【ボディ・クリティシズム】
啓蒙時代のアートと医学における見えざるもののイメージ化

バーバラ・M・スタフォード/高山宏訳


18世紀は、解剖学の発展、顕微鏡の革新等によって、見えないもののイメージ化が飛躍的に進んだ時代であった。それまで未知の世界だった人体の内部は、その表皮を剥ぎとられ、白日のもとにさらされて、精密な解剖図に写し取られていく。顕微鏡その他の光学機械は、肉眼では見えない世界にもおびただしい生命が充満し、小宇宙を形づくっていることを明らかにした。こうした肉体認識の革命的変化は、同時代の世界観、文化の諸相に衝撃を与えることになる。たとえば、解剖学的方法にもとづく知識の秩序化は百科全書の出現に結びつき、神経系統図は新たな分類・コード化の術を生み、人体表皮に現れるシミやイボといった 「記号」 の読み方、皮膚病学の発生は、観相学、骨相学といった怪しげな人体解読術を異常発生させた。このようにかつてない規模とスピードで進行した 「知識の視覚化」 の諸相を、当時の科学、医学、文学、思想、美術等のテクストにさぐり、怪物、廃墟、疾病、博物学、動物磁気、気象学などの興味深い話題を次々取り上げながら、250もの貴重な図版によってあとづけた本書は、本邦の近代西欧理解、18世紀研究に決定的転機を迫る身体論・視覚文化論の傑作である。

国書刊行会
◆菊判・上製 750頁 図版多数
2006年12月刊 本体8000円  [amazon]
◆装丁=山田英春

【本書目次】

はじめに

序章 見える知
   身体のメタファー/さまざまな対立/方法狂い/敢えて広く。深く、も忘
    れず/絵とテクスト

1 切解 DISSECTING
   さぐる操作/観相学、あるいは身体の鑑定知/非合理に演算で見参/
    パソグノミックス、あるいは顔の狩人
2 抽象 ABSTRACTING
   縮約のシステム/経験の傷/苦痛発散スタイル/「インテリア」観念融通無碍

3 着想 CONCEIVING
   肉化された 「蛮」、あるいは 「異」/「頭から産まれた映像」/差異めがけて飼育/グロテスク、
   あるいはアルス・コンビナトリア

4 徴化 MARKING
   伝染るんです、点描の皮膚科/欲望が汚す/「皮膚の上の影の
   如し」/不適合ロマン派

5 拡大 MAGNIFYING
   顕微の幻視者/見せていかさま/夢の投影/うそ吐く自由

6 感覚 SENSING
   目はもっとやさしい指/精神気象学/流れいくまぼろし/伝達さ
   れる情念

終章 「もさながらの」 の美学

夢のポリマシー (訳者あとがき)

身体の視覚表象が、バーバラ・スタフォードの『ボディ・クリティシズム』 の冴えと斬新さをもって研究されたことが、かつてあっただろうか。18世紀に身体が視覚的に腑分けされていったモデルの数々が明るみに出される。『ボディ・クリティシズム』 は啓蒙時代と、それが人間の肉体の目に見える部分、見えない局面をどう幻想したかの百態をあますところなく精査して、身体表象史に重要な一ページを加えた。
   ――サンダー・L・ギルマン (文化史・医学史)

理論の広大といい、個々の議論のとてつもない面白さといい、まさに鴻業。西欧文化の中でヴィジュアルなものがたどる運命に関心ある誰しもにとって、『ボディ・クリティシズム』 は今や究極の聖典だ。
   ――
ロイ・ポーター (文化史・医学史)

この信じがたく博識な一冊は、啓蒙世紀に知覚パターンに生じた変化を、その絶妙な二つの領域、医学と美術に、とりわけその二つの交錯した解剖図譜を証拠に追っていく。〈心性〉 史学の傑作でもあるが、なじみあると見えて実はなお宝庫を秘め隠している知の沃野に新たに一大展望を開いた重要作と言わなければならない。
  ――ジョゼフ・リクワート (建築学)

この領域横断の絶品は、〈ヴィジュアル・サイエンス〉 とでも呼ぶべき新分野のための綱領をいきなり書き上げてしまった。絵画が、版画が文化的メタファー生成の領域でいかに医学と融合したかをさぐるばかりではない。技術的な観察、道具文化、メディア・プロダクションの意味を解いて一片の弛みもないのだ。
  ――ジョン・ベンダー (英文学・比較文学)

バーバラ・マリア・スタフォード
1941年、ウィーン生まれ。アメリカに移住し、シカゴ大学で博士号を取得。『象徴と神話』 (1979)を出発点に、18・19世紀の旅行記・探検記のテクストと豊富な図版資料を通してピクチャレスク批判の思潮の存在を明らかにした大著 『実体への旅』 (1984)と、18世紀視覚文化論・身体論の根本的な書き換えを迫る本書 (1991) で学界に一大衝撃を与えた。現在、シカゴ大学美術史学科W・B・オグデン殊勲教授。邦訳に 『アートフル・サイエンス』 『グッド・ルッキング』 『ヴィジュアル・アナロジー』 (高山宏訳、産業図書) がある。

「イメージは言葉よりも重要だ――そう喝破することで、これまでの知の体系を書き換え、思考のパラダイム・シフトを迫る画期的な本だ」 ――河合祥一郎氏評(讀賣新聞 20072/25)
◇全文
「驚異の博学でイメージ思考の可能性を追求した 〈知〉 の怪物的大著」――中条省平氏評 (ダ・ヴィンチ4月号)