ゴーストランド
幽霊のいるアメリカ史

コリン・ディッキー
熊井ひろ美訳

アメリカ各地に残る幽霊話は、この国が忘れようとしてきた過去を闇の中から呼び起こす。著者は合衆国を横断して幽霊が出没する有名スポット――家や館、バー、ホテル、売春宿、刑務所、精神病院、墓地、公園、廃工場などを訪問、それぞれの場所に秘められた歴史を掘り起こしていく。先住民、魔女裁判、奴隷制、南北戦争、心霊主義、銃と暴力、自然災害、最新テクノロジー、都市の衰退――幽霊たちがかきたてる恐怖の背後には、人々が抱える根源的な不安や過去の記憶がひそんでいる。17世紀セーラムの魔女裁判、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスからハリケーン・カトリーナまで、各地の幽霊話の調査分析を通して「幽霊の国アメリカ」の深層を探った話題作。

◆GHOSTLAND: An American History in Haunted Places (2016)
◆国書刊行会 2021年11月刊 3960円(税込) [amazon]
◆装丁=岡本洋平(岡本デザイン室)/装画=阿部結
◆四六判・上製


【書評】
「幽霊話には、公認の正史には登場しない人々の集合的な願望や怨念が表現されている。いわばそれは、深く抑圧したはずの潜在意識が思いがけず表に現れてしまう、フロイト的な「失錯」行為の共同体版である。(中略)幽霊屋敷は、過去と現在を繋ぎ、時間を空間化して後世に伝える記憶装置である」――森本あんり氏評(「讀賣新聞」1月16日)

本書目次

著者より一言

序 幽霊出没の解剖 ニューヨーク州ニューヨーク

I 非家庭的なもの――家と館
第1章 隠し階段 マサチューセッツ州セーラム
第2章 動く土地 ルイジアナ州セントフランシスヴィル
第3章 果てのない家 カリフォルニア州サンノゼ
第4章 鼠穴の啓示 ニューヨーク州ジョージタウン&イリノイ州ブル・ヴァレー
第5章 短命の家系 ミズーリ州セントルイス

U 閉店後に――バー、レストラン、ホテル、売春宿
第6章 悪魔のような場所 ヴァージニア州リッチモンド
第7章 ベイビー ネヴァダ州リノ
第8章 通り過ぎる カリフォルニア州ロサンジェルス

V 公共心ある幽霊たち――刑務所、精神病院、墓地、公園
第9章 憂鬱なる観想 ウェストヴァージニア州マウンズヴィル
第10章 染み マサチューセッツ州ダンヴァーズ&オハイオ州アセンズ
第11章 悪魔が来るのを待つ サウスカロライナ州チャールストン&カンザス州ダグラス郡
第12章 我らが高名なる死者 テネシー州シャイロー
第13章 大聖堂公園を吹き抜ける風 オレゴン州ポートランド

W 無用の記憶――都市と町
第14章 濡れた墓 ルイジアナ州ニューオリンズ
第15章 廃墟の中で ミシガン州デトロイト
第16章 ヒルズデール、USA

エピローグ ニューマシンの幽霊たち カリフォルニア州アレンデール

謝辞
訳者あとがき
文献注

死者とその霊に関する物語を私たちはどのように扱い、幽霊が出るとされた空間に私たちはどのように住み、その空間をどのように通過しているのだろうか? こういった疑問は、幽霊を信じていようといまいと変わらない。たとえあなたが超常現象を信じていなくても、幽霊話や幽霊の出る場所の言い伝えは、過去や亡き人と向かい合うためのきわめて重要で強力な手段の一つになる。結局のところ、これは場所と物語の関係についての本だ。(「著者より一言」より)

コリン・ディッキー (Colin Dickey)
アメリカの作家・研究者。1977年生まれ。カリフォルニア州サンノゼ、アメリカ有数の幽霊屋敷ウィンチェスター・ミステリー・ハウスから数マイルの場所で育つ。南カリフォルニア大学で比較文学の博士号を取得。死、幽霊、奇怪な事象、隠された歴史の研究家。現在ナショナル・ユニヴァーシティ創作科准教授。著書に『頭蓋骨盗み』(2009)、『聖者たちの死後の生』(2012)、『病理解剖学アンソロジー』(2014、共編)、『ゴーストランド』(2016)、『正体不明――架空の怪物、エイリアンとの遭遇、謎に惹かれる私たち』(2020)がある。