れする淳のトランクスを、里華は両側を持って引き下ろそうとした。
「ちょ、ちょっと……」
淳は戸惑うものの、そのまま里華に身をまかせてトランクスを脱がされるにまかせた。どうせ脱がなければならないのだ。
けれど、脱いだ後は前かがみになって手を前にあて、なんとか里華の視線からペニスを隠そうとする。
「だめよ。もっと堂々として」
そういいながら里華は淳の股間に手を突っ込み、ペニスを握ってきた。
「これで、わたしをつらぬくんでしょ」
里華は淳の股間をかるくしごくように愛撫してきた。
淳は自分の男性器を他人に愛撫されたことなんてない。そんなこと、考えたこともなかった。そんな、いままで考えもしなかったことをされている。しかも、里華ほどの美人に愛撫されているのである。
しかも里華の愛撫は巧みだった。淳も信じられないほどだ。里華のような美人が、うれしそうに頬を染めながら淳のペニスを愛撫してくる……。
淳は女性がこんなふうに男のセックスを求めてくるものだと初めて知った。経験のない淳は、女性には性欲なんてないんじゃないかとさえ思っていたのである。とくに里華のような清楚な美人には……。
恥じらう淳の様子をみて、里華は微笑んだ。淳は少しばかにされた気がして、思い切って堂々と座った。と、里華もペニスから手を離す。
そして淳はタオル一枚の里華とベッドの上に向かいあって坐った。
いよいよである。ついにこれから憧れの里華とセックスできる。
しかし、ついにこの状況になって、淳は里華に手を出しあぐねていた。
さっきは無我夢中で抱きついていき、嫌がる里華を何とかその気にさせようとしていたのだが、ついに里華が気持ちを受け入れてくれ、すべてを任せてくれると、今度はどうしたらいいのかわからなくなってしまったのである。
見たこともない高級なフランス料理を出されて、どう食べてよいかわからずに手をこまねいているかのよう状況である。
どうすれば里華によろこんでもらえるのだろう。どのようにすれば嫌われないのだろう……。そんな迷いが頭のなかを渦巻いた。
いま里華が身に巻いているバスタオルを取り去ってしまえば、その下には一糸まとわぬ美女の裸体がある。いますぐそれを取り去ってしまいたい……。が、いまになってそれが手を出してはけない神聖なもののような気がしてきたのだ。
いきなり裸体を見ようとしたら、里華にカラダ目当てのイヤらしい男だと思われるのではないか……。
どうしたらうまく、ロマンティックなムードでセックスへともっていけるのだろう……。
見つめあったまま、長い時間が流れた。
「緊張、してる?」
微笑みながら話しかけてきたのは里華のほうからだった。
そして優しく手を淳の膝にのばしてくる。
「あ……」
おもわず淳は声を洩らしてしまった。
里華はくすりと笑う。
そして上体を淳のほうに寄せるように、ゆっくりと顔を近づけていった。
唇と唇が重なる。
挨拶のようなキスが終わると、里華はまたもとに戻って向かい合ってすわる。膝に置かれた里華の手が淳の太腿を愛撫しながらすすみ、ふたたび淳のペニスを握った。そしてさっきよりずっと優しく愛撫してくる。指先でなぞるような、愛しむようなタッチである。
淳は硬直した。
里華はとろけそうな微笑みをうかべて淳を見つめた。それは淳がいままで見たなかで一番エロティックな里華の表情だった。
里華は淳のペニスから手を離すと、自分の身体を包むタオルを、自ら取り去った。
淳は驚きに目を見開いた。
淳が里華の全裸を見るのは二度目である。しかし前回は淳のほうも気がせり、じっくりと鑑賞することがきなかった。
そしていま、その裸身を自分のもにできる期待感とともに眺めると、この前とはまったく違った感動があった。
それはあまりに美しい聖母のような裸身だった。豊満な胸の形の良さ、締まった腹部、そして股間の翳りも美しかった。
「好きよっ、淳くん、好きっ!」
里華が抱きついてきた。
淳が初めて裸体で女の裸体を抱いた瞬間である。全身の肌に里華の肌を感じる……。それはすべすべして、やわらかくて、世の中にこれほど気持ちがいいものがあるのかと思うほど気持ちよかった。
淳の胸に、柔らかな乳房が押しつけられる……。
淳はしかし、ガチガチになってしまっていた。さっきの勢いはもうどこへやら……である。
「ドキドキしてる?」
里華は淳の頬に頬をすりよせてきた。
「……うん」
「緊張してる?」
「……」
「わたしもよ」
「……里華さんも?」
里華は淳の肩に額をつけてきた。
「わたしだって……、淳くんが思ってるほど、経験があるわけじゃないのよ」
「里華さんでも?」
「いたっでしょう? もう二年もこんなことしてないの。それに、前の主人とは恋愛感情があって結ばれたわけじゃなかったわ……」
そして淳の耳もとで夢のように囁いてきた。
「心から好きになった男性とエッチするのって、今日が初めてなのよ……」
淳は身体中が熱くなった。それに、言葉を交わしたことで淳は少し緊張が解け、おそるおそるというかんじで里華の肩にまわした手で、初めて抱いた全裸の女体の背中を撫で下ろしていった。
「どう? 女性の肌は……」
「すべすべしてて……すごく気持ちいいです」
淳はそう説明するのももどかしいほど、里華の柔肌の触り心地に酔っていた。
そして淳は両手で包み込むように里華を抱きしめた。
「……里華さんのからだ、すごくやわらかくて、いまにも壊れそうで……」
「うんと優しく扱ってね」
「……それから、すごくいい匂いがする」
「そう?」
淳は里華の背中から腰へと掌を移動させた。
「あの……。おしり、さわってもいいですか……」
淳が緊張して問いかけると、里華はくすっとわらって、
「どこでも、好きにさわっていいのよ……」
そう言われて、淳は衝撃を受けた。
長いあいだ淳にとって女性のヒップはあこがれだった。スカートの上から触ることだけでも……。でも、こんな美人の裸身を好きなようにわわっていいとは、セックスとは凄いものだと淳はあらためて思った。
そして淳が右手を里華のヒップへと移動させると、すわっていた里華は腰を浮かせてくれた。淳が尻を撫でやすいようにしてくれたのである。
淳は感動した。いままで女の子のお尻をチカンしたいという衝動を自制してきたが、チカンなんてメじゃない。こんな美女が自分から触らせてくれるなんて。
淳は里華の冷たくてすべすべした尻を存分に触りまくり、そしてその勢いのまま、里華をベッドに押し倒した。
淳は無我夢中で里華を抱きしめた。里華は両手で淳を抱きしめてくれる。里華の両腿が淳の腰を両側からそっと挟んでくる。
脳がとろけそうなくらい心地よかった。ずっとこのままいたいと思う。淳は里華の肩に顔を埋めていた。頬に頬をすりつける。
そして黙ったまま何分間かが過ぎた。淳は少しも退屈しなかった。充実した時間だ。
けれど、里華が退屈しているのではないかと思えてくる。ただ抱きしめているだけでは、つまらない男だと思われるのでは……。
「やっぱり……、男の子のカラダって、すごい包容力ね……」
と、里華がそう言ってきた。
「え?」
「こうしているだけで、身体がすっぽり包まれてるみたいで、身体の芯からじんじんあたたまってくるの……。しあわせ……」
そうして里華はぎゅっと淳の身体を抱いてくる。淳は里華もこうしているだけで気持ち良くなっているのだと知ってうれしかった。
「里華さん……」
「なに?」
「里華さんはどうされるのがいちばん気持ちいいんですか? ぼく、その……セックスは初めてだから、どうしたらいいのか、よくわからないんです。女性を気持ちよくさせるテクニックを教えてくれませんか?」
淳はいっそのこと、そう里華に聞いてしまった。
と、里華はくすりと笑って答えた。
「セックスはね、淳くんが好きなようにすればいいのよ。最初からテクニックなんて考えたらだめ。……淳くんが気持ちよくななってくれれば、わたしも気持ちよくなるのよ」
淳は言っていることがよくわからなかった。里華を感じさせたいのに、それではどこをどうしたらいいのかわからない。
淳が迷っていると、そんな気配を察して里華がいった。
「わかったわ。教えてあげるわ、淳くん」
「おねがいします」
「まずは、の言葉づかいね」
「え?」
「もう『里華さん』はやめて」
「里華さん……ですか」
「『里華』って呼び捨てにしてほしいの」
「里華……ですか?」
「敬語もやめて」
「敬語も?」
「ハダカになって抱き合ったら、もうただの男と女なのよ。年もなにも関係ないの」
「わかりました」
「ほら」
「……わかった」
言ってみたが、淳はなんだか違和感があった。
「淳くんは、何て呼んでほしい?」
「え? ぼく……」
ですか……と付けそうになるのをこらえた。
「なんでも、好きなように呼ぶわよ。『淳』でも『あなた』でも……」
淳は里華に『あなた』と言われたときにゾクッとする快感が走った。まるで里華と夫婦になったような感触がしたからだ。
「あなた……が」
「じゃあ、あなたって呼ぶわね。二人きりのときは、これから……」
「里華……」
淳は呼んでみた。
「なあに、あなた……」
またゾクッとする快感が走る。
「里華……」
「あなた……」
淳は一度かるくキスをしてから身を起こした。じっとしていられない気分になってきたのだ。
「里華……、教えてよ、どうしたらいいか……」
「淳くん……、あなたは、まず何がしたい?」
淳は少し照れてから正直に答えた。
「ここが、見たい……」
そして淳は里華の股間を指でさぐる。
里華はオナラがバレたときのようなエッチな笑みを見せた。
「わかったわ……。あなたに、里華の秘密、ぜんぶ見せてあげる……」
そして里華は脚を大きくM字型に開いた。あの里華がこんなことをするなんて……と淳は信じられない気持ちだったが、すぐにその股間に顔を近づける。
里華は両手の指で女性器を大きく開いて見せてくれた。
「誤解しないでね。わたしだって、すごく恥ずかしいのよ」
「うん……」
淳は女性のそこを生まれて初めて、じっくりと眺めた。ほんとうに貝に似ていると思う。美しいというより、ヘンなものという印象のほうが強かった。里華のような美人の身体に、こんな部分があるのが不思議だった。
「ここが大陰唇で、ここが小陰唇よ……」里華が指さしながら説明してくれる。「それで、ここがクリトリス……。知ってるわね」
「ここが感じるんだよね」
そういいながら淳はクリトリスを指先でつまんでみた、
「ああんっ、そんなに乱暴にしたら感じないわ。ここは、すごく敏感なの。そっと愛撫しないと感じないのよ」
「ふうん……」
淳は指をはなした。
「それから、ここがオチンチンを入れる穴よ」
「……こんなに小さくて、入るの?」
「指、入れてみて」
「うん……」
淳は指を差し入れてみた。
「痛っ……」
里華が声をあげた。狭い穴がキューッと淳の指を締めつけてくる。
「痛いの?」
「いいのよ。ずっと男性を受け入れてなかったから……」
「すごく熱くて、狭いよ……。ほんとうにここから由衣ちゃんが産まれてきたの?」
「女性のここは伸縮力があるのよ。どう? 出産でユルくなってなんかないでしょ? ああっ……」
里華は色っぽい声をあげて言葉をつまらせる。
「どうしたの?」
「あなたの指が……響いてきちゃったの」
「指が?」
「……あなたの指が入ってると思ったら、胸がいっぱいになってきて」
「ずっと男を受け入れてなかったから?」
「ううん、あなたの指だからよ。……ぐっと奥まで入れてみて」
「こう?」
淳はぐぐっと指を埋め込ませる。
「ああっ……」
里華の唇から痛みとも歓喜ともつかない声が洩れた。
「……奥にコリコリしたところがあるのがわかる?」
「ここ?」
淳はコリコリを指先でいじってみた。
「あっふーんっ……、そこが子宮口よ」
「ここが感じるの」
淳はさらにコリコリをいじりまくった。
「いやんっ、あは……あんっ、あなた……あんっ!」
里華の腰がいやらしくクネッた。動物的な動きだった。淳はあの上品な里華が獣のような動きを見せることに驚き、感動していた。
「あなた、もうだめっ、ちょっと待って……」
里華が両手で淳の手をつかんで制してきた。
「どうしたんだ、里華」
止める必要はないのだが、まだ自分に自信のもてない淳は里華の指示どおり手を止めてしまう。
「今度はあなたの番よ。そこに寝て」
「え?」
「いいから、そこに仰向けに寝そべって」
淳は里華に言われたとおり、ベッドに寝そべった。
それにしても淳はそんな会話をしているだけで、里華の恋人になったようないい気分になってきていた。里華が「さん」づけや敬語をやめろといった指示が正しかったことを実感した。
淳が仰向けになると、上から里華が覆いかぶさってきた。そしてじっくりとディープキスをしてくる。
淳は里華の背中からヒップに手を這わせながら、女体を上から受けるのも気持ちがいい……と淳は実感した。里華はディープキスをしながら身体をくねらせ、胸や腹を擦りつけてくる。それがまたたまらない快感だった。
口を吸い終わると里華は淳の額や瞼、頬にチュッ、チュッとキスの雨を降らせていく。そして淳の耳や首すじにも舌を這わせ、キスをくり返していく。そうしながら片手では淳のペニスを優しく愛撫し、もう片手では淳の髪をかきまわすように愛撫している。
女に奉仕を受けるのはこんなに気持ちがいいものかと淳はため息をついた。
里華は胸から腹へと舌と唇による愛撫を続けていく。しかし、その愛撫が下半身に向かうにつれ、淳は落ち着いてはいられなくなってきた。
ペニスを里華に至近距離で見られるのは恥ずかしかった。自分のペニスは里華のような美人に見せられるようなものではないと思った。
そうして身をくねらせて逃れようとしだした淳の尻を、里華はかるく平手で叩いた。
「だめよ、あなた。恥ずかしがっちゃ」
「でも……」
「里華だって、いちばん恥ずかしいところを全部あなたに見られたのよ。あなたのオチンチンもよく見せてっ」
たしかに、里華の女性器を淳はじっくりと鑑賞させてもらったのだ。拒否はできないと思った。
「ほら、もっとガバッと股を開いて、里華にぜんぶ任せて……」
そういって里華は淳の股を開いていく。
まるで赤ちゃんがオシメを取り替えられるようなポーズである。男として、そんな姿を誰かに見られたくはない。とくに大好きな里華には。
でも、里華はさっき同じポーズで淳にじっくりと見せてくれたのだ。
「恥ずかしい?」
どうしても抵抗してしまう淳に、里華が聞いてきた。
淳はコクリとうなづく。
「男としてのプライドがゆるさない?」
淳はまたコクリとうなづく。
「セックスのときにはプライドはぜんぶ捨てて、赤ちゃんみたいにならなきゃだめよ」
「赤ちゃん?」
「そう。赤ちゃんになって、ママにみんなまかせて。……ママが気持ちよくしてあげるから」
「ママ……?」
そんな会話をしているうちいだんだん気が楽になってきて、淳は里華の手にしたがって脚を大きくM字型に開くことができた。ペニスも、玉袋も、そして肛門もすべて里華にさらした恰好だ。
こんな恰好を里華にさらしていいものかと思う。
「そうよ……。よくできたわね、ママ、うれしいわ」
しかし里華はうれしそうにそういい、ペニスをじっくりと眺めてくる。頬が紅潮させ、目がトローンとして、すごくエロティックな貌になっていた。
と、思う間もなく、ぱくりとペニスを咥えてくる。
「あ……里華っ」
淳は呻いた。
フェラチオは知っている。が、里華のような清楚な美人はフェラチオなんてしないのではないかと思っていた。少なくとも、そう簡単には。
それが、真っ先にペニスを口に含まれ、舐められてしまった。
しかも、なんという気持ちよさだろう。まるで身体全体が里華の口腔の湿った粘膜に包まれているかのような感覚だった。
「男性のオチンチンって、人によって味が違うのね……」
ペニスから口を離すと、里華が言った。
「主人のはすごく不味くて、フェラチオって大嫌いだったの……」
「ぼくのは?」
「うん……。あなたのオチンチンがすごくキレイだから舐めてみたら、少し甘いような味がして、すごく美味しいの。それに、すごくいい香りがするの」
「フェラチオも好きになれそう?」
「うん。大好きになりそう」
そしてまたフェラチオを再開してくれた。さっきより激しい、情熱的なフェラチオだった。
「だ、だめだよ、里華っ」一分ともたずに淳が声を上げた。「出ちゃうよっ……」
と、里華はフェラチオをやめて激しく抱きついていた。
「あーんっ、あなた、最高! 可愛くて、美味しくて、食べちゃいたいっ!」
「里華もだよ」
「ねえ、里華の赤ちゃんになって! 里華、淳くんを産みたくなっちゃったの! 産みたくてたまらないの! ねえ、あなたを産ませて!」
支離滅裂なことをいってくる。淳はそんな里華を強く抱きしめた。
「産んでくれよ、ここから……」
そして淳は里華の股間に手を運び、指で女性器をかき回した。
「あんっ、大好きっ、大好きっ」
淳は里華の身体を抱いたままぐるりとまわり、里華の上になった。そして大きく股を開かせる。
「里華、もう入れたいんだ。いい?」
「うん。でも、ちょっと待って……」
「なに?」
見ると里華の瞳に冷静な光が戻っていた。
淳は何を言われるのかと心配になった。
「女の子に入れる前に必ず、避妊のことを考えなきゃダメよ」
「避妊?」
「そう。これから女の子とする時は、ちゃんとコンドームをつけるのよ。妊娠したら、女の子を傷つけることになるし、性病も防げるわ。コンドームのつけかた、後で教えてあげる……」
「わかった」
「でも、いまは淳くんの大事な初体験でしょ。初めてだから、ナマのままで入れてほしいの。射精するときは、わたしの中で出しちゃっていいわ」
「いいの?」
「ナマで女の子のなかで出してみたいでしょ? だから特別よ。でも、この次からはちゃんと避妊するのよ」
「わかったよ……、じゃあ、いまはこのまま入れていいんだね」
「おねがい……。わたしも、もうガマンできないの」
最後に里華に切ない表情でそう言われて、淳の欲情はふたたび燃え上がった。
そして亀頭を入口にあてようと探ると、里華が手をそえて「ここよ」と自分の入口にあててくれる。
「いれて……」
里華にそうささやかれてドキッとしながら、淳はぐっと押し込んだ。
「痛っ……」
里華の顔が苦痛に歪んだ。
「だいじょうぶ?」
やり方がまずかったのかと、淳が聞いた。
「だいじょうぶ。そのまま、いれて……」
どうやら、長いあいだ男性を受け入れてなかったため痛んでいるだけのようだ。
それならいい……と、淳は万感の思いを込めて、力まかせにペニスをズンッ、ズンッと突き入れていった。
間もなく、淳のペニスは里華の身体のなかに埋め込まれた。熱く濡れた粘膜が、ぎゅっと淳のペニスを掴んでくる。たまらない気持ち良さだった。
いくぞっ!
淳は心のなかでかけ声をかけると、無我夢中で腰を使った。
「だめっ、あなた、待って。落ち着いてっ!」
里華が止めたが、無我夢中の淳の耳には届かない。そして一分ともたずにドバッと里華のなかに射精してしまった。
淳は里華の上に崩れ落ち、肩で息をしていた。
「いっぱい、出たわね……」
淳の耳もとに里華が話しかけてきた。
「すごく、良かったよ、里華……」
淳がそう囁きかえすと、
「うそ。あんなやりかたじゃ、女の味なんてわかるわけないわ」
と、里華は優しく叱るような口調でいった。
「え?」
「もっとじっくりオチンチンを味わいたかったのに……、あんなに激しくしたんじゃ、すぐ終わっちゃうじゃない」
淳は返す言葉がなかった。それに妙に興奮した。里華もまた、自分のペニスを味わいたいと思っていたのだ。
「もっと落ち着いて、ゆっくり里華を味わってよ」
「ごめん……」
「女は、激しくすれば、気持ちいいわけじゃないのよ」
「今度は、そうするよ」
そんな会話をしながら淳は妙な感覚を得ていた。淳にしてみれば、射精を終えたことによってセックスは終わりである。しかし、終わったはずなのに、里華の腕はぎゅっと淳を抱き締めていて、そのうえ両脚を淳の両脚に絡めてきていて、セックスの最中以上の密着度になっていた。里華の手足を振りほどかなければ淳は身動きできない状態である。
放出を終えて萎えたペニスはまだ里華に咥えこまれている。淳は終わった以上、もう結合を解いたほうがいいのではないかと思っていた。しかしそれには里華との密着を解かなければならない。
「抜こうか?」
淳がそう問いかけてみると、
「いやんっ。抜かないで……」
里華が色っぽい声でいう。
「でも……」
ペニスはとっくに萎えてしまっているし、出し入れできる状態ではない。こんな状態で結合していても、気持ちいいものなんだろうか……。
「気持ちいいの?」
淳は聞いてみた。
「いいの……。ひとつになっているって感覚だけでも、すごく気持ちいいのよ」
「そうなの?」
淳は女体の感覚について誤解していたと思った。女性は固く勃起したペニスを差し入れ、摩擦することによって気持ちよがるものだと思っていた。でも、つながっているだけでも違うものらしい。
入れているだけでもいいのか……。
そう思うと淳の肩から緊張が解け、またエロティックな感覚が呼びさまされた。と、里華の秘口に咥えられたままでいた淳のペニスが、ゆっくりとまた力づき始めた。
「あっ……。あなた、どうして、あ……」
と、里華は驚きの声をあげた。
淳のペニスが勃起しはじめたのを内部に感じたからである。若い男を知らない里華にしてみれば驚嘆するほかない回復力である。
淳はそんな里華の口を吸った。ねっとりとしたディープ・キスによって淳の内の欲情が高まり、肉柱は完全勃起の状態となる。
「ああっ、すごい……」
今度は淳が感嘆の声をあげた。完全勃起した淳の肉柱に、里華の内部の襞がねっとりとからみつきはじめたからである。さっきは激しく腰を使っていたために気づかなかった里華の膣壁の構造からくる快感である。里華がいっていた女の味の意味が淳にもわかった。
「あんっ、きもちいい……」
と、里華の唇から声が洩れた。
「動かしてないよ」
淳は意外な気持ちで聞いた。さっき腰を使っているときでも、里華はそんな快楽の声を発しなかった。それが、動かしてもいないのに……。
「いいの……。大好きな男性が自分のなかに入ってるってだけで、女は気持ちよくなるのよ……」
「そうなのか……」
淳は感心していった。
「そう……、ああっ」
と、里華の内部がピクピクと動きだした。淳はあまりの快感にたまらずに呻いた。
淳はショックを受けていた。里華のような美人の腰の奥に、こんなに男を気持ちよくする器官が備わっていたなんて……。世界はなんてイヤらしくできてるんだろう……。
ほんとうに、激しくピストンすればいいってもんじゃないんだ……。淳はセックスの奥深さを里華の身体を抱きしめながら味わっていた。
「あんっ……、いいオチンチンだわあっ」
里華がしみじみとした声をあげた。
二年ぶりに味わう男根の存在感、それも生まれて初めて味わう恋する男の男根の存在感が里華を魅了しているようである。
あこがれの里華が自分のオチンチンを味わい、魅了されているなんて……。
淳は自分の肉体にたいする男としての自信が睾丸の奥からふつふつと湧いてくるのをかんじた。
淳は里華の柔らかな女体を抱き締めながら、少しづつ腰を使いはじめた。さっきのような激しい動きではなく、里華の反応をたしかめながら、ゆっくり小突いていく感じである。
すると淳の腰づかいに応じるように里華の腰も動きはじめた。二人の連動は最初のうちこそ息の合わない、ぎこちないものだったが、一分としないうちにピッタリと息が合ってきた。
淳はセックスというのは一人で突っ走ればいいものではなく、二人の共同作業なのだということが実感できた。
「あんっ、いいっ、そこお……」
存分に腰をつかっていると、ある一カ所を責めたときに里華が大きく反応した。
「え、ここ?」
淳はその部分をコツン、コツンと突いてみた。
里華がいよいよ狂いはじめた。
4、
二回めを終えたあとから、淳は少しづつ余裕がでてきた。
たまっていた精液を二回にわたってたっぷり放出できたこと、そして里華に満足を与えられたという自信が、淳に落ち着きを与えたのである。
いままで初体験の感動と緊張のなかで、どうすれば里華に嫌われないか、どうすれば里華によろこんでもらえるかということばかり考えていたのが、少しづつ自分が楽しむほうに気持ちが向いてきた。
全裸の里華と二人きりで抱き合っていることにも慣れてきて、淳は三度めの勃起を待ちながら、いままで里華と二人でいるときのようなペースで会話をしはじめた。すると、もともと会話が弾む二人のこと、すぐに笑いがこぼれた。
そして淳は会話しながら思うがままに里華の身体を触ってみた。すると里華のほうも淳の身体を触ってきて、互いにじゃれあっていった。
そうやってじゃれあうことによって、淳は里華がいっていた「好きにしていい」ということの意味がわかってきた。
里華の女体はどんなタッチにも反応してくれ、言葉や態度で返事をしてくれるのだ。淳は里華の女体を何度も裏返しながら、さまざまな場所にキスしたり、強く吸ってみたり、舐めてみたり、息を吹きかけてみたり、大きく口を開いてカパッと吸ってみたりした。その場所と愛撫のしかたの違いによって、女体は多彩な反応をしめしてくれる。
淳はいままで自分が考えすぎていたことに気がついてきた。いままでどうやって里華を感じさせるかばかり考え、どうしたらいいのかわからず、迷ってしまっていたのだ。
でも、里華のいうとおり、好きなようにすれば里華もよろこんでくれるということがわかってきた。
淳は女体のさまざまな場所に、さまざまなしかたで指も使っていった。掌全体で撫でてみたり、指先で羽根のようなタッチで撫でてみたり、かるくつまんでみたり、かるく引っかいてみたり、ときには叩いたり、つねったり……。
そして淳はだんだん、そういったことの全てがセックスにつながっているのだということがわかってきた。
ときには、里華の恥ずかしがる部分をじっくりと見つめることで、里華の女体が反応したりするのだ。
そして里華のほうも淳の胸を、背中を、腹を、膝を、足の裏を、尻を、肛門をも、ところかまわず接吻し、舐め、愛撫し、甘噛みしてくる。
ボディ・ランゲージとはよくいったもので、それは身体を使った会話のようだった。そして会話であれば、淳にとって里華ほど気のあう、話していて楽しい相手はいない。
淳は里華の身体に直接聞いてみることで、里華が好む「話題」を見つけ、好きな「言葉」を見つけて、里華の身体とボディ・ランゲージで対話する方法を、あっという間に身につけていったのだ。
そんな淳とのセックスは里華にとっても新鮮なものだった。
里華と亡夫とのセックスは儀式のようなものだった。
まずキスを交わし、一定の時間だけ前戯があり、挿入……。そして射精すると終わり……というものだった。新婚の頃は二回戦があった時もあったが、その儀式が繰り返されるだけだった。それに亡夫は昼夜をとわぬ激務でいつも疲れており、結婚時にはもう三十代半ばだったこともあって、それほど回数を求めてくることはなかった。
しかし、淳とのセックスはまったく違うものになった。
単なる挿入のための前戯というのではなしに、縦横無尽に裸身を絡めて互いの身体を求め合う……それ自体が愛のコミュニケーションである。
もともと亡夫とは結婚当初から会話もほとんどなかった。共通の話題もなかったし、気も合わなかった。一緒にいると話題がなくて困るほどだ。
けれども淳となら時がたつのも忘れておしゃべりしてしまう。それが二人とも全裸になって、パンツを脱いだ開放的な気分で肌を合わせ、抱き合いながら会話し、ボディ・トークし、その延長線で挿入へと至る……。
テクニックだけでいえば経験豊富なプレイボーイである亡夫のほうがずっと上なのだが、快感は淳とのセックスのほうがはるかに上だった。淳になら、ただ頭を撫でられるだけでも感じてしまうのだ。
セックスも序盤は里華にリードされっぱなしだった淳が、4回戦が終わったあたりで、イニシアチブは完全に逆転した。
里華は若い少年の底知れぬ体力にグロッキー状態になってきて、かんぜんに受け身にまわるようになった。対して淳はまったく衰えることなく、それどころかセックスのコツも掴めてきて、いよいよ落ち着きがでてきたのだ。
そうなるとじっくりと里華の裸身を鑑賞する余裕がでてきた。抱き締め、愛撫してボディランゲージをはかるところから離れて、いろいろなポーズをとらせて鑑賞する余裕もでてきたのだ。
里華の裸体は眺めるほどに「スゲえ……」と感心することばかりだった。
里華の女体は淳がいままで見たどのグラビア・アイドルの肢体よりも魅惑的だった。おおきな美乳も、巨大な尻も、美しいばかりでなく迫力があり、エロティックな光沢で輝いていた。あの清楚で上品な里華の服の下に、こんなナイス・バディが隠されていたとは信じられないほどだ。
しかも、そのナイス・バディが水着どころか、全裸で目の前にあるのだ。
そしてその全裸の女体を、淳は好きなように折り曲げて、好きな角度から好きなだけ鑑賞することができるのである。写真では写してはいけない部分も、好きなように覗くことができる。
はじめのうちは淳は里華を一個の人格として扱おうとしていた。しかし、身体と身体をからみあわせ、前から、後ろから、上下逆転したりと様々な恰好で様々な愛撫を加えていくうちに、里華の尻や脚や、胸や唇や、様々なパーツがそれぞれ独立した生き物のように感じられたきた。
淳は里華に高く尻を突き出させてみたり、脚を大きく開かせてみたち、ありとあらゆるポーズをとらせて、いろいろな角度から里華の女体のいろいろなパーツを鑑賞した。
そしてそうするほどに里華という一つの女体に無限の可能性を感じるのである。
5回戦めは淳は初めて里華をバックでつらぬいた。
美しいヒップを見ながらの抽挿を楽しんでいたが、もはや体力が残り少ない里華は尻を高く掲げておくことができず、すぐ崩れてしまう。
そこで淳はそのまま里華の背中を抱き寄せ、背面座位へ移った。
動きづらいが、背後から里華の女体を抱きしめているだけで気持ちよかった。
里華は淳に身を任せてくる。淳は里華の熱い頬に後ろから頬をあて、そのまま下を見ろしてみた。すると迫力の美乳が揺れているのが見おろせる。
その美乳を見た瞬間、淳はなぜだか急に臨界点に達してしまったようだった。
この魅惑的な女体を、ひとりじめにしたい気持ちが胸の奥から噴き出して、我慢ができなくなってしまったのだ。
「里華さん……、ぼくと、……結婚してください」
淳は我慢できない心のままに、里華の耳もとで懇願した。
「だめよ……」
里華は微笑んで答えた。
「おねがいです」
「わたし、あなたより十歳以上も年上なのよ。うまくいくわけないわ」
はじめてのセックスでいきなりプロポーズしてくるなんて……。初めて女体を知って歯止めがきかなくなってしまった少年の心の言葉だと里華は思った。一時の衝動だろう。大人の分別でかわさなければ……と。
「年の差なんて、どうでもいいじゃないか」
淳は勢い込んで迫ってくる。
「あなたはこれからもっとステキな女の子に出会うわ、だから……」
そして里華は、まだ不服そうな表情の淳の唇を、振り向きざまに唇を重ねて塞いだ。
濃厚なキスがはじまり、淳の両手が里華の乳房を揉みしだきはじめた。
それで淳のプロポーズの言葉は止んだ。
しかし、大人の分別をで淳のプロポーズをかわしたつもりの里華にも計算ちがいのところがあった。里華はつい最近まで恋愛未経験だった恋愛処女であり、里華の胸には十代の少女よりも純真な心がある。そしていま、里華はついに初恋の男と結ばれ、恋愛処女を散らされたところである。
いくら頭で大人の理性を働かせ、分別のある答えをしたつもりでも、処女を失ったばかりの里華の純真な恋心は、初めて結ばれた恋する男のプロポーズに、赤い炎を灯されてしまっていた。
そしてキスを続けるほどに、その炎はゆっくりと里華の胸を焦がしながら、全身に燃え広がっていった。
わたしと淳くんが結婚? そんなことできるわけない……。と里華は思う。年の差がありすぎる……。
でも、もし淳と結婚したらどんなに幸せだろうという思いも胸をよぎってくる。里華は亡夫のような男でなく、淳のような男性と結婚したかったと心底思った。一緒にいるといつまでも楽しい会話が弾む……。
そして、心から愛する男と結ばれる歓びを、今日知ってしまった。
そんな気持ちを、里華は必死に理性で鎮めようとする。しかし、そうするそばから裸身を背後から愛する男に抱きしめられ、両手で燃える胸を揉みしだかれてしまったのでは、女体はたまったものではない。
頭のなかが真っ白になり、身体じゅうに甘美なメロディーが響きわたり、里華の唇からは甘い呻きが休みなく洩れはじめた。
胸に炎を灯されたことによって、長時間にわたるセックスに疲れ切っていた里華の腰に生気がもどり、リズミカルな律動をみせはじめた。巧みな腰づかいである。
「あなたっ、あなたっ……」
里華がうわごとのようにつぶやきはじめた。
淳はその里華の腰使いにリズムを合わせて腰を使い、里華の核心をエグってくる。
里華の頭のなかは霧がかかったようにぼうっとなっていた。そして、とつぜんその霧の向こうから、里華の耳にウェディング・ベルの幻聴が聞こえはじめた。
どうして……。
そう思いながら目を閉じると、まぶたの裏に淳との結婚式の情景が浮かんだ。
里華の全身が透明に澄み切った快感につつまれてくる。
里華はもうどうにも止まらない気持ちで、さらに激しく腰を使っていった。自動的に腰が動きまくってしまうのだ。
激しさを増した巧みな腰づかいは、たまらない快感となって淳の肉棒を襲った。淳の興奮のカーブが5度目の射精に向かって勢いづいていく。
淳はこのままフィニッシュに向かおうと、一度結合をとき、里華を仰向けに寝かせた。最後は正常位でキメようとおもったのだ。
そして仰臥した里華の上に覆いかぶさって、再挿入前に一度キスをしようとした淳は、里華の驚くほど真剣な瞳にぶつかった。
淳はドキッとした。それはさっきまで里華が見せていた呆けたようなエロティックな表情とも、ふだんの里華の上品で清楚な笑顔とも違う、いままで里華が淳に見せたことのない表情だった。必死で訴えかけるような、せつないくらい真剣で、それでいてとろけそうなほどエロティックな表情だ……。
「ほんとうに里華でいいの?」
里華が聞いてきた。さっきのプロポーズをもう一度確認したのである、
けれど、淳は何を聞かれているのかわからなかった。まさか、さっき勢いで口にして、一言で断られたプロポーズの言葉がずっと里華の胸で燃えつづけていたなんて思ってもいない。
しかし、何のことだかわからないまま、里華の目を見つめかえして、力強くこたえた。
「もちろん……」
里華はゆっくりと目を閉じ、淳を抱きしめてきた。
「うれしい……。しあわせ」
わからないまま答えていた淳は、とりあえず間違った答えではなかったと理解して安堵した。
しかし間違いでなかったどころではなく、その答えは里華の成熟した女体に絶妙に効いていた。生まれてからずっと蕾のまま閉じていた里華の純な真心はいまの言葉で完全に開花してしまった。あとは貫き、散らされるのを待つばかりである。
淳は5回戦めのフィニッシュをキメようと、肉棒を里華に挿入した。そして、淳自身はまったく気づかないことだったが、そのとき淳のペニスは里華の真心を正確につらぬいていた。
里華の女体は挿入されてくる肉棒を、かんぜんに未来の夫の分身として受け入れていた。まるで愛する淳の全身が自分の胎内に潜り込んできたかのように。
そして、射精へ向かってスパートをかける淳のピストン運動を受けながら、里華は生まれてはじめてセックスによる絶頂を経験した。それはいままでオナニーで経験した絶頂など比較にならないほどの、至高の絶頂だった。
そして里華は生まれて初めて、男の腕のなかで失神した。
5、
「もう、だめえーっ……」
ようやく家に着き、ドアを閉じるなり里華は玄関にしゃがみ込んだ。
「ほら……」
淳はそんな里華を抱きかかえるようにして座らせ、片足づつ靴を脱がせていく。
淳と里華が里華の家に帰り着いたのは、もう昼ちかくなった頃だった。由衣は朝から友達と出かけ、いま家には誰もいないことは里華の携帯に入ってきたメールでわかっている。
二人とも昨日から一睡もしていなかった。今日の朝までずっとベッドのなかでハダカで愛しあっていたのである。今朝の8時過ぎまで、ちょうど12時間セックスを続けていた計算になる。
里華は、あの生まれて初めてのセックスによる絶頂のあと、さらに3回も昇天した。
淳は結局8発行った。先に音を上げたのは里華のほうで、擦りすぎで女性器が痛くなったというので、それ以上はやめることにしたのだ。淳はまだまだデキる体力が残っていた。里華の裸身を見ていると、何度でも勃起するのである。
ようやくセックスを終えた時には里華は体力を最後の一滴まで絞り出されて、指一本動かすことすらできない状態だった。ひと休みして息を整えても、もう腰が立たない状態だった。自分の身体がいうことをきかないようである。
淳が先にバスルームに行って湯船に湯をため、里華を抱いてバスルームまで行き、一緒に湯につかった。身体も淳が洗ってやり、服も淳が手伝って着せてあげたのである。
そして里華の体力が回復するのを待ってホテルを出て、あちこちで休息しながら、淳が里華の身体をかかえるようにして、ゆっくりと帰ってきたのである。
そしてようやく家まで辿りついたのだが、もう限界だったらしい。
「部屋まで、行ける?」
淳が聞くと、里華は首を横に振る。そんな甘えたような表情もいい。
「よしっ……」
淳は気合いを入れると、里華を「お姫さまだっこ」で持ち上げた。里華は女性としては大柄なほうなので大変ではあるのだが、ここは気合いだ。
「あんっ、あなた……」
里華はうれしそうに淳の首に手をまわしてくる。
そして淳はゆっくりと里華を部屋まで運び、ベッドの上に寝かせた。
そしてホテルから出る前に淳が着せた服を、こんどは脱がせていく。
服を脱がせ終わると、こんどはブラに手をかける。
「ちょっと、あなた……」
里華は困ったような声をあげた。しかし淳は手早くブラを取り去り、つづいてパンティも脱がせて全裸にしてしまった。里華は意外なくらいされるがままになっている。
そして淳は自分も手早く全裸になると里華の上に重なっていった。
「あなた……。また?」
「最後に一回だけ、しよう?」
「だめよ。わたし、もう、できない……」
里華が淳の頚に優しく手をまわしながらいう。
「だめなの?」
「おねがい……。今日は、休ませて」
淳は少し考えていたが、
「わかった……。じゃあ、ぼくの腕のなかで眠ってごらん……」
淳はそういって、里華を抱いたまま自分の上から薄い掛け布団をかけた。
「そんな……。あなたに寝顔を見られるなんて、恥ずかしいわ」
「もう遅いよ。里華の失神した顔だって、じっくり見せてもらったんだから」
「もうっ……」
「じゃあ、おやすみ、お姫さま……」
そういって淳は里華の額にチュッとキスをした。
「眠らないもん」
里華はだだをこねる子どもの口調でいう。
そして、里華はしばらく淳の顔を見つめていたが、やがてこらえきれなくなったように眠りに落ちていった。
淳はその寝顔をしばらく眺めていてから、ゆっくりと身を起こし、布団をめくって横たわった里華の裸体を眺めた。
ヴィーナスのような美しい裸体は、その白い肌のあちこちに淳の手形やキスの痕が赤く残っている。その様子が昨夜の激しい交尾を思い出させてエロティックだった。
淳は裸体を裏返しにして背中やヒップも眺めた。疲れ切った里華はまったく反応せず、深く眠り込んでいる。
それを確認してから淳はカバンからデシタルカメラを取り出した。
なんとか里華のヌード写真が撮れないものかと昨日持って出たのだが、そのチャンスがなかったのである。
いまこそ絶妙のシャッターチャンスだ……。
淳はレンズを里華に向けると次々にシャッターを切り、里華の裸体を撮りはじめた。
全身から寝顔、そして乳房や陰毛をアップであらゆる角度から撮影していく。さらに裏返しにしてヒップや背中を撮ったり、股を大きく開かせて女性器をアップで何枚も撮影した。
深く眠り込んだ里華は、淳にどんな体勢をとらされても目覚めることはなかった。
そうして淳は心ゆくまで里華のヌードを撮影してから、淳はふと脱がせた里華のブラとパンティに気づいた。
初体験の記念にもらっていこうか……。
淳はデジカメとブラ、パンティをカバンにしまうと、手早く服を着て里華の家を後にした。
(第二章 おわり)
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