【大下宇陀児作品】
偽悪病患者烙印


偽悪病患者

大下宇陀児


「佐治は偽悪病患者だ。接近させてはいけない」兄の警告を妹は一笑に付したが……犯罪の萌芽から事件発生と解決まで往復書簡形式で語られるモダン探偵小説の傑作「偽悪病患者」、無垢な子供の視点で家庭内の犯罪を描く佳篇「毒」、犯行に至る殺人者の心理を克明に描いた「死の倒影」「情獄」「決闘介添人」、掘り出し物の骨董をめぐる奇譚「金色の獏」、都市伝説めいた怪現象が酸鼻な猟奇連続殺人に発展する「魔法街」他、全9篇。日本探偵小説草創期に江戸川乱歩、甲賀三郎とともに絶大な人気を博し、ロマンチック・リアリズムという独自の路線を提唱した巨匠、大下宇陀児の多彩な短篇を紹介する傑作選。作者の探偵小説観を示したエッセー2篇を併録。

【収録内容】
偽悪病患者/毒/金色の獏/死の倒影/情獄/決闘介添人/紅座の庖厨/魔法街/灰人
【エッセー】探偵小説の型を破れ/探偵小説不自然論
解題=藤原編集室/解説=長山靖生


創元推理文庫 2022年8月刊 924円(税込)[amazon]
装幀=山田英春/装画=早川洋貴




烙印

大下宇陀児


証書偽造が発覚、窮地に立たされた青年事業家、由比祐吉は破滅を逃れるため、恩義ある亘理子爵の殺害を決意する。冷徹巧妙な殺人計画の進行とその顛末を倒叙形式で描く「烙印」、横暴な父に苛められる母には或る秘密があった――子供の目を通して家庭の悲劇を描いた名篇「凧」、建設中のビルの鉄骨から転落した夫の死の真相が19年後に明らかになる「不思議な母」、誘拐事件を扱った最後のミステリ短篇「螢」まで、戦後作を含む全8篇を収録。人物の性格や心理描写に優れた犯罪小説で探偵小説界に大きな足跡を残した巨匠、大下宇陀児の短篇傑作選。エッセー2篇を併録。
【収録内容】
烙印/爪/決闘街/情鬼/凧/不思議な母/危険なる姉妹/螢
【エッセー】乱歩の脱皮/探偵小説の中の人間
解題=藤原編集室 /解説=伊吹亜門

創元推理文庫 2022年9月刊 924円(税込)[amazon]

装幀=山田英春/装画=早川洋貴


大下宇陀児(おおした うだる)
1896年長野県中箕輪村生まれ。本名木下龍夫。九州帝国大学卒業後、農商務省臨時窒素研究所に勤務。1925年、デビュー作「金口の巻煙草」を《新青年》に発表。1929年、《週刊朝日》連載の長篇『蛭川博士』が評判を呼び、江戸川乱歩、甲賀三郎と並ぶ人気探偵作家となる。犯罪心理や風俗描写に優れ、探偵小説におけるリアリズム重視を打ち出す一方、SFにも手を染めた。戦後も旺盛な作家活動を続け、『石の下の記録』(1951)で第4回探偵作家クラブ賞受賞。1966年死去。