P・G・ウッドハウス邦訳書誌
真田啓介編
欧米では 「20世紀最大のユーモア小説家」
との評価をかち得ているウッドハウス。没後四半世紀以上を経た今もその人気は衰えることなく、現に流通している刊本だけでも300点に近い。英国では数年前から定本全集
(Everyman Wodehouse) の刊行も進んでいる。
一方わが国では、かろうじて各種アンソロジーにより短篇が数作読める程度で、現状はまったくお寒い限りである。しかし、ウッドハウスはかつて
「新青年」 の人気作家の一人であったし、戦前を中心に邦訳された作品の数は決して少なくない。そこで、来るべきウッドハウス復権の時に備えて、過去の翻訳状況を取りまとめてみることにした。同好の士の参考になれば幸いである。
ただし、編者が未見のものも多く、原作の特定も今後の課題で、書誌としては甚だ不完全なものである。編者不明の点につき情報をお持ちの方、あるいは過誤や脱漏をお気づきの方は、ぜひ管理者気付でご一報いただきたい。(2003.7.6掲載)
A 長篇
1 『新聞記者スミス』 木村毅訳 改造社 〈世界大衆文学全集〉
72 昭和6年
※他作家の短篇2篇を併収
※以下2〜5は 〈P・G・ウッドハウス ユーモア長篇小説集〉
として刊行
2 『恋人海を渡る』 岡成志訳 東成社 昭和15年
3 『ヒヨコ天国』 黒豹介訳 東成社 昭和15年
※附録として短篇 「身替り拳闘」 及びヒレア・ベロック
「ウッドハウス論」 を収録
4 『無敵相談役』 乾信一郎訳 東成社 昭和15年
5 『劣等優良児』 長谷川修二訳 東成社 昭和15年
6 『笑の饗宴』 黒豹介訳 三学書房 昭和16年
7 『ヒヨコ天国』 黒豹介訳 蜂書房 昭和24年
※3の再刊だが、附録を省き、訳者の 「まえがき」
と著者の 「原序」 を追加
8 『笑ガス』 黒豹介訳 東西出版社 昭和24年
※6の改題再刊かとも思われるが、6を未見のため確認できず。
9 『スミスにおまかせ』 古賀正義訳 創土社 昭和57年
10 (ジーヴズ物長篇)
※Dc6の「ミステリマガジン」掲載短篇に付された訳者の解説コラムに
「長編はデリカという婦人雑
誌にジーヴスものが連載された」との記述が見えるが、確認できず。
B 短篇集
1 『どもり綺譚』 梶原信一郎訳 博文館〈新青年叢書〉 昭和4年
@「どもり綺譚」 A「女学校事件」 B「猫嫌ひ」 C「小説以上」 D「彼女の幸運」 E「犬の学校」
F「巡査を殴る」 G「ポッタ氏の静養」 H「怪我をする会」
2 『世界滑稽名作集』 東健而訳 改造社 〈世界大衆文学全集〉
34 昭和4年
@「踊らん哉ワイフのために」 A「Kちゃん」
※他作家との合集
3 『世界ユーモア全集2 英米篇』 延原謙訳 改造社 昭和8年
@「豚ーやあーあーあーい!」 A「失恋救済業」 B「湯タンポ騒動」 C「禁煙綺譚」 D「大歓迎」
E「少しは他人の喜ぶことも」
※他作家との合集
※以下4〜8は 〈P・G・ウッドハウス ユーモア傑作集〉
として刊行
4 『専用心配係』 乾信一郎訳 東成社 昭和14年
@「専用心配係」 A「子守唄騒動」 B「心配係の休暇」 C「預った犬」 D「君子豹変譚」
E「ひょっくりサム」
※Eを除きすべてジーヴズ物。Eは150頁の分量で章立てもあるので長篇の抄訳か?
5 『玉子を生む男』 長谷川修二訳 東成社 昭和14年
@「あの手この手」 A「スープの中の毒薬」 B「女流作家」 C「過去からの声」 D「微笑地獄」
E「玉子を生む男」 F「猫ウェブスター氏」 ※すべてマリナー物
6 『愛犬学校』 岡成志訳 東成社 昭和14年
@「愛犬学校」 A「傷害組合」 B「家庭寮没落史」 C「ビルソン猛練習」 D「ビルソンの敵討」
E「美人秘書救済」 F「ビルソン豪勇記」 G「ダンス混乱始末」 H「婚約解消綺譚」
I「犬を売る話」 ※すべてアクリッジ(ユークリッジ)物
7 『恋の禁煙』 黒豹介訳 東成社 昭和15年
@「恋の禁煙」 A「禽獣愛護」 B「震災余聞」 C「猫と僧正」 D「想ひぞ燃ゆる」
E「忍冬 (ハニーサックル)の家」 F「花形写真師」 G「豪勇僧正」 ※すべてマリナー物
8 『天晴れジーブス』乾信一郎訳 東成社 昭和15年
@「傑作罪あり」 A「空腹と営養学」 B「双生児綺譚」 C「ビンゴ青年行状記」
D「赤ちゃん亭主」 E「恋は海辺で」 F「従僕と怪盗」 ※すべてジーヴズ物
※B・Cは長谷川修二訳、D〜Fは黒豹介訳
9 『恋の禁煙――マリナー氏は語る――』 黒豹介訳 解放社 昭和24年
※7の再刊だが、訳者の「まえがき」を追加
10 『笑うサム・他/ブランコに乗る中年男/マリナーの夜』
元田脩一・森岡栄訳 南雲堂 〈双書・20世紀
の珠玉〉 昭和30年
@「猫は猫なり」 A「ベストセラー」 ※いずれもマリナー物・森岡栄訳
※他作家との合集
11 『地下鉄サム』 乾信一郎訳 東京創元社
〈世界大ロマン全集〉 6 昭和31年
※J・マッカレーの短篇集に 「専用心配係」 の総題でジーヴズ物5篇を併収。4@〜Dの再録だが、
A・C・Dはそれぞれ 「子守歌騒動」 「預かった犬」 「君子豹変談」
と改題
12 『マリナー氏ご紹介/マルタン君物語』 井上一夫他訳 筑摩書房
〈世界ユーモア文学全集〉 4 昭
和36年
@「ウィリアムの話」 A「厳格主義者(やかましや)の肖像」 B「名探偵マリナー」 C「ある写真屋
のロマンス」 D「スープの中のストリキニーネ」 E「忍冬(にんどう)が宿」 F「ささやかな人生」
※すべてマリナー物
※マルセル・エイメ『マルタン君物語』との合集
13 『ウッドハウス短編集』 田中春美訳 富士書店 昭和41年
@「ボクはわんころ」 A「黒は幸運」 B「みにくい巡査の恋物語」 C「足の無器用な男」
D「社長と秘書と社員の毒気」 E「守護神」
14 『世界文学全集37 ウッドハウス/マルセル・エイメ/ジャック・ペレー/イリフ、ペトロフ/ケストナー』
井上一夫他訳 集英社 昭和41年
@「ジーヴズ乗りだす」 A「コーキーの画業」 B「招かれざる客」 ※すべてジーヴズ物
※他作家との合集
15 『マリナー氏ご紹介』 井上一夫訳 筑摩書房 昭和44年
※ソーン・スミス長篇『トッパー氏の冒険』との合集でマリナー物7篇(12@〜F)を収録
16 『マリナー氏ご紹介/トッパー氏の冒険』
井上一夫訳 筑摩書房 〈世界ユーモア文庫〉
9 昭和53年
※15の改題・新装版
17 『ゴルフ人生』 原田敬一訳 日本経済新聞社 昭和56年
@「アーチボルドの勝利」 A「カスバートの成功」 B「女というものは」 C「スリーサムの悲喜劇」
D「心千々に乱れて」 E「ジョージ・マッキントッシュ救わる」 F「ゴルフ人事異動」
G 「ロングホール」 H「アキレス腱」
18 『ゴルきちの心情』 古賀正義訳 創土社 昭和58年
@「ゴルきちの心情」 A「高価な賭け」 B「ヴォスパーとの修交」 C「チェスター我を忘れる」
D 「魔法のプラス・フォア」 E「ロロ・ポッドマーシュの目覚め」 F「ロドニーの失格」
G「ジェーン、フェアウェイをはずす」 H「ロドニー・スペルヴィンの改心」
C ウッドハウス作品所収のアンソロジー等
1 早川書房編集部編 『名探偵登場V』 ハヤカワ・ミステリ254 昭和36年
○「名探偵マリナー」 井上一夫訳 ※○以下の記載は収録のウッドハウス作品を示す。以下同じ。
2 サマセット・モーム編 『世界文学100選 3』 河出書房新社 昭和36年
○「フレッド叔父」 大久保康雄訳
3 中島河太郎編 『新青年傑作選4 翻訳編』 立風書房 昭和45年
○「怪我をする会」 梶原信一郎訳
※昭和50年・平成3年に新装再刊
4 D・H・ロレンス他著 『素晴しい犬の物語』 読売新聞社〈読売新書〉 昭和45年
○「泥棒を好きになった物好きな犬」
角邦雄訳
5 ジェイムズ・サーバー他著 『あの世からやってきた犬』 丸ノ内出版 昭和46年
○「とても臆病な男」 津山悌二訳
6 丸谷才一編 『イギリス短篇24』 集英社〈現代の世界文学〉 昭和47年
○「エムズワース卿とガールフレンド」
常盤新平訳
7 小林司・東山あかね編 『名探偵読本1 シャーロック・ホームズ』 パシフィカ 昭和53年
○「モリアティ教授の正体」 東山あかね訳 ※C・ドイル 『四つの署名』 (バランタイン・ブックス版)
序文 ※昭和61年に西武タイムより再刊
8 『世界動物文学全集 19』 講談社 昭和55年
○「泥棒を好きになった物好きな犬」
角邦雄訳
※4の内容が全編再録されている。
9 George MacBeth, Martin Booth編・柳瀬尚紀編訳
『猫文学大全』 大和書房 昭和55年
○「ウェブスターの物語」
10 丸谷才一編 『探偵たちよ スパイたちよ』 集英社 昭和56年
○「スープの中のストリキニーネ」 井上一夫訳
11 エラリー・クイーン編 『新世界傑作推理12選』 カッパノベルス 昭和57年
○「エクセルシオー荘の惨劇」 浅倉久志訳
12 エラリー・クイーン編 『新世界傑作推理12選』 光文社文庫 昭和61年
※11の文庫化
13 小野寺健編訳 『20世紀イギリス短篇選(上)』 岩波文庫 昭和62年
○「上の部屋の男」
14 George MacBeth, Martin Booth編・柳瀬尚紀編訳
『猫文学大全』 河出文庫 平成2年
※9の文庫化
15 澤村灌・高儀進編 『イギリス・ユーモア文学傑作選 笑いの遊歩道』 白水Uブックス 平成2年
○「ちょっとした芸術」 高儀進訳
16 ドロシー・L・セイヤーズ他著 『ネコ好きに捧げるミステリー』 光文社文庫 平成2年
○「ウェブスター物語」 宮脇孝雄訳
17 レスリー・オマーラ編 『気ままな猫の14物語』 二見書房 平成3年
○「ウェブスターの物語」 堀内静子訳
18 丸谷才一編 『探偵たちよ スパイたちよ』 文春文庫 平成3年
※10の文庫化
19 レスリー・オマラ編 『犬のいい話 ヤツラのいない生活なんて』 心交社 平成4年
○「身の程知らずもほどほどに」 芦真璃子訳
20 サマセット・モーム編 『世界100物語 5 意外な結末』 河出書房新社 平成9年
※2の再編集版
21 アーサー・コナン・ドイル 『シャーロック・ホームズ全集8 シャーロック・ホームズ最後の挨拶』 河出
書房新社 平成12年
※「付録 P・G・ウッドハウスの無署名の小品」
として3篇を収録。いずれも高田寛訳か?
@「退屈の狩人、ダドリー・ジョーンズ」 A「故郷ストランドへの帰郷」 B「放蕩息子」
22 小山正他篇 『バカミスの世界 史上空前のミステリガイド』 B・S・P 平成13年
○「ミステリ小説に関する二、三のこと」
山田順子訳
D ウッドハウス作品掲載雑誌
a「新青年」
1 大正15年(1926)7月号 ○「女学校事件」
梶原信一郎訳
2 大正15年(1926)8月増刊号 ○「彼女の幸運」
梶原信一郎訳
3 大正15年(1926)10月号 ○「犬の学校」
梶原信一郎訳
4 大正15年(1926)11月号 ○「強い男」
梶原信一郎訳
5 大正15年(1926)12月号 ○「ポッタ氏の静養」
梶原信一郎訳
6 昭和2年(1927)1月号 @「小説以上」
梶原信一郎訳 A「怪我をする会」 同訳
7 昭和2年(1927)1月増刊号 @「巡査を殴る」
梶原信一郎訳 A「言はず屋」 同訳
8 昭和2年(1927)2月号 ○「猫嫌ひ」 梶原信一郎訳
9 昭和2年(1927)3月号 ○「どもり奇談」
梶原信一郎訳
10 昭和2年(1927)12月号 ○「七転び八起き」
鈴木俊彦訳
11 昭和3年(1928)1月号 ○「婚約」 坂本義雄訳
12 昭和3年(1928)2月増刊号 ○「花瓶」訳者不詳
13 昭和3年(1928)5月号 ○「写真屋の恋」上塚貞雄訳
14 昭和3年(1928)8月増刊号 ○「J・S・E・M・?」上塚貞雄訳
15 昭和3年(1928)9月号 @「豚ーやあーあーあーい!」
上塚貞雄訳 A「失恋救済業」 同訳
B「湯タンポ騒動」 同訳
16 昭和3年(1928)12月号 ○「少しは他人の喜ぶことも」
上塚貞雄訳
17 昭和4年(1929)1月号 ○「天は晴れたり」
梶原信一郎訳
18 昭和4年(1929)3月号 ○「大歓迎!」
上塚貞雄訳
19 昭和4年(1929)4月号 ○「ジーブスがゐなくては」
上塚貞雄訳
20 昭和4年(1929)8月号 ○「禁煙綺譚」
上塚貞雄訳
21 昭和4年(1929)8月増刊号 ○「帰って行きたい帰りたい」
上塚貞雄訳
22 昭和4年(1929)9月号 ○「思案の外」
上塚貞雄訳
23 昭和5年(1930)1月号 ○「恋とブルドッグ」
訳者不詳
24 昭和5年(1930)6月号 ○「いいことわるいこと」
訳者不詳
25 昭和6年(1931)1月号 ○「預った犬」
乾信一郎訳
26 昭和6年(1931)8月号 ○「ペギーちゃん」
乾信一郎訳
27 昭和7年(1932)2月増刊号 ○「君子豹変譚」
乾信一郎訳
28 昭和7年(1932)11月号〜昭和8年(1933)2月号 ○「ひょっくりサム」
訳者不詳
29 昭和8年(1933)7月号 ○「マンキイ・ビジネス」
小柴礼助訳
30 昭和8年(1933)12月号 ○「巡査の恋」
訳者不詳
31 昭和9年(1934)8月増刊号 ○「僧正と強壮剤」
乾信一郎訳
32 昭和12年(1937)8月増刊号 ○「怪我をしよう会」
梶原信一郎訳 ※6Aの改題再録か?
33 昭和13年(1938)2月号 ○「監獄志願兵」
宮園義郎訳
34 昭和13年(1938)5月増刊号 ○「女学校事件」
梶原信一郎訳 ※1の再録か?
35 昭和13年(1938)8月増刊号 ○「わが家ホテル」
乾信一郎訳
36 昭和14年(1939)1月号 ○「衿止騒動」
太田五郎訳
37 昭和14年(1939)5月増刊号 ○「探偵小説時代」
上野三郎訳
b「宝石」
1 昭和27年(1952)9・10月号 ○「ペギーちゃん」
乾信一郎訳 ※a26の再録か?
2 昭和28年(1953)4月号 ○「禁煙綺譚」
乾信一郎訳 ※a20の再録か?
3 昭和28年(1953)6月号 ○「女学校事件」
訳者不詳 ※a1・34の再録か?
4 昭和35年(1960)7月号 ○「コーキイの芸術的生涯」
大木澄夫訳
5 昭和35年(1960)8月号 ○「ジーヴズと招かれざる客」
村上啓夫訳
6 昭和35年(1960)9月号 ○「ジーヴズとしまりや公爵」
村上啓夫訳
7 昭和35年(1960)10月号 ○「ジーヴズとビッフィー事件」
村上啓夫訳
8 昭和35年(1960)11月号 ○「シッピーの禁固事件」
村上啓夫訳
9 昭和35年(1960)12月号 ○「フレッディーにキスして!」
村上啓夫訳
10 昭和36年(1961)11月・別冊109号 ○「清潔な運動会を」
久里瀬いと訳
c「ミステリマガジン」(「エラリイ クイーンズ
ミステリマガジン」を含む)
1 昭和33年(1958)1月号(No.19) ○「スープの中のストリキニーネ」
井上一夫訳
2 昭和33年(1958)7月号(No.25) ○「名探偵マリナー」
井上一夫訳
3 昭和35年(1960)6月号(No.48) ○「素晴らしき日」
三田村裕訳
4 昭和36年(1961)10月号(No.64) ○「階上の男」
井上一夫訳
5 昭和50年(1975)10月号(No.234) ○「マリナーの偉大な勝利」
井上一夫訳
6 昭和51年(1976)2月号(No.238) ○「所詮、女は女」
井上一夫訳
7 昭和60年(1985)4月号(No.348) ○「ジーブスと春の訪れ」
乾信一郎訳
d その他
1 「EQ」 昭和53年(1978)11月号(No.6) ○「エクセルシオー荘の惨劇」
浅倉久志訳
2 「EQ」 昭和57年(1982)9月号(No.29) ○「ユークリッジ口座を開く」
浅倉久志訳
3 「EQ」 平成2年(1990)3月号(No.74) ○「ウェブスター物語」
宮脇孝雄訳
4 「新潮」 平成12年(2000)10月号 ○「カスバートの一撃」
芝盛行訳
書斎の死体INDEX
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