【ロルドの恐怖劇場】

アンドレ・ド・ロルド
平岡敦 編訳

殺人と処刑の場面を再現した蠟人形館での一夜、屋敷を取り囲む血に飢えた暴徒の群れ、殺人の衝動、手術台の上の惨劇、抉り取られた眼球、妻に裏切られた男の恐るべき復讐……。20世紀初めのパリ、モンマルトルのグラン・ギニョル座では、殺人、復讐、拷問等の残酷場面を売り物にした恐怖演劇を上演し、人々はスリルの快感を求めて、毎夜、この小劇場に押し寄せた。劇場はパリの観光名所になり、「グラン=ギニョル」 は恐怖劇の代名詞となった。
このグラン・ギニョル座の看板作家として絶大な人気を博したアンドレ・ド・ロルドは、短篇小説の名手でもあり、短い枚数のなかに強烈なショックを盛り込んだその作品は、ホラー作品の原点ともいうべき 「恐怖の愉しみ」 を現代の読者にも教えてくれる。百年前のパリジャンたちを震え上がらせた〈恐怖のプリンス〉 ロルドが、血と悪夢で紡ぎあげた22篇の悲鳴で終わる物語。甘美な戦慄と残虐への郷愁に満ちた〈恐怖劇場〉 開幕。

◆ちくま文庫 2016年9月刊 840円(税別) [amazon]
◆装丁=山田英春 装画=M!DOR!

……いたるところから、恐怖はわれわれを狙っている……
苦悶の恐怖……悲惨や狂気の恐怖……彼岸の恐怖……
恐怖は拭い去ることができない!
そしてわれわれは、その鉤爪につかまれ、喘いでいる。
外科医にメスをふるわれる病人のように……
                          ――巻頭言
【収録内容】
精神病院の犯罪/蝋人形/デスマスク/ヒステリー患者/高名なるトリュシャール教授/無言の苦しみ/究極の責め苦/地獄/生きている木/ベリギーシ/死児/もうひとつの復讐/死にゆく女/夜明け/助産婦マダム・デュボワ/事故/強迫観念/恐怖の実験/恐ろしき復讐/告白/無罪になった女/大いなる謎

アンドレ・ド・ロルド (1869-1942)
フランスの劇作家・小説家。トゥールーズの裕福な医師の家に生まれ、法律を学ぶが演劇に熱中。国立図書館司書として働きながら、20世紀初めから1920年代にかけて恐怖演劇で有名なパリのグラン・ギニョル座の座付き作家として活躍する。150篇以上の戯曲と短篇小説で人気を博し、「恐怖のプリンス」 の異名をとった。