【薫大将と匂の宮】

岡田鯱彦

身体から不思議な芳香をはなつ薫大将と、香の天才で色好みとして名高い匂の宮――源氏亡き後、二人の貴公子の織りなす物語が『源氏物語』でも名高き「宇治十帖」である。その「宇治十帖」を最後に未完とされていたこの物語には、幻の続編が存在した。源氏ゆかりの貴公子たちの恋の鞘当てが招く、美しき姫君たちの死。平安の宮中を震撼させる連続変死事件に、紫式部と清少納言が推理を競う。推理作家にして古典文学者、ふたつの顔を持つ著者のみが書き得た絢爛たる王朝推理絵巻が、いま甦る。「艶説清少納言」「「六条の御息所」誕生」ほかの王朝物短篇と関連エッセイを併録。

◆創元推理文庫 2020年3月刊 1000円(税別) [amazon]
◆解説=森谷明子
◆装画=千海博美/装幀=山田英春/本文挿絵=鈴木朱雀

【目次】
薫大将と匂の宮
艶説清少納言
「六条の御息所」誕生
コイの味

〈エッセイ〉
恋人探偵小説
清少納言と兄人の則光
「六条の御息所」の誕生――について
 解題
 解説 森谷明子
岡田鯱彦 (1907-1993)
東京・浅草生まれ。東京帝国大学卒業。1949年、「妖鬼の咒言」が〈宝石〉の探偵小説募集で選外佳作、「噴火口上の殺人」が 〈ロック〉誌の懸賞募集で一席入選。同年、東京学芸大学国文学教授に就任。翌50年に〈宝石〉に発表した長篇『薫大将と匂の宮』は「源氏物語」の世界を舞台に連続殺人事件を描き、国文学者としての知識を存分に生かした代表作となった。他の代表作に『紅の頸巻』『樹海の殺人』、新釈雨月物語シリーズの短篇などがある。