|
英国幽霊いまむかし
南條竹則 編訳
イギリスは18世紀以来怪談が盛んに書かれた国だが、それが文芸の一分野として成立する以前に、怪談実話やフォークロアの形で長い伝統を有していた。本書は、そうした素朴な幽霊譚から次第に洗練された小説形式が生み出されるさまを、時代を追って辿る英国怪談アンソロジーである。M・R・ジェイムズが古文書から発掘した中世の怪談実話に始まり、17世紀英国を騒がせた怪現象「テッドワースの鼓手」事件の報告書、18世紀にダニエル・デフォーが記録した幽霊実見譚、スコットランドの国民的詩人ロバート・バーンズの幽霊バラッド、19世紀からは英国幽霊小説の白眉と称されるエドワード・ブルワー=リットン「幽霊屋敷」、奇書『インゴルズビー伝説』のユーモラスな怪異譚、子供の幽霊が哀切極まるJ・H・リデル夫人「胡桃屋敷」、20世紀に入り近代怪奇小説を完成させたM・R・ジェイムズとその継承者H・R・ウェイクフィールドの傑作、交霊会にジョナサン・スウィフトの霊が降りるW・B・イェイツの戯曲、A・C・ベンスンの中篇「最後の一厘」まで14篇を収録。全篇新訳。(共訳 高沢治)
◇2026年2月上旬予定 予価3960円(税込) [amazon]
【収録作品】
中世怪談十二話 作者不詳(M・R・ジェイムズ編)
テッドワースの鼓手 ジョーゼフ・グランヴィル
ヴィール女史の幽霊 ダニエル・デフォー
トレヴェシン教区の怪談 エドマンド・ジョーンズ
タム・オ・シャンタ ロバート・バーンズ
幽霊屋敷 エドワード・ブルワー=リットン
ジェリー・ジャーヴィスの鬘 リチャード・バーラム
弁護士と幽霊 チャールズ・ディケンズ
胡桃屋敷 J・H・リデル夫人
学校綺譚 M・R・ジェイムズ
防人 H・R・ウェイクフィールド
幽霊達 ダンセイニ卿
窓ガラスの文字 W・B・イェイツ
最後の一厘 A・C・ベンスン
|
|
南條竹則
1958年、東京生まれ。東京大学在学中に「幻想文学会」に参加。翻訳・評論活動を行なう。1993年、『酒仙』で第5回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。怪奇幻想文学関係の訳書に、リチャード・ミドルトン『幽霊船』、アーサー・マッケン『輝く金字塔』、『英国怪談珠玉集』(国書刊行会)、M・R・ジェイムズ『消えた心臓/マグヌス伯爵』、ハーン『怪談』、J・S・レ・ファニュ『カーミラ』(光文社古典新訳文庫)、メイ・シンクレア『胸の火は消えず』、『怪談の悦び』(創元推理文庫)、H・P・ラヴクラフト『インスマスの影』(新潮文庫)他多数。
|
恐怖万華鏡
倉阪鬼一郎 編訳
その干からびた猿の手は三つの願いをかなえるという。W・W・ジェイコブスの極め付きの名作「猿の手」、ヴィクトリア時代の人気作家マーガレット・オリファントの傑作ゴースト・ストーリー「図書館の窓」、メアリ・E・ウィルキンズ=フリーマン「ラベンダー交響楽」をはじめ、ハーヴェイ、トマス・バーク、ベリズフォード、ウェイクフィールド、E・L・ホワイト他、恐怖の神髄を知るホラー小説家、倉阪鬼一郎が取っておきの怪奇短篇を紹介するアンソロジー。(共訳 館野浩美)
倉阪鬼一郎
1960年、三重県生まれ。早稲田大学で〈幻想文学会〉に所属。1987年、短篇集『地底の鰐、天上の蛇』(幻想文学出版会)でデビュー。『怪奇十三夜』『百鬼譚の夜』『赤い額縁』など怪奇小説家として独自の路線を築く一方、ミステリ、エッセー、俳句、短歌など多方面に活躍。近年は時代小説を中心に執筆。西崎憲編『怪奇小説の世紀』の翻訳に参加、以後も『幻想文学』詩をはじめ怪奇短篇の翻訳を行なう。怪奇小説の訳書に、ヒュー・ウォルポール『銀の仮面』(創元推理文庫)、『淑やかな悪夢
英米女流怪談集』(共編・訳、創元推理文庫)、H・R・ウェイクフィールド『ゴースト・ハント』(創元推理文庫)など。
|
至上の命
M・P・シール
南條竹則 編訳
十六世紀メキシコで、異教徒としてスペインの異端審問所の手先に捕まり、ガレー船に乗せられた英国人青年の数奇な運命を描いて、シール恐怖譚の最高傑作とも称される「ソールの暗き運命」、何千年も地上を彷徨い、互いを愛しながらも決して成就することのない二人の不死者の奇想天外な物語「至上の命」など、特異な絢爛たる文体で実存的恐怖と独自の神秘的世界を描く英国作家M・P・シール作品を愛する編者が選り抜いた極上の中短篇を収録。
M・P・シール(1865-1947)
イギリスの作家。西インド諸島モンセラト島生まれ。『プリンス・ザレスキー』(1895。創元推理文庫)は安楽椅子探偵小説の嚆矢とされ、『紫の雲』(1901。アトリエサード)は世界終末SFの古典。また中国の脅威を描いた『黄色い危険』(1898)は大衆的人気を博し当時の黄禍論にも影響を与えた。ペダンティックな特異な文体を駆使し、ポーの影響が顕著な「ゼリューシャ」「音のする家」などの怪奇短篇は熱狂的なファンを持つ。 |
幸運の木立
H・R・ウェイクフィールド
渦巻栗 編訳
爆撃で崩れかけた墓所に潜む邪悪な力、ゴルフ場に出没する怪異、禁忌の木立、あごひげの老人の悪夢、クリケットと幽霊、登山者を脅かす第三の影、地下墓地の謎の銘板……ヴァラエティに富んだ題材と巧みな語り口による恐怖描写でM・R・ジェイムズ以来の伝統を継ぎ、怪奇小説黄金時代の最後を飾った恐怖の名匠H・R・ウェイクフィールドの傑作集。伝統的な怪談から一歩踏み出した後期作も含め本邦初訳作品を多数収録。
H・R・ウェイクフィールド(1888-1964)
イギリスの作家。オックスフォード大学を卒業後、巨大新聞グループの経営者の個人秘書を務め、第一次大戦後は出版社勤務の傍ら創作活動に入る。1928年、怪奇短篇集They
Return at Eveningを出版し、好評を博す。以後、ゴースト・ストーリーの黄金時代の伝統を継ぎつつ、現代性も備えた恐怖短篇を書き続け、「M・R・ジェイムズの後継者」と評される。1961年、最後の短篇集Strayers
from Sheolをアメリカの怪奇小説専門出版社アーカム・ハウスから刊行。邦訳短篇集に『赤い館』(国書刊行会)、『ゴースト・ハント』(創元推理文庫)がある。 |
葡萄酒色の海
ロバート・エイクマン
今本渉 編訳
町中で鳴り続く鐘は死者を生き返らせるためだという。新婚旅行中の夫婦が海辺の町で遭遇した謎と恐怖を描いて、エイクマンの名を一躍高めた傑作「響き合う鐘の音」、人々が忌み嫌うギリシャの小島に住んでいたのは、妖術師を自称する三人の女性だった……「葡萄酒色の海」他、「ロシア人の家」「ローマ習俗問答」「森の中へ」など、意識の閾に潜む超自然的危機を暗示する新感覚の恐怖小説で、怪奇ファンの熱い支持を集めるロバート・エイクマンの傑作集。
ロバート・エイクマン(1914-1981)
イギリスの作家。内陸運河協会の設立に関わり、役員を務める。1951年にエリザベス・ジェイン・ハワードと共著で怪奇小説集 We Are for
the Dark を出版。1955年にシンシア・アスキスの怪奇小説アンソロジーに収められた「響き合う鐘の音」は、このジャンルの名作として高い評価を得る。Dark
Entries(1964)を皮切りに作品集を次々に刊行、高度な技巧によるストレンジな味わいの怪奇短篇は、モダンホラー作家にも影響をあたえた。
本邦初のエイクマン作品集『奥の部屋』(今本渉訳、国書刊行会、1997/増補版・ちくま文庫 2016)は、『このホラーが怖い!99』でベスト1に輝いた。
|
痛苦の聖母
ジョン・ブラックバーン
永島憲江 訳
若さと美貌を保つため多くの若い女性を殺してその血で湯浴みしたという、十七世紀ハンガリーの「血の伯爵夫人」エリザベート・バートリの伝説に取材した新作戯曲『痛苦の聖母』が、ロンドンでまもなく初日を迎えようとしていた。主演のスーザン・ヴァランスは大女優ながらサディスティックな性格で悪評があった。特ダネを探す新聞記者ハリー・クレイは、市内で続出する怪死事件から浮上した、彼女の元に出入りする暗い過去をもつ医師ポール・トレントンの後を追うが、やがて悪夢のような事件にまきこまれていく。超自然的恐怖にミステリ要素を組み合わせた、ハイブリッド型モダンホラーの先駆者ブラックバーンの最高傑作。
◇第2回配本予定
ジョン・ブラックバーン(1923-1993)
イギリスの作家。古い伝説や超自然的恐怖にミステリ、スパイ・冒険小説などの要素を組み合わせた巧みなプロットとストーリーテリングに定評があり、モダンホラーの先駆的作家として再評価されている。邦訳に『小人たちがこわいので』『薔薇の環』『リマから来た男』(創元推理文庫)、『闇に葬れ』『刈りたての干草の香り』『壊れた偶像』(論創社)がある。
|

|