ひみつの受精

結木青猫


■第一章


1、

 きゅうに降り出した6月の雨に、あたりはもう夕方のように薄暗くなっていた。風に煽られて横なぐりに降る雨は、傘をさしていてもおかまいましに小野淳の高校の制服を濡らしていた。
 しかし淳はこれからの楽しい一時の期待に胸をウキウキさせながら、かるい足どりで雨の舗道を歩いていた。授業が終わるといちもくさんに学校を飛び出してきたのだ。
 今日は毎週一日、水原里華に頼まれて、その娘の小学生の由衣に勉強を教えてあげるバイトの日だった。あの女優のように美しい里華と、妖精のように可愛い由衣に会える日なのである。
 里華と由衣の親子は二年前に淳の家の隣りに引っ越してきた。里華はある大企業の社長の息子である夫と結婚生活を送っていたのが、交通事故で夫があっけなく亡くなり、それを機会に母娘で引っ越してきたそうである。引っ越してきた早々、由衣が新しいクラスメイトたちに近所の公園でイジメられているのを見かけた淳が助けたことから急速に親しくなっていった。そして今年から毎週一度の家庭教師のバイトを頼まれたのである。
 由衣はスポーツは得意だが学業の成績はイマイチである。でも、そこで淳が家庭教師をたのまれたのだ。どうも塾へ行わせようとした里華に、由衣が「お兄ちゃんじゃなきゃ、やだ」とだだをこねたらしい。もちろん淳としては大喜びで引き受けた。あの里華や由衣と週に一度会えるというだけでも、むしろ淳のほうからお金を払ってもいい気持ちなのだ。

 そうして淳が軽い足どりで駅への道を急いでいると、駅前の店先にスラリとした美人が立っているのを見つけた。
 ストレートのロングヘアに透きとおるような白い肌、美術品のような美貌は上品な清楚さをにじませている。清純な白百合をおもわせる美人だった。淳は一目でわかった。里華だ。
「あれ、里華さん。どうしたんですか?」
 淳は声をかけてみた。気がつくと里華の白いブラウスと膝下までのスカートは雨に濡れ、里華の足元には段ボール箱が置かれていた。何か電化製品の買い物をして、雨に降られたらしい。
「……傘、もってくるの忘れちゃって」
 里華が甘く澄んだ声でこたえる。ずっと聞いていたくなる響きの声だった。
 里華は29歳だと聞いたことがあるが、どう見ても20歳そこそこにしか見えなかった。由衣のように大きい娘がいるとは、驚きとしか思えなかった。
「一緒に帰りませんか?」
「でも、淳くんも濡れちゃうわよ」
「かまいませんよ」
 それより淳は里華と相合い傘で歩けることがうれしかった。そして、里華の返事も待たずに「持ちます」と里華の足もとの段ボール箱を持ち上げた。
「あ、わるいわ……」
「かまわないですよ」
 そして淳は自分が持ち上げたものに気づいた。
「あ、これ……」
「そう」
 里華は嬉しそうな微笑みをみせた。
「この前、淳くんがいってたノート・パソコン。買っちゃったの」
「えーっ、スゴいじゃないですか。使わせてくれますか?」
「帰ったら、初期設定、やってくれない?」
「もちろんですよ」
 淳はまた里華の家に長くいられる理由ができてうれしかった。
 そして淳と里華は相合い傘で駅へ向かって歩きだした。里華は女性としては長身のほうで、相合い傘になると顔と顔が近い位置にくる。淳はチラリと横をみると里華の美術品のような横顔が見られるのがうれしくて、チラチラと横を見ながら歩いた。
 里華は独特の空気をもっていると淳は思う。里華と一緒にいるとフカフカのソファに座っているような気分になって、美女の前のいるというのに不思議とリラックスすることができ、いつも話が弾むのだ。
 学校での淳は内気な性格で、とくに女子と話をするのは苦手だった。クラスでは学園一の美少女と噂される井上美沙のとなりの席であり、みんなにうらやましがられているのだが、その美沙とは一度も話をしたことがなかった。可愛い女の子の前へ出ると、上がってしまって何を話したらいいのかわからなくなるからである。
 だいたい淳はいわゆるオタク系の趣味で、アニメやマンガ、ゲームなどが好きである。女子の前であまりそんな話をするとバカにされそうで、かといって他に話題もなく、黙ってしまうことが多い。学校での淳は無口で目立たない生徒と思われていることだろう。
 けれども里華とは初めて話したときから、みょうに話しやすかった。里華ほどの美人となぜこんなにリラックスして話ができるのか自分でも謎なのだが、こういうのを肌が合うというのかもしれない。
 それに話していくとみょうに話も合った。里華はもともと映画や読書、音楽鑑賞などが趣味で、少女マンガなども好んで読んでいた。淳が自分の好きなマンガやアニメの話をすると興味深そうに聞いてくれ、そのマンガやアニメのDVDなどを貸すと目を輝かせて感想を聞かせてくれる。この前は淳の勧めでゲーム機も買った……。
 淳は里華のような美人と、バカにされずに趣味の話ができるのが嬉しくて、楽しくてしかたがなかった。
 そんなわけで、いまの淳にとって里華の家を訪れる時間が一番楽しい時間となっていた。

 そうして淳と里華が駅に着くとホームはいつになく人でごったがえしていた。すぐに人身事故で電車が遅れたというアナウンスがあり、淳はホームの混雑の理由を知った。
 淳と里華はあきらめ顔を見合わせた。
 そして混雑のなかで待っていると、それでもタイミングが良かったのか、間もなく電車はやってきた。けれども乗り込むと尋常でない混み方である。淳と里華は人の波に半ば流されるように電車の中ほどの何も捕まる場所がないところに、向かい合わせで立った。
 ノート・パソコンは軽いものではあったが、それでもガサばる段ボールを持ちながら超満員電車に乗っているのはキツかった。
「ごめんなさい」
 でも里華にそんなことを言われると、
「ぜんぜん」
 と淳は笑顔で答えた。
「少しのあいだ、わたしが持ちましょうか?」
 そういって里華が淳が持つ段ボールに手を伸ばしたとき、列車がカーブに差しかかったらしく、大きく揺れて人がなだれ込んできた。背中を押された淳の身体が、里華の身体にピッタリと押しつけられた。
 やわらかなマシュマロのような女性の身体の感触のなか、大きな二つの膨らみが淳の胸に押しつけられた。天国のような心地良さだった。
 淳が生まれて初めてナマナマしく感じる女性の乳房の感触である。しかもしれが、憧れの里華の乳房なのだ。
 一瞬にして淳の股間のものは固い肉棒と化した。それも、背中から腰を後ろから押されているせいで、その肉棒を里華の柔らかな腹部に押しつけてしまっているのだ。
「あっ……」
 淳は慌てて里華から離れようとした。股間の一物の固さを里華に知られていることを思うと、死にたくなるほどの恥ずかしさだった。
 しかし、超満員電車の人の圧力はものすごく、身動きひとつできない。
「いいのよ……」
 と、里華は淳に、周囲に聞こえないよう小さな声でささやいてきた。
「健康な男性の証拠よ。恥ずかしがらなくてもいいわ。気にしないで……」
 淳はその言葉に聖母に会ったような心地がした。
 里華は、外見からすれば「清純」という言葉さえ使いたくなるほどの、透明で汚れない美しさがある。とはいえ、結婚と出産を経験した女性であり、とうぜん男性の生理も理解しているということに、淳はいまさらながらに気づいた。

 里華の家まで着くと、まだ由衣は帰っていなかった。
 里華の家はちょっとした白亜の豪邸であり、淳の家の近所には似合わない雰囲気がある。家そのものは大きくはないのだが、デザインに高級感があり、狭いが整った庭があって、淳のイメージする上流階級の家の小型版といった感じである。二年前まではある会社社長の息子夫婦が住んでいたのだが、子供が成長して手狭になったといって引っ越し、その後に里華たちが引っ越してきたのである。
 夫が亡くなってからも里華は週に3、4日友人の画廊を手伝っているくらいで、本格的に仕事はしていないらしい。夫の遺産と親の資産で当面の生活は困らないので、由衣が成長するまではなるべく家にいるようにしているのだという。家も親が即金で買ってくれたのだという。淳は両親が共働きでようやくローンを払っている自分の家と比較するにつけ、貧富の差というものを感じないわけにはいかなかった。
 淳はそのまま家に上がらせてもらって、ノート・パソコンをリヴィングまで運んだ。
 里華の家はいつもいい匂いがして、淳はここにくるといつも深呼吸したい気分になった。家具や部屋の内装にもシンプルだが上品な高級感が漂っていて、淳の家とはおおいに違う。
「開けてみていいですか?」
 淳は段ボールを置くといった。
「うん。開けましょ」
 里華も段ボールの前にすわった。しかしいまは、パソコンに興味があるふりは淳にとっては照れ隠しでしかなかった。
 電車のなかで淳の股間は勃起しっぱなしだった。ホームにおりても、前かがみにならざるをえない状態だった。それがおさまるのを里華はさりげなく淳の股間が目立たないようにガードしながら待っていてくれていたのだ。
 いまは淳の股間はおさまっている。しかし、淳の頭にはあのときの里華の身体の、そして乳房の感触がはっきりと残っていて、少しでもそれを思い出せばまた勃起してしまいそうだった。
 そのとき里華の携帯が鳴った。電話に出る里華をよそに、淳はノートパソコンの梱包をとく作業に集中した。
「ごめんなさい。今日、由衣、帰るの遅くなるみたい」
 電話をきると里華はいった。由衣からの電話だったらしい。
「どのくらいですか?」
「二時間くらい……。淳くん、一度家に帰ってまた来てくれればいいわよ」
「それならいまセットアップまでやっちゃっていいですか」
「やってくれるの。ありがとう……」
 もちろん淳にはいますぐ家に帰って、部屋で里華をオカズにオナニーしたい衝動があった。だいたいこのところずっと淳は里華をオナペットにしてオナニーしている。クラスで隣りの井上美沙も美少女ではあるが、エロティックなことを想像するときには、里華の成熟した女体が何よりものオカズになるのだ。
 それが身体や乳房の感触を直接感じるという絶好のご馳走が手に入ったのだから、オナニーが楽しみなのは言うまでもない。
 しかしそれと同時に、里華と一緒にいられるなら、一秒でも長くいたいという気持ちもある。淳はいまは里華と一緒にいることを選択した。
「コンセント、どこですか」
「ああ、それ、わたしの部屋に置くつもりだから、わたしの部屋で……」
 そして淳は里華に促されるままに、ノートパソコンを持って里華の部屋へ向かった。
 里華の部屋は一階の奥にある。ドアを入るといままでより濃厚な甘くていい匂いが満ちていた。
 里華の匂いだ……。
 淳は深呼吸をしながら、うっとりした気分で部屋を見回した。ベージュを基調とした落ち着いた高級感のある家具が並んだ部屋である。
 毎晩、里華が眠るベッドや、里華が腰かける椅子……。そこは淳にとっては宝庫だった。
 淳が机にノートパソコンを置き、立ち上げていると、里華は「ちょっと濡れた服、着替えてくるね」と声をかけて部屋を出ていった。
 ……里華の部屋で一人きりになる。その事実にドキリとした。
 ドアがバタンと閉じ、廊下を去っていく里華の足音が小さくなっていくと、淳はすぐに椅子の前に膝をつき、里華がヒップを乗せるクッションの上に頬づりした。
 ここに里華さんがお尻を乗せてるんだ……。
 下品な行為だということはわかっている。でも、淳はそうしたい衝動をおさえられなかった。
 そうして、しばらく里華のヒップを思いながら頬を擦りつけ、匂いを嗅いでから、ふとベッドのほうに目を向ける。
 いくらなんでも……。でも、こんなチャンスは二度とないかも……。
 淳は立ち上がると、ゆっくりとベッドに近づいていった。


2、

 里華はバスルームに入ると、雨に濡れて湿った衣服を脱ぎ捨てた。
 下着だけの姿になると、背中に手をのばしてブラのホックを外した。プルンッとかたちの良い乳房が溢れ出た。
 里華は、ほーーっと深く息を吐いた。
 興奮に乳房が張りつめてしまい、ブラが窮屈でたまらなかったのだ。
 そしてメロンのような乳房を見おろすと、さっきまでブラのなかで尖ってしまって痛いほどだった乳首が、白い丘の中央で安心して桜色にそそり立っていた。
 こんなに立ってしまっている……。
 ゆっくり目を閉じると里華の脳裏にあのときの感覚がよみがえってきた。
 この乳房を、淳くんの胸に押しつけてしまった……。
 あの電車のなかでのことをもういちど思い出してみると、めまいのような興奮をかんじた。
 里華はすぐに目を開けて首を振り、また自分の女体を見おろした。そして唯一身につけているパンティを両手でつまむと、少し下ろしてみる。と、下着のなかで逆立っていたアンダーヘアが外気のなかにフワリと広がった。
 里華のヘアは恥丘を縦長の楕円形に覆っている。毛質は細いが長く、縮れは大きく、量は多いほうである。性的に興奮すると逆立ってこんもりと広がり、アフロヘアのようになる。
 いままさに森のように大きく広がったヘアを見て、里華は女体が自分で思っていたよりも興奮状態にあることを知った。
 そのままパンティを下ろすと、底布の部分からツーッと粘液が糸を引いた。
 こんなに……。
 里華は自分のからだの興奮状態におどろき、指を股間に差し入れ、奥の唇に指をあててみた。陰唇を指で開くと、たまっていた果汁がトロッと内股をつたって流れ落ちてくる。
 えっ? こんなに濡れてしまっているなんて……。
 里華は自分の女体に驚いていた。
 夫が亡くなってから里華はもう二年もセックスはごぶさたである。そんな女体が若い男性の身体に強く押しつけられて、まるで強く抱擁されているような気分になり、完全勃起した男性自身を腹部に押しつけられたのだから、官能が反応してしまうのは無理もないとは思う。でも、これほどまでに濡らしてしまうとは……。
 けれど里華は自分の官能がそんなにも強く反応した理由も理解していた。もしあのとき押しあてられたのが淳の男性器でなかったら、こんなふうにはなっていなかったろう……。
 十歳以上も年下の高校生にこんなふうに思うのも変なのかもしれないが、淳は里華にとって生まれて初めてできた異性の親しい友人だった。淳に出会うまで里華は男性とそんなふうに楽しく会話をしたことがなかった。
 里華は高校までずっと女子校に通っていたこともあり、少女時代は男性恐怖症で、父以外の男性とはほとんど会話できなかった。当然ボーイフレンドもなく、恋愛の経験も一度もなかった。そして高校在学中に父の取引先の社長の息子であった亡夫と見合いさせられ、卒業と同時に結婚したのだ。
 完全な政略結婚ではあったが、亡夫は見合いの席で里華を一目見て気に入ったようだった。しかし里華はその席で亡夫に嫌な印象しかおぼえなかった。
 亡夫は当時すでに三十代半ばであったが美男子で若々しく、仕事もできて女にもモテるタイプだった。両親や周囲の人間は理想的な結婚相手だといったが、里華はなぜか肌に合わないような嫌な感じをおぼえていた。里華はなんとか結婚を断りたかったのだが、父は乗り気である。そしてその頃の里華はそれまでずっと厳格な父の指示に従って生きてきて、父の命令に背くなんて考えられもしない少女だった。
 そんな気持ちのまま三度めに会ったとき、里華は亡夫に酒を飲まされて酔わされてフラフラになり、半ば強姦のようなかたちで処女を奪われた。そして肉体関係をもつことによって里華はだんだん亡夫に好意をもつようになっていった。里華は自分がセックスした相手を好きになってしまうタイプの女だと知った。
 そして結婚したのだが、夫婦のあいだで会話が弾むことはなかった。亡夫は仕事第一で家庭を省みなかったし、趣味といえばスポーツ鑑賞やゴルフ、ギャンブルのみだった。読書や音楽・美術・映画鑑賞が趣味の里華とは共通の話題などなかった。支配欲が強い亡夫はセックスにおいても自己中心的で、会話などのコミュニケーションはなく押しまくるタイプだった。加えて結婚後に亡夫がかなりのプレイボーイだともわかり、浮気もくり返された。
 それでも里華がどうにか結婚生活を続けていたのは、結婚後すぐに由衣が生まれたためだった。
 亡夫は支配欲が強いタイプであり、里華が他の男性と親しくなることを許さなかった。そのため、里華は結婚中も亡夫以外の男性と親しくなることもなかった。そのため里華は男性とはみんなそんなものかと思っていた。
 しかし、淳と出会うことより、こんなに楽しく会話ができ、一緒にいると心休まる男性もいるのだと知ったのだ。淳と一緒にいるといつも、時がたつのも忘れて夢中でおしゃべりをしてしまうのだ。淳が紹介してくれる少年マンガやアニメの世界も、自分がいままで知らなかったもので、楽しかった。
 そんな淳を里華はいつしか男性としても好ましく思うようになっていった。セックスから生じた亡夫への感情とは違う、見つめあうだけでドキドキする感情……三十歳近くになって認めるのは恥ずかしいのだが、里華はそれを自分の初恋だとかんじないわけにはいかなかった。
 里華はパンティも脱ぎ去って一糸まとわぬ姿になると、脱衣所にある大きな鏡にじぶんの裸身を映して見た。
 女ざかりの二十九歳の女体がそこにあった。
 里華はじぶんの女体を見ると、十代の頃よりも二十代の前半の頃より、いまがいちばん美しいとおもう。
 二十歳から通っているスイミングクラブではじめた水泳のため、ウエストまわりはキュッと締まり、太股には適度の太さがあり膝から下はすうっと細い。締まった腹筋や健康的なボディ・ラインは、読書好きの少女だった十代の頃はもっていなかったものだ。脚線も細いだけだった十代の頃より、いまのほうが美しいと思う。
 背中を鏡に映すと、水泳で鍛えられたヒップはキュッと締まって持ち上がり、十代の頃より美しいヒップラインを見せている。自慢のヒップラインである。
 いまの年齢まで、すべてにおいて節度をもち、節制した食生活を保ってきたため、身体の線のくずれは微塵もなかった。ウエストにも、腹部にも、ヒップにも、贅肉とおもえる肉はない。
 雪のように白い肌は、もともと弱い性質のため、いままで一度も陽に焼かずにきた。そのため、いまでもみずみずしい若さを保っている。編み目のように青い静脈が透けて見える淡雪のような肌と、股間に黒々と燃え上がるような陰毛が美しいコントラストを見せていた。
 肢体のどこを見ても、十代の頃よりも完璧で美しいラインを保っている。それでいて胸や腰からは十代にはなかった成熟した女の色気が匂いたっている。
 こんな女体を見たら淳くんはどうおもうのかな……。
 ふとそんな思いが里華の頭をよぎった。
 こんな裸身は、淳にとって魅力的なものなのだろうか。それとも、淳くんにとって自分はもうオバサンで、女としての興味のない存在なんだろうか……。
 あのとき、乳房が押しつけられて淳はどう感じたのだろうか。ペニスが勃起していたのだから、男性として反応してくれたことはわかっている。でも、それは自分に好意をもっているからなのだろうか、それとも十代の男性は女体を感じたら自動的に勃起してしまうものなのだろうか……。
 里華はじぶんの豊満な乳房を両手でにぎりしめてみた。
 十代の頃はずっとコンプレックスだった巨乳である。体育のとき、走るとゆさゆさ揺れるので男子にひやかされた。
 しかし、いまでもまったくタレることなく美しいかたちを保っている乳房は、いまでは里華の自慢でもあった。
 しかし、いまは誰にも見せることのできない自慢である。
「淳くん……」
 里華はそう口に出して囁いてみた。と、甘く痺れるようなさざ波が胸に生じ、そして全身に広がっていく。
 だめよ……。しかし里華はすぐに自分にそう言い聞かせ、首を振った。淳くんが待ってるんだもん。はやく着替えて、行かなきゃ……。
 そして里華は冷水のシャワーを浴びて気を引き締め、潤んでしまった性器も念入りに洗った。
 濡れた肢体を拭うと、里華は引き出しの奥から大事にしまっておいた白いレースのTバック・ショーツを取り出した。それは里華がもっている唯一のTバックであり、里華の下着のなかで最も大胆なものである。
 里華はおそるおそるといった手つきでそれを身につけてみた。鏡を見ると高級感のある刺繍の向こうから、アンダーヘアがまるまる透けて見える。布の面積自体も、ぎりぎりヘアを覆っている程度の少なさだった。
 結婚してすぐのころ亡夫にプレゼントされたものだが、あまりにセクシーすぎるデザインに、鏡の前ではいて自分で見てみただけで、しまっておいた。それを身につけている姿は亡夫にも、他の誰にも見せたことはない。
 でもいまは淳のために、見えない部分に大胆なオシャレをしたい気分だった。どうせ見られるわけじゃないという気持ちも当然ある。
 そして、その上からまた引き出しの奥から取り出した白いショート・パンツをはいた。
 それは結婚直後に里華が買ったものだった。いつもスカートしかはかない里華としては思い切った気分転換のつもりだった。試着してみるのも恥ずかしくて、身につけないまま買ってきたのだ。
 しかし家に帰ってはいてみると、サイズがかなり小さめで、布もかなり薄いため、小さなレオタードのように腰にピッタリと密着してヒップラインがそのまま見え、下着のラインもくっきりと見えてしまうことがわかった。そのため、部屋着として身につける程度で、人に会う場面では身につけたことはなかった。
 でも、今日は淳に自慢のヒップラインを見せつけたい気分だった。Tバックであれば、ヒップに下着の線も見えない。
 そして上半身にはやはり結婚直後に買った白いキャミソールを身につけた。背中が大きく開き、胸もとからもバストの谷間がのぞく露出度である。
 そうして全身を鏡に映してみると、露出度は多いものの、白の上下のためか清楚で上品な雰囲気があった。
 これでいい……。この姿を淳くんに見てもらおう……。
 里華はもう一度身を引き締めてバスルームを出た。


3、

「おまたせ」
 里華は自分の部屋に入ると、机の前に座ってパソコンを操っている淳に声をかけた。
「シャワー浴びてきたら、さっぱりしたわ。淳くんも浴びてきたら……」
 遅くなった理由を言い訳するようにそういうと、里華のほうを振り向いた淳は、すぐに目をまん丸くして里華の顔を見、すぐに頬を染めながら里華の胸もとや腰まわりにチラチラと視線を走らせた。
 露出度の多い服に、目のやり場に困っているようだ。
 里華はいやな気はしなかった。むしろ淳が自分に女の魅力を感じていることがわかって満足感をかんじた。
 そして里華は淳に代わって机の前に座り、淳に教えられながらパソコンを操りはじめた。淳はドギマギした口調で、ふだんより多弁になっていた。あきらかにいまの里華の姿を見て上がっているようだ。里華はそんな淳を「カワイイ」と感じた。
 一方、淳は自制心を奮い起こすのに困りきっていた。パソコンを操る里華の肩口からディスプレイを覗き込んで説明しているのだが、そのまま下を覗けば大きく開いたキャミソールの胸もとから、里華の乳房の7割ぐらいがまる見えなのだ。その向こうにはむっちりした里華の太腿がみえる。
 淳はその天国のような光景が見たくてたまらなかった。しかし、あと一秒でも見てしまえば、淳の股間がテントを張ってしまうのは目に見えていた。
 それにしても、ショートパンツにキャミソール姿の里華は淳には衝撃的だった。里華はふだんそんなに身体のラインが見える服を着ることはない。それが、部屋着という気安さからそんな服装で来たのだろうが、胸もとの柔らかそうな肌も、艶っぽいばかりのヒップラインも、美しい脚線も、すべてがあまりに魅力的すぎた。
 淳は里華がすわる椅子の背を掴んで必死に自分を抑えながら、ひたすらディスプレイだけに意識を集中して里華にパソコンの操作を教え続けた。
 あまりにディスプレイに集中しすぎていたため、淳は里華の肩口から覗く自分の顔が里華の顔に近づき過ぎていっていることに気づかなかった。淳の鼻孔から洩れる熱い息を、知らず知らずのうちに里華の耳に吹きかけてしまっていた。
 それは里華にはたまったものではない刺激だった。あの電車での接触から、いまの里華の肌は過敏なまでに感じやすい状態になってしまっている。そのうえ耳はもともと里華の性感帯である。その耳に息をかけられて、里華は一瞬で全身の鳥肌が立ってしまい、乳首がまたピンと立ってしまった。
 里華は思わず腰をモジつかせてしまう。
「じゅ、淳くん。一息いれない?」
 あわてて里華は話題を変えて立ち上がった。このまま耳に息をかけられていては、アブない状態になりそうだった。
「のど、かわかない? ジュースでも飲もう」
 そして里華はキッチンのほうへ淳をうながした。
 そんな里華の思惑にも気づかず、淳は里華の後についてキッチンへと向かった。
 里華は冷蔵庫を開け、身をかがめてオレンジ・ジュースをとりだした。そのときヒップを後ろに突き出すような姿勢をとる。淳の視線はそのヒップに強く注がれた。
 悩ましいまでに魅力的なヒップだった。喉から手が出るほどさわりたかった。思う存分に撫でまわすことができたら、明日死んでもいいと思う。
 でも、そんなチカンのようなマネをしたら里華に嫌われてしまう。淳は里華に嫌われることは死ぬよりも辛かった。
 そして里華もそんなふうに自分のヒップに注がれる淳の視線を、なんとなく感じていた。わるい気はしなかった。ゆっくりとオレンジ・ジュースをとりだして、長めに鑑賞させてあげようとさえした。
 大好きな淳が、自分に女の魅力を感じている……。その感覚がうれしかった。
 そして里華はジュースを取り出すと、グラスを二つテーブルに並べて、淳と向かい合わせで座った。
 里華も淳も頬がぽっと桜色に染まっていた。なんだか照れたような空気が二人のあいだに漂った。
「淳くんは、いま好きな女の子って、いるの?」
 里華は聞いてみた。
「いますよ」
 淳は真っ直ぐに里華の瞳を見つめながら答えた。
 里華は恥ずかしそうに目をふせ、それ以上なにも聞けなくなった。
 と、そのとき里華の携帯が鳴った。とると由衣である。
 電話が終わると里華は淳にいった。
「由衣、もう少し遅れるみたい。今日は遅いから、家庭教師は明日にしてほしいって」
 淳もそれを了解し、今日のところは淳はこれで帰ることにした。
 もっと長く里華と一緒にいたい気持ちは強くあるのだが、これ以上、いまの里華のそばにいると自分をセーブできなくなりそうで心配だった。それに、はやく帰って今日の里華をオカズにオナニーしたい気持ちもあった。


4、

 淳を見送ると里華は自分の部屋に戻ってきた。
 身体が微熱があるかのように火照っていて、重い感覚があった。
 どうかしてる……。
 里華はそう思う。落ち着いて自分の身体を見おろしてみると、恥ずかしさが湧いてくる。
 こんな露出度の多い服を着て……。淳くん、へんな女だと思わなかったろうか。
 いまごろになって後悔の念も生じてくる。
 そしてカーテンをぴったりと閉め、キャミソールとショートパンツを脱ぎ、下着もとって里華は全裸になった。白い肌は、わずかに汗ばんでぬめ光っていた。
 乳首はあいかわらず立っている。指を股間に差し入れ、陰唇を指で開くと、たまっていた果汁がトロッと内股をつたった。そこはすでにおどろくほど熱くなっている。
 また、こんなになって……。
 里華は熱い裸身をベッドの毛布の上に横たえた。
 オナニーで慰めなければ、熱くなってしまった女体はおさまりそうもなかった。それなら早く、由衣が帰ってくる前にしてしまったほうがいい……。
 高校生の頃から里華はときどき自分の女体にオナニーを施して慰めてきた。オナニーはむしろセックスより好きかもしれないと里華は思う。里華は亡夫とのセックスで絶頂したことは一度もなかったが、オナニーで絶頂したことはあった。
 もともと空想力の豊かな里華は、自分の理想の恋人との交歓を想像しながらオナニーするタイプだった。それが最近はいつも淳のことを思い浮かべながらオナニーする習慣になっていた。そして、それと同時にオナニーをする頻度が多くなってきたような気がしている。
 とくに今日は、淳からあんなに刺激を受けてしまって、オナニーせずにすみそうになかった。由衣が帰ってくるまえに、できれば手早く自分を絶頂にまで導いて、高まりすぎた情感を処理してしまいたかった。それに、いまの身体の熱さならそれが可能だとおもわれた。
 里華は仰向けになると、淳の顔を瞼の裏に浮かべながら、自分の乳房をねっとりと揉み、股間に指をつかっていった。
「淳くん……」
 そう声に出して呼んでみると、胸のなかに切ないような衝動が生じ、雰囲気はたちまちのうちに高まった。股間で動く指のスピードがひとりでに増していく。
 里華は目を閉じ、舌で唇をなぞる。唇はぽってりと充血して、開いてきた。
 成熟した腰がゆっくりとリズムを刻みはじめた。
「あん……。淳くん、好きよ……」
 もう一度言ってみると、声が身体中に甘く響いた。
 電車のなかで押しつけられた淳の肉棒の感触がよみがえる。
 里華は指で秘花の襞肉をじゅうぶんにかき回すと、両脚を大きく開いた。指先をそっと女性の入口にあて、そして膣の中にもぐり込ませる。
「あっ、淳くんっ、きてえっ!」
 身体じゅうを駆け回る切なさに、里華は思わず叫んでいた。

 その頃、淳は里華の家に戻ってきていた。
 一度帰宅したのだが、ポケットに家の鍵がないことに気づいたのである。
 里華の家に着いたとき、玄関先でポケットからハンカチを取り出して濡れた肩を拭った。あのとき落としてしまったのではないかと思った。
 そして里華の家の玄関の外を探してみたのだが無く、玄関の内かと思い、呼び鈴を押そうとも思ったのだが、ノブを回すと鍵がかかってなかったので、無断で少しだけお邪魔させてもらおうと思った。さっき出てきたばかりだし、鍵を探すためだけにわざわざ里華を呼び出すまでもないと思ったのだ。
 ところが、玄関から入ったとたん、家の奥から「淳くんっ、きてえっ!」と里華の呼ぶ声が聞こえてきた。
 何事だろう。強盗にでも襲われているのだろうか……。
 里華の声の尋常でない響きに淳はすぐに緊張し、足音を忍ばせて家の奥へと入っていった。
 リヴィングにもキッチンにも里華の姿はなく、淳は次は里華の部屋を見ようと思った。そして廊下を足音を忍ばせて歩いていった。
「淳くんっ、愛してる!」
 里華の部屋の中から聞こえてきたその声に、淳は「え?」と立ち止まった。
 なぜ里華さんが……。それに、部屋から聞こえてくる里華の声が、たしかに里華の声なのだが、みょうに綺麗で、透明に澄んだ声なのだ。
 見ると里華の部屋のドアはわずかに開いていた。
「あんっ、淳くんっ、淳くうんっ……」
 あまりにも異常な様子に、淳はわずかに開いたドアの隙間から中を覗き込んでみた。
 と、あまりにも信じられない光景がそこにあった。
 淳のあこがれの女神、清楚で気品のある美人の里華が、ベッドで全裸でオナニーしているのである。
 しかもしきりに淳の名を呼んでいる。里華が淳をオナペットにしていることはあきらかだった。
 淳の身体じゅうを感動が駆け抜けた。自分がずっとオナペットにしている憧れの女性が、自分をオナペットにしている……。二人は相思相愛の仲だったのではないか……。
 と、そのとき悩ましく左右に振られた里華の顔がこちら側を向いて止まり、うっすらと目が開かれた。そしてすぐに里華の目は大きく見開かれた。
 淳と目と目が合ってしまった……。
 淳は驚きと気まずさに、どうしたらいいのか、身動きがとれずにいた。里華もオナニーの指を止めたまま、身動きせずにこっちを見つめている。
「い、いやあーーーっ!!」
 その沈黙を破るように里華が悲鳴を上げ、裸身を隠すように淳に背を向けて丸まった。しかし、そのために美しい背中や尻が、むしろ淳から丸見えになる。
 しかし淳もそれを鑑賞する余裕もなく、部屋に飛び込んで里華に駆け寄った。
「すいません、里華さんっ!」
 そして里華の背中に向かって、自分がどうしてここにいるかを説明するが、言葉がもどかしくて自分でも何を言っているのかわからないようになる。
 それにしても何という美しさだろう。淳は里華の裸の背中を見ながら感動していた。まるで大理石のヴィーナスの背中を見ているような美しさだ。雪白の肌はオナニーのためにほのかなピンク色に染まり、わずかに汗ばんでいる……。
 しかし淳は感動している場合ではない、落ち着かなければならないと自分に言い聞かせた。
 もし淳が里華の名を呼びながらオナニーしているところを里華に見られてしまったら、淳は死にたいような気分になるだろう。そんな心境にいま里華はいるはずだ。
 電車のなかで勃起を知られてしまったときも、里華は優しく受け止めて恥ずかしがらなくてもいいと勇気づけてくれたではないか。こんどは自分が里華を勇気づける番だと思った。
「ぼく、すごくうれしいんです……」
 淳は里華の肩にそっと手を触れ、そして掌で肩から背中を優しく撫でながら話しかけた。落ち着かせようと思って撫でたのだが、そのあまりにすべすべした肌のなまめかしい感触の魅力に、たちまち淳は我を忘れてしまいそうになる。
 しかし、淳は気を引きしめ直して、つづけた。
「ぼく、すっと里華さんにあこがれていて……、大好きだったんです」
「あ……」
 小さな声が里華から洩れた。淳の告白が、この美しい女性の胸に響いてくれたのだろうか。
「里華さんがぼくのことを、そんなふうに好意をもっていてくれたなんて、ぼく、うれしくて天にものぼりそうな気分です……」
「でも、がっかりしたんじゃない?」里華が蚊の鳴くような声でいった。「こんなエッチな女だって知って……」
「まさか……。健康な女性の証拠ですよ。恥ずかしいことじゃないです」
 淳は電車のなかで里華に言われた言葉をくり返した。
「ぼくだって、毎日のようにオナニーはしてます。いつも里華さんのことを思いながらオナニーをするんです。それを聞いて、がっかりしましたか?」
 と、里華はしばらく考えているように沈黙がつづき、そして「……ううん」と小さくこたえた。
「ぼくだってそうです。がっかりどころか、すごくうれしいんです」
 里華の胸にさざ波が生じていた。淳が毎日里華のことを思いながらオナニーをしていると聞いたときに、身体が波立つような感覚をかんじたのだ。
 淳くんが一人で淋しく、わたしのことを思いながらオナニーしているなんて……。
 淳にオナニーを見られ、秘めていた気持ちを知られた恥ずかしさは消えていった。かわりに淳に思われていることの喜びと、淳に一人でオナニーなんかさせたくない思いが胸を占めてくる。
 理由もわからず、涙が溢れてきていた。泣き顔を淳に見られたくないのだが、どうしようもなかった。
 淳は里華の肩をもって優しく仰向かせた。里華の顔が見たかったのだ。
 里華は淳の手にしたがって、ごろりと仰向けになった。右手では股間のヘアを隠し、左腕で美乳を抱くようにして隠している。でも、その腕では隠しきれない乳房が胸にあふれている。
 それよりも淳は、里華の顔を見て驚いた。一瞬、里華とは別人かとも思った。
 いつも理知的な輝きを見せている瞳は、とろりととろけて薄く半開きになり、キラキラ光っている。眦からは涙が線をつくって流れていた。唇はぽってりと膨らんで、突き出すように半開きになっている。その間からは白い真珠のような歯がキラキラ見えていた。そして頬は桜色に上気し、その顔全体に乱れた髪がうすく覆っていた。
 寒気がするほどにセクシーで艶っぽい美貌だった。ふだんの清楚で気品のある美貌とは別人のようだった。これがあの里華なんだろうか……。
 淳はその唇にキスをしたいという激しい衝動に駆られた。もう自分を抑えることができなかった。
 淳はゆっくりと里華の上に身をかがめていった。里華は身動き一つせずにじっと淳を見つめている。そして淳が顔を近づけていくと、薄く開いていた瞳が閉じられた。
 淳は唇に唇をそっと重ねた。信じられないほど柔らかな唇の感触に、全身鳥肌がたつほどの感動をおぼえた。
 淳にとって生まれて初めてのキスだった。どうしたらいいのかなんてわからない。ただ、唇を重ね、そして離れてから里華の顔をじっと見た。
 里華は一瞬遅れて目を薄く開き、淳を見つめてきた。
 淳は身動きできなかった。
 と、その淳の肩に優しく里華の手が廻された。淳は生まれて初めて、女性に抱きしめられたのだ。やわらかで、やさしい手だった。
 抱かれるままに、淳は里華の身体に身体を重ねた。あの電車のなかで感じたのと同じ、二つの胸の肉感が胸に押しつけられた。いや、電車のなかでは二人の服と里華のブラごしの接触だった。いまは二人を隔てているのは淳のシャツの薄布だけである。あのときよりずっとリアルな胸の感触だった。
 しかし、淳はその里華の胸の肉感を味わう暇もなかった。もう一度、唇と唇が重ねられたのだ。
 今度は、さっき受け止めただけだった里華の唇が、微妙な動きをみせた。エロティックな軟体動物のように淳の唇を愛撫してくる。
 淳は全身が痺れるような快感をかんじながら、キスとはこんなに官能的なものだったのかと驚愕していた。
「淳くん、ありがとう……」
 ようやくキスが終わると、里華がいった。
 淳はゆっくりと身を起こして里華を見つめた。淳の背中にまわっていた里華の手は、それにしたがって肩から淳の二の腕をつかんでくる。そのため、里華のハダカの胸がまる見えになっていた。
 すごい……。
 淳は里華の巨乳の美しさに見とれた。そして反射的に、両手でその胸を掴んでしまうことを自制することはできなかった。
「あ……」
 とつぜん乳房を掴まれて里華が声を上げる。
 こんなことをしてはいけないのでは……!
 淳は里華の乳房を掴んだ後でそう後悔したが、もう後の祭りである。里華の乳房のあまりに甘美な柔らかさを掴んでしまった後では、いくら自制しようとしても、指が勝手にその美乳を自由自在に揉みしだいていってしまうのだ。
 すごい……。
 淳は手におさまりきらないほどの美乳の迫力に感動していた。
「じゅ、淳くんっ……」
 里華は眉間に皺を寄せた。.
 淳が乳房を揉む力は強すぎ、里華は痛みしか感じなかった。いかにも手慣れていない少年の、勢いだけの愛撫である。
 しかし、里華はその力強さが淳の自分に対する真っ直ぐな思いであるような気がして、わるい気はしなかった。乳房は痛いのだが、胸に響いてくるかんじである。
「里華さん……」
 淳は勢いのままに言った。
「ぼく、まだ童貞なんです……」
 そして淳は真っ直ぐに里華の瞳を見つめる。
「里華さん! ぼくを抱いてください! ぼくの童貞を奪ってください」
「だめよ……」
 里華は優しく言い返した。
「里華さん!」
 淳は激しく里華の乳房を揉みつづけた。まるでいっぱい揉みまくればオーケーが出ると信じているかのように。
「……そんなことをしたら、わたしたち、いままでのようなお友達ではいられなくなるのよ」
「里華さん。好きなんです」
「わたしだって淳くんのことは好きよ。でも……」
 里華は言葉に迷った。
 淳の名を呼びながらオナニーしているところを見られてしまったのだ。淳に抱かれたい気持ちなどないと言えば嘘だと見破られてしまう。しかし、淳は里華より十歳以上も年下なのだ。そんな少年と関係をもつなんて、罪なのではないかと、もともと倫理観念の強い里華は思った。それに、そんなに年の差があるのではきっとうまくいくわけないと……。
 しかし里華は、そんな懇願をしながら、あまりに真剣な表情で自分を見つめてくる淳に特別な情がわいてくるのを止めることはできなかった。
 淳は力まかせに乳房を揉むのに疲れ、その柔らかさを確かめるように指先でタプタプ揺らす愛撫に切り替えてみた。
 と、とつぜん里華の背が浮き、「あっ、あっ……」と艶っぽい声が洩れはじめた。そのソフトな愛撫が絶妙に里華の性感を刺激したのだ。
 淳はすぐにその変化に気づいた。そして女性の身体は力まかせに愛撫すればいいものではないと理解した。当たり前のことだが、優しく扱わなければならないと、いまさらながらに思い出したのだ。
 淳はその優しい愛撫を続けながら、里華の胸もとへチュッ、チュッ……とキスをくりかえした。
 淳の愛撫の変化は里華の女体に大きな効果をもたらしていた。
 確かに愛撫のしかたはずっと良くなった。とはいえ、それでも未経験な少年の愛撫ではある。亡夫のほうが、愛撫はずっと巧みだった。
 しかし、的確な愛撫を受けることにより、里華の思考能力がなくなり、じょじょに倫理観の歯止めもきかなくなってきたのだ。すると里華の意識のなかに、大好きな淳に愛撫されているという感覚だけが残った。
 里華は薄目を開けて真剣な表情で自分を愛撫する淳を見ていた。すると、里華の胸のなかに切ないような幸福感が生まれてきた。
 やっと巡り会えた……とでもいうような、たまらない切なさである。亡夫とのセックスでは、一度も感じたことのない幸福感だった。
 その切なさは里華の胸から生じて、すぐに全身に広がっていった。すると里華の全身の肌は魔法がかかったようになり、淳に触られるだけで幸福な快感を響かせるようになってしまった。
 淳の指は胸から離れ、里華の脇の下から脇腹、くびれたウエストや締まった腹部を愛撫しだした。里華にはその全てがたまらないほど快感で、何度も身をくねらせた。
「淳くん、好きよっ、好きよおっ……」
 たまらずに声を出してしまった。すると淳も「ぼくも、大好きです」と返してくる。その声が里華にたまらない幸福感をもたらした。
 そして淳は里華の股間へと指を運んだ。
 いちばん愛撫を受けたかった場所……、でも愛撫をさせてはいけない場所である。
 里華は膝を閉じて拒否しなければならないと思ったが、身体がいうことをきかず、かえって股を開くようにして淳の指を迎えてしまう。そして、淳がぎこちない手つきで女性器を愛撫しはじめると、どんどん股が大きく開いていってしまうのだ。
 このままでは、挿入は時間の問題だわ……。
 里華は最後の意志を奮い起こした。
 そして自分の股間を愛撫する淳の手を掴んで制した。
「ちょっと待って、淳くん……」
 淳は黙って里華のほうを向く。里華はその顔が愛しくてたまらない気持ちだった。
「わかったわ、淳くん……。淳くんの童貞、いただかせて……」
「奪ってくれるんですね」
 淳はよろこびに目を輝かせる。
「でも、いまはダメよ」
 と、淳の表情はきゅうに曇った。
「どうしてですか」
「もうすぐ由衣が帰ってくるわ」
「すぐにすみますよ。いまにも出そうだから、たぶん入れたらそんなにもたないと思うし……」
「そんなのダメよ。淳くんの大事な初経験なのよ……。ずっと思い出に残ることなの。そんな、さっさと済ませるなんて、だめ」
「じゃあ、いつ……」
「今度の連休、あいてる?」
「はい」
 淳の今度の土日の予定はガラ空きである。そうでなくても里華のためなら空ける。
「それなら、土曜日にデートしましょう。わたしにデートのセッティングをさせてくれない」
「土曜に、ぼくを抱いて、童貞を奪ってくれるんですね」
 淳にそう確認されると、里華は恥ずかしそうに「うん」とうなづいた。
 と、そのとき、
「ただいま!」
 と玄関から元気の良い声が聞こえてきた。由衣だ。
 里華はその声にビクッと反応し、「いやっ」と小さな声をたてながらうつ伏せに寝返りを打った。
「あれ、ママ! おにいちゃん、来てるの?」
 そういいながら由衣が里華の部屋のほうに歩いてくる音がする。玄関の淳の靴に気づいたのだろう。
 里華はこの場から逃れたいかのようにうつ伏せになったまま、何も言わない。この場を切り抜ける判断をするほど、頭がまわらない状態なのだろう。
 淳はドアのすぐ外まで来ているはずの由衣に、里華のかわりに声をかけた。
「明日、都合がわるいんで、遅くなってもいいから今日にしてほしいって言ったんだ。由衣ちゃんはいい?」
「もちろん。おにいちゃんさえよければ」
「じゃあ、先に部屋に行って着替えて準備しといてよ」
「わかった!」
 由衣は喜び勇んだ足どりで去っていった。
 急場は逃れた……と、淳は胸を撫で下ろした。
 しかし困ったことがあった。淳の股間はビンビンにテントを張ってしまっていて、とうぶん収まりそうもない。こんな状態では由衣の部屋になんか行けるわけがない。
 一回、射精させてしまえば、すぐにおさまる……。その気持ちが淳の心に湧いた。このさい、背に腹はかえられない。
「里華さん、すいません。一回、射精させてもらいます」
 男性の生理がわかっている里華なら、淳の行為を許してくれるはずだ……と思いながら、淳は里華の背中に話しかけた。里華は何もいわない。が、時間がなかった。
 淳はベッドサイドにあるティッシュの位置を確認すると、ズボンのベルトを外し、ファスナーを下ろして、痛いほどに勃起した肉棒をそっと取り出した。
「あっ……」
 淳のペニスはもう爆発の限界にきていたようだった。トランクスから取りだしたときの微細な刺激で、いきなりそれは暴発してしまった。ティッシュに手をのばす暇さえなく、淳は精液が部屋に飛び散らないように、先端をぐっと押し下げるので精一杯だった。
 押し下げた先にうつ伏せになった里華がいた。
 淳は里華の美しい背中にドバッと射精してしまった。
「あはぁ……」
 里華の声が洩れた。
 白濁した大量の精液は里華の背中ぜんたいに散り、背中の中央部のくぼみにそってウエストのあたりへと流れ下り、溜まっていた。
 淳は大好きな里華へたっぷりとかけられて、いいしれぬ高揚感を感じた。生まれてからいままで感じたことないような男としての満足感である。
 しかし、一瞬後に、こんなことをしてしまって里華に嫌われたのではないかという恐怖感が湧いてくる。
「すいません、里華さん。わざとじゃないんです……」
 淳が必死で謝ると、
「いいのよ、淳くん。このままでいいから、はやく由衣のところへ行ってあげて……」
 里華はゆっくりした口調でいってきた。
「すいません……」
 淳はもう一度謝りながらペニスをトランクスのなかに戻し、ベッドから下りた。そしてファスナーを上げ、ベルトを締める。
 里華はピクリとも動かずにベッドにうつ伏せのまま横たわっていた。
 美術品かと思うほどに美しい背中に散った淳の精液……、そして盛り上がったヒップの双球は、まるで二つ並んだ巨大な真珠のようだった。淳は一瞬でその美しさに見惚れ、目を離すことができなくなってしまった。そして、おそるおそるといった手つきで指で触れてみた。
 ひんやりとしたマシュマロのようなやわらかさだった。
 指先でその二つの丘を分けてみると、深く刻まれた谷底に、キリリと締まったアヌスが見えた。ほのかな菫色をした美しいアヌスだった。
 美人はアヌスまでこんなに美しいものなのか……。
 淳はそこに顔を近づけると、舌先で優しくアヌスを舐めてみた。
「あ、うはっ、あっ……」
 里華の唇から艶っぽい声がもれる。
 でも、もう行かなくちゃ……。
 いつまでも舐めつづけたい気分だったが、淳は自制心を奮いおこし、名残りおしそうにアヌスにチュッとキスすると、
「じゃあ、里華さん。由衣ちゃんのところへ行ってきます」
 里華のヒップに語りかけるように別れの挨拶をして、部屋を出ていった。

 それからしばらく、里華は身動きができずにいた。
 あのとき、背中に淳の射精を感じた瞬間、里華は不思議な陶酔感と高揚感にとらわれてしまった。いうなれば、かるく昇天してしまったようなのである。
 そしてその後、全身の筋肉が弛緩したように、身動きがとれない状態になってしまった。
 それは里華自身も信じられないことだった。里華はいままでセックスで絶頂に達したことは一度もない。オナニーで経験があるだけだ。
 それが、背中に淳の射精を浴びせられただけなのに、淳の絶頂と呼応するかのように、女体がイッてしまったのである。それはごくかるい絶頂感ではあったが、そうであってもいままで里華が男性との交合で経験したことがないものである。
 そして、そんな全身が弛緩している間に淳にアヌスを舐められた……。あのアヌスに淳の舌を感じたとき、里華の全身を魔性のような快感が駆けめぐった。あのまま愛撫をつづけられたら、どうにかなってしまいそうなほどだった。
 いったいわたし、どうしてしまったのだろう……。
 全身の弛緩が解けてくると、里華は自分の背中に手をのばし、背筋に溜まっている淳の精液を指ですくって、舐めてみた。
 栗の花のような香りとともに、ふしぎに甘いような味かんじた。
 里華は生まれて初めて、ザーメンをおいしいと感じていた……。



5、

 淳は二階の由衣の部屋の前までくると、息を整えた。
 頬に手をあててみると、少し紅潮しているような気がする。しかし、あんまり遅れると里華の部屋で何かをしていたことを由衣に疑われるかもしれないと思った。
 思い切って、平気な顔で由衣に会おう。
 淳は深呼吸を繰り返し、気を落ち着け、もう大丈夫だと自分に言い聞かせた後で、勢い込んでドアを開けた。
 と、スカートをはいていない由衣が、こちらに可愛いヒップを向けていた。ベッドの上のものを取ろうとして上体を前に倒し、ヒップをこちらに突き出しているポーズである。
 ドアの音に気づいた由衣は淳のほうを振り向き、「きゃあ!」と叫んでその場にしゃがみ込む。
 淳はすぐにドアを閉めた。
「ごめん……、ノックするの忘れて……」
 淳は言い訳のするようにドアごしに由衣に話しかけた。
 しかし、ノックを忘れるとは……。淳は自分がもう落ち着いた気になっていたが、ぜんぜん落ち着いてなかったことに気がついた。
 少しすると内からドアが開き、由衣が顔をのぞかせた。怒っている様子はなく、恥ずかしそうに頬を染めてうつむいている。
 由衣は妖精のような美しさのある美少女である。まだ10歳と聞くとおどろくほど大人っぽい色気があり、スタイルも良い。
「ごめん」
 淳がもう一度あやまると、由衣は、
「ううん。由衣がいけないの。どのスカートはこうか迷ってモタモタしてたから……。おにいちゃんがもう着替え終わってるって思っても……」
 たしかに由衣が着替えに上がってきてからかなり間があった。由衣はそのため淳はもうノックしなくても良いと判断したと思ってくれたようだ。
 見ると由衣はベージュのミニスカートをはいている。超ミニといいたくなる短さである。迷っていたというから選び抜いたものなのだろう。
「……そのスカート、似合うね。可愛い」
 失敗を取り戻そうとしてそういってみると、由衣はニコッと嬉しそうに微笑んだ。
「そう? はくの初めてなんだ!」
 おニューのスカートだったようだ。淳はそれより一瞬で機嫌を直したような由衣の表情に安心した。
 里華と由衣は美人、美少女の母娘だが、二人はそれほど似ているわけではない。里華も前に由衣はむしろお父さん似だといっていた。
 里華が清楚で落ち着いた白百合のような美人だとすれば、由衣は活発で明るい、ひまわりのような美しさがあった。じっさいスポーツは得意で、読書好きの内気な少女だったという里華とは性格も対照的である。その反面、由衣は勉強の成績のほうはおもわしくなく、そのため淳を家庭教師に頼んだのだという。
 由衣はかなり淳を気に入ってくれているようだった。いつも「おにいちゃん」と呼んでくれ、ほんとうに兄妹のように親しんでくれる。最初の出会いが由衣が小学校のクラスメイトの男子にイジメられているのを助けた時だから「守ってくれるお兄さん」といった信頼できる印象を抱いてくれているのかもしれない(淳はおそらくあのとき由衣をイジメていた男子は由衣が好きだったんじゃないかと思っているのだが)。家庭教師として淳を指名してきたのもそうだし、ここ半年ぐらいでぐんぐん親しくなってきた気がする。
「じゃ、はじめよっ」
 頬を染めながらも嬉しそうに微笑む由衣にうながされ、淳は部屋に入っていった。
 歩いていく由衣の後ろ姿を見つめながら、淳はそのミニスカートの内にさっき見たパンティ姿の由衣のヒップを重ねて見てみた。いかにもスポーツが得意な少女らしい、キュッと締まって持ち上がった形のよいヒップだった。
 正直いうと由衣のミニスカートは由衣の体型にあまり合ってない気がした。由衣は手足が長くてヒップが小さめなバレリーナのような肢体をしている。いまの由衣のミニスカートの丈の長さだと、そのスカートから露出している脚がアンバランスなほど長すぎて露出部分が多すぎ、セクシーすぎる気がするのだ。由衣にはこのミニで外を歩いてほしくない気がした。
 しかし、部屋で自分の前ではいてくれるぶんには大賛成である。
 そうして由衣は机につき、淳はその横に立って、いつものように家庭教師がはじまったのだが、淳はだんだんさっきノックせずにドアを開けてしまい、由衣の下着姿を見てしまったのは良かったことのような気がした。
 淳は平静を装おうとしているのだが、やはりさっきの里華とのことの刺激が強すぎて、いつにない凡ミスを繰り返したりしてしまっている。いつもの由衣ならそんな淳の平静でない様子に気づいただろう。そして、何があったのか疑ったのかもしれない。
 しかし、由衣は淳のヘンな様子を、由衣の下着姿を見てしまったためだと誤解してくれているようだった。それに第一、由衣も見られたことが恥ずかしいのか、ずっと頬を染めて、まともに淳の顔を見ようともしなかった。
 ケガの巧妙だった……と、淳は内心ほくそ笑んだ。
「でも、おどろいたよ」
 勉強がひと段落すると、淳はさりげなく話しかけた。
「由衣ちゃん、おとなっぽい下着つけてるんだね」
 由衣はいくら大人びた美しさがあるといっても、まだ10歳である。もっと子供っぽいプリント地の下着などをつけているのかと思いきや、さっきはセクシーなデザインのベージュのビキニ・パンツを身につけていた。
 すると由衣は破顔して、ちょっと恥ずかしそうにうつむくと、
「おにいちゃんに会うから、おシャレしたんだよ」
 と答え、うれしそうに微笑んだ。
「……スカートの色と合わせたんだ」
 そういってベージュのミニスカートのすそをつまんでみせる。
 ということは、制服から私服に着替えたときに下着も変えたのだろうか。もう少し早くドアを開けていたら、由衣の生尻も見られたのかもしれない。
 そんなことを考えるとロリコンみたいだが、由衣はほんとうい美少女で、大人顔負けの色気のようなものがあるのだ。
 由衣の様子があまりにうれしそうなので、淳はもう一言突っ込んでみた。
「由衣ちゃんのヒップ、すごく綺麗だったよ。まだ子供だと思ってたのに、色っぽくてドキッとしちゃった」
 と、由衣は耳まで真っ赤になった。
 そして、うつむいたまま小声で聞いてきた。
「このまえ、おにいちゃんって、彼女はいないっていってたよね」
「うん」
「ねえ、おにいちゃん。もしよかったら……今度の日曜、遊園地に連れてってくれない?」
 デートの誘いだろうか。昨日までなら大喜びするところだが、土曜には里華とデートの約束がある。そして運よく「お泊まり」になれば、日曜もつぶれる。
「うれしいな。由衣ちゃんからそんなふうに誘ってもらえるなんて……。でも、今度の日曜は都合が悪いんだ……」
「じゃあ、その次の日曜は?」
 その次の日曜も、もし週末に里華とうまくいったら、また里華とデートしたい。
「ごめん。まだわからない。でもいつか都合つけるから、絶対一緒にデートに行こうね」
 と、由衣は「デート」という言葉にピクッと反応した。デートにあこがれる年頃なんだろうと思う。といっても淳だってそうだが。
 淳はそんな由衣が可愛くなり、由衣の頬にチュッとかるくキスをした。
 由衣はうれしそうな表情をし、しかしすぐに不満そうに表情をくもらせた。
「なに?」
「……ほっぺじゃ、子供みたい」
 淳はにっこりと微笑み、指で由衣のあごを少しもちあげた。
「じゃあ」
「うん」
 由衣はすこし緊張した顔をする。
 そして由衣と見つめあいながら、身をかがめてゆっくりと顔を近づけていき、由衣が大きな潤んだ瞳を閉じると、唇に唇を重ねていった。
 さっき里華とファースト・キスをして、はやくも二人めとのキスだ。小学生とはいえ、こんな美少女とキスするのはドキドキした。ロリコンになってしまいそうだ。
 でも、里華との関係があるのに、その娘の由衣とこんなことをしていいのか……という気持ちもある。が、唇があわさると、その感触に淳はすべてを忘れた。
 由衣の唇は花のような里華と比べるとまだ蕾のようだった。小さくて、まだ固く閉じている。けれど可憐だった。
 淳はキスを続けながら由衣の背中を大きく撫でた。由衣の身体がおどろくほど熱くなっているのがわかった。

                              (第一章 おわり)

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