殺しの時間
乱視読者のミステリ散歩

若島 正


ゴダード、マキャモンからラシュディ、オースター、ペレックまで、ミステリと文学の境界線を自在に往来する 《殺しの時間》。映画俳優エロール・フリンや剣呑み芸人の自伝といった珍品を取り上げ、忘れられた作家の埋もれた小説を掘り起こしたかと思うと、現代作家の最新作を紹介、あるいはアイルズの犯罪小説やマイクル・イネスのオフビート探偵小説の魅力を語り、異色作家の復権を訴えたりと、さらに気ままな文学散歩を続ける 《失われた小説を求めて》。〈ミステリマガジン〉 長期連載(1991〜2000)コラム 《殺しの時間》 《失われた小説を求めて》 計104回を完全収録。
読書という最高の 「暇つぶし (killing time)」 をこよなく愛する著者が、あたかも 「千一夜物語」 の語り手のように、次から次へと読者の前に差し出す魅力的な本の数々。現代ミステリ、異色作家、埋もれた古典――どの頁をひらいても小説を読む喜びに満ち満ちた、至福の読書エッセーにして最強のブックガイド。

バジリコ
◆2006年9月刊 本体1800円  [amazon] [bk1]
◆装丁=山田英春


この連載の目的は、あまり取り上げられることのない作家や作品をめぐる、あてもない散策である。ただ、いくらでたらめな散策だといっても、初めての小道を歩いているつもりが、いつのまにか知っている道へとつながることがある。別れ道で勘が働く方向を選んだら、それが家路へとつづいていたりする。小説の森を散策するおもしろさは、そうやって自分だけの地図をこしらえられる点にある。
                          ――「失われた小説を求めて」 より

【本書目次】

殺しの時間
1 父親を殺す グレアム・スウィフト 『シャトルコック』
2 眠りを殺す ロバート・アーウィン 『アラビアン・ナイトメア』
3 真実を殺す マリオ・バルガス=リョサ 『誰がパロミノ・モレーロを殺したか』
4 歴史を殺す ジョン・ファウルズ 『マゴット』
5 物語を殺す サミュエル・ラシュディ 『ハルーンとお話の海』
6 仇を殺す マイケル・ディブディン 『血と影』
7 映画を殺す デイヴィッド・トムスン 『容疑者たち』
8 小説を殺す デニス・ポッター 『ブラックアイズ』
9 過去を殺す ロバート・ゴダード 『蒼穹のかなたへ』
10 未来を殺す ジャック・ウォマック 『ヒーザーン』
11 体制を殺す ミルチャ・エリアーデ 『若さなき若さ』
12 魔女が殺す ミュリエル・スパーク 『餐宴(シンポジウム)』
13 テロリストが殺す ブライアン・ムーア 『沈黙の嘘』
14 分身が殺す エマ・テナント 『ロンドンの二人の女』他
15 幸福が殺す マイケル・フレイン 『陽の当たる場所』
16 魔術が殺す ロバート・アントン・ウィルソン 『イリュミナティの仮面』
17 戦争が殺す ジョン・モーティマー 『シャレード』
18 家が殺す アン・リヴァース・シドンズ 『隣りの家』
19 野球が殺す  ポール・ベンジャミン (ポール・オースター) 『スクイズ・プレー』
20 毒が殺す ナイジェル・ウィリアムズ 『ウィンブルドンの毒殺魔』
21 アメリカが殺す トマス・サンチェス 『ズートスーツ殺人事件』
22 読者が殺す ギルバート・アデア 『作者の死』
23 私が殺す ラムジー・キャンベル 『殺しの顔』
24 闇が殺す シオドア・ローザック 『フリッカー、あるいは映画の魔』
25 魂で殺す ロザモンド・スミス (J・C・オーツ) 『ソウル/メイト』
26 シチリアで殺す レオナルド・シャーシャ 『開いたドア』
27 ウィットで殺す キリル・ボンフィリオリ 『その拳銃【ハジキ】を俺に向けるな』
28 饗宴で殺す スティーヴン・ドビンズ 『セニョーラ・プッチーニの二つの死(奇妙な人生)』
29 海辺で殺す クリスティン・キャスリン・ラッシュ 『ファサード』
30 毒茸で殺す ウェッセル・エバースン 『孤独な死に場所』
31 湖で殺す ロバート・マキャモン 『ボーイズ・ライフ(少年時代)』
32 狂宴で殺す ドナ・タート 『シークレット・ヒストリー』
33 フロリダで殺す アリス・ホフマン 『タートル・ムーン』 
34 テクストで殺す クリスティーン・ブルック=ローズ 『テクスターミネイション』
35 絵画で殺す J・P・スミス 『光の発見』
36 ワープロで殺す テレンス・ブラッカー 『フェイム・ホテル』
37 残酷な殺し エリック・マコーマック 『パラダイス・モーテル』
38 殺しの武器 ウィリアム・ゴールドマン 『尖った武器』
39 死霊を殺す シャーリン・マクラム 『ジーン池の死霊たち』
40 実話の殺し バーバラ・ヴァイン 『アスタの日記』
41 豚が殺す パトリック・マッケイブ 『ブッチャー・ボーイ』
42 本を殺す ロバート・グルディン 『本』
43 よみがえる殺し ピーター・ストラウブ 『スロート』
44 哲学で殺す フィリップ・カー 『哲学探究(殺人探求)』
45 墓が殺す ジョン・ブラックバーン 『暗闇に葬れ』

46 殺しの迷宮 ジョルジュ・ペレック 『「五十三日間」』
47 北国の殺し チャールズ・パリサー 『背信』
48 悪文が殺す チャールズ・ブコウスキー 『パルプ』
49 時間を殺す トマス・バーガー 『殺しの時間』
    第一のあとがき

失われた小説を求めて
1 雨降りだからJ・J氏でも読んでみよう
2 『チベットの薔薇』 の作者の名前 ライオネル・デヴィッドスン 『チベットの薔薇』他
3 忙しい死体 ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン 『箱ちがい』 他
4 アマゾンのアプルビイ マイクル・イネス 『ダフォディル事件』
5 馬がしゃべる、そんな馬鹿な ジョン・ホークス 『スイート・ウィリアム』
6 マッド・ハンターのミステリ ジェフ・ニコルスン 『渉猟家と収集家』
7 海賊ブラッドの憂鬱 ジェフ・ニコルスン 『エロール・フリン小説』 他
8 魔術師の恋 ウィリアム・ヒョーツバーグ 『Nevermore(ポーをめぐる殺人)』
9 試行錯誤 フランシス・アイルズ 『被告の女性に関しては』
10 イスラエル往復 
11 一人の怒れる男 エドガー・パングボーン 『カリスタ・ブレイク裁判』
12 詐欺師コスキーの告白 イェールジ・コジンスキー 『69番街の隠者』他
13 チンパンジーが 『ハムレット』 を書くとき ピーター・ディキンスン 『毒の神託』
14 野獣の街 ジェラルド・カーシュ 『夜と街』
15 病床の手記 デイヴィッド・イーリイ 『洪水の年の手記』
16 さらば、愛しき小説よ ドナルド・E・ウェストレイク 『さらば、シェへラザード』
17 キャンディをもう一度 テリイ・サザーン 『ブルー・ムーヴィー』
18 象牙の一角獣 ウィリアム・コッツウィンクル 『ミッドナイト・イグザミナー』
19 プルーストの方へ アラン・ド・ボトン 『プルーストによる人生改善法』 他
20 ごく普通の女性 シャーリイ・ジャクスン 『ごく普通の日』
21 何がヘレンをそうさせたか? ジョン・サザーランド 『ヒースクリフは殺人犯か?』 他
22 鏡の中の他人 ジュリアン・シモンズ 『犯罪実習』
23 乙女アリス ジェフ・ヌーン 『自動アリス(未来少女アリス)』 他
24 オリンピアの末裔 マルコ・ヴァッシ 『セックスの魔術師(トコ博士の性実験』)』 他
25 もう一人の魔女 シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナー 『ロリー・ウィローズ』
26 散策する精神 アーサー・マッケン 『ロンドン冒険記』
27 世紀末の片隅 W・W・ジェイコブズ 『猿の手』
28 イヴの総て ウィリアム・サンソム 『無垢の顔』
29 蛇とゴキブリ ダニエル・エヴァン・ワイス 『ゴキブリに王様はいない』
30 キプリングを引用する男 デイヴィッド・マークスン 『リーダーズ・ブロック』 他
31 地獄詣りは…… ジョン・ケンドリック・バングズ 『三途の川の屋形船』 他
32 事典に引かれて ガイ・ブーズビー 「ニコラ博士」 シリーズ
33 Who’s Fu サックス・ローマー 「フー・マンチュー博士」 シリーズ
34 サンフランシスコ・ブルース チャールズ・ウィルフォード 『カリフォルニアの司祭長』 他
35 ウィルフォードの自画像 チャールズ・ウィルフォード 『拾った女』 他
36 スパイ小説を読むスパイ コンプトン・マッケンジー 『水頭』
37 小さな巨人 エドマンド・ウィルソン 『古典文学と商業小説』
38 綺譚ふたたび ヒュー・ウォルポール 『殺す者と殺される者』
39 忘れられた怪物 J・D・ベレスフォード 『ハンプデンシャーの怪物』
40 ナボコフとミステリ
41 ジョイスからマニックスまで ダニエル・P・マニックス 『剣呑み男の回想記』 他
42 ウェスタンへの墓碑銘 トレヴェニアン 『トゥエンティ・マイルの決闘(ワイオミングの惨劇)』
43 空白の彼方に ジョゼフ・ハーゲスハイマー 『夜会服』
44 他人の顔 L・P・ハートリー 『容貌平等』
45 墜落する女 マギー・ジー 『言い換えれば、死』
46 白鳥の歌 ロバート・エイクマン 『モデル』
47 奇妙な触れ合い 『シオドア・スタージョン短篇全集』
48 最も危険なゲーム クリストファー・プリースト 『eXistenZ(イグジステンズ)』 他
49 もうやめてくれ、サム ロバート・クーヴァー 『映画の夜』
50 死の蔵書 ギルバート・アデア 『閉じた本』
51 ウェブの迷宮 
52 雲をつかむ男 ジェイムズ・サーバー 『サーバー・カーニヴァル』 他
53 地下室のメロディー ローズ・トレメイン 『音楽と沈黙』
54 エリンの遺産 スタンリイ・エリン 『Star Light, Star Bright』
55 マルジナリア レスリー・A・フィードラー 『パクられる』
    第二のあとがき

消えた横隔膜の謎――あとがきに代えて

若島正 (わかしま ただし)
1952年生まれ。京都大学大学院文学研究科教授(英文学)。主な著書に 『乱視読者の冒険』 (自由国民社)、『乱視読者の帰還』 (みすず書房、本格ミステリ大賞受賞)、『乱視読者の英米短篇講義』 (研究社、第55回讀賣文学賞受賞)、『乱視読者の新冒険』 (研究社)、『盤上のファンタジア』(河出書房新社、詰将棋作品集)、訳書にP・ストラウブ 『ゴースト・ストーリー』(早川書房)、R・アーウィン 『アラビアン・ナイトメア』 (国書刊行会)、R・パワーズ 『ガラテイア2.2』 (みすず書房)、ナボコフ 『ロリータ』 (新潮社)、カブレラ=インファンテ 『煙に巻かれて』 (青土社)、編訳書にスタージョン 『海を失った男』(晶文社)、『ベータ2のバラッド』 (国書刊行会) などがある。《新版 異色作家短篇集》 (早川書房) の異色短篇アンソロジー (3巻) も準備中。


◇読書エッセイとしても抜群に面白く、海外ミステリのブックガイドとしても一級品という、なんとも贅沢な1冊。――日下三蔵氏 (週刊大衆10/23)

◇ミステリ・ファンなら座右の書とすべき一冊。――三橋暁氏 (本の雑誌12月号)
◇「不純」 文学の作家ばかりが詰まった 「異色作家小説集」。――柳下毅一郎氏(インビテーション12月号)
◇これは何よりも、ジャンルのざわめきに酔うことを教えてくれる一冊なのだ。――巽昌章氏(ダ・ヴィンチ1月号)